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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 バレンタイン狂詩曲

 このごろレノアがよそよそしい。
 何か隠し事をしているような、そう言う風。
 ずっと彼女を見ていると、超鈍感でもそれぐらいわかってくる。
 平時の彼女は、かなり顔に出るような性格なのだ。
 
 キッチンに入ってこないで欲しいとか(それはそれでかなり危険)、案の定、キッチンは大惨事。
 1人で出かけて迷子になって、泣いているところを助ける。
 怒る訳にもいかない。
 つまり、感謝を込めて(もしくは想いを込めて)2月14日を大切にしたいのだと。
 キッチンにあるお菓子類の材料を見れば判る。
 ずっと世話になっているのだから、感謝を込めて何かを作りたいのだと。

 告白の日。2月14日。
 それは、恋の告白か? もしかしたらそれ以外の事かもしれない。
 
 その彼女の想いを、あなたはどう受け止める?
 その日は何かのきっかけに過ぎないのだ。

 そう、冬に舞う粉雪のように、想いは……。


〈ばればれ〉
「気づいていますか?」
「私はあなたと同じよ? 気づかないはずなんてないわ。」
 榊船亜真知と黒榊魅月姫はお茶を飲んで、話していた。
 レノアは台所の方で、悲鳴を上げている。
 しかし2人は動じない。いつものことだから。
「かといっても、台所が大破するのを早めに回避しないといけません。」
 亜真知はため息を吐く。
 魅月姫は「それもそうね」と返すだけで、別段何もしない。
 何をしようとしているのか、分かっているから。あえて何も言わないのだ。それに、彼女は1人で何かを成し遂げようと頑張っている。それに水を差すのは失礼である。多少の手助けはするとしてもあからさまではいけない。
「さて、仕事に入るわ。そのあと、長谷さんに稽古を付けて貰います。」
 魅月姫が立つ。
「行ってらっしゃい。」
 魅月姫は、ある特殊な機関に属している。このいびつな世界を守る仕事だ。若干レノアの使命に居ている。レノアは次元門を守り、出入りを監視する存在。魅月姫は、各別世界を飛び回って、その世界の事件を解決するのである。守るにしても動くベクトルが違うし、レノアは個人、魅月姫の所属は組織である。
 亜真知は相変わらず、のんびりと能力を使わない普通の女の子をしている。仕事が来るまで。この世界ではそれほど力を使い過ぎることもない。
 レノアは一生懸命勉強し、学生として一日を過ごしている。いつも、亜真知と一緒に登下校している。
 のんびりした日々。平和で心和む日々。

 それが、皆が望んだ世界。
 なので、レノアの行動も、不思議ではないのだ。


〈で?〉
「で、魅月姫ちゃんはどうするの?」
 長谷茜が、薙刀を仕舞い、魅月姫に尋ねる。
 仕事も一段落したので、茜の薙刀の稽古を受けている魅月姫。
「まあ、長くいきて、日本の変容も知っているのですが。あいにく万能ではないので。」
 料理の方は亜真知の方だ。自分はあまり経験がない。僕に作らせることが多かったし。
「ふむ。1ヶ月まで猶予はあるよ。」
「猶予……。」
 腕を組んで考える。
「なるようになります。」
 深く考える必要もない。
 ああ、しかし、私も何かを考えないといけない。そう思う魅月姫であった。


〈ばれた!?〉
 レノアの目の前にある鍋の中をにらめっこしていた。それは異形の形をした茶色い物体がある。苦さと甘さはあっても、苦さはチョコのものではない。焦げた味だ。
「また失敗してしまいました。」
 がくりと項垂れる。
「どうかしましたか?」
 亜真知が顔を覗かせると、レノアがあわてて、異形の物体を隠す。
「な、なんでもないです! あ、あの、しばらく台所は……おかりしますから!」
 腕を上下にぱたぱたしてあわてふためいた様子で言う。
「そうですか。わかりました。」
 亜真知は微笑んで、その場を去っていく。
 レノアは安堵のため息を吐いていた。
「ま、間に合うかなぁ。」
 異形を見ては、またため息を吐いた。
「頑張ってください。」
 亜真知は微笑みながら後にする。
 年齢としては亜真知が上なのだ。肉体的なものは違うのだが。
 レノアは、まだばれていないと思っているらしい。
「また買いに行かなくっちゃ。」
 今度こそ迷わないと、思いつつも、また迷って……帰りがけの魅月姫と茜に拾われるのであった。
「いやあ、私ここまでの方向音痴は見たことないよ〜。」
 茜が笑う。
「此がレノアクオリティ。」
「うう、ごめんなさいぁい。」
「いいのですよ。楽しいし。」
「ふぇ!」
 ビニール袋の中身については、茜も魅月姫も言わなかった。

