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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜お出かけしましょう〜】


「あ、いたいた。鈴城くん」
「へ?」
 ぽん、と肩に手を置かれて、鈴城亮吾は間抜けた声を漏らした。
 反射的に振り返った先には見知った整った顔。陽の光を受けて輝く金髪が少しまぶしい。
「って、ケイさん!?」
 思わず身を退く。彼――ケイとは色々と顔をあわせづらい理由があるのだ。
「うん。そういう反応されると心中複雑なんだけど……鈴城くんに用があって、探してたんだ。見つかってよかった」
「用?」
 ケイが自分をわざわざ探し出してまでするような用事が思い浮かばず、小首を傾げる。
 ケイの様子からすると悪い用事とも思えないが――。
「ほら、初めて会ったとき、鈴城君にコーヒーかけちゃったでしょ。あの時クリーニングに出した服、まだ返してなかったから」
 そう言って差し出された紙袋を半ば反射的に受け取る。中を覗き込めば、確かに自分の服が入っていた。
「あ、ありがとう、ございます……」
 ぎこちなく礼を言う。テンパり気味なせいか何故か敬語になっている。
 貸してもらった服は返さなくていいと言われ手元にあるし、買ってもらった服もある。元着ていた服まで返ってくるとなると、なんだか少し申し訳ないような。
 ただでさえ色々とお世話になってしまったり醜態を見られたりで頭が上がらないのに、先日フライングでシンに色々と聞いてしまったことでさらにどう接すればいいのか分からなくなりつつある。
 本人の与り知らぬところで…というわけでもないが、当人でなくその関係者に話を聞いてしまった――こそこそ嗅ぎまわってるととられかねない行動をしたことで、なんとなくバツの悪さも感じるし。
(うあーどうしよう…)
 どうしようもこうしようもないのだが。
 緊張やら戸惑いやらで挙動不審気味な亮吾に気付いたのか、ケイは小さく苦笑した。
「――この間のことは、本当に気にしなくていいから。もとをただせば俺が悪いんだしね」
「でも、」
「もしシンに色々聞いたことに対して何か思うところがあるなら、それも気にしなくていいよ。シンと話してたときの反応とかからすると気にしてるんじゃないかって思ったから一応言っておくけど。勘違いだったらごめんね」
 苦笑を浮かべたケイが亮吾を見る。亮吾は口を開きかけて、しかし何も言葉を口にせずに閉じた。
 ケイの言葉に納得しきったわけではないが、これ以上話を引き摺るのもケイに対して悪いような気がしたのだ。
「用はそれだけだから。時間取らせてごめんね」
 にっこり笑ってそう告げるケイは、そのままあっさりと踵を返して去ろうとした。
「あ、あのっ…!」
「?」
 思わず呼び止めた亮吾だったが、不思議そうに振り返ったケイに言葉を詰まらせる。
 声をかけたものの何か考えがあったわけではない。ただこのまま離れるのは惜しくて、話がしたくて――。
 無言の亮吾に何を感じ取ったのか、困ったように、それでいて可笑しげに、ケイが笑った。
「……鈴城くん、このあと暇?」
 こくこくと勢いよく首を振る亮吾。
「どこかで話でもする?」
 再びこくこくと首を振る。ケイはそんな亮吾に苦笑を滲ませて、それから少し考える素振りをした後に口を開いた。
「じゃあ、シンが連れて行った喫茶店。あそこでどうかな」
 ケイの提案に、亮吾はやはりこくこくと首を縦に振った。
 そしてケイが歩き出す。亮吾もそれに続いてぎこちなくだが歩む。
 そしてしばらく進んだ後、ふとケイが口を開いた。
「……鈴城くん。すっごくベタだからつっこもうかどうか悩んだんだけど、右手と右足同時に出てるよ」
 笑いの滲む声でそう言われて、亮吾は思わず赤面した。

  ◇

 先日は真夜中、営業時間外に訪れたせいでどれほど繁盛しているのか分からなかった喫茶店だが、今回は営業時間内、しかも昼間だ。そこそこに席も埋まっている。
 だが、やはりどこか落ち着く雰囲気がある、と亮吾は思った。
 ケイも時折ここを訪れるとシンが言っていたが、それは確からしい。マスターと軽く言葉を交わしたケイは亮吾を促して奥まったところにある席に座る。自分はもう決めているからと、亮吾にメニューを渡して決めるように促す。
 とりあえず先日と同じくホットココアにした亮吾だったが、一連のケイの行動に全く迷いがないことから、確かによく来てるんだろうな、とぼんやり思った。
 さほど待たずに頼んだ飲み物が来て、とりあえず口をつける。
 少しの間、2人の間に沈黙が落ちた。
 そしてその沈黙を破ったのは、――意味深な笑みを浮かべたケイだった。
「鈴城くん。――何か聞きたいこと、あるんじゃないかな?」
「う、……あり、ます」
 どうやら見透かされていたらしい。どこか楽しげな笑みを口元に浮かべて、ケイは続ける。
「大体のところ、鈴城くんが聞きたいことは分かるんだけどね。こればっかりは、軽々しく話せるような内容じゃないし。この間巻き込んじゃったことに関しては申し訳ないと思ってるけど……」
 本当に申し訳なさそうな表情でケイが言う。
「いや、そんな……」
 何かを言おうとしたものの、どんな言葉をかければいいのか分からない。
 知りたい、と思うのは確かだが、無闇に聞き出そうとも思えない。誰にだって言いたくないことくらいはあるだろうし。
 そんな思いが表情に出ていたのだろうか、くす、とケイが笑った。自嘲するような笑みだった。
「……怖い、のかもしれないな。誰かに話すことで再び向き合うことも、その後の反応も。――…俺は、弱いから。誰かがいないと立ってられないくらい弱いから」
 後半はごく小さな声で呟かれて、亮吾の耳には届かなかった。ケイも亮吾に聞かせるつもりはなかったらしく、不思議そうな顔をした亮吾にごまかすような笑みを向けると、カップを口に運んだ。
 一口分嚥下して、仕切りなおすように言葉を紡いだ。
「呪具についてはシンが言ったし、特に説明することもないかと思うんだけど。――でも、そうだね。こうやって『偶然に』逢うことが重なるなら、鈴城くんとは縁があるのかな。今まであんまりこういうこと、なかったんだけど」
「そう、っすか…?」
 なんだか喜んでいいのか勘繰ったほうがいいのか微妙な科白に、亮吾は首を傾げてそう返したのだった、



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7266/鈴城・亮吾(すずしろ・りょうご)/男性/14歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鈴城様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜お出かけしましょう〜」にご参加くださりありがとうございました。

 ケイとお出かけ…というかお茶というか会話…?いかがだったでしょうか。
 ケイは自分から話すつもりはないようなので、色々発覚、とは行きませんでしたが…。
 相手からつっこんでこられたらまた違う反応を返すかも知れませんが、自分から特に尋ねない、というスタンスでいらっしゃったので、こんな感じに。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。