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<HappyNewYear・PC謹賀新年ノベル>


鍋料理店、開店中でちゅう

□Opening
 いらっしゃいまし。さぁさ、温まって行ってください。え? ここですか? はい、ここは、見ての通りの鍋料理店でちゅう。
 昨日まではなかった?
 その通り、イベント商売でね、ここは正月のみの営業なんですよ。
 どんな鍋でもご用意します。自分達で調理するも良し、こちらで煮込んだものを注文されるも良し。思うままの鍋を存分に味わって行ってください。
 年始のご挨拶に顔合わせ。パーティーなどにご利用ください。
 はい? 私ですか? 私はこの店のオーナーでちゅう。今年限りの、ね。毎年持ち回りなのですよ。
 ささ、私の事などどうでも良い。
 どんな鍋をご注文されますか?

□01
 年末年始のお祭り騒ぎの余韻が、まだ色濃く残っている。
 けれど、そろそろ日常の足音が聞こえてきそうな町の中を、也沢・閑と染藤・朔実が歩いていた。
「なんつーか、お互い気がついたら正月もおしまいって、どうなの?」
 朔実は、大げさに手を広げて悪態をついてみせる。
 だが、機嫌が良いのか、表情は明るい。
「それを言われると、俺なんかは因果な職業だ、とは思うけどね」
 くすりと笑い、閑は通りを見渡した。最近は元旦から営業している店もあるとは言え、まだまだ年末年始は休業の看板も多い。しかし閑は、こんな風景を見てはじめて年が明けたのだと実感する。年末年始は、特にドラマのロケが忙しく、仕事に追われていたのだ。
「ま、しょーが無いか。正月と言えば特番にドラマスペシャルと決まってるからな」
 そう言って笑っている朔実も、昨日まで実家に帰り食堂を手伝っていた。
 お互い、忙しい年末年始を過ごした、という事になる。
「そう言う事。さて、何処か良い店があると良いんだけど……」
 閑は朔実の言葉に頷いて、もう一度店の検討をはじめた。
「うーん、せっかくの新年会だからなぁ。こう、どーんと印象的な食事が良いっ」
「……印象的って、朔実、男二人の食事に何を期待することがある?」
 正月早々と言う訳にはいかなかったけれど、新年会を兼ねた食事ができる店を今まさに探している。
 閑がくすくすと朔実の言い様を笑うと、悪戯が見つかった子供のように朔実も笑った。
「そこ行くお兄さん方。鍋料理はいかがでちゅう? 温まって行きませんでちゅうか?」
 そんな二人を、ちょっぴり特徴のある声が呼びとめた。見ると、エプロンを身に纏った小柄な男が、にこにこと手もみをしている。
「鍋?」
 穏やかな微笑を崩さないまま、閑はその人物に問い返した。
「はいはい。寒い季節でしょう? 当店では、どんな鍋でもご用意しまちゅよ」
「へぇー、鍋か。閑くん、いいんじゃね?」
 そう言えば、店員の背後から良い匂いが漂っている。なるほど二人だとわざわざ家では鍋をしない。温かい料理に気兼ねなく箸を伸ばせる。……確かに良いかもしれない。
 閑も朔実に頷き返した。
「はいはい〜。二名様、ご案内でちゅ〜」
 そうして、二人は店員に案内されて鍋料理屋へと足を踏み入れた。

