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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


うたかたの戦いのち宴 〜 嫌煙家同盟 〜



 賑わう興信所内、台所では蓬莱と零2人が忙しく動いており、因幡・恵美と草間の娘もお手伝いに勤しんでいる。
 ソファーに座って無言の男3人組みは、若さパワーではしゃぐ瀬名・雫やルチルアに引きずり回される影沼・ヒミコと茂枝・萌を見ては、彼女達の若さパワーがコチラに向かないことを祈っていた。
 繭神・陽一郎と高峰・沙耶は何処を見ているのか分からない様子でジッとしており、月神・詠子はそんな2人を意味ありげな視線で見つめている。
「凄い事になってるな‥‥‥」
「同感だ」
「まぁ、どーせ今日だけのことなんだろう」
「どうせなら楽しんだ方が得よね」
 いつの間にかむさ苦しい男3人組みの隣に立っていた碇・麗香が呟き、その隣にひっそりと立っていた三下・忠雄がコクコクと頷く。
 確かにそうかも知れないな‥‥‥そう言おうとして開かれた草間・武彦の口は、背後から聞こえたノックの音に閉じられた。
 ソファーに座る彼の背後は壁だが、今の草間興信所にはそこら中に扉がある。
 また誰か来るのかと思いつつ立ち上がり、扉を開けた瞬間‥‥‥‥中から無数の黒い影が飛び出し、興信所の扉や窓を突き破ると夜の町へと飛び出して行った。
「今の音は何ですか!?」
 台所から零2人と蓬莱が飛び出して来ると、興信所内の悲惨な光景を見てアングリと口を開ける。
 まるで竜巻に襲われたかのような興信所内に、集まった人々は面食らっていた。
「今のはなんだ?」
「何か変なものを見た気がするけれど‥‥‥」
 口々に囁きあう中、突然1つの扉から漆黒の髪を持つ美しい双子の姉弟が姿を現した。2人はまず、興信所内に集まっていた人の多さに驚き、次に沙耶と武彦に視線を向けると小さく溜息をついた。
「大変な事になってしまいましたわ、草間様」
「夢宮‥‥‥」
 双子の性は夢宮。名は、姉が美麗で弟が麗夜。夢と現の扉を司る2人の登場に、武彦の背筋が凍る。
「何が起きたんだ?」
「夢と現の世界より、封じられていた様々なものが飛び出して行ってしまいました」
「例えば誰かの夢に現れた殺し屋」
「例えば裏の現にいるゾンビ」
「例えば誰かの夢に現れた霊」
 例えば、例えば、例えば ――――― 延々と続く双子の言葉に、緊張が走る。無表情で言葉を続ける双子も怖いが、真剣に聞き入っている面々も怖い。
「お前達の力で何とかならないのか?」
「イヤですわ」
 キッパリとした拒否の言葉に、武彦は目を丸くした。
「どうして‥‥‥」
「わたくしどもは、この時期は何かと忙しいんですの。飛び出していったものを捕まえて入れなおす、その作業をしているだけの体力も時間もありません」
「そもそも、扉を開けたのは草間様、ですよね?」
 麗夜の意地の悪い視線に負け、武彦は唸りながらどうすれば良いのかを尋ねた。
「霊の類でしたら、願いを叶えれば消えてくれるはずですが、攻撃的なものは倒さなくてはなりません」
「魔物も倒さなくてはなりません。ちなみに、俺達が把握している外に出て行ってしまったものは‥‥‥」
 殺し屋、ゾンビ、能力者の影、美少年コレクターの霊、腹ペコの霊、美少女ばかり誘拐する霊、吸血鬼。
「‥‥とりあえず、そいつらを倒すなり消すなりしてからパーティを再開するか」
 武彦が腰を上げ、それぞれの得意分野を踏まえたうえで指示を出す。武彦の指示など素直に聞くのかと一瞬不安になるが、意外にも皆素直に指示に従った。
 殺し屋にはファング、ゾンビにはギルフォードとマッハ、能力者の影には鬼鮫と萌、腹ペコの霊には蓬莱と零、吸血鬼にはエヴァ・ペルマネントとスノー。
「それで、美少年コレクターの霊だが‥‥」
 一同の視線が一斉に陽一郎に向けられる。何かを反論しようと口を開きかけた陽一郎だったが、直ぐに諦めたように溜息をつくと「分かった」と頷いた。
「美少女好きの霊には‥‥」
「私が行こうか?」
 名乗りを上げた萌を一瞥し、武彦はあえてその発言を流すとアリアにその役を頼んだ。彼女も確かに美少女ではあるのだが、少々胸元が‥‥‥。
「早く片付けて、パーティを再開しましょう」
 麗香がそう言ってソファーに座ると、脚を組んで踏ん反り返った‥‥‥女王様気質の彼女は、グチャグチャになった興信所内を片そうと言う気すらないらしい‥‥‥。


