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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ お騒がせ3人組〜一つ積んでは誰のため?〜 +


 一つ、積んでは父のため。
 二つ、積んでは母のため。
 三つ、積んでは……。


 ああ、何度小石を積み上げても壊される。
 今日も明日も明後日も……永遠に。


 一つ、積んでは父のため。
 二つ、積んでは母のため。
 三つ、積んでは…………。


 やってくる。
 ―――― 鬼達が今日もこの石を壊しにやってくる。



■■■■



 某月某日。
 都外の小さな河原跡にて少女三人が集う。


 一人目の少女は「SHIZUKU」。
 私立神聖都学園では怪奇探検クラブの副部長を努め、また芸能界ではオカルト系アイドルとして名をあげている少女だ。ボブカットに切り揃えられた茶色の髪には可愛らしく髪留めがくっついていた。


 二人目の少女は「白鳥之沢 由貴子」。
 長く伸びた黒髪は少しだけ後部で結い上げ、サイドをすっきりと見せている。可愛らしく微笑む姿はまさにお嬢様系美少女といっても過言ではない。だが怪談話が大好きと言う一面もある。


 三人目の少女は「月見里 千里」。
 彼女は短く切り揃えられた茶色の髪の毛、整った顔つきから中性的な雰囲気を漂わせている。だが他の二人とは違い、彼女だけは何故か浮かない顔つきをしていた。
 もちろん、その理由は……。


「ふふふ、此処もまたいわく付きの河原らしいのー」
「錆びれきった河原が霊界に繋がっている『かも』しれない……なぁーんて、雰囲気ばっちりじゃない?」
「つ・ま・り! 今日もあたしを騙してやってくれちゃったわけね、あんた達!」


 千里は隣でくすくす笑いあう少女達に呆れの息を零す。
 当の少女達は「騙してなんかいないわ」と逆に強気で言い返す。


「あたしは素直に頼んだわよ?」
「うんうん。素直に、『ちょっと探し物があるから(賽の)河原に行きたいの』って」
「お願いだからカッコを省略しないで!」
「えーカッコを外した瞬間に色々危ないことばれちゃうじゃない」
「確かにSHIZUKUちゃんは『嘘』はついてないよー?」


 うんうん、と由貴子が頷く。
 SHIZUKUは満足したかのように腰に手を当てにっこりと笑った。そんな二人にあてられ、千里はくらりと頭痛を感じ始める。
 千里は元々『怪談』と言った話題が大嫌いなのだ。なのにSHIZUKUと由貴子の二人ときたら、いつもあの手この手その手裏の手、場合によっては猫の手も借りて色んな心霊現象を探し出し、挙句の果てに千里を巻き込んで原因調査を開始するのだ。


 今日もそうだった。
 三人で長閑に喫茶店で談話している最中、ふと思い出したかのようにSHIZUKUが「そういえば……」と言い出したのだ。もちろん千里自身は「落し物でもしたのかな?」と思っただけに過ぎない。ならば手伝ってあげてもいいかなと思ったのが運の尽き。
 喫茶店を出てから三人で歩いていった先が――――(賽の)河原、だったというわけで。


「といっても本物の賽の河原じゃないよ。でも『賽の河原』って言われる由縁はちゃんっとあるから!」
「そんな自信たっぷりに言われても……」
「あのね、最近大体六時くらいからほんの少しの時間なんだけど、赤ん坊の泣き声とあの『歌』が聞こえてくるんだってー」
「歌?」
「ちーちゃん知らない? 『一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため』っていう歌」
「ああ、あれでしょ。確か小石を積み上げながら歌うやつ。えーっと親より先に死んだ子供が親を悲しませた罪を購う為に必死に小石を積み上げるんだっけ?」
「積み上げきったら成仏出来るんだけど、完成するその前に鬼がやってきて壊しちゃうんだってね」
「だから子供はずっとずぅーっと石を積まなきゃなんないの。……ちょっと胸にくる話だよね」


