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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 宿命の双子 忍び寄る『悪』

 鳳凰院美香は1人で帰っていた。
 弟の紀嗣は別の用事、加登脇の病院に向かっている。
 彼女本人も、道場に用事があってその後、草間興信所に向かうつもりなのだ。
 なんて事はない日常。
 今彼女の世界は少しだけ開けている。
「……私、こんなに人と接したかったのか……。」
 そう、不思議に思った。
「でも、私はどうすればいいか分からない。」
 まだ、心が揺れている。
 ずっと1人で、避けていたから。
 弟も、親も、親しくしようとしてくれる人も。
 自分の力の為に。

 それでも、さしのべてくれた人達が居る。
 そこで、彼女の見る世界は色づいてきたのだ。

 ただ……、それによって何かが変わろうとしてる。良い意味でも悪い意味でも。

「?」
 気配がする。
 背後。
 この気配は、妖怪か何かのたぐい……それ以上に『悪』を誇示するなにか。
「フィーンド?(魔族)」
 自分の神格がそう告げた。
「出てきなさい!」
 すると、そこには蝙蝠の翼を持った小さい、醜い鬼……インプだった。
「……何のよう?」
「いや、俺はこんな所にくすぶっている、激しき炎が居るって気が付かないでさ。」
 嫌らしい笑いをする。
「契約はお断りだ。口車に乗らない。」
「いやいや、今は挨拶だけだよ。いずれ、話が偉大なる主があんたら、双子を招待するって。」
「……何?」
 身構える。
「それまでまって……うぎゃああ!」
 透き通った刃が、インプに当たり消えた。
「大丈夫か!」
 影斬だった。
「し、師匠!」
 美香は震えて影斬に近づく。
「気づかれたか……力を持つ物は、それを欲する力有る者を惹き付ける。あれは、地獄階層の連中だ。」
「……。」
 美香は、その言葉にぞっとする。
「草間さんに相談しよう」
「あの、師匠は? その、あのフィーンドが言っていた主を倒せないのですか?」
「私は装填抑止……、今その状態ではないのだ。」
 怯える美香を支えるようにして影斬は興信所に向かった。

「……で、また俺か。謎の主に使い魔か。」
 草間興信所の草間武彦は渋い顔をした。
「調べると言うより、彼女を守って欲しい。勿論弟も。」
「……。乗りかかっているからな。しかし、それってお前の“力”で何とかならないのか?」
「なりません。私の今の状態は、彼女と、紀嗣に今の力を使いこなせることと助言しか与えられないのです。」
「力有っても、身動きできないというやつか。それも、納得がいく。お前とそれが戦って共倒れになったら他の均衡が崩れるって事だろ。」
「流石草間さんです。」
 話はある程度、分かってきた。

「紀嗣は……、大丈夫なの?」
 美香は弟を心配する。
「今彼は、加登脇先生の所だよ。暴走後の調子を見て貰っている。」
「そう、そうね。」
「ただ、彼の所にもその使い魔が現れて、なにかされてなきゃいいが。」
 草間が紫煙を上げて電話を持った。
「連絡も取って、連携し……、その計画でもなにかしら分かれば……」
「はい。」
 影斬は美香に、
「わたしの『闇を見通す』事さえもあまり役になっていない。しかし、美香。私と美香の友達が、助けるから、ね?」
 優しい笑みを見せた。
「……はい。」
「くそ、紀嗣こんな時に携帯を!」
 草間は舌打ちする。
「私が……。」
 影斬が立ち上がろうとするが、草間が制止した。
「いや、お前は美香をみておけ。俺が行く! 零! 誰でも良いから臨時助手を呼べ!」
 草間が走り出した。

 紀嗣は鼻歌混じりで帰っていく。美人女医と逢うことが一寸楽しみと言うのは秘密だが。
 暴走の傷も有る程度良くなっているため、気分が良い。
「さて、今日のご飯は何にしょうかなー。」
 携帯は電源を切ったままだった。


