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<東京怪談・PCゲームノベル>


季節外れの鍋ものバトル
 我がスピリッターズの面子は相変わらずバラバラだ。

 エル・レイニーズは事務仕事をしながら、
時にはコーヒーを飲んでゆっくりしていた。

 メンバー1、故河・あずさ(こがわ・あずさ)は一人で
雑誌やマンガを読みふけっている。

 メンバー2、波多野・由宇(はたの・ゆう)はバラエティー番組を
ぼーっと見ていた。

 いかんせんこの集団はまとまりがない。
せめてあずさと由宇は年が近いんだから、話でもすればいいのだが。

「あたしも何度かコンタクトを取ってみたけど、
『ふーん』で終わっちゃうんだもん。
ひきこもりの会にでも行った方がいいんじゃない?」

だめだこりゃ。

 そこで考えたエルの提案。

「みんな、よせ鍋パーティしましょうよ」

怪訝そうな顔をして、2人は一斉にこちらを見た。

「3人、いや、お友達も連れてきて。とにかく大人数でやりましょうよ。
各々これは入れておきたい食べ物を一つだけ持ちこんでいいわ。
今週末の土曜日の夜にしましょう。わかったわね」

は〜い、と声をハモらせてから、またお互いの行動に戻っていった。

 エルはなんとか土曜日に休日をいただくことになった。
刑事という仕事柄、時には犯人確保の一員に駆り出されることもあるのだ。

 どこにでもあるスーパーマーケットに入ってカゴを取り、
鍋モノに欠かせないものを思い浮かべた。
ネギ……は近くのスーパーの方が安かったわ。白菜も同じく。豆腐はここのが安いわね。
お肉はつくねと豚肉。最近のガキンチョは骨のある魚を進んで食べないし、
混ぜるとおいしくなくなるからね……。つくねはここで買うとして、
豚肉はあっちのスーパーの方が品物がいい。あとはよせ鍋の素ね。

エルはそうやって材料を慎重に選び、カゴの中へぽいぽいと入れていった。
そして1品だけ、好きなものなら何でも入れられる。
ここはあれを入れましょう。そう思い、エルはある物をカゴに入れて、レジへと進んだ。

 外に出ると真っ赤な夕日が浮かんでいた。由宇は大体お留守番をしてくれているし、
あずさも学校が終わった頃だろう。事務所のプレハブ小屋に手向かい、中に入って行った。

「エル、おかえり」

ぶっきらぼうながらも、挨拶してくれたのは由宇であった。
協調性がなく、学校も「ここで学んで大物にはなれない」と言ってやってきた。
そのわりには挨拶だけはしてしまうらしい。

「波多野くん。鍋に入れるもの用意した?」
「あぁ。エル、疲れてんだろ。ゆっくりしとけよ。調理してやるから」
「ありがとう」

 由宇はふいに優しさを見せる時がある。
 まずはネギやつくねのように火が通りにくいもの。白菜も根に近いものは
入れていった。

「たっだいまー!」

 あずさの声である。皆が一斉にあずさ……いや女の子の方を見た。
あずさに腕をつかまれて、プレハブ小屋に連れ込まれた少女の姿は……
明るめの美しい銀髪、大きな青い瞳、そして……ロリータファッション。
エルは顔を硬直したまま、あずさに質問した。

「その子は誰?」

そして由宇も、

「もしかして『お持ちかえり〜』ってやつか!?」

 すると礼儀正しく女の子の方から、
「白樺・雪穂(しらかば・ゆきほ)だよ。12歳で小学生なんだ。
よせ鍋って……初めてかもしんない。よろしくね」

エルは表情を曇らせ
「私はあずさに聞いてるのよ。その子とはどういうご関係?」
「えっと、友達の友達の友達かな?」
「そういうのを『他人』って言うのよあずさ。15歳なんだからそれくらい理解しなさい」
「はーい」
こんなメンバーで大丈夫だろうか?エルは不安を募らせる。

 ということで、よせ鍋大会が始まった。4人が四角いテーブルを囲み、その上に
簡易コンロ、そしてその上に大きな鍋を置き、よせ鍋の素と若干の水を足して
ぐつぐつと煮込んでる。いつでも食べられる状態だ。