□02
 店内はとても賑やかで、店員が忙しそうに動き回っていた。
 案内されたのは、スライドカーテンで間仕切りされた席だった。テーブルの真ん中に鍋を設置するコンロがある。
 席につくと、早速店員が注文を促した。本当に、どんな鍋でも良いらしい。しかし、鍋と言われても、あまりに範囲が広すぎて具体的な名前が浮かばない。
 朔実は、うーんと首をひねった。
「それじゃあ、具材から決める? 朔実は何が食べたい?」
「肉っ」
 閑の問いに、勢い良く手を上げる。真っ直ぐな主張がすがすがしい。
「そうだね。俺は、魚介類もあると良いな。海老とホタテ、白身魚もできれば」
「俺も海老食べたいっ。牛肉も豚肉もいいなーいいなー」
 閑と朔実の主張を交互に聞きながら、店員は何度も何度も頷いた。
「それから、野菜もきちんと摂らないとね? 春菊に白葱、定番で白菜としらたきも良いかな」
「そう言えば、牛肉と豚肉って一緒に鍋に入れても良いのか? 迷っちゃうぜ」
 ああ、話し合っているだけで、お腹がすいてくる。二人はある程度の具材を指定し、鍋は寄せ鍋と言うことで折り合いをつけた。

□03
 運ばれてきたのは、味噌のスープと様々な具材。
 備え付けのコンロに火をつけると、程なく良い香りが漂いはじめる。
「肉〜肉〜、お、この辺に野菜も投入」
 朔実は、早速具材を鍋に入れるため箸を取った。
 率先して様々な具材を投入する様は、さながら鍋奉行と言うところか。閑は、そんな朔実に鍋を任せ運ばれてきたお茶を口に含む。
 程よい温かさのお茶を飲むと、ほっと心も温まるようだった。
「閑くんは何日か休みはあるのか?」
 鍋の具材を調整しながら、朔実はふと閑を見た。
 ドラマの撮影にラジオ番組出演、舞台など、閑の仕事は決められたサイクルの休みがない。また、今回のように、ずっと仕事続きと言う時期も珍しくなく、まとまった休みが取りにくい。
 何でもない、当たり前の会話に紛れ込んだ朔実の心遣いが温かかった。
「うーん、単発の撮影も入れてないし、ラジオの収録と舞台稽古があるくらいかな」
 閑がそのように告げると、朔実は頷いて鍋をつついた。
 鍋からは、そろそろ肉の煮える良い匂いが漂ってきている。閑は、朔実にも取り皿を手渡し、鍋を覗き込んだ。
 朔実は肉を声高に主張していたけれど、鍋にはバランス良く具材が並んでいる。きっと、閑の食べるものも考慮して具材を放り込んだのだろう。こんな時、朔実の面倒見の良い一面がちらりと見える。
「煮えてる煮えてる! あ、こっちの肉とか、バッチリ。でも、まだ分厚いものは火の通りが甘いからな」
 朔実の解説を聞きながら、閑は鍋に箸を伸ばした。
 ホタテに白葱と、他にいくつか葉野菜を取る。
「これは、もう良いなっ。結構、早く煮えるんだなー」
 一方、朔実はそう呟きながら、煮えている物から順に取り皿に移す。
「うん。美味しそうだね。じゃあ、いただこうか」
「いっただきまーす」
 一口ホタテを噛むと、口の中から魚介と味噌の香りが広がった。