 SHIZUKUが手首を持ち上げ、袖を軽く捲る。
 その下に隠れていた時計が今六時手前であることを教えてくれた。由貴子は胸に抱えた雑誌――しかも怪談に纏わるもの――をぎゅっと握り締めながら辺りを見渡す。


 三人三様に辺りを見回してみるがそこはなんてことない河原。
 徐々に太陽が山の向こう側に消え、どこか寂しい景色となっていくがそれ以外はわりとどこにでもある風景だろう。人の手が入っていないのか少々草が荒れ果てて見える。千里は草を踏みしめるように河へと近付き、水流を覗く。水の透明度は思ったより高く、水底まではっきりと見通すことが出来た。
 そっと手を差し入れてみると、ひやっとした温度が伝わる。
 由貴子がポケットからハンカチを取り出し千里に渡す。彼女はお礼を言いながら其れを受け取った。


「さーてとそろそろ六時。二人とも、覚悟よろしくね!」
「や、やっぱり帰らない? そ、そうだ! 昼休みに二人が教えてくれた例の店の名物ピザを食べに行くとかどう!? 今日ならあたし奢っちゃ――」
「ちーちゃん」
「――……うぐ。駄目、ですか……」


 怪談嫌いの千里が何とか話題をそらそうとするけれど、SHIZUKUと由貴子は頑として聞き入れない。
 やがて太陽が山に沈みきり、辺りの影もより濃く深くなっていく……。
 ひゅぅう……。
 三人の身体に纏わり付くかのように風がなく。そのあまりの寒さにぶるりと各々身体を震わせた。


―― ひゅぅう。
 風がなく。
―― ひゅうぅ。
 風が啼く。
―― ひゅううう……。
 風が。
―― ……。
 風が。
 風が、泣いている。


「ねえ、何か聞こえない?」
「ちょ、やだ! あたしもうリタイア!」
「え? え? ちーちゃん逃げちゃ駄目だよ!」
「あ、あれ! 二人ともあそこ見て!」


 SHIZUKUが何やら慌てて指を指し示す。
 由貴子と千里もそちらを向けば、そこに居たのは一人の赤ん坊。


―― っく、ふぇ……ぅえ。
―― 一つ積んでは父のため。
―― うぇえ……っ、うう……。
―― 二つ積んでは母のため。


 生後一年程度だろうか。
 自分達にとっては小石でも赤子にとっては大きい石をその小さな手で掴み、懸命に積み上げていく。ゆっくり一つ一つ重ねあげていく様子を三人は息を飲みながら見守っていた。
 時に石を落とし、自ら積んだものを壊してしまいながらも積むその姿は物悲しい。


 これが親より先に死んだ子供に与えられた罪。
 いつ亡くなったのか分からないが、この子は永遠に贖い続けるのだろう。


―― っく、ふぇ……ぅえ。
―― 一つ積んでは父のため。
―― うぇえ……っ、うう……。
―― 二つ積んでは母のため。


「あ、落としたっ。頑張れ、あとちょっと!」
「……ちょっと待ってよ。今あたしまずいことに気付いた。このままじゃ、『来る』よ」
「来るって……っ、ま、まさか!?」
「それ! その石を積み上げたら最後だからね!」


 由貴子が赤子を応援するその後ろでSHIZUKUと千里は『気づいてしまったこと』に顔面の色を変える。
 赤子がふるふると最後の一つを乗せようと手を伸ばす。傷だらけの手はとても赤子のものとは思えないほど痛々しい。だが決して自分達が手伝ってはいけないその行為を三人はただ見ているしかない。