「じゃあここで注目の一品を入れていきましょう。まずは波多野くんから」

 由宇が入れたのはごくごく普通の油揚げだった。

「これ、鍋に入れるとおいしいんだよな」

そこであずさが、
「つまんなーい。由宇くん、そこは冒険しなきゃ」
「由宇って呼ぶな!」

由宇は自分の下の名前で呼ばれたり、知られたりするのが嫌いなのだ。

「じゃあ次! あずさ」
 エルは指を差し、あずさは持ってきたものを探し出す。果たして彼女が持ってきたものは……。

「マグロの切り身!?」
エルは叫んだ。

「そうそう。これくらい冒険しなきゃ面白くないでしょ?
フグだってしゃぶしゃぶするじゃん。それと一緒だよ」

そのあと雪穂は、
「あずささん。僕の魚好きのこと知ってたんだ」
「え? そうだったっけ?」

そうやって、あずさたちはマグロのしゃぶしゃぶを食べ始めた。

「うん。なかなかいける。みんな食べてみて」

ほんとかよと疑いながらも3人はマグロをつまみ、しゃぶしゃぶをした。

「おいしい」
「でしょー由宇くん」
「センスあるよね。あずささん」
「ありがとー雪穂ちゃん」

そこで気がつくと、雪穂ちゃんがマグロを猛スピードでしゃぶしゃぶしていき、
マグロは見事完売してしまった。

「さぁここでお楽しみの雪穂ちゃんの一品をお披露目しましょう!」

 あずさの一声で、3人の目が雪穂に集中した。

「あぁ、あの、これ、入れても大丈夫かな?」

3人に見せたのは揚げ餅であった。

「やったー!あたし、お餅好きなんだよねー」

あずさは叫ぶ。

すると由宇も、
「入れたら上手いかもしれない」と言い出した。

「でしょー。さすがあたしの見込んだ子だわ」

 そんな感じで自分たちの持ってきたものを食べながら会話が弾みだした。
やがてあずさや由宇は雪穂の携帯電話のデータを赤外線で交換していた。

 完全に取り残された姉、エル・レイニーズ。

「えーーこほん。ここで唯一の大人として私も具材を用意しましたの。これよ!」

 それが取り出されると、由宇、あずさは眉間にしわを寄せて固まる。
雪穂だけは、「これおいしいんですか?」と聞いている。

 そう。エルが差し出したのはパスタであった。

「これはスウェーデンでは当たり前のように食されてるものよ」

 そうだ……こいつが一番鍋モノというのを知らないんだ……。

 ぐつぐつと煮込まれたパスタはやわらくなれば、エルがせっせと
全員の小鉢に入れていく。

「さぁ。どうぞ食べなさい」

「わーい、和風パスタ」

 まず迷いもなく口にしたのは雪穂であった。雪穂が口にした途端。

「ごめんなさい。トイレお借りしてよろしいですか?」
「ええ。ウチのトイレ、あまりきれいじゃないけど良ければ」

 そして固まってるのはあずさと由宇であった。
……あれを食べないといけないのか?トイレ行きって想像を絶するよ。
由宇の手ががちがちと震え、唾を飲みこんだ。

「波多野くん迷ってるんでしょ。食べちゃえばおいしいかもよ」

その言葉に肩を押され、よせ鍋パスタをいただく。

このつるつるした食感に日本鍋の味がミスマッチ……。

由宇は外へと出て行ってしまった。

「さぁ、あずさちゃんも」

 あずさも一口食べて、雪穂と入れ替わりでトイレに行った。

「おかしいわね。今日はトイレに行く子が多くて。私も食べようっと」

そうしてエルの口に入れた途端。
理由がわかったらしく、エチケット袋にもどしていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7192 / 白樺・雪穂 / 女性 / 12歳 / 学生・専門魔術師】

【NPC / エル・レイニーズ / 女性 / 32歳 / 女刑事】
【NPC / 故河・あずさ  / 女性 / 15歳 / 女子高生】
【整理番号 / 波多野・由宇 / 男性 / 14歳 / 男子中学生(不登校)】


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■         ライター通信          ■
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初めまして。今回はコメディということで、楽しく書かせていただきました。
とはいえ、4千字近くの文字数を書けなかったこと、食べ物のおいしい、まずいを
半ば予想で書いてしまわざる負えなかったことが悔しいです。
揚げ餅は餅そのものは鍋に入れて当たり前なんで、
それほどまずいものではないと判断させていただきました。
油揚げは実際に鍋に入れるとおいしいし、マグロの切り身のしゃぶしゃぶは
現実に料理として存在します。エルのパスタは……問題外でしょうということで。