 しかし、影に……邪悪な赤い光が彼を見ていた。





〈興信所〉
「集まってくれて助かる。」
 影斬が興信所で美香を見て、草間とほぼ入れ違いにやってきた人々に礼を言った。
「彼奴は友達だからな。絶対守ってやる。」
 御柳紅麗が胸を叩いて自信満々に言った。
 テーブルに逆探知装置やらGPS発信器などを色々弄っているのはササキビ・クミノだった。
「これで範囲を絞り込めるはず……。」
「紀嗣の電話、電源は言ってないんだけど?」
「いや、これは我々の連絡網だ。」
「そうか。」
 天薙撫子とシュライン・エマは美香を支えるように、彼女に寄り添っている。美香自身は不安でまだ震えているのだ。
「紀嗣が危ない……。あたしどうするえば。」
「大丈夫よ。美香さん。」
「美香様。落ち着いて。」
「そう、深呼吸しましょ? はい。」
「……。」
 美香は、深呼吸する。そして、珈琲を口にした。
 しかし、まだ震えは止まっていない。不安と恐怖にうち拉がれそうになり、シュラインに抱きついている。
 それでも、シュラインは影斬から訊かなくてはいけない事がある。今回の『敵』だ。
「まずは、今回の魔族について分かる? 影斬さん。」
「『地獄』からの存在です。あ、紅麗の出身である『死神世界での地獄』とは全く違います。九階層あり、皆がよく知る様々な伝承にある『西洋宗教・伝承的に悪魔の存在』が居る世界の1存在です。外的世界の総称は様々ですが、例に挙げるなら、『天使』や『その世界の定命者と魂の安楽所』、『実体有る神々』など超常的存在世界を構築する世界観をもった外世界の一つ。私が存在し属する宇宙観も別の領域だが其処にあります。」
 帰昔線崩壊で、その宇宙論もあやふやなのではあるが。と付け加える。
 其処へ向かう為の通り道である中継界の幽星界と、別の“話”での鏡界では世界観が違う事をまずは言っておく。魂が通る道は其処にある(未練がある場合別の霧の迷宮界と言えるエーテル世界か影の世界に堕ちていくのだが)。
「まえに、冥府、奈落などを封印した時と同じ世界ね?」
 シュラインが前の事件の記憶をたどり、そのことを尋ねる。影斬はその事件ファイルを簡単に見せて貰ってからと頷いた。
「ええ。今回は向こうから積極的に開けて、干渉していると思います。」
「それだと、早く向かわなければ。」
 紅麗がすぐにでも紀嗣のほうに向かおうと考えるが、位置が特定していない状態でそれは無理だ。焦る気持ちが高まる。
「ササキビ、まだセットおわらないか?」
「待ってくれ。6人以上の通信機器の同期は時間がかかるのだ。」
「急を要するとしても、焦ってはいかん。」
 影斬が言う。
「分かっているさ。しかし、美香ちゃんのその辛そうな顔を見たくはねぇ。」
 紅麗が言い返す。
「それもそうだが、お前の悪い癖は猛進することだ。」
「分かっている!」
 自覚があるのかと、影斬は思ったが口に出さなかった。
「それに武器は銀でさらに聖別されたものでないと、奴ら傷を簡単にふさぐぞ。下級種族ならどちらかでも大丈夫だが。」
「うわ、俺の得物、そう言うのはないぜ。まあ、霊圧で聖別だけでも変換するか。」
「紅麗様は聖別できる位置にいるのですか? わたくしならできますが。」
 撫子が紅麗に聞くと、
「俺は調和側だ! 俺はこう見えても聖別できる方だ!」
 若い死神は突っ込んだ。
「いつもはそう見えなくて、済みません。」
「なら、私は銀製の弾丸だけでも召還できるのだが。狼男などに対抗出来るよう。しかし、聖別ものはないな……では頼む。撫子さん。」
 クミノは装置を弄りながら、自分の能力の壁に突き当たり困っている。
「鳳凰院君が、大変なことになったというのは本当ですか?」
 アレーヌ・ルシフェルが息を切らして駆けつけてきた。
「大変になりそうだ。だな。フィーンドが美香に干渉する事を見つけて、今彼を捜している。」
 紅麗が答えた。
 アレーヌは、紀嗣と美香と面識はある。
 後ろに和服姿の男が現れ。
「大変なことになっているな。」
 と言った。
「一度に集まってから同期すれば良かったか。」
 クミノは、むすっとなる。
「いや、全員が瞬間移動できるほどの能力はないから。ロスはあるだろう。」
 軍隊なみの組織力を持っている訳でもないよ、とその男が言った。
 クミノはそれもそうだったとため息を吐く。
 その着物姿の男は、静修院刀夜であった。
「まずは、わたくし、お二人のことはクリスマス会でしか知らないのですけど……。でも、2人は一体何者なのですか?」
「……。」
 影斬はアレーヌの問いにどうするか、美香を見てから考える。
 美香は頷いて、「言っても良いです」と伝えた。
「では、話そう。」
 その話を聞いたアレーヌは、急ごうとするが、紅麗らに止められた。そして、自ら深呼吸して、落ち着かせる。そして、クミノに自分の携帯を渡して同期を頼んだ。