 影斬が亜真知と何か話していた。
「よしちゃん。」
「茜、魅月姫、レノア。お帰り。」
 影斬が挨拶をした。
「ただいまです。織田さん。」
 レノアが会釈する。
「ただいま、珍しい組み合わせだこと。」
 魅月姫は一寸退く。
 影斬は本能的に苦手の部類にはいるのだ。影斬の抑止以外の〈特性〉にある。ほぼ絶対的な意味であらゆる闇を切り裂く彼の権能が、彼女を退かせるのだ。
「抑止権利について話を聞いていたので。」
「そう。」
 影斬が抑止になってからは、若干厳しくなっているとか言う。彼の出自や経験が、『力』の危険性を知っているからだろう。そんな小難しいことを話せる連中もそうはいないのだが。
「では、またお借りします!」
 レノアは猛スピードで中に入っていった。
「可愛いものだな。」
「でしょ?」
 影斬と亜真知は笑う。
 もうここにいる全員、レノアについて分かっているのだ。


〈一寸したお手伝い〉
 レノアは、部屋で着替えてから、机にある紙切れを見つけた。彼女はそれを手に取る。何かの分量と、方法が書かれており、今のレノアにはすぐに分かった。
「? これって、レシピ。」
 それはレシピ。
 原材料の溶かし方のタイミング、そして、型の入れ方、トッピングなどが分かりやすく書かれていたのだ。
「これなら……できるかも。」
 元から物覚えはよいレノア。
 なので、早速作る。
 適温になったお湯に、板チョコの破片を入れた小さな鍋を入れ、其処にしっかりレシピ通りに従い溶かしかき混ぜる。うまくいったカカオの香りがする。そして、小さい型にそれを流し入れて……と、単純でも難しいチョコ作りが、自分でも信じられないほどうまく行くのであった。
「できた!」
 ガッツポーズをとるレノア。
 固まるまで、適温の場所に置く。
 自分なりに片づけをしたつもりで、満足そうにレノアはその場を去っていくが……じつは、亜真知達からすればまだまだな状態だった。
「さて、台所の危機は去った訳だが。」
 影斬が見ている。
「まだいたのですか?」
 魅月姫。
「待ち人来足らずです。」
 亜真知が悪戯っぽく笑う。
「たまによってみたら、留守だというのだ。意地でも待ってみるよ。」
「よしちゃん。寂しがり。」
「るさい。」
「ケータイを使わないのですか?」
 魅月姫が訊く。
「ああ、仕事先が圏外らしい。」
 がっくりするのは影斬。
「何というすれ違いだねぇ。」
 ニヤニヤ笑う茜。
「笑うな、茜。」
「抑止も寂しがるのね」
「はいはい、漫談は其処までです。台所を片づけちゃいます。」
 亜真知は着物の袖をめくり、大掃除に取りかかるのであった。
「あとで、お茶お願い。」
 リビングでくつろぐ影斬が言った。彼がこういうフランクな態度なのは珍しい。
「義明様……。」
 亜真知は苦笑した。


〈そして〉
 14日。
 亜真知と魅月姫はレノアに居間で待っていてくれといわれたので、待っている。
「おまたせしました! あの、此は感謝の印です!」
 と、可愛いラッピングがされた、四角い箱だ。それも二つ。
 この辺は女の子らしさの器用さが見られる。
 まずは、レノアは亜真知にその箱を渡した。
「開けて良いですか? レノア様」
「はい♪」
 満面の笑みで答える。
 リボンをとり、箱を開けると、可愛い形のチョコが数個入っていた。
「魅月姫さん」
 レノアは彼女にも渡すと、魅月姫はとまどった。顔を真っ赤にして。
「えっと、これって、ヴァレンタインデーは告白の日、です……よね? で」
「魅月姫、何か勘違いされてませんか?」
「え? あ。」
「ふふふ、この時勢、友チョコがあるのですよ。自分のご褒美として高価なチョコとして買う人がいらっしゃいます。まさか……。」
 含み笑いの亜真知に、魅月姫はまた白い綺麗な肌がみるみる染まる。
「ち、ちがいます! えっとその! ありがとう。レノア。」
 恥ずかしがりながらも、魅月姫はレノアを抱きしめた。
「お礼は来月で良いですか?」
「はい。」
「あ、わたくしは、お二人に用意してますね。」
 魅月姫はチョコが多くなるのは避けるため、クッキーにしておいた。それと、おそろいの手袋。
「わあ。ありがとう、亜真知さん。」
 今度はレノアが亜真知に抱きついた。
 亜真知は、優しく彼女を抱き返して、微笑む。
「では、お茶にしましょうか。」
「そうね。」
「はい♪」

 気分は良い。
 それを表すかのように空は蒼く綺麗であった。

 平和な一日の話であった。

END


■登場人物■
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【4682 黒榊・魅月姫 999 女 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『蒼天恋歌 バレンタイン狂詩曲』に参加して頂きありがとうございます。
 14日のフライング納品ですが、いかがでしたでしょうか?
 こういうほのぼのの話は、書いていて楽しいです。キャラが動けば更に嬉しく思います。

 お気に召したら幸いです。

 また、どこか別のお話でお会いしましょう。

滝照直樹
20080208