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<Bitter or Sweet?・PCゲームノベル>


甘いのがお好き? ―黒編―



 親しき仲にも礼儀あり。
 2月14日。ある意味、決戦。ある意味、定番。ある意味、掌の上。
 そんなバレンタインの日。
 あなたは大切な人、友人、恋人と……どう過ごしますか?

***

 2月14日。
(バレンタイン……か)
 街は女の子で賑わい、教室内も皆そわそわしているように感じる。
 男はかなりどきどきする。朝から。もしかしたら、なんて……淡い期待を持ってしまう。半分は、そんなことあるわけないだろっていう感情。
 義理でも貰えれば儲け物。
(……そりゃ、俺だって男だし、貰えたら嬉しかったけど)
 過去の経験からいうと、特に盛大なイベントではないと感じていた。
(でも)
 今年は違う。
(……フレアって、バレンタインに興味なんてあるのかな……)
 彼女の性格を考えると忘れていそうな気がする。いつも飄々として、男前で、親友を大事にしているカノジョ。
(あんまり期待しないほうがいいの、かも……。いや、でもやっぱり……フレアからのは欲しいし……)
 なんでもいい。どんなものでもいい。なんていうか、その……こういうイベントに好きな女の子から何かを貰いたい。
 あまり露骨に期待しているとカッコ悪い。カッコ悪いところは、好きな女の子には見せたくない、できれば。
 北斗は学生。彼女は人ではない。接点なんて、ないのだ。
 もらいたいなぁ、フレアから。
 ふらっと現れて「ほらよ」とか、色気もそっけもなく渡されそうな感じはした。こういうイベントに興味なんてなさそうだ。
 付き合うのは全部終わってからだと言っていた。
 ……自分は彼女と付き合ってはいない。はっきりそういうことは言っていない。
 好きだと告白はした。フレアは、待ってくれと言っていた。全部終わった今……自分たちの関係はどうなるんだろう?



