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『知らないくせにっ!!』
夢の中での毎度の夜這いに俺は辟易とした。
―――付き合ってられない。
夢の中でひっついてくるシオンを引き剥がして、
俺は起きた。
眠りをコントロールするぐらいは術者としては基本。
だけど、
だからといって、
「ちぃ」
起きた瞬間に、「やっぱり現実での姫始めを先にする?」、と抱きついてきたシオンを引き剥がして、無視して、布団から炬燵に移って、テレビをつけて、みかんの皮を俺は剥き始める。
俺は、
「何よ、八雲。あからさまに不機嫌な顔をして。エッチしないの?」
ぷつりと堪忍袋の尾が切れた。
俺は剥き終ったみかんをしおんの口の中に詰め込んでやる。そうやって永遠に口の中に物を詰めて、一言も喋るな。
「ひどぉーいぃ〜」
私は何も悪い事はしてないじゃない。
俺はみかんを咀嚼しながら不貞腐れたような声で発せられたその言葉を聞き流す事はできなかった。
びしぃっと右手人差し指でシオンを指差して言ってやる。
「ここずっと最近、夢の中に出てきては姫始めする? とかって夜這いを仕掛けてきやがって。おかげで寝不足だ」
「あら? やってもいないんだから、寝不足になる訳無いじゃない。そりゃあ、やったら、寝かせないけれど。私、絶倫だから」
だからそうやって卑猥なことを口にしてぺろりと唇を舐めるのはやめろ。
「何よ、気持ち良さも知らない頭でっかちの生娘みたいなことを言っちゃって。八雲は生娘でもなければ童貞でも無いでしょう?」
「だから、俺は寝たいんだよ」
「ダメよ。寝・か・せ・な・い・ゾ♪」
「うざぁ」
と思うと同時に冷静に判断した。
あー、そうかよ。
あんたは俺の話を聞かないんだな。
何を言っても無駄なんだな。
だったらこっちにも考えがあるさ。
「あら、何、立ち上がって。あ、シャワー? やだぁー。八雲の味、私、好きだから、シャワー浴びなくても良いのに。大丈夫♪」
あんたは一生そこでほざいてろ。
別に寝ようと思えばそれはどこでだってできる。
たとえばネットカフェとか、駅前のカプセルホテルとか。
いや。久々に快眠を貪るのだ。それは自分を甘やかしても充分に許される部類に入るはず。
なら、どこかのホテルで美味い物でも食って、大きなベッドに敷かれた高級布団に包まるのも良いし、どこかの旅館に泊まって、温泉で温まってから寝るのも良いだろう。
そうだ。京都に行こう。それぐらいの気安さでたまには自分にご褒美。
そう決めたら身体が羽根が生えたように軽くなる。
今ならばどこへだって行ける気分だ。
俺はバイクをどこまで走らせるか考えながら駐輪場に向かう。
身体は凄まじく軽い。
が、そこに立っているシオンを見て、俺はずしんと落ちた。
はーい。と、右手を振るあいつを見て、俺はすごく残念な気持ちで一杯になる。
「何であんたはここに居るんだ?」
「あら。デートはふたりでするからデートなんでしょう?」
「俺があんたとデートをするって何時言った?」
思わず何時何分何秒、地球がどれだけ回った時だと詰め寄りたい気分になった。
いや、やらないけれども。んなガキくさい真似。
俺は前髪をくしゃりと掻きあげながらため息を吐いた。
思いがけずそのため息は、自分でもとても重いものに感じられた。
それはそうだ。さっきまで俺の心は羽毛のように軽かったのだから。
さて、ここで問題だ。鉄の塊1kgと羽毛1kg、重いのはどちらだ?
「それ、騙し問題じゃない。でしょ?」
「あー、そうだよ。答えはイコールだ」
俺は肩を竦める。
強く出て、おざなりに扱えなかったのは、案外と今のシオンがお洒落をしているせいなのかもしれないな。
このクソ寒いのに、今のシオンはその寒さにも負けない女の子のお洒落への矜持を目一杯強調した格好をしていて、
不覚にも俺は、そんな彼女の一面を見て悪く無いと思ってしまったのだ。
つーか、やっぱり男は女が自分と出かけるときにスカートだったら嬉しいもんだろう?
