コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


The rial snow world



 世界中で空前の大ブームとなったRPG“ The true world 〜 a fable of world guards 〜 ”の中で、主人公とヒロイン以外で、特に人気の高かった双子の兄妹が真実の世界に来るまでの物語を綴ったゲーム“ The rial snow world ”が先日発売された。
 およそ流行と言うものに疎そうなあやかし荘でも、天王寺・綾と言う現役女子大生と三下・忠雄と言う現役雑誌編集員の二人がいるため、世界的なブームとなったゲームの事は聞き及んでいた。
 最初は興味がなさそうだった嬉璃と柚葉だったが、因幡・恵美が福引でゲーム機と共に当てて持ち帰って来た事を始まりとして、一気にあやかし荘内でも遅まきながら火がついた。
 “ The true world 〜 a fable of world guards 〜 ”を四苦八苦しながら終えた住人達は、三下に“ The rial snow world ”買ってきてもらい、数日前から夢中になっていた。
「なかなか難しいね」
「あぁ、そっちに行ったらあかんやろ!ちゃうって!そっちやない、さっきのところ左やろ!?」
 コントローラーを握る柚葉の隣で、綾が拳を握り締めて指示を飛ばす。
「なんぢゃ、急にアイスが食べたくなったの‥‥‥」
 先ほどから森の中を迷走している様子に飽きたのか、喜璃が唐突にそう言うとこちらを振り返った。
「アイスを買ってくるのぢゃ。チョコのついた棒のヤツぢゃ」
 表を掃除していた恵美と挨拶を交わし、何となく最近の状況を語り合い、外でお話しするものなんですからと通された広い居間で、柚葉のゲームを見入ること数時間、そろそろお暇を告げようとしていた矢先の事だった。
「それじゃぁ、ボクはバニラで、カップの」
「ほな、うちはストロベリーで。言っとくけど、安いのはあかんよ!いっちゃん高いの買て来てや!」
「僕はアイスよりもお煎餅が食べたいです」
 控えめだがシッカリと主張した三下に呆れつつ、どうせ少し歩けばコンビニがあると思い、腰を上げる。お金は綾が出してくれ、お茶を持ってきてくれた恵美にコンビニに行ってくると告げ、外に出る。
 いつの間に降っていたのか、雪がハラハラと世界を銀色に染めている。 あまりの寒さに肩を縮め、雪道を苦戦しながら歩いた先、コンビニの看板を見つけて近付いてみれば、何故か電気が全て落とされている。
 コンビニは年中無休、24時間営業ではなかったのか。 おかしいと思ったのも束の間、雪が降り落ちる音以外に何も聞こえない世界に気が付く。まるで全てのものが凍り付いてしまったかのようだ。
 一旦あやかし荘まで戻ってみよう。 そう思った時、背後に誰かが立った。
「貴方が仲間ね。さっそく魔王の居城・コンビニを見つけ出し、魔王・テンチョウを倒し、彼の持っている封印棒アイスを破壊してこの世界を永き眠りから解き放ちましょう」


* * *


 細身のシルエットに、豊満な胸元。銀色の長い髪は眩いまでに美しく、左が緑、右は赤のオッドアイには力強い光りが宿っている。
 シュライン・エマは彼女の事をよく知っていた。 “ The true world 〜 a fable of world guards 〜 ”も“ The rial snow world ”もプレイ済みのシュラインにとって、彼女はかなり馴染みのある人物だった。
 速い剣さばき、正確な攻撃、力の弱さを補うかのように強力な魔術、攻撃一辺倒ではなく、防御魔法も回復魔法も、補助系魔法も覚えている彼女は、他のゲームに比べて難易度が高めに設定されているあのゲームをプレイする者にとって救世主だった。
 素早い敵に翻弄されることもなく ――― 彼女の攻撃順番は比較的早い挙句、ミスをすることがほとんどなかった ――― ボス戦でも強力な魔法で活躍し ――― 炎系・氷系・雷系が特に強かった ――― 仲間のピンチにも魔法で応援できる、そんな彼女は双子の弟・ミルファと並んで人気が高かった。
 だからこそ、“ The true world 〜 a fable of world guards 〜 ”の番外編として他のキャラクターを抑え、“ The rial snow world ”が一番最初に発売されたのだが‥‥‥。
 美貌の女魔法剣士・ミシェル・ファンタジアを前にして、シュラインが感じたのは彼女の存在に対してと言うより、彼女の台詞に対してのツッコミだった。
「しょぼ‥‥‥」
 思わず呟いてしまうが、ミシェルには聞こえていないらしい。
 ――― 魔王の居城がコンビニってどうよ
 そんな本音が思わずこぼれ出る今日この頃、皆様いかがお過ごしですか。 ここ、東京は本日は記録的な積雪に見舞われ、どうやら“ The rial snow world ”よりミシェル・ファンタジアさんがお越し下さったようです。それでは、ミシェルさんから東京についての感想を伺ってみましょう。
 ハーイ、ミシェル!はうあーゆー?とうきょう、どー?