 がしがしと頭をかいて、北斗は校門に向けて歩き出した。今日は部活がないのだ。
「なんか上の空だな? どうした? フラれたか?」
 同じ部活の同級生から言われて、北斗は渋い表情をする。
「フラれてねーよ」
「でもチョコはゼロだろ? 任せろ。俺もだ。仲間仲間。
 彼女がいないのがなんだ! そんなの気にしたほうが負けだぜ!」
 な? と言ってくる友人に北斗は言葉を返せない。自分はまだ期待している。フレアがチョコをくれるのでは、と。望みを捨てきれない。きっと、今晩の24時まではこんな調子が続くだろう。
 校庭を歩いていた二人は、いや、友人は校門を見て「あ」と小さく声をあげた。
「うわっ、なんだ? セーラー服の女が校門待ちしてるぜ。バレンタインだし、誰か待って……あ、俺を? なんつって」
 笑い混じりに言う彼の声に、北斗は校門のほうを見遣った。
 夕暮れの中、濃紺のセーラー服姿の娘が立っている。水色のスカーフと……夕日に染まったかのような、赤い髪。
 まさか。
 そう思った。フレアじゃ、ない。だって学生服だ。でも、あんな赤い髪は。けど染めれば誰だって。
 呆然として北斗は立ち止まってしまう。
 娘は校門に立っている。瞼を閉じて。余裕な様子で。
(う、わ)
 どうしよう。でも、まさか、だろ。
 別人だったらという落胆を考えて、北斗は歩き出す。期待するな。期待しちゃうと、間違った時にかなりヘコむ。
「もー、梧ってばノリ悪いなぁ。マジでフラれたんだろ?」
「うるさいなあ」
 邪険にする北斗は、心臓が高鳴っていた。あと少し、だ。
 ………………………………あ。
 全身があっという間に熱くなる。心臓がうるさくて、足ががくがくした。
「……やっと来たな。女を待たせるとはけしからん」
 彼女はそう言って、校門の柱に預けていた背を離し、姿勢を正した。揺れるスカート。
 不適な笑みを浮かべる彼女は北斗の横に居る男を一瞥した。
「ふふん。男同士で慰めあっての帰宅か?」
「ふ、フレ……」
「そら。お待ちかねのチョコだ。受け取れ、ありがたく」
 尊大に言い放って彼女は持っていた紙袋を寄越した。同級生はそのやり取りを見て「えええぇえっ!?」と仰天している。
 受け取った北斗は、紙袋をぎゅっと握り締めた。
「あ、あり、がと……」
「よしよし。その反応が見たかったんだ」
「えーっ? だ、誰?」
 同級生が困惑して北斗を揺する。鬱陶しかったが、それどころではない。
 もらえた。これ、やっぱり本命チョコ? そう解釈しちゃってもいいのか? ていうか、そう思いたい!
「な、なんでその格好……?」
 不思議そうにうかがうと、彼女は片手を腰に当てた。あぁ、スカート短いじゃん。あれ?
(この制服、もしかして朱里の……?)
 フレアになる前の彼女は、この制服姿だった。あの時は元気いっぱいの少女のイメージが強く、短いスカートになんて目がいかなかった。
 身長が伸び、ぐっと大人っぽくなったフレア。無理やり成長した、彼女。
「演出だよ、演出」
 彼女は面倒そうに言い、ふんと鼻を鳴らす。
 演出? わざわざこんな格好で来たのに?
「梧ってばー! なあなあ!」
「うるせーな! 俺の付き合ってる彼女だよ!」
 つい反射的に同級生に怒鳴ってしまった。ハッとして、北斗は動きを止めた。
 鬱陶しかった同級生は唖然。フレアも軽く目を見開いている。
「あ……え」
 勢いで言ってしまったことに戸惑っていると、同級生が神妙な顔で肩を叩いてきた。
「……そーいうことか。ちょっと心配してたんだよ。おまえ、かなり鈍感だし……。そうかそうか」
 うんうんと頷いていた同級生はさっと身をひるがえした。
「じゃあお邪魔虫は去るぜ。ふ、よろしくやってくれ。………………うらぎりもの」
 ぼそっと最後に呟いて彼は「ちくしょー」と叫びながら走り去ってしまった。
 真っ赤な顔の北斗は彼から視線を外し、フレアに定める。
 北斗は少し迷ったあと、「どっか寄る?」と声をかけた。彼女は片目だけ細め、それから頷いた。