 草間零が、ある人物に電話をかけようとしたが繋がらない。
「おかしいです。」
「?」
「電話が繋がりません。御影さんの。」
「妨害電波か?」
「『地獄』に機械などあるのか? ふつうは神力や魔力で成せるだろ?」
 と、クミノと刀夜が言う。
 影斬は、まずあってもよほど科学マニアになった魔族でもないと。古典的な秘術行使を好むほうだと答えた。
「でも、機械が無くてもそうしたことはその『世界』に有るんじゃなくて?」
 シュラインが言った。
「閉鎖結界?」
「まずそれを見極めよう!」
 神秘使いが持っている術を行使する。
「こんな事もあろうかと、能力者用の探知機も用意した。助けにしてくれ。」
 クミノは、自分ではよく分からない形をした宝石を数個出してきた。召還した物体ではない。
 ――どうも私の力は、使い勝手が悪くなっているな。
 撫子は龍晶眼を使おうとすると影斬に「やめろ」と止められた。
「どうしてですか?」
「吸血神のことをも出せ。いくら神位になったとしても、撫子。まだそれは危険だ。」
「つまり……。」
「あれは、要らないモノをみて、発狂する。超次元を持つ存在との接触が可能となるそれは、直に神の力をもってしても、無理があるのだ。しかもこの世界は混沌となっている。」
「それでは、わたくしはどうすれば!」
「撫子さん。落ち着くんだ。」
 自分の気持ちを抑えている紅麗が言った。
「まず、ササキビの手腕と、静修院さんがやるだろう。紀嗣を助けるばあい、動きの早いのは俺が一番だ。状況を冷静に判断しよう。な? それに、龍晶眼って、へたすりゃ、その日寝込むと思うほどの力と思うんだよね? 影斬も滅多に今の力を〜特に天魔断絶だな〜使わないのはそれもあるのだと思う。俺たちは万能で全てを解決するのではなく、『権能』と『調和側』し、そして皆と共に動くべきだ。あ、もちろんどうしようもないときはあれだけどさ。」
 さらに、
「なんでも自分の力で解決しようとしちゃいけないって、撫子さん言って無かった?」
 と。
 その言葉で、撫子ははっとなった。
「……分かりました。焦っておりました。ごめんなさい。」
 落ち着いてから、撫子は座った。そして、ため息を吐く。

「結界探知。井ヶ田病院から5キロ前後か。向かう。」
 クミノが、愛用している銃をもち、立ち上がる。
「シュラインさん、影斬、この各装置動かせますか?」
「ああ、可能だ。」
「まかせて。」
 2人は頷く。
「俺は、念のために残ろう。影斬が、其処まで力をセーブしているというなら、そうした力を持つモノが守らないと。」
 静修院が言う。
「それは助かります。ありがとう。」
 クミノは自分の力で、迷彩装置を取り出し、草間興信所の外で障気をだして、走っていく。
「んじゃ、俺も向かう。」
 紅麗はその場で霞のように消えていった。
「敵がこないかは、運だな。」
「そうね。」
「お茶入れてきます。色々話しすぎて、喉乾いているでしょう?」
「ありがとう。零ちゃん」
 シュラインと影斬、静修院と零は、美香のほうに付いていた。
「大丈夫だよね……。紀嗣……。」
 美香は、祈るように、願うように呟いていた。