◇ ★ ◇


 桐生・暁は、武彦の「お前はどうする?」との視線を受け、鬼鮫の隣に立った。
「俺は二人と一緒に行くよ」
「そうか。それで、シュラインは蓬莱と零の方を頼めるか?」
 興信所の事務員、シュライン・エマが武彦の要請に首を縦に振る。ゾンビ組みのマッハとギルフォードが真っ先に出て行き、吸血鬼組みのエヴァとスノーが続く。
「私たちも早く行こう。遠くへ行ってからでは面倒だよ」
「そうだな」
 萌が風のように興信所の扉を抜け、颯爽と夜の街に消える。慌てて追いかけようと振り返った先、鬼鮫が無表情でサングラスの奥の瞳を細め、猫の爪のような白月を見上げた。
「追いかけないんですか?」
 何故か微妙な敬語になり、自分で苦笑する。 他者を寄せつけない雰囲気の鬼鮫は、眉を動かしただけで何も答えなかった。
 二人の間に妙な沈黙が流れ、大晦日の街を行く人々が不審げな視線を向ける。 高校生くらいの金髪の美少年と、中年の強面の男性のツインが無言で夜空を見上げている様は、確かに不審だ。
 ――― 俺たち、どう見られてるんだろう ‥‥‥
 親子には見えないだろうし、兄弟にも見えないだろう。友達は言語道断だろうし‥‥‥せいぜい良いところ、どこかのお坊ちゃまとそのボディーガードだろうが、二人のただならぬ雰囲気からして、それもかなりこじつけだ。
 小さな子供連れの女性が、男の子の目の前にサッと手を翳す。 見ちゃいけませんと言うことなのだろうが、存在をR指定にされてしまうと物凄く切ない。
 北風が強く吹き、暁が肩を縮めた時、背後にトンと誰かが立った。
「見つけたよ」
「わっ‥‥‥萌ちゃん!?」
「ご苦労。行くか」
 まさか驚かれるとは思ってもみなかった萌が、暁の様子に目をパチクリさせる。 全体的に色素の薄い彼女は、茶色い髪を靡かせると身軽に屋根に飛び乗り、こっちと言って手招きする。
 鬼鮫がその体躯からは想像もつかないほど俊敏な動きで萌の後を追い、暁もそれに続く。 一瞬鬼鮫の表情が険しくなるが、すぐに思い直したように頷くと萌の背中を追う。
 ――― そう言えば ‥‥‥
 鬼鮫こと、霧嶋・徳治は娘と妻を超常能力者に殺された過去を持つ。それゆえ超常能力者と戦って殺す事に異常な執着を示していると聞いた事がある。
 今は沙耶の力によって、そう言った負の感情は押さえ込まれているようだが、だからと言って大っぴらに能力を見せても良いと言うことではないだろう。
 ――― 今は好きでやってるって言っても、やっぱ身内がそう言う者に殺された場合、近くに俺みたいなのが居るってゆーのは気分がいいもんじゃないよな、きっと ‥‥‥
 鬼鮫の前では能力を見せないようにしよう、そう心に誓った時、萌が「あっ」と小さく呟き、後ろを振り返った。
「そこ、ちょっと脆くなってるから危な‥‥‥」
 言うのが少し遅かったようだ。 鬼鮫は自身の勘で危険部分を避けて通っていたようだが、考え事に没頭していた暁はうっかり危険ゾーンを踏み破ってしまった。
 今にも崩れ落ちそうな廃屋の屋根に埋め込まれる暁 ――― 下半身が下に落ち、上半身はなんとか屋根を掴んでいる ――― を見て、鬼鮫が溜息をつく。
「なにをやっているんだお前は」
「いや、私のミスだ。脆くなっているのを知りながら、伝え損ねた」
「だいたい、見ただけで分かるだろ」
「ちょっと考え事してて、気づいたらトラップに引っかかってて‥‥‥」
 エヘっと、可愛らしく笑う暁だったが、クールな萌と鬼鮫はまったく心動かされなかったようだ。
「安心しろ。夕食は誰かが考えてくれている」
「いや、夕食のこと考えてたわけじゃなく‥‥‥」
 鬼鮫が暁の救出のために1歩踏み出し ――― 萌が「あ」と、間の抜けた母音を発する。
 バキリと凄まじい音がし、鬼鮫の下半身が暁同様建物にのめりこむ。 暁の体重すらも支えられなかった部分が、鬼鮫の体重を支えられるわけは無論なく、屋根に挟まった二人の間抜けな顔を見て萌が盛大な溜息をつく。
「どうしてそうなるんだよ」
「‥‥‥早く手を貸せ」
「貸しても良いけど、私があなたの身体を引き上げられると思う?」
 自力で出られないのか?との問いに、能力が大幅に制限されているので難しいと答える鬼鮫。
「あなたも無理なの?」
「もう、ジャストフィットではまっちゃってるみたい‥‥‥」
「‥‥‥それなら、方法は一つだね」
 萌がそう言って、慎重に足場を選ぶと鬼鮫の背後に回り、思い切り肩を押さえつけた。
「お、おい!?」
「上に出られないなら、下に行くしかないんだよ。当たり前の答えだよ」
「だからって萌ちゃん、そんな暴力的な‥‥‥!」
「時間を無駄にした罰だよ」
 クールな彼女はそう言うと、男二人を落として颯爽と走り去った。 ――― 恋愛的な表現だが、無論そんな要素は何一つない。