 謎なナレーションが脳裏を過ぎり、さらにおかしな番組へと変化していく。
 脳みそが蕩けそうなおかしな脳内番組を強制的に終了させると、シュラインは冷静に現状を考えようと気持ちを切り替えた。
 ――― 確かに魔王城って24時間出入りOKな心広い場所だけれど、コンビニ平屋じゃね?とか思うわけです
 やや口調が荒れているが、仕方がない。何故ならば、状況的にどう考えたっておかしいからだ。魔王城が平屋なんて、あまりにもRPG的に面白くない。 巨大な玄関を開け、グルリと見渡せば魔王が隅っこの部屋にいるのが見える‥‥‥物凄いテンションが下がること間違いなしだ。
 ――― 考えてみれば、魔王城って警備が甘いわよね
 24時間誰でも出入りOKな玄関と良い、勇者が来ても雑魚が襲い掛かるだけと言う手抜きさ加減と良い、どう考えても魔王城は危ない。もしも勇者がただの強盗だったらどうするのだろうか。
「‥‥‥まぁ、なったモノはしょうがないわよね」
 諦めの台詞を口にする。と言うか、どうしても譲れない!こんなのはおかしいではないか!と声高に叫んだところで、状況が改善されるとは思えない。
「頑張りましょうね、ミシェルさん」
「えぇ!テンチョウの持っている封印棒アイスを破壊し、永き眠りから世界を解放しましょう!」
 名前からしてテンションがた落ちの魔王・テンチョウと、破壊すべき対象・封印棒アイス。本来のゲームでは、魔王・デスレインと、破壊すべき対象・魂の牢獄だったはずなのだが‥‥‥。
 シュラインはコートのポケットを探ると、白手袋を嵌めた。 キリリとした表情に、知的な顔立ち、凄腕の刑事のような雰囲気を放ちながら、これで指紋は大丈夫ねと、考えることは犯罪者側に立ったものだった。
「まずは、動きのあるコンビニを捜さないとね」
「 ? 」
 ミシェルがその魅力的なオッドアイを見開き、キョトンとしながら首を傾げる。
 確かに、コンビニを魔王の居城と置き換えるとシュラインの言っている言葉はあまりにも意味不明だろう。
 “動きのある魔王の居城を捜さないとね”
 魔王の居城がそんなにいくつもあってもらっては困る。 思い切り治安が悪いではないか‥‥‥!
