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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 宿命の双子 姉の思いやりと弟の勘違い


 神聖都学園。
 高等部と大学部の境界に位置する広大な庭。
 鳳凰院美香が、其処に立っていた。
 数m後ろには、弟の紀嗣が隠れている。
「なにか、おかしい」
 美香が天空剣門下生になったことが紀嗣にとって何とも解せないのである。
 あの、人に懐かない人がどうしてすんなり入ったのか? 自分の力をコントロールするため剣道をしていたが、何故、あの実践系抜刀道に入ったのか。
「もしかすると! 織田さんに?」
「それはないだろ。」
「うわ!」
 後ろからの声に驚く。
「隙だらけだな」
 なぜか草間武彦が居た。
「うるさいな。」
 そんなことを言いながらも、二人してのぞき見る。
「影斬に対して憧れだろ。それは自分でも理解しているはずだ。」
「女心分かるの?」
「たぶん今回に限り、な。人生の先輩を敬うのは当たり前だ。」
「うーん。」

 織田義明が、本を読みながら大学部の敷地内からでてくると、美香は彼の方に向かっていった。
「師匠。」
「ここでは普通に織田さんで良いのに。」
 苦笑する。
「あの、相談に乗って欲しいことがあるのですが。」
「何?」
 その問いに、美香はきょろきょろ周りを見て、
「じつは、その……。」

 隠れている男二人は、何とか花壇裏に隠れて難を逃れている。
「ま、まさか密会か? デートの約束?」
「声が聞き取れないな……。」
 などとじっと……二人を見る。

「紀嗣についてなんですけど……。」
「ふむ。彼、まだ自覚が足りないから……か?」
「いえ、あの、彼の誕生日にプレゼントを送りたいのですが、一寸……、えっと。」
「あ、そういうことか。ふむ。」
 影斬は微笑む。
「弟の好みは知っているが、タイミングが分からない、と?」
「はい……。」
 真っ赤になっている。


 さて、遠くから見ている覗き魔2名。
「姉ちゃん! 赤くなっている! もしかして!」
「いや、あれは違うだろ。お前の姉貴は、緊張して居るんだ。」
 聞こえないのだから邪推する弟と、なだめる草間。


「済みませんが、プレゼント探しをつきあってください。私と『二人』だけで」
「……ああ、良いよ。」
 影斬は少し考えた後、承諾した。
「ありがとうございます!」
 美香は織田義明の手を両手で握って振っていた。
「でも、このことは他言無用で。」
「私は嘘は付けないが、それでも良いか? なんとか、黙っていることはできるだろうが。」
「はい……。」


「まさかデートの誘い?」
 あたらずも遠からず!
「草間さん! これは監視しないと! いろんな意味で一大事だ!」
「おいおいおい、師弟関係なんだから別に……。」
「よくない! 絶対に……尾行してやる!」


〈色々面白いこと〉
 天薙撫子が、図書室から出て、たまたま通りかかるときだった。
 怪しげ物陰に隠れている男2人を見つける。
「あら、草間様、紀嗣様、どうなされましたか?」
 その声で、紀嗣は大声を上げてしまう。
 当然、この声に向こうにいる2人が気づくはずなのだが……。幸運にも、影斬と美香、草間と紀嗣の間を、通りすがるように運動部員の、大きくて気合いの入ったかけ声のジョギングが横切っていったので、2人はそっちの声だと勘違いしてしまったようだ。幸運である。
「静かに!」
 自分で叫びながら、人差し指で口を遮る仕草をする紀嗣。
「まあ、こういう事だ。」
 草間が苦笑しながら、指差す方を見ろと言う。
 撫子が見た先は、真っ赤になりながらも、美香が影斬の手を握り、大げさな握手をして、緊張した面持ちで話をしている姿であった。影斬は、かつての師のような優しい雰囲気で接していた。
「あらまあ。」
 撫子は笑った。
「な、何がおかしいんですか!」
「大丈夫ですよ。紀嗣様が心配されるような事はございませんから。では、草間様。」
「ああ……。」
 草間は苦笑している。呆れていることがよく分かっていた。
 撫子は、お辞儀をしてからその場を離れる。影斬に見つからないように……。彼女は学校から出たとたん、システム手帳を開けて時間を見る。時間はあるという確認だ。
「急いで買いに行かなくてはなりません!」
 このときばかり着物姿は、走るのに困った。

