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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


Only I……
 怪奇現象サイト管理人、瀬名 雫(せな しずく)が募る悪霊退治依頼が闇の美術商、石神 アリス(いしがみ アリス)の目に偶然留まる。アリスは上品に笑うと、退治依頼の承諾メールを雫へ送信した。

 ○

「ありがとう、石神さん」
 昼下がりの喫茶店で、雫は身を乗り出してアリスに握手を求めた。
 アリスは上品に微笑むと、やんわりと拒む雰囲気を醸し出した。
「雫さん」
 神聖都学園生徒、影沼 ヒミコ(かげぬま ひみこ)が、隣から雫の背中を二度軽く叩くと雫は口を尖らせた。
「私は感謝の気持ちを表現したかっただけ」
 アリスは微笑を絶やさず頷くと。
「充分伝わっております。それ程までに喜んで頂けるなんて、本当光栄ですわ」
「え、そう? へへぇ、やっぱり」
 雫の表情が華やぐ。
「はい。ですから、目的が達成した暁には応じさせて頂きます」
 ヒミコはアリスの気品ある態度に憧れを抱いたのだろうか、熱に浮かされたようにアリスを見つめている。
「それに―」
「それに?」
 雫のオウム返しに、はっとなるアリス。
「あっ、いえ。それに、こういう儀式……と言いましょうか。そう言ったものは最後にとって置くべきかと」
「あ! な〜るほどね! 分かったよ、アリス」
 急な呼び捨てにも、アリスは微笑みで応じる。
 話題が他に逸れると安堵感からか、アリスは微かに息をついた。それにしても、危なかった。
―握手なんてしたら理性が利かなくなって、場所も考えずに貴方達を美術品(石像)にしちゃうじゃない。
 アリスの目的は一つ。雫とヒミコを我が石像コレクションに加える事だけ。
 天からか、または地獄からか。魔眼を与えられしアリスの生きる糧に雫達も今加えられようとしていた。

 ○

 時刻は深夜零時、神聖都学園の廊下にアリスは闇に溶け込む様に佇んでいた。幼少より美術品に触れて育ってきた感性が身の危険を予感させる。だが、アリスはこの程度の虫の知らせ、気にも留めない。
 それよりも、この髪型は……。
 アリスは、おでこの上に一本に括られた髪を目だけで追った。こんな髪型、無人の校舎でなければ絶対にやらない。それもこれもコレクションの為だ。我慢だと自分に言い聞かせる。
「アリス、聞こえる?」
 イヤホンから雫の落ち着いた声が聞こえる。
「ええ」
「何かあったらすぐ私たちを呼んでね」
「分かりました」
 アリスはマイクを切ると、くすりと笑った。雫の言う何かが今起ころうとしていたから。
 今しがた現れた霧は、息を弾ませてアリスを凝視している。これが話に出ていた連続猟奇殺人犯の怨霊か。
 アリスは怨霊、テッド・バンティを一瞥すると、こんなものかと目に脱力の色を浮かべて肩を落とした。せっかくだから余興として楽しもうと思っていたのだが、見ただけで分かる。
―ただの雑魚。
「肩透かしね。怨霊になっても結局は人。貴方、最低よ」
 アリスの魔眼がうねる様な光をテッド・バンテイに浴びせると。バンティは悦に入り、急に右手を地面に幾度と叩きつけ始めた。
「そうやって、永遠に妄想殺戮を楽しみなさい」
 アリスは束ねたゴムバンドを外すと、右手をごきりと鳴らした。さぁ、これからが本番。大切なコレクションを二体も加えた暁には、盛大にパーティをしなくては。
 窓ガラスから、満月がアリスの表情を照らしだす。
 狂おしさ。それがアリスの表情を歪ませていた。