 しかも、我こそが真の魔王だ!などと言って、魔王同士が戦いを繰り広げていそうだ‥‥‥。
 ――― あぁ、でも、魔王同士を戦わせておいて残った者を勇者が倒せば良いのよね
 漁夫の利と言えば聞こえは良いが、勇者が物陰に隠れて魔王同士の戦いを見守り、戦いの末にやっと魔王になった者 ――― しかも、手負いの可能盛大だ ――― を、勇者様が誕生したぞー!などと言って倒しに向かっても、かなりテンションが下がる。
 魔王城もボロボロで、さらには手勢が揃っていない。そんな中を悠々と雑魚を切り伏せながら立ち向かっていく勇者 ――― 勇と言うよりは、卑怯の2文字が合う気がする。 何故だろう。勇者様は魔王を討伐に向かってくださっているのに‥‥‥そんな村人A・Bの呟きが画面越しにも聞こえてきそうだ。
 ミシェルに状況を説明したところで、混乱は目に見えている。
 “コンビニって沢山あるんだけどね、悪くないテンチョウだっているのよ”
 これをミシェル語に置き換えてみれば、“魔王の居城って沢山あるんだけどね、悪くない魔王だっているのよ”となるのだ。
 それはもう、嘘だ! と、叫びたくなる。 悪くなければ魔王なんて名前で呼ばれているはずがないのだから。それはもう、気の良い魔物たちの王とか、そんな和やかな名前にしてほしい。略す時は魔王ではなく、気王とか、意味はよく分からないけれどとりあえず害はなさそうな、そんな名前にしてもらいたい。
 ――― あまり余計なことは言わない方が良さそうね
 シュラインはそう思うと、軽く首を振った。
 たとえどんなにおかしかろうと、この世界では“コンビニ”が“魔王の居城”で“テンチョウ”が“魔王”なのだ。システムにツッコミを入れていても仕方がない。
 話しかけると延々同じ事を繰り返すゲーム世界の住人だって、現実に引き抜けば物凄くおかしな人だ。 もっとも、村人に何度も話しかける勇者も相当おかしな人だが‥‥‥。
 想像の海から何とか脱出すると、シュラインは耳をすませた。 これだけ静まり返った世界なのだ、微かな物音でもかなり大きく聞こえるはずだ。
「‥‥‥こっちよ」
「凄いわね。貴方は何か動物と契約をしているの?」
 “ The true world 〜 a fable of world guards 〜 ”の世界では、精霊の他に霊動物とも契約を交わす事が出来る。精霊との契約には、ある一定の基準を満たした人 ――― 生まれた時から精霊の祝福を受けている者、精霊学校で一定の知識と技術を吸収した者 ――― しか出来ないが、霊動物の場合は一般霊動物知識があれば簡単に契約をする事が出来る。
 ちなみにミシェルとミルファは生まれた時から精霊の祝福を受けている者 ――― 生まれた時から精霊の力を使う事が出来た者 ――― であり、天才と呼ばれる部類の人だった。
「いいえ、そう言うわけじゃないのよ。最初から、耳は良くて‥‥‥」
 確か、犬霊と契約をすると、聴覚と嗅覚が鋭くなり足が速くなる。猫霊と契約をすると跳躍力が良くなり、身体の柔軟性が良くなり、全体的な身体能力が高くなる。鳥霊と契約をすれば羽が生え、熊霊と契約をすれば力が強くなる。
 ――― そう言えば、面白い霊動物がいたような ‥‥‥
「あそこが魔王の居城・コンビニね!」
 シュラインの考えを断ち切るかのように、ミルファが前方で煌々と輝くコンビニの明かりを指差した。
「テンチョウめ‥‥‥絶対に許さないわ!」
 スラリと剣を抜く彼女に、シュラインが慌てて口を声をかけようとした時、どこからともなく不思議な音が響いてきた。
 メリメリと地面が盛り上がる音と、ガチャガチャと何かがぶつかり合う音が耳に飛び込んでくる。 咄嗟に音の出所を見れば、とんでもない光景がシュラインの目に映った。
 電線を絡めながらこちらに近付く電柱と、踊るように近付いてくる白のガードレール。
「ミシェルさん!!」
「ガードレール5体にデンチュウ1体‥‥‥シュライン、戦う準備は良い!?」