 草間興信所。
 色々話を聞いた、シュライン・エマは本人の目の前では我慢していた。
(面白いわねぇ。紀嗣君。)
 内心面白くて吹き出しそうなのである。其れを我慢できるのは大人である。
 あからさまに呆れているのは、御影蓮也である。
「だからって、俺たちにどうしろと?」
「尾行して、姉ちゃんが危なくなるのを防ぐ!」
「あのなー。姉離れしろよ。義明は撫子さん一筋だから大丈夫だって。」
 ため息を吐く。
 いや、今の紀嗣に、止めろと言っても無駄なのはうすうす分かっている。でも、言いたくなるぐらいの状態なのだ。
「面白そうじゃないか。まあ、あの天然が浮気なんて出来ないけどな。」
「優柔不断なときはあったらしいが。」
「その点では、紅麗は二股とか何でもできるのか?」
「なーんで、そう結びつける蓮也!」
「出来るだろバイト先で、モテモテじゃないのか?」
「ちがーう!」
 紅麗は怒鳴った。
「ナンパ野郎じゃないのか?」
 さらに草間。
「ナンパじゃないの?」
 態度を急変して紀嗣が言う。
「ちがう! そして、お前に言われたくねぇ!」
 紅麗は立ち上げって、ちゃぶ台返し突っ込み(ちゃぶ台無しバージョン)をしたあと、紀嗣を指差す。
 シュラインは、其れを笑って見ていた。


 教会。
 そこにはシスター姿の隠岐智恵美と、男着物姿の静修院刀夜の姿があった。
 教会の礼拝堂などのその宗教的な厳かさに、来斧姿は一種の違和感を与えるが、隠岐智恵美は其れを気にはしていない。
「ふむ、此は面白い結果報告書ですね。」
「影斬が見守ると言うことになっていますが、制約が厳しいと言うことがあります。」
 刀夜が話す。
「あと、興信所で得た情報では、ある日に影斬と鳳凰院美香が、一緒に出かけると言うことらしい。」
「あらま。」
 隠岐はその言葉に、反応した。
「ではでは、やはり双子さんには会ってみたいですねぇ。」
「あのシスター?」
「はい?」
「優先順位間違えておられませんか?」
「いいえ? 会うと言うことには変わりありませんよ? ふふふ。」
「……。全くこの人は。」
 絶対に、尾行が楽しいからだと、ため息をつく静修院であった。


〈一寸その前に〉
 天空剣道場で影斬が瞑想していた。美香も通い妻もいない。
「影斬。話がある。」
「?」
 目の前には珍しい客がいた。
「静修院さん。何か?」
「一寸話をしたのだが、鳳凰院美香とデートするとか聞いたのだが。本当か?」
 その問いに影斬は苦笑し、
「……あの気配はやはりそうだったかぁ。あのシスコンは全く……。」
 影斬は、織田義明の口調に戻って、呟いていた。
「おそらくあなたが考えているようなオチだと思います。」
 影斬の口調に戻って、答える。
「なるほど。まあ、この話は内密で。」
 刀夜が言うと、
「可能ならば。」
 奇妙な答えが戻ってくる。
「可能ならばって、言いふらすのか?」
「いいえ。尋ねられたら嘘は言えないだけです。」
 嘘を見破れる特性を得たため、自分は嘘は付けないという制約があるのだ。知った情報が間違いだというときは嘘に当てはまらない。まあ、黙秘は可能らしいが。
「そうか。」
「そうです。力在る者には、何かと制約が付きます。」
 お互い苦笑。
「でも、それでもデートと同じようなものだ。早速だが……、女の子をエスコートするための……。」
「それは良いです。気持ちだけで。」
 即断るのは影斬。
「なに?」
「私の周りは桃色空間を持つ者が多いので、やり方はたくさんあります。紅麗や蓮也も彼女もちですからね。」
「!?」
 影斬も実際は彼女もち。
 刀夜は独り者。
「いや、エスコートの仕方は……しかっり……」
「美香は、そう言うのは苦手と思います。」
 稽古を付けているため、心情も分かっているようだ。
「……。」
 かなり立場なしの刀夜。
「パーティに向かうためのノウハウなら良いですが、友達として普通に接する事ならそういったノウハウは要りません。」
「そ、それもそうなのか?」
 女性に対しての接し方は、刀夜の方が上かもしれない。
 しかし、真剣に考えての弟子想いの(頭が固い?)師である影斬だった。