□04
「朔実は、実家の手伝いはどうだった? もっと手伝わなくて良かったの?」
 海老の殻を上手に剥きながら、閑はふと朔実を見る。
 朔実は、食べるのをストップして、追加の具材を鍋に入れている最中だった。
「それはもう、バッチリだよ。でも、バイト入れてるし、のんびりし過ぎると伸びちゃうしなー」
 具材の投入が終わると、取り皿で冷ましていた肉を口に放り込む。結局、牛肉も豚肉も運んでもらった。どちらも美味しいが、味噌には豚肉があうかもしれないと、うまみをかみ締めながらぼんやり思う。
「伸びる、と来たか。それは面白い表現だね」
 閑は、海老を食べ終わり、しらたきに手を伸ばした。
 そう言えば、先ほどから、野菜、魚介、葱葱しらたきと、閑の取り皿には、いまいちパンチの効いたモノが運ばれていないと、思う。
「閑くん、やっぱ味噌には豚肉だ。悟ったぞ! 食べてみて?」
「なるほど。ところで春菊も意外と味噌に合うね。ほら、春菊の香りがとける前に味わうと良い」
 本当は、閑に肉を勧めただけなのだが、その倍くらいの勢いで朔実は野菜を貰った。
 多分、肉や海老ばかり食べる自分のために、野菜も摂るように気を使ってくれたんだと思う。こんな時、閑のスマートさを感じる。朔実は、どっさりと皿に取り分けた野菜を頬張りながら、閑はやっぱすげーなと心の中で叫んだ。
 鍋からあふれそうだった野菜類は、煮込むと随分量が減ったように感じる。
 けれど、何故こんなに味噌の風味が染みていて美味しいのか?
「どうした? 朔実」
「あのさー、野菜って煮込むと、小さくなるじゃん? それって水分が無くなるから? でも、それじゃあ、何でこんなに味噌の味がするんだ? 味噌を吸った分は大きくならないの? 摩訶不思議だっ」
 朔実は、不思議そうに春菊を眺めた。
 閑は、朔実に勧められた豚肉を飲み込んでから、微笑む。
「今ここで、浸透圧、とか、化学のお勉強したい?」
 閑の言葉に、朔実はごぼうを口に運びながら、ふるふると首を横に振った。
 ごぼうのほろ苦い香りが、味噌に包まれてとても美味しく感じられる。
 鍋の野菜は美味い。その事実を大切に受け止めようと、心に誓った。

□Ending
 鍋の具材があらかたなくなってから、白米が運ばれてきた。卵が三つもついているので、きっと卵とじにしたら美味しい雑炊ができるに違いない。
 二人は、白米を鍋に入れ、火が通るのを待っていた。
 ふと、鍋を一度かき回した後、閑は手を休めじっと朔実へ視線を移す。
「ああ、朔実、すっかり遅くなってしまったけれど、今年もよろしくお願いします」
 そして、改まった口調で、そう告げた。
 しゃんと背を伸ばし、優雅に微笑む姿は、きっと誰が見ても美しい。
 朔実は、突然の言葉に驚いて、一瞬のけぞりそれからぽかんと閑を眺める。
「何? どうしたの、閑くん?」
「何って、新年会だろう?」
 何事かと身構える朔実を楽しげに見ながら、閑は器用に卵を割り鍋に溶き入れた。
 新年会。
 そう言えば、そうだった。
 すっかり鍋に夢中になっていたけれど、今日はようやく仕事が一段落した二人の新年会だった。
「そっかー! そうだよなー! 俺の方こそ、よろしく、ってかお世話になってます」
 朔実も、きちんと礼をして、閑に向き直る。親しき仲にも礼儀あり、そんな風にお互いを尊重する空気が心地良い。
 二人が同時に笑う頃、くつくつと鍋に入れた卵の色が変わった。
 一度ぐるりとかき混ぜてから、それぞれの皿へ出来上がった雑炊を取り分ける。
 肉に魚介に野菜。
 贅沢な旨みで煮込んだ白米は、まろやかな卵にくるまれていかにも美味しそうだった。あんなに沢山食べたのに、早く食べようと身体の中から催促されているよう。
 二人が雑炊を口に含むと、優しくて幸せの味がした。
<End>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6370 / 也沢・閑 / 男性 / 24歳 / 俳優兼ファッションモデル】
【6375 / 染藤・朔実 / 男性 / 19歳 / ストリートダンサー(兼フリーター)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
 お任せいただいた部分は、このようになりましたがいかがでしたでしょうか? 温かくて優しくてほのぼのした感じが出せたら良いなぁと思いながら書かせていただきました。

也沢・閑様
 はじめまして、はじめてのご依頼、有難うございました。
 也沢様は、海老を剥く姿も優雅に違いないと思い、そんなシーンを盛り込んでみました。お二人の関係がうまく表現できていれば良いなと思います。
 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いします。