―― ひぃ……う、っく。ぅええ。
―― 三つ積んでは……。


―― ひゅぅうう。
 風が再び吹きだす。
―― ひゅぅ……。


 だが、それは唐突に何かに遮られるかのように止まった。


「……来たっ」
「え? 何。何が来たの?」
「やややややや、やばい! 二人とも逃げよう!」
「だから何が来――――ッ、きゃああ! 鬼ぃ!!??」


 三人の後方僅か数メートル先には頭の上には角らしき突起を二本生やし、腰には虎の毛皮を巻いたいかにも『鬼』だといわんばかりの大男がいた。
 三メートルはあるであろうその鬼の姿に由貴子は一変してパニックに陥ってしまう。今までとは違い、がくがくと足を震わせ、その場にがくりと崩れてしまった。彼女は普段は怪談話や心霊現象などへっちゃらなくせに、実際目の前にした途端自分を見失ってしまうところがあるから困ったものだ。


「二人とも、逃げるよ!」
「でもちーちゃん、最後の石がっ……あれが乗ればあの子成仏、出来るんだ、よね!?」
「そうだよ、成仏出来るんだから!」


 千里がSHIZUKUと由貴子の手を引き、その場から逃げようとする。
 だが赤子の姿が視界に入ってしまう。懸命に最後の一つを山の上に乗せようと頑張っている赤ん坊の姿に三人は釘付けになり、足を動かせずにいた。
 本当は今すぐにでも去ってしまいたい。


 だがSHIZUKUは。
 だが由貴子は。
 だが千里は。


 自分達の存在など初めから目に入っていないかのように鬼が赤子のすぐ傍まで歩み寄る。
 そしてその大きな足をぶん、と振り上げ――。


「駄目ーっ!!」


 千里は咄嗟に駆け出し、一度手を握りこむ。
 その手が開かれた瞬間、彼女の手の中に出現したのは鬼の金棒。刺々しいそれを力いっぱい鬼の足に叩きつけ、石が崩れるのを防ぐ。
 鬼は思わぬ攻撃に一瞬固まるが、すぐに姿勢を正した。次に千里の方へとぐるりと身体を向け、本物の金棒をぐわっと振り上げる。もちろん、今度の標的は赤ん坊ではなく千里だ。


「えい、えいっ! こっちにはあたしだっているんだから!」


 SHIZUKUが千里の後ろ――やや遠め――から河原の石を拾って投げつける。
 攻撃力はないに等しいが、それでもSHIZUKUの存在を知らせるには充分で、鬼はSHIZUKUと千里を交互に見た後、大きく金棒を振り回し始める。


―― ぐぉおおおお!!


 それはまるで辺りのもの全てなぎ倒すかのよう。
 SHIZUKUは要領よく逃げつつも小石を拾って投げつける。千里は自分が作り出した金棒で攻撃を避けながら鬼に向かっていく。
 全ては赤ん坊のために。


「ささ、今のうちに早く積み上げちゃいましょう!」


 由貴子はしゃがみ込み、赤ん坊を応援する。
 いつの間にやら握り締められた拳をぶんぶん振り上げ、最後の一つが乗るのを今か今かと心待ちにしていた。


 やがて、かつん、と音が鳴る。
 赤ん坊が恐る恐るその手を離し、徐々に小石の山から遠のく。


「やっ……やったぁああ!! やったよ、赤ちゃん頑張ったよ! 積み上げきったよ!」


 その声を聞いたSHIZUKUと千里は戦闘中にも関わらず赤子と由貴子の方に顔を向ける。
 そこには満面の笑顔を浮かべながらはしゃぐ由貴子の姿があった。


 雲の切れ目から光が差し、赤ん坊へと降り注ぐ。
 赤ん坊はやがてそれに解けるかのようにさぁあ、と消えていった。
 ――――あの子は成仏したのだ。
 それが分かると、千里は次なる問題である鬼へと身体を向ける……が。


「あ、鬼もいなくなっちゃってる」
「一緒に成仏しちゃったのかな?」
「そんなわけないでしょ。多分用事がなくなったから消えただけだと思う」
「あー、綺麗さっぱりなくなっちゃってまあ……。まるで夢みたいだったね」
「SHIZUKUちゃん、ちーちゃん、夢じゃないよ」