〈楽しい尾行〉
「人数多くね?」
 紅麗が言う。
 草間に紀嗣、シュライン、紅麗、そして智恵美に刀夜である。
「尾行と言っても探偵では普通の頭数だぞ? 3:3で別れていくべきだな」
「ふ〜ん。」
 事実、1人で動くより、対象を様々な角度から見て追尾するのが基本とか?
 各自、小型トランシーバーを付ける。携帯はマナーモードにセットする。
「さて、紀嗣と俺と紅麗、シュラインと静修院と隠岐で。昼には交代だ」
「了解」
 本職と素人を分けるのは定石である。
「紅麗、着信音がメタルのフルはよせ。」
「え〜!」

 待ち合わせ場所に、美香と影斬がいた。美香の姿は、白いマフラーに落ち着きのある色彩カシミアコートに膝丈ほどのスカートで、所々に、赤や橙のアクセントの付いたコートのようだ。ブーツを履いている。トレードマークであるヘアバンドは残したままである。
 影斬の姿は、珍しく、コートは草色に近いだが、中が茶、明るめの色を使った、ストリートファッションだった。マフラーは茶と緑のチェックのものだ。彼の服は、ほとんど黒かったのだが……。
「今日は本当に、おねがいしまっ!」
 緊張のあまりか、美香は舌をかんだようだ。耳まで真っ赤になっている。
「いやいや、落ち着こう。美香、深呼吸。」
「あ、はい……。すーはー。」
 影斬は落ち着いて美香に接していた。
「で、まずはどこに?」
「……えっと……で……すね。師匠……。」
「師匠と呼ばれるより普通に名前のほうがいいな。」
「え? では、よ、義明……さん?」
 顔を真っ赤で言う。
「おお、レベルアップだな。合格」
 親指を立てて、笑う影斬。
「うう……ごめんなさい! ……って、合格?」
「うん、合格。」
「遊んで……ないですか?」
「半分は。」
「酷い……です。織田さんでいきます!」
 美香は拗ねている様に見えるが、その会話が楽しそうだった。
「ええっと、……男の人はあまり……行きそうにない……、いえ、実は、私もですが……、デパートのチョコ売り場に……。」
「うん、行こうか。」
「はい。」
 2人は、少し距離が有りながら一緒に向かう。

 一方、会話が聞こえてないのは草間班で、
「雪降りそうだ。しかも吹雪。」
 紅麗が影斬の格好に驚いて呟くが、
「いや、もう吹雪いている。」
 草間がもう少し周りを見ろと指差すと、本当に吹雪いていた。
「ひでぇ。」
 紀嗣と紅麗は目を丸くしていた。
「手はつながないのね。」
「……ほ。」
「安堵するな。紀嗣。」

 騒音の中でも、聞き分けることが出来るシュライン班では、
「まあ、良い感じ。色々楽しんでいるみたいよ。」
 シュラインは微笑む。
「からかうのはよろしくないな。ここは服を褒めるべきだ。」
「素のままが良いと言うこともあります。織田さんからすればあの服装は頑張った方でないかと。」
 刀夜の批評に、智恵美の感想。
『尾行を開始する。オーバー。』
「了解、オーバー」
 尾行開始である。

 デパートのチョコレート売り場では、かなり様変わりしていた。
 確かに手作り材料の方は、女性陣だらけであるが、総合的にお菓子を取り扱っている場所ではちらほらと、男性客もいる。
「十年一昔といったものだが、変わったな。」
「そうなのですか?」
「ああ、昔は女性の聖地で、男子禁制の雰囲気があったのだと聞くね。私も俺であった頃は、近寄りがたかった。プリントシールコーナーと同じだな。」
「俺? ああ、織田さんが、まだ織田さんであったときの。」
「そう。」
 一瞬一人称が変わったことに、違和感があった美香だが、織田義明の姿が垣間見る。師匠でもあるが、友達として接してくれているような、不思議な気持ちがあった。今まで人を避けていた彼女にとっての、初めて……の。

「ほほう。素がでましたか。」
 紅麗がにやりと笑う。
「やつは天然だからな。」
「織田さん天然?」
 紀嗣が首をかしげた。
「らしいが、自覚はないぞ? 織田は影斬になった時点で、年寄りだが。」
 草間が昔のことを思い出す。天然と思う。
「うーん。と言うか何かむかつく。問いつめてやりたい。」
「おさえろ。尾行の意味がないだろ。」

「会話は順調のようね。」
 シュラインは別角度から見ている。
「美香が、一生懸命なのはすばらしいな。」
 刀夜。
「私も若いときには。くすくす。手作りで、いろんな人に渡しましたよ。」
「「智恵美さんは作らない方が良いです」」
「ええー。ひどいですねぇ。」