「なんだ、紅茶専門店、ね。てっきりラブホテルにでも行くのかと思ったよ、アタシは」
 ぶっ、と北斗は向かいの席で飲んでいた水を軽く吹いた。
「行かねーよ!」
「冗談だ」
 フレアは軽く微笑んだ。
(う。か、可愛いんだよなぁ……ほんと)
 なんでこんなにメロメロなんだよ俺は。
 普段着とは違うフレアは、どこにでもいる女子高生のようだった。異彩を放つのは天然の赤髪だ。だが濃紺のセーラー服によく似合っている。
 北斗はフレアが一風変わった紅茶を頼んでいるのをぼんやり見ていた。どうして女の子は、衣服が変わっただけでこんなに雰囲気が変わるんだろう……?
 注文したものがきても、北斗は言葉を探すのに必死でそわそわしていた。
「あのさ……さっきのは勢いでほんと」
「さっき? あぁ、付き合ってるとかいうあれね。なんだ。付き合わないのか、アタシと」
「つ! 付き合ってくれるのか!?」
 身を乗り出す北斗は、自分の声の大きさに慌ててしまう。周囲を見回して、注目されていないことに安堵した。
「そういう約束じゃなかったか?」
「嫌じゃない?」
「なんで嫌なんだよ。ちゃんと本命チョコやっただろ?」
 北斗はさっと視線を、隣の席に置いてある紙袋に走らせた。やっぱり本命チョコだったんだ……。
(やべ……。すっげー嬉しい……)
「でもさ、アタシはしばらくこのままフレアでいるけど、それでもいいわけ?」
「は?」
 言われた意味がわからず、にやけた顔で反応すると、フレアが呆れたように見てくる。
「だから、人間に戻らないってこと」
「ふぅん」
「ふぅんって……そんだけ?」
「だってフレアはフレアじゃん」
「…………おまえ、頭悪いだろ」
 ものすごく嫌そうな顔で言われて、北斗は「うぐ」と詰まる。ほんと……フレアってば誰かさんにそっくりだ。
「でもいつかは、戻るんだろ?」
「……さぁね。いっそこのまま一生、この姿で過ごすのもいいかもな」
 そ、それは困る。
(大学入ったらフレアと暮らそうかなとか、ちょっと考えてんのに)
 高校生姿のフレアと暮らすとなると、色々と障害が……。あ、そういうことか。
「もうこの話題はオシマイ。じゃあまあ、しばらくはよろしく」
 フレアがそう言ったので、北斗は頭の上に疑問符を浮かべる。よろしくって、何が?
「彼氏彼女になったんじゃないのか……?」
「うあっ、そ、そうだな。うん、よ、よろしく」
 差し出されたフレアの手を掴み、上下に振った。
(バレンタインが付き合いだした日か……)
 これは覚えやすいぞ、ラッキー。女の子は記念日にこだわると聞いたことがある。
 手を離して、北斗はにこにことフレアを見てしまう。彼女は……ものすごく、変な顔をした。
「……なに凝視してるんだよ。怖いな」
「こ、怖いって言い方ないだろ! べつにいいじゃん、見てるだけなんだし」
「……この服、気に入ったのか?」
 驚いたように言うフレアの言葉に一瞬、頭が反応しない。だが彼女は勝手に納得している。
「そっか……。そんなに気に入ったんなら、次の時はこの格好でヤるか?」
「なっ、何言ってんだよバカぁ!」
 ちょっと想像しちゃったじゃないか、と内心で洩らす。
 北斗は話題を変えるためにフレアにもらった紙袋を手に取った。
「……中、見てもいい?」
「たいしたもんじゃないぞ?」
「でも本命なんだよな?」
「……だからニヤニヤすんなよ。恥ずかしいヤツだな」
 少し照れ臭そうなフレアは紅茶に口をつける。
 北斗は紙袋を閉じてあるシールをはがし、中を覗き込んだ。箱が二つ。小さめがひとつと、それより大きいのがひとつ。
(なんで二つ?)
 怪訝そうな北斗は、小さいほうを手にとって首を傾げた。振ってみる。かなり軽い。
「これ、チョコじゃないよな? なに?」
「開けてみてもいいぞ?」
 ひどく愉しそうな彼女の笑顔に、背筋に悪寒が走る。嫌な予感。
 だが好奇心が勝ってしまい、包装紙をはがしにかかった。そして……。
 硬直した北斗に、フレアはそれはもう愉快そうに、笑顔で言ったのだ。
「今度からつけろよ。つーか、こういうのは男側が用意するものなんだぞ、マナーとして」
 ……絶対わざとだろ、このプレゼントは。
 顔を引きつらせた北斗は、紙袋に戻して嘆息した。いや、うん……そりゃ買おうとは思ってたけどね。うん。
 こほん、と咳払いをして。
「あのさ」
「なんだよ改まって」
 にやにや笑いの彼女は、自分がどういう手で切り返してくるかをうかがっている。
「チョコ、本当にありがとう…………朱里」
 その最後の一言で、フレアはみるみる顔を赤らめてしまった。どうやら、少しはやり返せたらしい。
 彼女はフレアである前に、やはり高見沢朱里なのだ。制服なのも、きっとそう……彼女自身からの『特別』の証拠に違いない――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【フレア=ストレンジ(ふれあ=すとれんじ)/女/?/ワタライ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 フレアとの初めてのバレンタイン、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。