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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 バレンタイン狂詩曲

 このごろレノアがよそよそしい。
 何か隠し事をしているような、そう言う風。
 ずっと彼女を見ていると、超鈍感でもそれぐらいわかってくる。
 平時の彼女は、かなり顔に出るような性格なのだ。
 
 キッチンに入ってこないで欲しいとか(それはそれでかなり危険)、案の定、キッチンは大惨事。
 1人で出かけて迷子になって、泣いているところを助ける。
 怒る訳にもいかない。
 つまり、感謝を込めて(もしくは想いを込めて)2月14日を大切にしたいのだと。
 キッチンにあるお菓子類の材料を見れば判る。
 ずっと世話になっているのだから、感謝を込めて何かを作りたいのだと。

 告白の日。2月14日。
 それは、恋の告白か? もしかしたらそれ以外の事かもしれない。
 
 その彼女の想いを、あなたはどう受け止める?
 その日は何かのきっかけに過ぎないのだ。

 そう、冬に舞う粉雪のように、想いは……。


〈分かる〉
 獅堂舞人は朝、起きた。歯を磨き、顔を洗い、食事を作ろうと台所に向かう。其れが日課なのだが。
「しばらく、貸してください!」
 レノアに、台所を通せんぼされた。
「レノア? 俺、ご飯作り……。」
「私が作りますから! リビングで!」
 と、押しやられる。
「???」
 とりあえず、あの事件から1年近く経とうとしている。それからは、平和な日々を送っていた。レノアの料理は上手くなったので、任せてはいるが、普通は一緒に作ることが多い。此はおかしいと彼女の後ろ覗き込もうとする舞人なのであるが、レノアが其れを阻止する。
「仕方ないなぁ。」
 彼は渋々従った。
 落ち着きのない彼はTVを付けて朝のニュースを見る。
 其処に映し出された特集に、舞人は何か引っかかるのだが、確信まで至らない。大体自分は、あまり女運に恵まれて無い気もするのだ。幻想破壊という「破」の概念が、神の幸運さえも奪っていると言われているのだ。今は別として、しかし、今でも信じられないのが彼の本心に見え隠れする。
 墓参りの後のお花見。
 そこで、2人は愛を誓った。
 まだ、学生なので一線は越えてないが。
 それに、まだこう言うのは緊張する。女運がなかったから。くどいようだが。
「ああ、どうしたってんだろう……レノアは。」
 包丁がまな板を叩く心地よい音のなかに、疑問が浮かんでいた。

 2人は学校に向かう。大学生と高校生というこの微妙な関係。気にすることもないのだが、意識してしまう。
「舞人さん!」
「こら、手を!」
「ふふ。」
 レノアは、神聖都学生服で、彼の手を握り、登校する。
 周りからは、既に恋人と知られているし、更にレノアが目立つ。ある一区間は、もう周りが慣れているが、学校近くになると全く異なってしまう。まだ異界にいるような、驚きと嫉妬の視線を感じるのだ。優越感と恥ずかしさをかかえて、舞人はこの毎日を暮らしている。
「レノア、どうして今日は?」
「え?」
 舞人の言葉で、レノアは首をかしげる。
「台所に入れてくれなかったんだ?」
「ああ、そそれはー、そのー。」
 何か言い訳を考えているのだろうか。
 そして、顔が真っ赤になる。湯気も出ているようだ。
「ええと、乙女の秘密です! なので、其れを聞き出そうとする舞人さんなんて嫌いです!」
 とは言いつつも、手は離さない。
 逆に、握る力が強くなっている。
 何という矛盾。
「いたい、いたい! ごめん、ごめん!」
「あ、ご、ごめんなさい!」
 レノアは手を離した。
 彼女は、まだ真っ赤な顔で、
「あの……もう、少し……、待ってくれませんか?」
 舞人に向かって尋ねる。
「あ、わかった。待つよ。」
 舞人は頷く。
 信じているから。
「よかった。」
 それに、自分も真っ赤になっていたかもしれない。