 萌が現場を立ち去ってから数十秒後、落とされた暁と鬼鮫は何とか外に出ると、急いで後を追った。 すでに萌の背中は闇に溶け込みそうなほどで、かなりのスピードで走らなくてはならなかった。
 隣の家の屋根へと飛び移った時、ふと鬼鮫が足を止めた。 耳を澄ませば微かに、何かがぶつかる音が聞こえてくる。
「こっちだ」
 すでに萌の姿は見えなく、音を頼りに走る。 夜の闇に沈んだ公園の中、萌がサブマシンガンを構えて立っている。
 彼女の小柄な体からにじみ出る殺気は強く、暁はナイフを抜くと構えた。ジッと耳を澄まし、鬼鮫の視線に気づき顔を上げる。
「護身用だよ」
「‥‥‥どんなたちの悪いチンピラに絡まれるんだ?」
 さぁ? と肩を竦めた時、萌が左に動いた。 月光に淡く溶かされた闇の中、光りを吸収する濃い黒を見つける。人型のソレは左右に素早く動くと、手を伸ばした。一瞬の沈黙の後、萌の足元に火の手が上がる。素早く回避した萌が、暁と鬼鮫に鋭い視線を向ける。
 背後に感じた殺気に振り返り、ナイフを横に滑らせる。相手の手に注目し、間合いを広げる。
 鬼鮫が刀を抜き、斬り付ける。振りは素早かったのだが、相手が避ける方が早かった。
 宙返りをしながらナイフを投げ、影の腕に深々と突き刺さるのを確認する。影がそれを腕から抜き、暁に投げ返すのを鬼鮫が止める。
「随分派手なパフォーマンスだな」
「ダンスの延長で習ったんだ♪ 俺の友達、皆出来るよ」
「ナイフを使って、か?」
「最近は物騒だからね、俺みたいないい子でもこんなに扱えるようになっちゃったんだよね〜」
「最近が物騒だと言うのには賛成しよう」
「でも、あなたがいい子だと言うのには反対だな」
「あ、萌ちゃん酷い!」
「本気で言っているなら、頭を叩いて神経回路を修正させるけど、冗談で言っているんだからツッコミを入れるべきだと思ったんだ」
「もっとさ、優しいツッコミの入れ方は‥‥‥」
「ないな」
 暁の言葉を遮ってまでも突きつけられた言葉に、思わず苦笑する。
「さて、相手が発火能力を使うことは分かった」
「そして、動きが早い事もね。でも、力は大してないと思う」
「一気に片付けるか?」
「グズグズやる必要があるとは思えない。‥‥‥影と言うだけあって、動ける範囲は上下左右」
「前と後ろにも動けるよ、萌ちゃん」
「三人では不利だ。‥‥‥一瞬でも動きを止められれば良いんだけど」
「んー、本当に一瞬で良いなら、考えがないでもないかなぁ‥‥‥」
 暁が曖昧に微笑み、萌に小さく目配せをする。 どんなアイコンタクトが発せられたのか分からないものの、何となく言いたい事を理解した萌が、微かに顎を引く。
 黒い瞳が瞬き、これから暁がしようとしている事を見守るかのように、大きく見開かれる。
 鬼鮫が影を目で追いながら刀を構え ―――
「うおぉぉっ!!手が滑ったーーーッ!!」
 何処から出したのか、暁が新聞紙を鬼鮫の顔にすっ飛ばすと紅の瞳に力を入れ、影を見つめる。
 魅了の力を敏感に感じ取った影がなんとか回避しようとするが、時既に遅し、血のように美しい瞳に釘付けになっていた。
 萌が素早い動きで地を蹴り、サブマシンガンの引き金を引く。 顔にへばりついていた新聞紙を乱暴に引き剥がした鬼鮫が彼女の後に続き、暁も目を閉じると彼に続いた。