 彼女はそっと足元を指差した。
 そこには高く積み上げられた小石の山が存在している。確かにそこに赤ん坊がいた証だ。頑張って頑張って積み上げた赤ん坊の努力の『証』だった。


「きっともうここは賽の河原じゃないね」


 由貴子はつまずかないよう気を使いながらゆっくり二人の元へと歩んでいく。
 SHIZUKUと千里の腕を引きながら微笑めば、二人もまた同意するかのように笑みを浮かべた。



■■■■



 某月某日。
 イタリア料理店にて。


「あれからちょっと調べたんだけどね。あの河原、数年前に一人赤ん坊が死んでるんだよねー」
「え……」
「でも赤ん坊が一人で河原になんかいかないでしょ? だから当時は色々あったみたいよー」


 はーやれやれとSHIZUKUは首を振る。
 千里は出来立てのピザを口に運びながらSHIZUKUが調べてきたらしい新聞記事を眺め見た。そこには確かにあの河原の写真が載っている。


「でもあの日以降歌は聞こえなくなったみたいだから、きっと成仏したんじゃないかな」
「うんうん、頑張った甲斐があったね! ――――主にちーちゃんが」
「…………も、もう行かないからねっ!」


 警戒するかのように千里が二人を睨む。
 だが二人はにこにこと何やら意味深な笑顔を浮かべていた。千里は何やら居心地の悪さを感じ、それを払拭するためにピザをもう一齧りする。租借を繰り返せば程よいトマトの味が舌の上に乗ってきた。


「ちーちゃん、それ美味しい?」
「ん? うん、凄く美味しいよ。あ、食べたかったら勝手に摘んでいいから」
「そうかそうか。美味しいんだね。……美味しいんだね」
「SHIZUKU……何、その微妙な間は」
「えーそんなことないようー。美味しいんだなーって、思っただけで」
「……」


 絶対に何かたくらんでいる。
 そう感じた千里はピザを食べる手を止めた。由貴子がバックの中から何かの本を取り出し、ぱらぱらと捲る。やがてあるページを開いた後、千里に差し出した。


「あのね、ちーちゃん。これ見て?」
「何々……『今人気のイタリア料理店は此処だ!』――ああ、このお店の記事?」
「その先も読んでみて?」
「『人気の理由は何と言っても味。中でも名物ピザがオススメ!』……うん、このピザ確かに美味しいけど」
「その先もちゃぁんと読んでよ?」
「……『だけどあら不思議★ その店は数年前起こった強盗殺人事件が原因で現在は運営おらず、空き家と化している』…………」
「最後まで読もうね?」
「『当時殺害されたのはコック長とウェイトレスの二名。誰もいないはずのその店は時々思い出したかのように明かりを灯し客を迎える。――『殺害当時の姿』、そのままで』……」


 千里はさぁーっと自身の血の気が引く音が聞こえた。
 SHIZUKUと由貴子はいまだに口を付けていない飲み物とピザを目の前にさらに笑顔を深める。
 そして最後に声を揃えてこういった。


「「今日は開いてて良かったね!」」
「よ、よくなぁああいい!!!」


 がたん! と勢い良く千里は立ち上がる。
 レジにいたウェイトレス、そしてオープンキッチンにいたコックがその音に気がついて顔をあげた。
 反射的に三人もまた店員二人を見つめ、そして――。


 千里は口の中に未だ残る『何かの味』をただ飲み込んだ。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4657 / 白鳥之沢・由貴子 (しらとりのさわ・ゆきこ) / 女 / 16歳 / 高校生/お嬢様】
【0165 / 月見里・千里 (やまなし・ちさと) / 女 / 16歳 / 女子高校生】
【NPCA004 / SHIZUKU / 女 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は発注有難う御座いました!
 コミカル&ギャグ+ホラーということでこんな風になりましたがいかがでしょう?
 わりと最後が個人的には満足しております(笑)
 一部でも笑い、そしてぞっとしていただければいいなーと思います。ではでは!