ったく。
俺はもう一回前髪をくしゃりと掻きあげる。
「バイクは無しだ」
「あら、バイクで行かないの?」
「んな短いスカートで乗れるか」
俺がそう言うと、シオンはにこりと微笑む。
「可愛らしい下着穿いているから大丈夫」
………。
前言撤回。
こいつにとっては繊細でかわいい男心もただの小道具だ。
一瞬でもときめいた自分が馬鹿らしい。
俺は眉間に拳を当てて天上を見上げた。
その俺のもう片方の腕に自分の両腕をシオンは絡めてくる。胸を当然のように押し当てて。
ほんとこいつ、俺のことをわかってないのな。
俺がどういうつもりで手を出さないのかとか。
バイクは無しだ。と言ったのかとか。さ。
所詮は、夢魔、か。
―――そういうことを前提とした価値観でしか物が考えられない。自分が男を悦ばせられないと思い込んでいる。
男がどういう時に女を愛しいと思うのか、
キスをしたいと思うのか、
そういう人の感情の機微を理解できていない。
心なんて、一緒なのにな。
―――なら。
それをわからせてやればいいのかな。
言葉で伝えるんじゃなくて、
実体験で。
俺はせいぜいこれまでの経験で会得したとびっきりの落としテクニックを駆使した笑みをシオンに浮かべてやる。
これからのサービスは超レアだぜ。
+++
絡めた両腕がほどかれる。
いつもの手厳しい八雲の私への対応。
もぉう。いつも鞭ばかりじゃなくて、飴を頂戴よ。飴ぉ。
心のうちで私はため息を吐く。
私だって女。
男にはちやほやされたい。
MじゃなくてSだし−。
と思ったら、私の手が八雲に握られる。
そっとやさしく。硝子細工の壊れ物を触るように。女の子を扱うように。
優しいエスコート。
絡められた指。あーん。手袋が邪魔。
「手袋、外そうか?」
耳をくすぐるようにすぐ傍で囁かれる声。
言うが早いか脱がされる手袋。服も下着も脱がしてくれないくせに、今日の彼は積極的で、優しい。
肌と肌が触れ合う。
移りあう温もり。
裸で抱き合うときのようなあの燃えるような激しさは無いけれども、でもその温もりは可愛らしいランプの明かりのような温もりだった。
「寒くない?」
伝わる体温は優しかった。
それだけで全身が、ううん、心があたたかい。
私はそれを伝えようとしたけれども、普段の私が言う言葉とそれはかけ離れすぎていて気恥ずかしい。
こういう時って、どうすればいいのよ?
――――えええええええっと……………
そう、
ツンデレよ!
「て、掌や絡めた指は温かいけれども、手の甲が冷たいんだからぁ! だ、だから、もっと強く握り締めて温めてよっ!」
せ、正解? これで正解?
八雲に手を握られて嬉しいけれど、それを伝えるのが恥ずかしいから、無理やりツンな気分になってみたんだけど!
女の子のツンな気分は男にはデレで良いんだよね?
あまりにも緊張しすぎて私は上目遣いで八雲を見てしまう。
八雲はくすりと微笑んで、
それで、
八雲に握られた私の手は当然のように八雲の手と一緒に彼のコートのポケットに入れられる。
私は思わず瞼を瞬かせてしまう。
口を小さく開けてしまう。
八雲はまるでペンギンの赤ちゃんを見るような顔で私を見ている。
きゅん、と私の胸は生娘のようにときめいてしまう。
ポケットの中で私の手は八雲の手に優しく握り締められて、私は八雲にエスコートされる。
歩くスピードはアンダンテ。
私のスピードに合わされて。
でも、男の子らしく行き先は彼の手の指の動きで私に伝えられて、私は彼の行きたい場所に連れて行かれる。
最初の行き場所は喫茶店。
ラブホテルだったらそこらの喫茶店なんかよりも美味しい飲み物やごはんがあるのに、って普段の私ならきっとごねちゃてるけれども、今日の八雲はとても優しくって、それでいてこのまま付いて行きたい、って思わされるから、八雲にエスコートされるのが嬉しいから、大人しく素直について行く。
でもそれは、とても不思議な気分だった。
人が大勢居る昼間の街で、
確かに気になっている男と手を繋いで、
しかも優しく握られたその私の手は彼のポケットの中で、
行き先は声じゃなくて、指で伝えられる。
それでわかるのがとても嬉しいの。
声はいらない。
言葉よりもぬくもりで言いたい事が分かり合えるこの距離感。
優しいあなたと私の空気。
それはとても優しくって温かで、幸せな唄を歌っているよう。
これまでどれだけ男と肌を重ねてきただろう?