〈危機〉
 御影蓮也と鳳凰院紀嗣は、何かに囲まれていた。
 もう、どこでもないような封鎖空間。携帯が圏外になっている。
 その異常を知ったのは、ほんの数分前だった。病院帰り、たまたまあった蓮也と紀嗣である。その突如この封鎖になったのである。紀嗣は、そこで異変に気が付いた
「結構やばいな。」
「これって一体?」
「俺が知る限りでは……魔族だな。義明が言っている宇宙観で言えば、ね。」
 その皮膚は醜く、そして目から邪悪なものが浮かんでいる。その数は20はいる。
「危機感知できるように、修練積む必要があるな。おまえ。」
「え。俺?」
 お前以外に誰が居る、と言った顔の蓮也だった。
「“破壊の権能”!」
 魔族がわめく。
 しかし、この『言葉』は、2人には理解できていない。別言語なのだ。
「何言っている?」
「わからん! 俺が何とかするから、お前は身を守れ!」
「“再生”はいい。今は破壊の権能を取り押さえろ!」
「我が主のために!」
 魔族は飛び跳ねた。
 蓮也は傘を使って、それを突き飛ばす。
「!? 傘のくせに生意気な!」
 もう一匹がわめく。突き飛ばされたやつは態勢を立て直し、なにかしらわめいている。
 蓮也はしかめ面をし、傘を握り直す。
「お前らに傘と言われたくない!」
「……。」
 魔族は止まる。ああ、言われているのね、と言った顔だった。
 この余裕は一体なんだ? 蓮也はいぶかしむ。しかし数を見てもそれほど驚異ではない。
「……この後予定がある。主の名前を言えば帰っても良いぞ。」
 魔族は、せせら笑い、
「いい気になるな、傘。」
 言い返した。
 そこで、他の連中も次々と言い始める。
「我々はお前の運命繰りには興味ない。我らの秩序を崩す要因なんて、いらぬ。傘、お前のほうがいね。」
 冷静にその言葉を聞き流す。
「そうか、命が欲しくない訳か。」
「我らにはそんなものは元からないね!」
 魔族が飛びかかってくる。
 因果を操ろうにも、『視え』なかった!
――何?
 遠くで1人だけ、動かない他の魔族とは違う何かが居た。
――“運命繰り”が俺以外に?
「蓮也さん!」
 紀嗣は、叫びながら、拳に炎をまとい、後ろから襲いかかる魔族を殴り倒す。しかしそれほど痛くなかったようで、そいつは間合いから離れた。
「何かおかしいですよ。」
「ああ、これは困ったな。」
 冷や汗をかく蓮也は傘を強く握った。
 紀嗣も、使い慣れている空手の構えをとった。

 クミノが地点に向かう。
 しかし、障気と障壁で先に進めなくなった。
「何? 結界か……。」
 危険と判断される物理干渉にたいして、無意味に障壁が邪魔になるのだ。
「どうすればいい。」
 彼女が持つ能力では、こうした神秘的状況を作り出せないので、そうした壁に当たる。
『お嬢さん。その、特殊な力に頼るのですか?』
 と、声がする。
 あたりを見渡しても、誰もいない。頭の中から直接聞こえるのだ。
「何者だ!」
『この世の存在ではない。それだけは言いましょう。まあ、望むなら私はあなたの望みを叶えないわけではない。』
「断る。」
『そして、人と接することを拒むしかない力をもって永遠生きるのですかね?』
「黙れ。」
 光学迷彩で隠れているのによく分かる。一体何者なのだろう?
 色々、闇の仕事はしていた。しかし、なぜか神秘関連ではあまりにも良い仕事は出来ず、今に至る。
 自分の存在意義。それは……。
『本来あなたが望むことを考えなさい。それをかなえますよ?』
 そう言って声は消えた。
 気が付けば、彼女は嫌な汗をかいて、息を荒くしていた。障気の発生も弱まっている。
「おい、ササキビ! お前も来たのか!」
 そこで草間と合流した。手にはあの紅を持って。

