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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ 氷付けの宝石 +


 それはちょっとした宝石のような日々。


「ティレ、今日はこの宝石を使って大気中の魔力を収集してこい」


 ティレイラはシリューナから渡された宝石を眺め見る。
 それは大きさは手の平大程度のもので、室内の明かりを吸って蒼く光っていた。希少価値のあるものなのだろうということは一目で分かった。ティレイラは無くさぬようしっかりとそれを握りこむ。シリューナはそんなティレイラを見て柔らかく微笑んだ。


 彼女達は別世界から異空間転移してきた紫色の翼を持つ竜族だ。
 シリューナは同族であるティレイラに魔法を教えており、いわば師弟関係にあたる。だが修行以外の面を言えば彼女達は姉妹のように仲が良い。もしかしたら、それ以上に。
 今日もシリューナから魔法に関する知識を色々聞いていたところ……先程の言葉だ。


「魔力の収集、ですか?」
「そう。いますぐ集められるようにこの扉に転移魔法を掛けておいたから行って来い」
「はい!」


 シリューナは自身の後ろにある扉をそっと示す。
 つられるようにティレイラも視線を移した。


「まあくれぐれも気をつけて」
「待っててください! 魔力をすぐに集め――――」


 意気揚々とティレイラは扉に手を掛け、思いっきり開く。
 その瞬間。


 ―――― ひゅごぉぉぉぉぉ!! 


 笑顔を凍りつかせてしまうほどの吹雪が目の前で展開されている。
 ティレイラはぎぎぎ、と首だけを振り向かせ、なにやらぱくぱくと口をせわしなく動かした。だがそんなティレイラの心中を知ってか知らずか、シリューナはただ優しく微笑むだけ。
 その笑顔に何か威圧的なものを感じたティレイラは、口を噤むことにした。



■■■■



「寒い寒い寒いーっ!」


 ティレイラは鳥肌の立つ肌を擦りながら叫ぶ。
 だがその声は厚く積もった雪にすぐさま吸収されてしまう。身体を温めようと火を出してはみたものの、それも吹雪の前ではかき消されるだけ。持続させるにしても魔力の消費が激しいので、諦めることにした。
 宝石を掴んだ手が悴む。
 長く伸びた黒髪の中で一部だけ紫色をした髪の毛が胸へと垂れてくる。がちがちと忙しなく音を立てる歯もそろそろ凍り付いてしまいそうだ。


 さっさと魔力を集めて温かい部屋に戻ろう。
 ティレイラがそう決意し、固まりそうな指をゆっくりと押し開く。その手の中には宝石が寒さによって曇って――。


「? 魔力が溜まってる?」


 予想とは違い、ほわっと淡く光を放ち始めている宝石を見てティレイラは目を見開く。
 ゆっくりと顔の前まで持ち上げ、それから左右に揺らしてみれば、少しずつ輝きが増していくではないか。


「なるほど! 移動すれば自動的に魔力が集まる仕組みになっているのね!」


 そうと決まればさっさと周囲を移動して魔力を集めてしまおう。
 心の中でガッツポーズを決めながら彼女はその背に竜の翼を広げた。紫色のそれを大きく広がせばすぐに飛び立つことが出来る。強風のおかげで空に舞い上がるには時間を要したが、雲を突き抜けてしまえば風も収まってきた。
 雲に映る自身の影を見下げ、もう一度宝石を確認する。
 飛び上がった距離分だけそれは輝きを増し、魔力の蓄積度を教えてくれた。


 風を味方に付け、悠々と飛ぶ姿はまさに竜。
 人の姿をしていても本性であるその部分は変わらない。スカートの裾から覗く尻尾も嬉しそうに揺れている。


「ふんふん〜♪ このペースだとさっさと終わりそうね」


 ティレイラは寒さから解放されたためか、機嫌よさそうに鼻歌を歌いながら辺りを飛行する。
 一気に集めてしまおうとスピードを速め、全力で飛び回る。そろそろ集まっただろうかと輝きを確認したその時――――。


「ッ!? 冷気っ――――!?」


 ひゅごぉぉぉぉーーッ!!


 雪山に訪れた時以上の吹雪が飛行中のティレイラを襲う。
 雲の上で雪の欠片などないはずの場所に突然現れたその冷気は彼女の手の中の宝石から放たれていることに気が付き、慌てて手を離す。
 だが時はすでに遅し。
 暴発した冷気の魔力がティレイラの頭部から足先まで一気に冷やす。


(う、ウソでしょうー!?)


 最後にその意識すら凍りつく音を、彼女は聞いた。



■■■■



 ぽーんぽーんぽーん。


「……やけに遅いな」


 シリューナは温めたポットを手に呟く。
 時計を見やれば針は午後三時を示していた。シリューナがティレイラを魔力集めに出してからすでに数時間が経過している。ティレイラに渡した宝石は移動さえすれば自動的に魔力を集めてくれるという優れもの。慣れないものが扱ったとしてもそう大して時間は掛からないはずなのだ。


 テーブルの上にはお菓子も用意したし、紅茶用のお湯も用意出来た。
 寒さに震えて帰ってくるだろうティレイラのためにお風呂だって沸かしておいたのだ。もしかして何かアクシンデントでもあったのだろうかと彼女は首を傾げる。


「仕方ない。迎えに行くか」


 ポットをテーブルの上に置き、数時間前ティレイラが通り抜けた扉を開く。
 その向こうは相変わらずの雪景色。だが、風は止み、雪もぱらぱらと優しく落ちてくるものに変わっていた。空を見上げれが雲の切れ端から太陽が覗いている。雲の隙間から光が差し、地上を照らす景色は圧巻だ。


「おや、まあ」


 シリューナは不意に声を漏らす。
 光が指し示した先にいたのは――――宝石と氷の塊。


 白い雪の地上にその宝石は転がっている。
 きらきらと輝いたそれは魔力の飽和を知らしていた。
 そしてその隣には恐怖と驚きを混ぜた表情で地面に突き刺さるかのように落ちている氷付けの少女。冷凍保存されたマンモスのようなその姿を見た瞬間、シリューナは何が起こったのか見抜く。
 太陽の光を浴びて宝石の輝きにも負けないほど光るその姿に思わずぷっと噴出してしまった。


「く、ふ、ふふふ。相変わらずだな」


 シリューナは氷付けのティレイラにそっと触れる。
 凍りついた顔をしたティレイラにどこか胸がほっとした。


 早く連れ帰って風呂に入れてあげよう。
 そして一緒に楽しいティータイムを過ごそう。
 そんなのどかな時間を想像しながら、シリューナは未だ固まったままのティレイラを連れて帰ることにした。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3785 / シリューナ・リュクテイア / 女 / 212歳 / 魔法薬屋】
【3733 / ファルス・ティレイラ / 女 / 15歳 / フリーター(なんでも屋)】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして。
 可愛らしいプレイング有難う御座います! 姉妹のように仲良し、でも時には厳しくという設定にちょっと心ときめきました(笑)今回は仲良し(というよりほんわか?)部分が強い話となりましたが気に入って頂ければ幸いです。