私の身体を貪るように愛撫して、男の指使いに、腰使いに感じているフリをして、喘ぎ声をあげて、男の上で腰を振って、男をイカセて。
私の中で男のが熱いのを出す度に、
私の顔に、胸に、腹に、お尻に、太ももに、出される度に、
どれだけ肌を重ねていても、それらから伝わるぬくもりは、遠い距離感しか感じさせなかった。
人間の女の子が言うように生で入れていても、それで出されても、愛なんて感じたことなんて無かった。
男を愛おしいだなんて微塵も思わない。
えっちは人間の愛の証明方法のはずなのに、一度も私はそれでそれを感じたことなんて無かった。
でも、えっちどころか、ただ素肌で手を握られて、その手を彼のポケットに入れてもらえていて、ただそれだけのことなのにそれがたまらなく嬉しかった。
幸せだった。
まるで純粋無垢な少女のよう。
生娘の、キャベツ畑のコウノトリを信じている、真っ白な洗いたての優しくって温かな清潔な石鹸の香りがするような。
胸がドキドキする。
うれしいなー。
うれしいなー。
うれしいなー。
すごく幸せだ。
ふいに私の手がそっとポケットから出される。
優しい笑みを浮かべる八雲のもう片方の手がまるでお姫様にそうするように私の握っていた手の掌をふいてくれる。
汗が出ていたのだ。緊張して………。
「はずかしい」
ぽつりと零してしまった台詞に私は自分の顔が真っ赤になってしまっているのを自覚する。
耳が凄い熱い。
八雲の目はやさしくそんな私の顔を見つめてくれている。
いつもは調子に乗って、絶頂しているときの顔を男に見せているのに、男のをかけられた顔でいやらしく誘うように濡れた唇を舌で舐め取って、もっとそんな私の顔を見るように男を誘うのに、
今は少女のように真っ赤になっている顔を見られるのが恥ずかしい。
私の雪の様に白い肌が綺麗な桜色に紅潮していく様を男に見せてそれで欲情する男を見るのが好きな、意地の悪い淫らな私が、
今は真っ赤な頬を、耳を見られるのが恥ずかしくって、「見ないで」などと呟いてしまう。
顔を逸らして。
俯いてしまって。
ああ、初めて男に茂みの奥を見られた瞬間のような、そんな純粋無垢の生娘のような。
「シオン。可愛いよ」
耳の傍でくすぐるように喋られる。
私は恥ずかしすぎて、
「あたりまえよ」
髪で八雲の頬を叩くように身を振り返らせる。
「入るんでしょう、喫茶店。私もう、喉がカラカラなんだからぁ!」
ツンな気分で言う。
ツンな女の子に男は照れるのよね?
ツンデレ、ってそういう意味よね?
さあ、八雲。ツンな私に、照れなさい!
からーんと扉に付けられた鐘が鳴る。
私は席に座る。
隣に座るのかしら?