 丁度反対側に、紅麗が居る。
「向こうで何か話し込んでいたが。」
 息を切らして、後に付いてくるのは、アレーヌだった。
「あんた、この辺では危険だぞ?」
「それでも、影斬さんから聞かされたことを放っておけるわけ無いですわ! 紀嗣さんが大変なんですモノ!」
「? まあ、そうだけどな。……ああ、そういうことね。」
 何を知ったのか、紅麗は笑って言った。
「?! べ、別に、そ、そういうみじゃありませんわ!」
 その反応に気づいたアレーヌは、耳まで真っ赤にして紅麗にくってかかる。
「ああ、いいや、いまは。友達の危機を助けるのは普通だろ?」
「う。そうですわ! でも笑わないでください!」
 いまある問題は、このけったいな空間だ。解呪出来るならいいのだが。手をその壁に入れると、少し離れた場所に自分の手がでてくる。もしくは、点によりけりでこのまま通り過ぎる物かもしれない。
 先は全くのなにもない風景で『見えない』遮断結界。魂は斬れてもこうした結界は斬れるというと、紅麗自身、自信がない。そうした要素を込めて、斬るというのは高等技術なのだ。武器に常に特殊な秘術を付与されていれば多少異なってくる。
「アレーヌさがってろ。」
 刀を鞘に戻し、構える。
 アレーヌも剣使いだ。何かを感じ離れる。
「見よう見まねだが……。感覚的には……こうだろ。」
 自分の霊威を高める。
 そして、影斬と手合わせした事、共に戦った事で知った知識を収束する。
「よし。アレーヌ、草間さんや全員に、この結界を破るから、避難しろと言ってくれ。送り先は興信所でいいかもな。」
「わ、わかりましたわ。」
 かなり離れてから、アレーヌはメールを打つ。
 ものの1分でOKのサインが出た。
「はあ!」
 彼はそのまま鞘から刃を滑らし、見た目では『何もない』ところを『斬った』。
 ガラスが割られたような音が周りに響く。アレーヌは思わず耳をふさぐ。
 そこで、20の魔族に囲まれている蓮也と紀嗣を見た。もちろん、反対側にいる、草間とクミノも。