 TVの特集はチョコ、台所、そして、隙を見てのぞき見た、数々のお菓子の材料……。今になって気が付くのだ。

 夜、レノアはずっと部屋にこもっている。
 だいぶ前に、レノアに「万歳してください」などと、色々謎な格好をさせられた。
 そのときにも、
「乙女の秘密です。」
 と、答えを聞けなかった。
「俺、何か悪い事したっけ?」
 舞人は首をひねる。
 ドアには、
【進入禁止! 女の子の秘密を暴くと天罰が下ります!】
 と、部屋の看板が掲げられているのであった。
 はやりレノアの様子はおかしい。そう、
 今なら、分かる。分かる舞人は、先のことを考えてしまい、恥ずかしくなった。


〈想わぬ展開〉
 2月13日
「おい、獅堂!」
「なんだよ」
「お前はいいよな! レノアちゃんからもらえるなんて!」
「……うるさい」
 どこで広まったのか不明だが、レノアと同棲していることが、大学校内では広まっている。下手にからかうと彼の蹴りが来るので、ホドホドのからかいだが。
「彼女は、まだ料理を覚えているばかりだ。もしかしたらもらえないかもしれないじゃないか。」
「何を言うか! 料理下手な恋人が一生懸命作った料理を食べる! 此こそ萌えシチュエーションの最高峰ではないか! まあ、命の保証はしないけどな。」
 学友が、なぜか力説する。
「ふと思うけどさ、俺、どうしてお前とつきあい長いんだ?」
「其れも運命だ。運命繰りにも斬れない運命があるのさ!」
 男が、誇らしげに言う。
 いや、出来れば斬って欲しい。
 そう思ったがあえて口にしない舞人であった。

 恋人がいない男どもに、闇討ちされることなく、この日は過ぎる。

 そして、14日5分前。
 舞人はリビングで、欠伸をしながら深夜にあるスポーツニュースを見ていた。
 不意にTVのスイッチが切れる。
「?」
 気が付くと、レノアが立っていた。
「レノア?」
「あの、あの良いですか?」
 彼女は緊張して、肩を振るわせているようだ。
 ただ、あの事件にあった恐怖などの感情からではないのは明らかに分かる。
「どうしたの?」
 少しだけの沈黙。
「あの、此を!」
 レノアが差し出したのは小さな紙の包みと、大きな紙の包みであった。
「え?」
「お菓子は旨く作れませんでしたけど! セーターは、セーターは上手くできたつもりです!」
 包みを開けると、
 少し焦げのあった、チョコクッキー。
 そして、大きなほうには、手編みのセーターであった。
「レノア。」
「間に合って良かったです。舞人さん、大好きです。愛してます。」
 レノアは微笑んで、告白した。
 その、笑顔に、舞人はあたふたする。自分でも分かるぐらい、顔が熱い。
「あ、あ、ありがとう、れ、レノア」
「熱でもあるのですか? それは、大変です!」
 レノアは彼を抱きしめる。
「レノア?」
「こうすると、熱は引きます。」
 いや、逆に加熱死そうという心の突っ込みは置いておき……、と不思議に落ち着いてきた。
「レノア、ありがとう。俺何も用意してないや。」
「いいんです。日本じゃ、“お返事とお返し”は後だから。」
 と。
 舞人は、彼女を強く優しく抱きしめ返す。
「……レノア。前にも言ったけど、もう一度言うよ。これからもレノア一緒に進んでいく。何があってもね。これは俺のチカラでも壊せない、幻想ではない本当のことだから」
「はい。舞人さん。」
 2人は見つめ合って、お互いの唇を重ね合った。

 14日0時5分の事である。

 これからも此は今のこと、まぼろしではない。ほんとうのことなのだ。

 END

■登場人物
【2387 獅堂・舞人 20 男 大学生・概念操者「破」】

■ライター通信
滝照です
蒼天恋歌 バレンタイン狂詩曲 に参加してくださりありがとうございます。
甘めなのかどうかは私自身判断できませんが、いかがでしたでしょうか?
ノベル納品は14日からかなり遅れましたが、このお話は14日0時5分で終わっています。
 

 また、どこかのお話しでお会いしましょう。

滝照直樹
20080216