座って欲しいなー。ずっと手を繋いでいて欲しい。
けれども八雲は私の向かいに座る。
あーん。いじわるぅー。
そして、まっすぐに私を頬杖つきながら見るのだ。
私はそれも嬉しくって、でも恥ずかしくって、ぎこちなく微笑んだり、八雲との間にある空間を埋めてしまうぐらいにとりとめもないお喋りをして、いつもは面倒臭そうにしている八雲が今日は私のお話をちゃんと聞いてくれて、反応してくれるのが嬉しくって。
私はすごく緊張していたからすぐに頼んでいた飲み物を飲み干してしまって、ストローで空のグラスを吸うという恥ずかしいことをしてたのだけど、そんな私にやさしく微笑みながら八雲は新しい飲み物を頼む? って訊いてくれて、
でも今日の私はおトイレに行きたくなってしまうのが恥ずかしくって、だから顔を左右に振るので精一杯で、
そしたら八雲は出よう、って言って、当然のようにまた私の手を繋いでくれて、
私は八雲のポケットに繋いだ手を入れて街を歩くの。
街中に甘い香りが満ちているのは、
幸せな音色が流れているのは、
今日がバレンタインだから。
いつもならチョコを逆におねだりして、その後に私というバレンタインプレゼントをあげちゃいたいぐらいだけど、今日は、ううん、今の私は可愛らしい初心な娘でいたくて、このドキドキをずっと感じていたくて、だから………、
「ねえ、八雲。八雲もチョコ欲しい? あ、誤解しないでね。八雲だから私のチョコをあげるんじゃなくて、今日がバレンタインで、私は女の子で、八雲が男の子だからその、…義理チョコなんだからねっ!」
ぷぃ、っと私は横を向く。
ブティックのショーウインドウに映る八雲は優しい眼差しで私を見ててくれている。いつもならどつかれるのに!
ツンな私にデレてるんだぁ!
ツンデレだ。
ツンデレよ。
私たちツンデレだ!
そろりと私は八雲を見る。
「どんなチョコが欲しい?」
「シオンがくれるのなら何でもいいぜ」
「あ、あの、じゃあ、10円チョコだからね。小さい奴ねっ! 子どもが遠足で買うようなのだからねっ!」
私はそう言って、チョコを買いに行く。
お小遣いを使い果たして高いのを買う。
ホワイトデーは3倍返し。
どんな3倍返しだろう?
私はチョコを渡す。
ふたりで公園に移動する。
梅の花の蕾が綺麗で、もう少しで咲きほころびそう。
花の命は短い。
女の花も…。
咲いていたい。
私は餌を捕食するために、自分を満足させるために美しさを求めたけれども、
でも今は、八雲のために綺麗でいたい。
八雲はチョコを食べてくれる。
高級チョコレート。
デパートの売り子さんが、これは本命チョコレート用ですよ。私もこれを渡して、告白するんです。って、頬を赤らめて言っていた。恋する女の子の顔で。声で。
そんな彼女がとてもとても愛らしかった。
可愛らしくって、綺麗だった。
今の私はどう?
私は私の顔が綺麗なのなんて知っている。
でもそれは作りだけ。
私が言っているのは、私のこの八雲にドキドキする気持ちは、私をもっと綺麗に、可愛らしく見せてくれている? っていうこと。
あの恋する女の子のように。
「きっと、今キスしたら、」
「う、うん?」
「そのキスはシオンがくれたクールフランボワーズの味だぜ」
「え?」
「シオンはキスで味あうこのチョコの味と、自分で食べるチョコの味、どっちの味がいい?」
私は言えない。
両方。
口移しで食べさせて、なんて…。
でも今の私たちは、八雲のポケットの中で握り合う手の温もりからお互いの気持ちが伝わりあう関係………仲。
八雲はピンクのツボからチョコを出すと、それを口の中に入れて、顔を近づけてくる。いつもは目を開けて、キスをしながら私の舌使いに悶える男の顔が好きで、見てるけれども、今日は逆に八雲の優しく細められたアダルティーな双眸に見つめられているのが恥ずかしくって、瞼を閉じる。閉じてしまう。
男に、身を任せるのは初めて。
ねえ、八雲。
私、八雲になら、私の全部、ゆだねてもいいよ。
こころも、
からだも。
こんな気持ち、初めてだから、
今の私は、処女と一緒だよ。
ねえ、八雲。私のはじめての男になれて、嬉しい?
ああ、これが好きだからこそ肌から伝わるぬくもりに抱かれたいって、
生殖能力の、ただの性欲の、本能のままのえっちじゃなくて、
愛を確かめ合う本当の愛の紡ぎ………
八雲、私は――――
「ん?」
唇に伝わってくるべき八雲の唇の感触は伝わってこなくって、
しかも口の中に入ってきたのは、チョコでも、舌でもなくて、
―――――-!!!