〈興信所2〉
 GPSモニターから、様々なものが写る。地図に浮かぶ点達が激しく動く。
「……始まったか。」
 刀夜が眺めていた。
 美香は居ても立っても居られないようで、そのまま向かおうとするのを、シュラインに止められた。
「まって、今言っても危険だわ。」
「でも。」
「安心しろ。鳳凰院。今向かっている連中のほとんどが、こういう争いに慣れたプロだ。そう死なない。」
 刀夜が言う。
「……。」
 美香は座り直す。
 無機質の画面の点がひっきりなしに動く。そこから状況を知るには、千里眼でもないと無理だろう。とはいっても個人的にそれが見えても意味はない。
「紀嗣は、紅麗達が何とかする。」
 影斬は落ち着いていった。
「そうよ。まずは深呼吸して。先もしたでしょ?」
 シュラインが美香を落ち着かせる。
 美香は彼女に従うように、深呼吸をする。彼女は今まで怯えていた感情ではなく、いつもの厳しい顔になっていく。
「シュラインさん、師匠。皆を信じます。」
「それでいいのよ。」
 シュラインは微笑む。
「で、問題は、魔族のことだけど。まだ端的な事しか聞いてないわ。影斬さん。」
 シュラインの問いに、影斬は手をあごに当てて考える。
「デヴィル種は……秩序を都合の良い方に持っていき、それ自体が悪の『超越的存在』です。契約などを歪め、人を堕落させます。愚かという話もありますが、最後に人間達は破滅してしまうことが多いです。」
「いつも現れるとか?」
「今回は、どの魔族が接触してきたのか、その動機などは詳しくは分からないです。ただ、2人の力を欲し、得た場合、『地獄』における階位戦争に勝てると思っているのでしょう。」
「ふむ、なるほど。彼女たちの力を権力争いに使う訳ね。」
「でも、どうして、その世界だけでやらないのでしょうか?」
 撫子が訊く。
「それは、私も分からない。」
 影斬は首を振った。
「九階層全部の支配をもくろむ、嘘の王や、硫黄の公爵なら、そう言うことを考えつく可能性はあるが。そう言う推理を裏切ることがある。」
「そうよね、話を聞く限りでは、悪魔は嘘と策略をつかうから。」
 影斬が魔族のその名を渾名でしか呼ばないのは深い意味があるのだろう。
「ただ、そうそう、今回のように目立って行動はしない。相手も挨拶代わりといいながら、すでに紀嗣を確保しようとしている。これを乗り越せば、しばらくは反応が薄くなるかもしれない。ただ、夜に1人で出歩くことなどは当然やってはダメですね。確信はないですけど。あと、魔力的に不吉な日などは知る必要は有ります。」
「やはりいつ現れるかは、今は分からない?」
「デーモンのように、気分気ままに暴れるより、かなり計画的かもしれません。魔除けなどは結構、効果はあります。先ほど言いましたが、あと、大体の悪魔は銀製でかつ、聖なる武器でないと、致命傷は与えられません。」
 影斬は、そう言いながら、自分の愛刀を見る。
「ということは、私自身の剣もそれ用に作る必要があるわけですか?」
 神斬をもつ撫子が尋ねた。
 影斬は頷いた。
「アークフィーンドでなら、私の使用しているものと撫子の神斬は効果絶大だろう。しかし、彼らがそう簡単に降りてくることはないし。今回は私の時より達が悪い。組織だっての行動だ。」
 そう、影斬が織田義明の時の相手はというと、死者か妖刀であって、神の位までのぼっていなく、そして単独で彼を狙っていたのだ。この違いは非常に難易度を高くしている。
「色々探さないといけないわ。」
 シュラインは考える。しかし、はっと気づき小声で皆に伝える。
「……何か来ているわ。表に1裏に5……」
 彼女が耳で察知した。
 撫子が、鋼糸を握り、刀夜が符をとる。
「シュラインさん、影斬、美香、零はここに!」
 刀夜が裏に。そして撫子は正面に駆けた。
 表のガラスを割ってきたのは、白く幽霊じみた大型の猫だった。そして裏から来たのは……美香に接触してきた同じタイプのインプだ。
 撫子が妖斬鋼糸ですぐに白い猫を絡め、神斬で突く。確かに手応えは鈍い。
「きゃあ!」
 猫はそれでも攻撃をゆるめないで、引っ掻いてきた。撫子の和服が裂かれる。そこで、零が怨霊で盾を作り、猫を止める。撫子はすぐに神斬に持ち直し、思いっきり猫を突き刺した。猫は悲鳴を上げ、霞のように消滅する。
 刀夜はあらかじめ準備している護符を投げ、結界をはった。勢いよくやってきたインプはその壁に当たり、嫌な声でわめき散らす。その言葉は影斬にしか理解できない。
「どうする?」
 刀夜は影斬に聞く。
「下端が何を知っているかはおそらく教えていないだろう。」
 そのニュアンスから、とても口では言いたくない言葉であると、刀夜は分かった。そして唱える。
 インプは、そのまま白い光の中に消えていく。
「“次元追放”」
 怨霊などを元の世界に戻す術である。
 汚らわしい者の血でこれ以上、汚したくないのだ。流石に、この奇妙な大猫の返り血は何ともしようがないが。
「聖別しないと。」
 撫子が胸から破けた着物のままで、動き悪そうに動く。しかし、美香が止めた。
「私がやります。天薙さんは、これを羽織ってください。」
 コートを持ってくる美香。
「え、あ、ありがとうございます。」
 自分でも気が付いているのだが、改めて言われると恥ずかしい。
「撫子。見せてみろ。」
「義明さん!? ちょ、え?」
 影斬は、真剣に傷の度合いを看る。そして、安堵のため息を吐いた。
 彼も内心焦っているのだろう。愛する人が傷ついたための行動もあるはず。
「大丈夫だ。傷は浅いな。すまない。」
「あの……。はい。」
「お願いします。シュラインさん。」
 しかし最終的には怪我の手当をするのは、シュラインだ。
「師匠。私が治療します。」
「美香。」
「私たちを守ってくださっている。でも、私も何かを。」
「……。」
「大丈夫です。力は使いません。」
 それこそ意志強く言う。
 その言葉に影斬とシュラインは頷いた。
「では手伝って。」
 3人女性はシュラインの部屋に入っていった。
「男性陣で掃除と、聖別だな。」
「ですね。」
 刀夜と影斬は、どっちの形式でやるか話して、刀夜側の陰陽術で浄化することになった。影斬はそのサポートに力神秘力を授与させただけに終わった。


〈苦戦から〉
 運命繰りを相殺され、傘を「名剣」として戦う蓮也と紀嗣は、苦戦を強いられていた。武器があまり効いていないのだ。徐々に体力を削られる。能力を一部封印中の蓮也、そして運命を繰る力も防がれた状態では難しい。相手は火に対して抵抗もあるようだ。
「まいったね。」
「まだ動けるか?」
「なんとかできるよ。鍛錬は欠かしてないから!」
 と、背中を併せて襲ってくる魔族を徐々に倒している。しかし、限界かと思い始めていた。
 そこでいきなり結界が破られたことで、光明が差す。
「銀と聖別武器だ!」
 クミノが叫ぶ。
 彼女は聖別してもらった弾を入れた銃で銃撃。それで数匹の魔族が悲鳴を上げた。
「そう言うことか!」
 すぐさまメモを「銀製」と張り替える。ミスリルは実は銀扱いではない(特殊金属ではあるが違う)。更に結界が破壊されたことで、起こりうる混乱を防ぐべく、概念で「結界」を張った。つまり、こちらの都合のよい方の閉鎖空間だ。
 アレーヌが銀のナイフを乱れ投げる。聖別している分はすぐになくなったが、そこそこ効いているようだ。さらにレイピアで、他の敵を突き、戦い続ける。草間の銃「紅」が唸った。これだけは影斬の言う条件とは関係なく、さらに規格外だったようで、問答無用で魔族を屠っていった。