 鬼鮫の体重の乗った一振りが影を切り裂き、そこから黒い靄が立ち上る。
「ふん、手応えのないヤツだ」
「大晦日からそんな手応えのあるのと戦いたくなんかないでしょ」
「それよりおまえ、さっきはよくも新聞紙なんぞ‥‥‥」
「あれは手が滑っちゃったんだって!ね、萌ちゃん?」
「‥‥‥あ、あぁ‥‥‥」
 萌の視線が宙を彷徨い、明後日の方角に流される。 私は知らないぞと、無言の主張をしているらしい。
「手が滑って、どうして新聞紙が飛んでくる? 新聞を読んでたのかおまえは!?」
「ほ、ほら‥‥‥こ、高校生って何かと情勢を知ってないとね?高校生の一番読む本は、新聞なんだって知らないの!?」
「新聞は本じゃないよ」
 萌が冷たいツッコミを入れ、鬼鮫が盛大な溜息をつくと刀を鞘に収める。
「おまえは何かを勘違いしているようだが、余計な心配は要らない。むしろ、迷惑だ。俺は好きでコレをやっているんだ」
「そんなこと言ったって‥‥‥」
 妻と娘を殺された、その時の心の傷が癒えたわけではない。癒えたのなら、きっとこんなことはしていないのだろう。
 自分では気づかないようにしているだけではないのか? 悲しみや苦しみを無理に押し殺し、下手な意地で飾り付けているだけではないのか? 自分と通じるものを感じていた暁は、そんな事を思い、目を伏せた。
 大切な人を殺されて、相手を許す事なんて出来ない。そう、だからきっと ―――
「何か来る‥‥‥」
 萌の押し殺したような声に、反射的に顔を上げる。 細い月をバックにこちらに向かってきた二人の影に視線を向ける。
 一人は細身のシルエットの男性で、もう一人は小柄なシルエットの女性だ。 少年の方には見覚えがあったのだが、ゴシックロリータの衣装に身を包んでいる少女の方は知らない顔だった。
「おーっほっほ!ここにも美少年がいましてよーっ! 美少年は全てあたくしのものですわー!」
「そこのきみ、すぐに逃げた方が‥‥‥」
 萌と陽一郎、そして鬼鮫が同時に「あっ」と間の抜けた声を出す。 金髪の縦ロールの髪を振り乱しながら暁に接近してきた少女が右手を高く上げ、暁の周りにショッキングピンクの檻が出現する。
「さぁ、一人捕獲しましてよー!お次はあなたよっ!」
 ビシっと指をつきつけられ、陽一郎が困惑したように視線を暁と少女、交互に滑らせる。 檻が急上昇し、少女の頭の上に来ると彼女の動きにあわせて水平に移動する。
「ちょ、これ、微妙に酔う!?‥‥‥って言うか、寒っ!!」
 強い北風と、不安定な揺れと ―――
「どうしてあなたはそう、ドンクサイんだ?」
 萌が溜息混じりにサブマシンガンを構えるが、陽一郎がそれを制する。
「戦うと、彼女の動きにあわせてあの檻が揺れます。彼の身体に相当ダメージが行きますよ」
「構わない」
「え、萌ちゃんそんな、即答!?」
「そろそろ身体も冷えてきたし、とっとと終わらせるか」
「お二人がそう言うんでしたら、わたしも手加減はしません」
 長引かせるよりは、早く終わらせた方が彼の体の負担にもなりませんしね。と、優しい考えをしていたのは陽一郎だけだった。
 ――― それから一時間後、暁は萌に背中をさすられながら道端で気持ちの悪さと戦っていた ―――