「よ‥‥‥良くないわ‥‥‥!」
「そう言えば、シュラインのクラスは何?」
 小学校の時は一年二組だったとか、そう言う“クラス”が聞きたいわけではないのだろう。 シュラインは喉元まででかかったそんな平和的なボケを飲み込むと、首を振った。
「わ、分からないわ‥‥‥」
「そうね‥‥‥戦闘系ではなさそうだし‥‥‥補助系?回復系?」
「怪我の手当てくらいなら出来るけれど‥‥‥」
 まさかデンチュウに押し潰された人を助けられるほどの腕はない。そう言いかけたシュラインだったが、ミシェルが勝手にクラスを決める方が先だった。
「それじゃぁ、僧侶とか、どうかしら?」
「僧侶‥‥‥?」
 どこがどうなって僧侶になったのかは分からないが、とりあえず魔法剣士・ミシェルと僧侶・シュラインはガードレール5体とデンチュウ1体との戦闘態勢に入った。
 まずはミシェルがガードレールに斬りかかり、356のダメージ。アッサリ1体が倒れる。
 ――― やっぱり凄いのね、ミシェルさん‥‥‥
 目の前で彼女の素晴らしい剣さばきを見て、思わず感心するシュライン。 次もそのまま隣のガードレールを倒すのかと思いきや、ミシェルは素早く所定の場所に戻ると剣を構えたまま止まった。
「何やってるのシュライン!次は貴方の番よ!」
 そう言えば、RPGってこう言う感じだったわよねと思い出しながら、それでも内心ではツッコミをいれざるを得ない。 どうしてあそこまで行ったのに、1体だけ倒して戻ってきてしまうのだろうか。そして、どうして敵も味方も順番をきちんと守っているのだろうか。
 とりあえずやることのないシュラインは、防御を選択した。
 ガードレールAがミシェルに襲い掛かり、1ダメージ。
 ――― 弱っ‥‥‥
 レベルが高くなった時、お金の節約のために前のステージの安い宿屋に行こうとして、突如現れた雑魚敵を瞬殺する、あの時の何とも言えない面倒臭さが脳裏を過ぎる。 弱いんだから、わざわざ出てこないで欲しい。戦闘画面に行く際のロードが鬱陶しい、そんな冷たい感情が芽生える。
 ガードレールBはミス、CとDは1ダメージずつだった。
 デンチュウが巨体を揺らしながらミシェルに襲い掛かろうとするが、電線がこんがらがって攻撃が出来ない!
 ――― しょぼっ!!
 電線の具合をきちんと調べてから戦いに挑んで欲しい。
「魔王と戦うまでは温存しておきたかったけれど、お薬も少ないことだし‥‥‥ここは一気に片をつけるわ!」
 ミシェルの剣が炎を帯び、紅の龍が空に出現する。
「フレイム・ドラゴン!!」
 炎の龍がガードレールとデンチュウを包み込み、ガードレール4体がそれぞれ587ダメージを受けて倒れる。 デンチュウは398ダメージを受け、未だに立っている‥‥‥!!
「シュライン、止めを刺すのよ!」
「と、止めを刺すのよって言われても‥‥‥」
 武器も何もない挙句、素手でアレを殴ったら相当痛そうだ。
 ――― えぇっと‥‥‥な、何かないかしら‥‥‥
 武器になるようなものをと探しても、眠りに落ちた住宅地と雪以外には何もない。まさか雪の上に転がったガードレールの死骸(?)を使うわけにもいかない。 ちなみに、倒したら敵が消滅するなんて素敵なシステムは組み込まれていないらしく、切断されたガードレールと焦げたガードレールは雪の上にぐったりと倒れている。
 ――― こうなったら、ミシェルさんの剣を‥‥‥でも‥‥‥
 色々と考えた挙句、シュラインが選択したのは雪玉だった。 何処をどう考えた結果雪玉になったのかは、シュライン自身でもよく分かっていない。ただ、武器になるもの、相手を攻撃するものと考えた結果、足元の雪をすくって丸くするとデンチュウに投げつけた。
 ボスリと雪玉が当たり、デンチュウに2のダメージ ――― ガードレールがミルファを攻撃した時よりも高いダメージだった ――― デンチュウは倒れ、電線がブチリと千切れた‥‥‥。
 382の経験値が入り、シュラインはレベル5になった!