 紅麗は、目を閉じ、襲いかかってくる別の敵の存在を知る。感知は苦手なのだが、何かをつかみかけているようだ。
 また、納刀。
 蓮也の結界のおかげで、気配が読みとれる。
 後ろからいきなり現れるのは、大きなポールウエポンを振りかぶる悪魔。
 が、紅麗はすぐに反転し、その間合いを詰め……、斬る。
「な!」
 その一撃が、悪魔には分からなかった。一歩下がる。
「背後から来るとは。」
 それ以外彼は口にしない。
 そこでまた、踏み込み、斬りつけ、その悪魔を倒した。
 魂を捕縛できない存在らしく、紅麗は舌打ちする。
「元から別世界だからか。こっちに関係のないのな。」
 と、霊圧を通常レベルまでに落とした。
 倒した魔族の死体は何もなくなっていた。死ぬと、そうなるのだろうか?
「逃げたのか死んだのか分からないな。」
 クミノが周りを調べる。
「大丈夫ですか? 鳳凰院君。」
 アレーヌが紀嗣に向かっていった。
「あ、ああ、怪我はないけど。うん。」
「よかった。」
 安堵するアレーヌだった。
「ありがとう。ん??」
 紀嗣は、どうも状況がよく分かってない。というか、いきなりこう声かけられて、心配されているのが理解できていないようで……。蓮也と紅麗に「どういうこと?」みたいに目で訴えていた。
 蓮也と紅麗はそれに苦笑するしかない。
「彼女は紀嗣に気があるのに、1ペソ。」
 と、小声で紅麗。
「なぜペソだよ?」
 突っ込む蓮也。
「1口、煙草代ぐらいでだせよ。」
 草間。
「それ草間さんの希望だろ。」
 2人の突っ込み。
「ふざけてないですぐに興信所に連絡ぐらい入れろ、馬鹿。」
 クミノが文句を言った。


〈今後のことで〉
「で、今回の件だが。」
 クミノは、応接室で座って、紀嗣を睨んでいる様に見える。紀嗣はそれに驚き、とまどう事は当然だ。こういった「場数」は彼女のほうが上。その経験からくる威厳でそうなっているのだ。ちなみに制御できない彼女の障壁を、影斬が「封の技・鎮」でしばらく止めているので、周りに居る人たちは疲労感も感じず、死の危険も心配せず、安心して近くで座ることが出来た。
 影斬曰く、
「真剣に話す場合は、障壁や障気も邪魔だろ? 1〜2時間で切れる。」
 とのこと。
「危機管理がなってない。紀嗣。」
「……と言われても。」
「言われてもなにもない! ……おおっと、怒っているわけではなく、もう少し自覚が必要だ、と長年の経験から言わせて貰う。」
 どん、とテーブルを叩くが、我に返って、普通に話し始める。
 影斬は黙ったままだ。
「色々難題はあるが、まずは自分を見つめることだな。世界にも関わるのだ。しかも、影斬が言うには、別世界の介入だ。大事だ。」
「……。」
「いや、いきなり出てきて私が言うのも失礼であったが、少しずつ考えてくれ。」
「うん。」
 歳の差とか関係なしにこれは場数による話だ。
 今回のことで紀嗣は、まだ混乱していた。姉、そして自分にも何か狙われている。昔にあったあの事も思い出しそうで、怖かった。さらに、あの魔物の言葉。理解できないが恐怖した。
「紀嗣。」
 その言葉で、我に返る。
「姉ちゃん。無事で良かった。」
「紀嗣も。良かった。」
 2人は無事を喜び合う。
 クミノは立ち上がって、機材を片づけ、その場を離れた。言うことは言ったのだし、今回の仕事は終わったのだ。しかし、自分も気を付けなければならない。自分も……隙間を見せてはならないのだ。これは、障壁も役に立たないだろう。
「今後色々考えないと。いけないわね。」
 シュラインが珈琲を飲みながら、草間に言う。
 草間は、頷く。
「ああ、また厄介な事だけどな……。どうなるか……。」
 そう、まだ敵が見えていない。魔族でも悪魔であることぐらい。
 先が見通せない状態で、まるで闇の中の迷路に落とされた気分だった。
「全く、殿方は女性を困らせるばかりです。」
 シュラインの服を借りている撫子はため息を吐いた。