 ○

「おっかしぃなぁ」
 神聖都学園の警備室で雫が首を傾げる。警備室と言っても名ばかり、畳敷き六畳ワンルームと言ったほうが分かりやすいかもしれない。そこに、除霊グッズや、無線機器をずらりと並べてヒミコと二人で待機していた。
「どうしたのですか?」
「うん、さっきからアリスに呼びかけても応答がないんだ」
 ヒミコも何度かマイクで呼びかけてみるものの、返事が来ない。
「もしかして―」
 二人は顔を見合わせると顔から血の気が引いていく。
「あの―」
『うひゃあああああ』
 雫とヒミコは抱き合って素っ頓狂な声を上げた。
「何だ、アリスかぁ」
 胸に手を当てて、息をつく雫。
「それで、テッド・バンティは?」
「ええ、予定通り。私の催眠術で動きを封じておきました」
「じゃあ?」
 雫の瞳が輝く。
―ああ、その輝きが絶望に彩られる時がもうすぐ
 アリスは全身に走る快楽の震えを何とか押しとどめて頷いた。
「はい、心行くまでスクープを」
 アリスの報告に雫はガッツポーズすると、カメラを片手に警備室を飛び出して行った。
「ありがとうございます。これで町は安全に」
 ヒミコはアリスの手をとって頭を下げた。
「いいのよ。私だってタダで引き受けた訳ではありませんから」
 アリスの言葉を飲み込めずヒミコは目を丸くした。
「ほら、貴方たちとても綺麗じゃない」
 ヒミコは顔を紅くして慌てて背けた。
「そんな……私なんか全然」
―ああ、ぞくぞくする。これが私のモノになるのね。
「いいえ、こっちを向いて」
 ヒミコの顎を優しくつまむと唇が重なりそうな距離まで顔を近づける。
「ア、アリスさん?」
 ヒミコの声がうわずっている。
「綺麗……とても」
 アリスの言葉が途切れると、アリスの瞳が黒く、鈍く、輝いた。
 しかし、魔眼を向けた先はヒミコではなかった。
 アリスは自分に向けられた殺気を感じると、ヒミコを抱えて回避運動をとっていた。
 振り向きざまに殺気の出所に向けて魔眼を開放。
 しかし、アリスに襲い掛かる輩は魔眼の特性を理解しているのだろう。素早く物陰に隠れると、代わりに照射された警備室の扉が石化。手持ちの鉄パイプで扉をつついて、輩は下卑たな笑いを漏らした。
 ヒミコも笑い声で誰が襲ってきたのか、理解できたようだ。
「雫さん!」
 ヒミコの呼びかけも空しく、体を乗っ取られた雫は壁越しに手持ちの鉄パイプで石化した扉をつついて遊んでいる。
「アリスさん―」
 ヒミコが何を言わんとしているかは把握できる。怨霊を封じたんですよね? 何故彼女があんな目にあっているのだと言いたいのだろう。
「霊魂に触れば乗っ取られるのは目に見えています」
 それ以外ありえない。アリスは半ばあきれて言ってのける。こんな計算外の事態初めてだ。それに。
―おそらく雫さんが持っている鉄パイプにも関係があるのでしょうね。
 この鉄パイプはアリスが闇骨董商から仕入れていた一品だった。テッド・バンティが初めて殺人を犯した際に用いた凶器。アリスはそれを学園に持ち込み、より霊魂の共鳴率を高め遭遇の手間を省こうとしていたのだった。
 これも計算外。おそらく、あの鉄パイプを持っている事で生前の知性を一時的に取り戻しているのだろう。それに加えて、母体である雫のオカルト知識を自在に引き出している。
 様々な要因が折り重なったこの状況を吟味してアリスは面倒臭そうに天井を仰いだ。
「ふぅ、しょうがありません。ひとまず彼女共々石化します」
「そんな!」
 ヒミコが悲鳴にも似た声をあげるとアリスは扉へと一足飛び。壁越しに隠れ、鉄パイプを振りかぶっていた雫を捉える。
「貴方がいらない小細工するから―」
―石化する手間が省けるじゃない
 アリスの唇が喜びで吊りあがり、眼が細くなる。みるみるうちに、雫の動きが鈍くなる。じわりじわりと痛ぶる気質がまず雫の動きを奪いとる。ふりかぶったまま、体を震わす事も叶わなくなった雫を中心に一回り。獲物の前で舌舐めずりなんて悪い癖だと分かっているが、この瞬間がたまらない。
「うん、貴方にはコレクションに加わる資格があるわ」
 雫の顔を覗き込んで呟く。雫から白い霧が浮かび上がる。テッド・バンティが母体である雫から抜け出そうとしている。凶暴だろうが、町をおびやかそうが自分には関係ない、逃げたければ逃げればいい。
「では、さよなら」
 アリスが魔眼の力を解放した、その瞬間。
「だめぇ!」
 ヒミコが雫を抱きしめて庇う。テッド・バンティの魂が苦し紛れにヒミコに乗り移ろうと二人を覆う。
 アリスは目の前の光景を前に見た事があった。霊気の膜で二人が覆われて、代わりに霊気が石化する。目当ての二人はその場から離れて石化を免れる……。

 ○

 夜の美術館。二人の少女が抱き合っている石像が新しくコレクションルームに加えられた。ヒミコは雫を想い、雫はヒミコを見つめている。
「相思相愛……か」
 コレクションに初めて抱く情。想い合う心が少しだけ……。
 言葉にすると、一方的に愛でるコレクションを否定する事になる。
 そんな感傷に浸ったのも一瞬、ヒミコと雫の石像を見つめるとふつふつと沸いてくる感覚がアリスの顔を紅に染める。
「次は複数まとめて、というのも悪くないかもしれませんわね」
 やはり石神 アリスの感性はコレクションなくしては表せない。
 私だけの美。それでいい。
「さて、次はどなたここに来るのかしら?」
 アリスの高笑いが美術館に響き渡る。
 アリスに立ち向かえる逸材が現れない限り、彼女の凶行を阻止する事は出来ないだろう。

 ただ、あの握手の感覚も悪くはないなと思うアリスだった。




 【了】





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【七三四八 / 石神 アリス / 女性 / 十五 / 学生】


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■         ライター通信          ■
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 前回に続き、受注ありがとうございます! 如何お過ごしでしょうか、吉崎です。
 やっぱり、アリスはひたすら己の道を走ってほしい! そんな、願望があります。
 また、御意見感想ございましたらよろしくお願いします。
 では、次のアリスも眼を光らせてくれることを願って!