 ――― レベル5で魔王に挑むのって、自殺行為よね‥‥‥
 それよりなにより、シュラインには物凄く気になっている事があった。 視線を雪の上に倒れた電柱と、無残な姿をさらすガードレール達に向ける‥‥‥
「ミシェルさん、眠らせる魔法とか使える?」
「えぇ、使えるわよ」
 それがどうかしたの? と問いかけるミシェルはそのままに、シュラインは安堵の溜息をついた。
 デンチュウとガードレールは事故ですむが ――― おそらく、そんな簡単な2語ではすまないと思うが ――― テンチョウやテンインの場合、完全な事件だ。
 ――― どうせ封印棒アイスを奪えばこっちのものなんだし
「さぁ、行きましょう!」
 ミシェルの声に、シュラインは走り出し ――― 自動ドアの前で止まった。 ノロノロとした扉が開き、茶髪のテンインが「らっしゃいやせー」と、シャキっと喋りなさい!と注意したくなるようなもごもご口調で挨拶をする。
「くっ‥‥‥この魔法は!“物が買いたくなる魔法”ね!」
 ――― かなり平和的な魔法だわ‥‥‥
 どの属性の精霊がそんな平和的で和やかな魔法を授けてくれるのだろうか‥‥‥。
「ミシェルさん、眠りの魔法よ!」
「そうね‥‥‥こんな狭いところではフレイム・ドラゴンなんて使えないわ‥‥‥魔法を制限するためにこんな小さな城に住んでいるなんて、魔王はなかなか頭が良いようね!しかも、装飾品がゴチャゴチャしすぎていて剣も振り回せない!」
 ――― コンビニなんて、大抵このくらいの広さだと思うけれども‥‥‥
 魔王の居城にしてみたら、かなり狭い。 今は2人パーティだから良いが、これが5人も6人もになってしまったら、それこそ味方どうしで剣がぶつかり合い、負傷者が出そうだ。 そして装飾品など良いものではなく、これは全て商品だ。
「子守唄!」
 トローンとしたミシェルの美声が響くが、店内にかかっているハードロックが邪魔している!‥‥‥ミス!
「えぇっと‥‥‥」
 自分の番になり、シュラインは焦った。
 ――― 眠り魔法がきかないんじゃぁ、いつミシェルさんが剣を振り回すか分からないわ‥‥‥
 えぇっと、えーっと‥‥‥
「げ、減俸よっ!!」
 頭に浮かんだ言葉をそのまま投げつければ、テンインがグラリとよろめいた。ダメージ139、なかなかきいている。
「凄いじゃない!魔属の魔法が使えるなんて!」
 これ関連の魔法属性は魔だったのね‥‥‥。 全身から力が抜けそうになる。
 それにしても、魔属性の僧侶はどうなのだろうか。破戒僧になるのだろうか‥‥‥?
「今日は中華まん1個100円でーす」
 シュラインにはきかなかった。 ミシェルがふらふらと中華まんを買いに歩き出した!
 ミシェルが行動不能なため、シュラインに順番が回ってくる。
「レジ早くしてよ!」
 会心の一撃! テンインに589のダメージ、テンインは泣き出した!
 獲得経験値800、シュラインはレベル12になった!
 シュラインとミシェルは、隅っこでめそめそしているテンインをその場に、奥に踏み込んだ。 ちなみに、レジの後ろに置いてあった防犯カメラの映像を確認、記録を消去して電源を落としておくのを忘れていなかった。
 奥では棒アイスを袋から取り出し、食べようとしているテンチョウがいた!