◆ ☆ ◆


 鬼鮫と萌、そして陽一郎と共に興信所に戻ってきた暁は、美味しそうな匂いに目を閉じた。台所では蓬莱と零、そしてシュラインが奮闘しており、ゾンビ退治を終えたマッハが興奮したように事の顛末を語っている。
 ギルフォードとのコンビもなかなか上手く行ったようで、何だかんだと気があっているようでもあった。
 出て行った人々が全員帰って来たのを見計らって、武彦が宴の開始を告げる。 鬼鮫とファングにお酌をしながら、美少年好きの霊との戦いの事を唇を尖らせて伝える。鬼鮫が居心地が悪そうに視線を明後日の方角に流し、どう反応したら良いのか分からないファングが肩を竦める。
 部屋の隅には夢宮姉弟がひっそりと佇んでおり、沙耶となにやら話しこんでいた。
 お邪魔かな?と思いつつ、そっと姉弟に近付けば、美麗が魅力的な微笑を浮かべると「お疲れ様でしたわ」と労いの言葉をかけた。
「ねぇ、美麗ちゃん、ちょっと訊きたい事があるんだけど‥‥‥あ、間違いだったら別に良いんだけどさ」
「なんでしょう?」
「あのハプニングって、もしかして予定の一部だったり?」
「あら、どうしてそうお思いになりますの?」
 にっこり ――― 何かを含んでいる笑顔に、暁は確信した。
「美麗ちゃんと麗夜が今ここに残ってるのが最大の理由かな。今の時期って、忙しいんでしょ?」
「たまには忙しくない年もありましてよ」
 最初に言ったことは、ただ単に力を使うのがイヤだっただけ。扉を開けたのは武彦なのだから、尻拭いをしてあげる必要はない。
 そう言われてしまえばそうなのかも知れないが、それでもあのハプニングには違和感を感じる。
「例えばあれが予定されていたものだったとして、俺たちがそんなことをして何になると言うんです?」
 美麗の背後から麗夜が声をかける。悪戯っぽい笑顔は、暁を試しているようでもあった。
「確かに、美麗ちゃんにも麗夜にもメリットはないかも知れないけど‥‥‥頼まれたことだったりしない?」
 チラリと視線を沙耶へと移す。 壁際に静かに佇んで室内を見渡していた沙耶が、暁の視線に気づいて近寄ってくる。
「どうやら、お気づきになられたようですわね」
「どうしてこんなことを?」
「いくら感情を制御しようとも、心の底にある闇はそう簡単には晴れませんわ。けれど、協力せざるを得ない状況に追い込んだ場合、闇は少しですが、晴れると思いましたの」
 確かに、そうかも知れない‥‥‥。
 蓬莱と零がから揚げの乗ったお皿を持ってきて、草間の娘とシュラインが空いた皿を台所まで持って行く。 雫と麗香、三下なにやら熱心に話しており、阿部・ヒミコと影沼・ヒミコが碧摩・蓮を相手にポソポソと喋っては時折控えめな笑い声を上げる。
 歌姫の歌声に恵美と響・カスミが聞き入り、嬉璃と柚葉、天王寺・綾のあやかし荘トリオが桂を相手に遊んでいる ――― と言うか、困らせている ―――。どこからそんな話になってしまったのか、エヴァと萌がどちらが美しいかと言う話題で盛り上がっており、ギルフォードが、アリアやスノーの方が可愛いし綺麗だと言ってしまい、悲惨な状況に陥っている。が、誰も助ける気はないらしく、鬼鮫とファングは静かにお酒を飲んでいる。
 マッハにモリガン、ネヴァンのアスガルドチームは出された食べ物を興味津々で眺めており、アリアに促されるままに口に運んでいる。詠子と陽一郎は思い出したように時折口を開いては取りとめもない話に興じているらしい。
「ルチルアちゃんにお任せ〜!」
「待て!おいっ!待てったら!」
 ルチルアちゃんお手製薬草シチューと言う名の兵器を生み出そうとする金髪ツインテール少女を必死に止める黒崎・潤。 何を騒いでいるんだとマッハが声を荒げ、ルチルアちゃん兵器が生み出されそうだとの答えに潤の味方に回る。どんな兵器なのか興味津々の鬼鮫と萌に、ネヴァンが一生懸命たどたどしいながらも説明を入れる。