〈数日後〉
 天空剣道場には、正座して瞑想している少年が1人。
 紀嗣だった。
 紅麗が入り口でそれを覗いている。
「入門じゃないよな?」
「うん。そう言う話は聞いてない。弟はあたしにいち早く話す。」
 美香もいた。
「で、俺たちなぜ、こうこそこそしてるんだ?」
 蓮也。
「さあ? 彼がそう言う雰囲気を彼が出しているからじゃないか?」
 影斬が後ろから声をかけた。
「うわ!」
 驚く3人。
「普通に玄関から上がれ、馬鹿。」
「いや、ついつい、道場経由に。」
「まあ、いいが。」
「で、紀嗣は何をしているのです? 師匠。」
 気になるのはそれだ。
「瞑想する場所が欲しかったらしい。だから貸した。」
「そうなのか? 入門ではないのか。」
 蓮也が首をかしげる。
「まあな。他にもあるようだ。」
 影斬は苦笑している。
「まあ、少年は色々悩みが多いのですよ。」
「そう言う事ね。」
 撫子とシュラインも彼の後ろにいた。
「どういう事ですか?」
「ほら。」
 みると、金髪の少女がきょろきょろ道でこっちを見ている。
「アレーヌ?」
 蓮也と紅麗が首をかしげる。
「1ペソか。」
「340円じゃなかったか?」
 そう言う冗談を言いながらも、
「おーい入ってこいよ。」
 と、紅麗と蓮也が言うと、アレーヌは驚き、あたふたして、見事に何もない所でこけた。
「青春だな。」
「ああ、青春だ。」
「小麦色が知ると絶対からかわれるに、1リラ。」
「リラか、それは上がったな。」
「あのねぇ。」
 危機の後の、日常。
 紀嗣は、その声に気が付いて、
「え? だれが……アレーヌって人きたの? うわやば! 義明さん済みません! 俺、帰ります!」
 その言葉で、彼は、猛ダッシュで逃げていった。
「どうして逃げる! 紀嗣、どうしたんだ!」
 蓮也と紅麗が、全員が追いかけていった。
「大変ですね」
「うーん、どうもお姉さん以外の女性は苦手?」
「いや其処までは私も知らない。美香わかるか?」
「いいや、あたしに言われてもこまります。」
「止めに行かないのですか? あのままだと、2人の格好のおもちゃになりますよ?」
「いや、あれはアレで良いだろう。」
 これが大事だとありがたみを感じるのである。


 一方、興信所。
「まだ、美香達の心は閉ざされているように見える。」
 刀夜は草間と話をしていた。
「とはいっても年頃の少年少女の気持ちって俺らにはわからん。」
「いや、そう諦めてはならん。」
「静修院、お前……ロリコンか?」
 草間が煙草を落とした。
「年齢差は関係ないだろうが。それに俺は女性に優しくすると言うポリシーがある。」
 刀夜はむすっとした。

 零は、台所で猫に餌をあげていた。

 しかし、今は落ち着いている。
 いつ、またあの『悪』がくるか分からない。
 そのために、何か動かなくてはならないことは事実だった。

END


■登場人物紹介■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1166 ササキビ・クミノ 13 女 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者「文字」】
【6465 静修院・刀夜 25 元退魔師。現在何でも屋】
【6813 アレーヌ・ルシフェル 17 女 サーカスの団員】


 NPC
【草間・武彦  30 男 探偵】
【草間・零 ? 女 探偵見習い】
【影斬(織田・義明)? 男 剣士/学生/装填抑止】
【鳳凰院・紀嗣 16 男 神聖都学園高等部】
【鳳凰院・美香 16 女 神聖都学園高等部】


■ライター通信
 どうも、こんにちは。
 滝照直樹です。
 まだ謎に満ちた存在。悪と分かっても、まだ敵が特定できません。
 狙われる双子を如何にして守るかが、今後起こりうる出来事です。
 また今回の最後は平穏な一面を書かせて頂きました。
 美香も紀嗣も、いろいろな方面で当惑しています。頑張って友情を深めてくださいね。


 では、また別のお話でお会いしましょう。

滝照直樹
20080118