「ミシェルさん、この場は私に任せて!」
 未だに中華まんに心を奪われているらしいミシェルにそう声をかけ、彼女が防御したのを見届けると、シュラインはテンチョウの前に立ちはだかった。
「大変です店長!売り上げが合いません!」
「な、なんだとー!?」
 テンチョウに256のダメージ
 テンチョウの攻撃
「春からイチゴフェアが始まります!」
 シュラインにはきかなかった。 ミシェルは心動かされた!
「ミシェルさん!アイテムを使うのよ!」
 ミシェルはアイテム・耳栓を使った!
 シュラインの攻撃
「店長大変です!商品の数が合いません!」
「ぐはぁっ!!」
 テンチョウに261のダメージ
 テンチョウの攻撃
「お弁当とお茶をセットで買えば100円の割引です!」
 シュラインにはきかなかった。 ミシェルは耳栓のため、聞こえなかった!
 シュラインの攻撃
「店長!売り上げが伸び悩んでいます!」
 会心の一撃、テンチョウに521のダメージ!
 テンチョウは涙ぐみ始めた!
 テンチョウはエグエグしていて攻撃が出来ない!
 ミシェルは防御した
 シュラインの攻撃
「店長!」
 テンチョウに172のダメージ!
 テンチョウは三角座りをして泣き始めた!
 シュラインとミシェルはテンチョウを倒した!
 ――― 呼びかけただけなのに‥‥‥!
 獲得経験値5893、シュラインはレベル31になった!
 ――― 随分強くなったわね‥‥‥
 勿論、強くなったと言う自覚はない。
「これが封印棒アイスね‥‥‥!」
 ミシェルが店長の手からアイスをもぎ取り ――― 思い切り、イジメっ子がイジメられっ子から物を奪う時と同じ光景だった ――― シュラインが自分の痕跡が残っていないか入念に確認する。
 店長のアイスを取ったくらいで何かあるとは思えないが、監視カメラを切ったり突然店の奥に押し入ったりと、訴えられてもおかしくないことは多々やっている。‥‥‥こんなわけの分からないことで訴えられても困る!
「さぁ、行きましょうミシェルさん!」
 封印棒アイスを手に入れた事によって悦に入っているらしいミシェルの袖を引っ張り、だーっと店から駆け出す。 ガードレールやデンチュウが倒れているそばを走り去り、あやかし荘近くのコンビニの前まで来ると、封印棒アイスを地面に叩きつけた。
 食べ物を粗末にするのは胸が痛んだが、この世界を目覚めさせるためなのだから仕方がない。 アイスがグシャリと潰れ、シュラインはしゃがみ込むと棒を拾った。棒の真ん中には、文字が彫られており‥‥‥
「“みっしょんこんぷりーと”」
 思い切り平仮名で書かれた細かい文字に目を凝らした瞬間、ザワリと空気が揺らいだ。
「再び世界に平和が戻りました。けれど、いつまた魔王が現れるか分かりません。もしまた魔王が出現するような時があったら‥‥‥力を貸してくれますか、シュライン?」
「えぇ、勿論」
 “ The true world 〜 a fable of world guards 〜 ”の最後の台詞を返し、シュラインは目を閉じた。 静かだった世界に音が溢れ、人の気配が戻って来る。
 そして ―――――
 シュラインは“みしょんこんぷりーと”と書かれた棒をコートのポケットに滑らせると、コンビニの自動ドアをくぐった。
「らっしゃいやせー」



END


◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


 0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員


◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

途中にあった、おかしな霊動物と言うのは‥‥
象霊(胃袋が大きくなる=大食い大会優勝を目指せ!)
豚霊(トリュフが見つけられる=お金を稼げ!)
ですとか、戦闘に関係ない力を授けてくれる平和的な霊動物です
それにしても、ガードレールと電柱の悲劇は地方記事のトップを飾りそうですね!
何万世帯停電とか、そう言う被害をもたらしていそうな‥‥‥
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです
この度はご参加いただきましてまことに有難う御座いましたー!