「こんな楽しい宴に出られて良かったね、陽一郎」
「‥‥‥騒々しいの間違いだろう?」
「そうかな?陽一郎、凄く楽しそうだよ」
「わたしが?」
 自分で分かってないんだからなーと、クスクス笑う詠子に、陽一郎の顔が微かに歪む。雫がどこからか人生ゲームを取り出し、床に広げるとやりたい人を集めてペアを作るとサイコロを振る。勿論暁もその輪に加わり、ルチルアとペアになる。雫とペアになった草間の娘がコマを動かし、エヴァと萌のぺアがどちらがサイコロを振るかで少々もめる。
 人生ゲームの順番が回ってくるまでの間に宴会芸見せ合いっこを隅で行い、各自が自分の出来る事を披露しては笑いを獲得している。
 年が明ける前に今年の汚れを落とすべくお風呂に向かい、ギルフォードと水のかけあいっこをしては大人な面々に怒られる。しかし、怒られてやめてしまっては楽しくない。皆を巻き込んでの大騒ぎに、陽一郎が一人安全な場所でのんびりと湯に浸かっている。
 蓬莱が持って来た浴衣に袖を通し、卓球台を出すと白熱した試合を繰り広げる。楽しそうな様子を見守っていた恵美が腕時計に視線を滑らせ、あやかし荘チームのカウントダウンに暁も声を合わせる。
「5‥‥4‥‥‥3‥‥‥2‥‥‥1‥‥‥」
「あけましておめでとうー!!」
「あけましておめでとう」
 おめでとうの言葉がそこかしこで花開き、興信所内が奇妙な一体感で包まれた時、ふと武彦が煙草に手を伸ばし、今年最初の一服を吸い込んだ。途端に鬼鮫の表情が険しいものになる。
「草間さん、また煙草ー!?つか、酒は健康にいいケド、煙草は百害あって一利ナシだよねーッ」
「まったくだ」
 どうせなら嫌煙家同盟を作ろうと盛り上がる二人を前に、所在なさげに煙を吸い込む武彦。
 煙草は周りにも迷惑が及ぶと言って詰め寄るが、武彦はのらりくらりと追及の手から逃れていく。
「今更言ったところで、どうしようもないのよ」
 シュラインが諦めとも擁護ともつかぬ発言をし、すかさず雫が二人を茶化す。
 ルチルアが暁を手招き、未だに続いている人生ゲームが暁・ルチルアチームの番である事を告げる。先ほどはルチルアがサイコロを振ったため、今度は暁が軽くサイコロを振るとコマを進める。
 人生七転び八起き、七転八倒、でもめげるな。 そんな言葉の書かれたマスに止まり、思わず顔を見合わせて笑い出す。
 泡沫の宴はあと数刻のうちに、幻のように消え去ってしまう。再び動き出す現実は、冷たく過酷なものかも知れない。けれど‥‥‥
「またこうして、皆で集まれたら良いなぁ」
「そうだね‥‥‥」



END


□★◇★□★◇★□  登場人物  □★◇★□★◇★□

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


 4782 / 桐生・暁 / 男性 / 17歳 / 学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員


 0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員


■☆◆☆■☆◆☆■  ライター通信  ■☆◆☆■☆◆☆■

お届けが遅くなりまして申し訳ありません!
今まで書いた中で一番NPCが登場したお話だと思います‥‥‥
鬼鮫さんとのペアも書いていて楽しかったのですが、萌ちゃんとのペアも楽しく描かせていただきました!
全体的にコメディ色が強くなっています
武彦さんが嫌煙家同盟の力に屈する時は果たしてやってくるののでしょうか‥‥‥?
それでは、この度はご参加いただきましてまことに有難う御座いましたー!