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五つの封印石〜第一話〜
◆オープニング
すっかり空に闇の帳が降り、半分になった月が雲の合間から光を落とす。
神聖都学園の広大な敷地の中の一角に、その場所はあった。
肝試しのスポットともなるそこには、五つの古ぼけた石が置いてある。その石には妙な紋章が彫られていたが、その姿は苔に阻まれて見えなかった。
そこに現れたのは二つの人影だった。
肝試しに来たのだろうか、少年と少女の二人は品のない笑い声を夜空へと響かせながら歩いていた。
「こんなとこに来るぐらい、わけないっつーの！」
「幽霊なんているわけねぇじゃん」
そういいながら、足元に佇むその五つの石を目に入れた。
「これってさぁ、倒すとどうなんだろう」
そういったのはどっちだったのか、それはもうわからない。
ただ、その言葉をどちらかが吐いた瞬間、二人はその五つの石を蹴飛ばしたのだ。
「あはははー」
「祟れるもんなら祟ってみろっつーの！」
言いながら二人は背を向けてその場を去ろうとした。
しかし。
それは突如としてその場に現れたそいつらによって阻まれる。
がっしりと男の肩がつかまれた。男が肩を見ると、それは嫌に爪の伸びた手だった。
「な」
男が驚きに声を上げかけるが、それはもはや声にはならなかった。
「感謝するぞ」
その姿を見た瞬間、肩で息をすることしか出来なくなった。
「われらを目覚めさせてくれて、な」
「そうだねー。えへへー、ありがとー」
「あーあ、久々の外よ。いいものねぇ」
「サンキュー」
その場に現れた五人の異形が口々にそういう間に二人は気を失ってしまっていた。
五人はくすくすと笑いながら、神聖都学園の中にそれぞれ散っていった。
＊＊＊
月が、綺麗な夜だった。
少し長めのショートヘアを風になびかせながら、黒いコートの男・黒城 凍夜は一人、夜道を歩いていた。月を背負った凍夜は少しばかり肩を落としているようだ。その原因は今日の仕事にあった。ハズレ仕事。ため息を落としつつ歩いている彼の前方から、騒々しい息切れと駆け足が聞こえてきて、凍夜は何かとその方向を見る。
まだ高校生ほどの男女が必死に走っている。その形相にただごとではないものを感じ取ると、凍夜は二人を呼び止めた。
「おい、一体何があった」
二人は凍夜に気づくと、すがるような目で彼を見て、懸命に呼吸をしようとする。話せる状況ではないな、と判断した凍夜は、辺りに神経を巡らした。
神経を巡らしてからすぐに、嫌な気配が凍夜の神経を撫でる。
それは、塀の向こうからだった。そう言えばこの向こうには学園があったな、と思い出す。
「あ、あの」
息を整え終わり、凍夜に事情を話そうとした二人の言葉を待たず、凍夜は軽く自分の身長よりも高い塀を乗り越えた。学園内に入ると、鬱蒼とした茂みが凍夜を向かい入れる。立ち上がった凍夜は辺りを見渡して、歩き出す。
しばらく歩いていると、茂みの中から異様な雰囲気を醸し出している石を見つけだした。
「これは……」
凍夜は低くつぶやいてしゃがみ込むと石に触れた。
ちょうど五つあったその石は、封印石と呼ばれるものだったのだろう。石自体に魔力が残っているようだった。そして、封印されていたもの達のまがまがしい妖気がそこには漂っている。
「こんなもん蹴っ飛ばしたら、そりゃびびりもするか」
先ほどの二人の必死な様子を思い出し、凍夜は肩をすくめた。それから立ち上がり、腕や足を鳴らす。
「よし、いっちょ行くか」
ハズレ仕事で溜まった鬱憤を晴らせる、とわくわくしながら、凍夜は夜の学校の中へと向かっていった。
＊＊＊
夜の学校は非常階段の電灯や月しか光の元がなく薄暗い。そんな中を凍夜は一人歩いていた。教室の扉を一つ一つ開けながら、化け物をおびき寄せるようにする。
そんな凍夜の思惑を知ってか知らずか、長い廊下を歩いているとき、突然ビリリと電気のような殺気が彼の背を貫いた。左によけると、何かがすごいスピードで飛んできて、先ほどまで凍夜がいた場所を貫いた。床が抉れ、その場に一人の男が現れる。
「よく、避けたな」
黒い髪に黒い瞳の男の額には、二本の角が付いていた。口の端から零れているのは牙で、爪は酷く伸びていた。きっと床をえぐったのはあの爪だろう。凍夜は脅すように睨み付けて来る鬼に、笑い返す。
「殺気だらけで、気配を消せてない」
かっと鬼が目を見開いて、凍夜に向かってくる。長い爪が凍夜の腕をかすめようとするが、彼は軽く避ける。
「そうかっかするなよ」
休む間もなく攻撃を仕掛けてくる鬼の攻撃を避けながら、凍夜は言った。そんな凍夜に、鬼は牙をむき出しにする。
「うるさい、人間が！」
「話す気はなし、か」
「そうだ！ さっさとオレの餌食になれ！！」
「じゃあ、しかたない、な」
鬼の攻撃を避けるついでに、凍夜は後ろに大きく飛び退いて鬼との距離を取った。
鬼が凍夜に向かってくる前に、血液を凝固させた武器を作り出す。
「おまえには、これだけで十分だ」
少し長い片手剣を出して、凍夜が笑った。これだけで十分だと言われたことに腹を立てたのか、鬼が凍夜に向かってくる。
「貴様など、八つ裂きにしてやる」
「来いよ！」
殺気むき出しの鬼に対して、凍夜も殺気をむき出しにして迎え撃つ。剣を振り下ろした。二人の体が一瞬重なり、そして離れたその瞬間。
鬼の腕が宙に舞い、紅い血が窓や床をぬらした。
「うわぁぁぁ」
鬼の悲鳴が辺りの静寂を破り、静かだった学校がにわかに騒がしくなる。凍夜は口元に軽く笑みを浮かべ、鬼を振り返った。憎しみの光を瞳に宿している鬼は、凍夜に向かって駆けだした。
「貴様ぁぁぁぁぁ」
もう片方の爪で凍夜に捨て身の攻撃を仕掛ける。
しかし、凍夜は余裕の表情でそれを避けると、鬼の耳元に口を寄せる。
「相手が、悪かったな」
一言だけ言うと、凍夜は剣をきらめかせ、鬼の体を切りつける。四肢をバラバラにして、鬼を八つ裂きにすると、床に優雅に着地した。
鬼だった肉片は床にバラバラと落ちると、そのまま空気に溶けるようにして霧散していった。血痕すら残らず霧散して、戦いの後はそこに一つも残ってはいなかった。
「後四人、か」
凍夜は静寂の中で、つぶやいた。
＊＊＊
「あのあと、何も出てこなかったな」
鬼を倒した後、他の化け物も探したが、そのほかの 化け物は出てこなかった。凍夜はがっくりと肩を落としながら、帰路につく。学園を振り返り、次はどのようにして化け物を倒してやろうかと思案する。
「学園に潜り込むには、警備員とかが良いか」
呟いて、凍夜は殺し合いができる楽しみに、微笑んだ。
エンド
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【７４０３／黒城・凍夜／男／２３歳／退魔師・殺し屋・魔術師】
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■ ライター通信 ■
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黒城 凍夜様
依頼、ありがとうございます。
自分なりに精一杯書かせていただきました。
次回も精進していきますのでよろしくお願いいたします。
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