「からぁ――――ぃ!」
激辛クッキーだった!!!
ひどぉーーーーいっ!!!
私はきっ、と睨む。
酷い。酷い。酷い。八雲は私の女心を弄んだんだ!
八雲のばっか!
ちくしょう。
不覚にも涙が溢れてくる。
私は悔しくってそれを見られたくなくて、そっぽを向く。
八雲がどんな顔をしているのか見られない。
きっと私が寝るたびに、起きてても、えっちをねだったのを怒って、こんな酷い悪戯をしたんだ。
何よ―――
「何よ。何よ。何よ。八雲のばか! 私の気持ちなんて、知らないくせにっ!」
そうよ。私がどんな想いで―――
ああ、そうだ。私は本当は、不安だったんだ―――
なんだ、私、馬鹿みたい。
どうしてこんな男のことなんか………
私はたまらなくなって、その場から逃げ出した。
+++
声が咄嗟に出なかった。
伸ばした指先はもう物理的にも、感情でも、届かない。
俺はだから手を握り締めた。今日ずっとシオンの手を握っていた手を。
ごめん。シオン、ごめん。
本当は、最初は確かに軽い悪戯心だったけれど、すぐに照れるあんたがあんまりにも可愛いから、俺は本気で照れていたし、嬉しかった。
思春期のガキみたいに照れる自分がくすぐったくて、そんな気持ちにしてくれたあんたが愛しかった。
逃げていくあんたを見送るのがたまらない。
だから俺は走って、後ろからシオンを抱きしめた。
「やだぁ、離してよ」
「ダメだ。離さない。俺から逃げられると思うなよ」
シオンが動きを止める。
俺はそう言った自分の声がどう聴こえたのかなんて知らない。
ひょっとしたら自分を置き去りにしようとしている母親にそれを察しながら何かを語りかけるガキのような声だったのかもしれない。
でも構うものか!
「知らないだと、」俺はシオンのことを、これまで見てきたシオンのクセや、好み、本当に些細な事まで口にしていく。
いつも俺が気の無いふりをしながら、でも、本当はどれだけシオンを見ていたのか、それを告白していく。
ああそうだ。
これは俺のシオンへの愛の告白だ。
だから、
「それって愛の告白?」
俺を振り向いて、右手の人差し指で涙を拭きながら少女のように顔を赤らめて、今日で一番の愛らしい少女のような顔で笑うシオンの唇に、俺は自分の唇を重ね合わせた。
「男は性欲だけで全然見も知らない初めて会った、顔と身体が好みなだけの女も抱けるけれども、下手したらやれればいいだけで、女なら何でも良くて、女ってだけで誰でも抱けるけれども、でも基本的には好きな女は大事だからこそ手を出せないぐらいに惚れられるぐらい純粋無垢な生き物なんだよ。そういう男の純な感情わかれ」
「ん。つまり傷つけたくないぐらいに愛してくれてるんだねっ! でも、女の子は、好きな男の子に触れられて、言葉でも身体でも愛を伝えて欲しいんだからっ。女の子は臆病なの! でも、」
「ん?」
「最後の最後は強いから、だから安心して。私は八雲が私を求めてくれるのなら、いつだってその想いに応えてみせるわ。私はあなたと一緒にいられるならどれだけだって強くなれるし、それだけでハッピーなの」
そうしてシオンは、今度は自分から俺にキスをした。
+++
帰り道。
私はジュエリーショップのショーウインドウの前、素敵なデザインのペアリングの前で左手を八雲に出して言う。
「あー、でも本当、傷ついたなー。傷ついて、心が削れちゃった分だけ、軽くなっちゃったー。これは八雲の前からどこかに軽すぎて飛んで行っちゃいそうだなー。だから飛んでいかないように重石が欲しいなー。左手の薬指にはめる重石が、指輪が欲しいなー」
やっぱり私はツンでいて、八雲にデレてもらうツンデレよりも、
こういう私の方がらしくて、
八雲もそういう私の方が好きでしょう?
end♪
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