〈遭遇1〉
 チョコ材料を買いにいたのはアレーヌ・ルシフェルだった。そこで、影斬と美香を見かけたので、いきなり声をかけた。
「ごきげんよう。珍しい組み合わせ……でもないですわね。」
 だいぶ前に、この2人は師弟であるからこういう可能性があってもおかしくはない。
「ルシフェル?」
「……!?」
 美香はかなりアレーヌを威嚇している。
「わたくし何か悪いことしましたっけ?」
 美香の反応に、リアクションに困ったアレーヌ。
「いや、予想出来ないことあったらしく、対応がデフォルトのままなのだ。小動物に戻ってしまったな。」
 影斬が答えた。
「し……織田さん、酷いです。」
 美香が拗ねる。
「もしかして……デートですの?」
「いやこれは、その。いや、でも、そのじつは……。」
 美香が真っ赤になって、何かを言いたいそうだが、詰まって何も言えないようだが。
「あなたには関係がない。私と師匠がどんな関係であろうと。」
 睨んで美香は答えた。
「そうねぇ。確かにそうですわね。」
 ため息を吐いてから、うんうんと頷くアレーヌ。
 影斬はそのまま黙っていた。
「そう、それじゃ、楽しんでくださいませ。」
 と、その場で別れた。

 しかし、数mその角で……紀嗣を見つけてしまうアレーヌであった。
「紀嗣さん! 草間さん! 御柳さん?」
「尾行失敗した……。」
 草間と紅麗が頭を抱える。
「何をしているのですか?」
「いや、こいつがな……。」
 あの2人がデートをしていることを尾行すると、紀嗣が言って聞かないと言うことの経緯を話す。
「そうなんですの。」
「見なかったことにしてくれ。」
「わかりましたわ。ではわたくしも加わりますのよ!」
 アレーヌは参加すると申し出る。
「ええええ?」
「なに、こういうシチュエーションはそうそう無いのですわ!」
「まあ、こう言うのは楽しいことが第一だし。天然がもてるのは許せないのでネタを探ってやる。」
 紅麗が同意する。
「楽しくなんか無い!」
「迷惑だ!」

 別の角度で、シュラインと、智恵美が、草間とアレーヌが言い合っているのが見える。
「ばれちゃうじゃない。」
「すでにばれているかもしれないですが。」
「まあ、そうよね。影斬くんは。分かっているはずだろうし。」
 まあ、此もあまり意味の成さないことだが。
「早く気が付かないかしらねぇ。紀嗣君。」
 シュラインも少し楽しんでいるのでありました。


 紅麗が思う。
「考えてみれば、大体背格好同じだよな。肩幅は紀嗣が広め?」
「だねぇ。」
「だな。」
「ですわね。」
 全員同意した。
 確かに同じだ。
「となるとー。うむ。」
 確信する、紅麗。
「しかーし、気が付いたとしても、彼奴がもてると言うことがゆるさん。」
 握り拳で、語る紅麗を見る、3人の目は白かった。
「だめだな。」
「だめですわね。」
「だめだね。」
「おまえらー!」
『遊んでないで、尾行しなさい』
 シュラインさんの通信。
「了解――。」
 聞こえていたらしい。


 チョコの材料を買って、ひとまず休憩にてレストランに入る。尾行班も中に入っていった。
 デパートでは近頃バイキング形式が流行っているので、そう待つこともなかったようである。
「楽しく会話しているな。」
 別の角度で覗き見る草間。
 まだぎこちない美香に笑顔でずっと彼女の話を聞いている影斬の姿は、和やかであった。デートと言うより、兄妹のようなそんな雰囲気である。
 今にも飛び出しそうな紀嗣を、紅麗が抑えていた。
 シュラインからメールが来る。
『交代しましょう。紀嗣くんとあたし、紅麗君、智恵美さん。そして武彦さん、アレーヌさん、静修院さんで。』
「OK」
 草間がメールで返答した。


〈遭遇2〉
 昼はどうも男性もの売り場で美香が色々みては考え込んでいた。服や小物等々。
「こう言うの、弟に似合うのか?」
 美香は首をかしげる。
「高級ブランドものは早すぎる。背伸びはしたくなるかもしれないがな。それに、値段的に難有りだ。手頃なカジュアル系の所を当たろう。」
 流石に、桁数が違う。
「……はい……。」
 美香が影斬と一緒に歩く。
 服をとって、影斬に重ねてみる美香の姿。
「イメージすると、こちらが似合う。」
「まあ、彼は明るいからな。」
「肩幅はあの子が大きいし。頼んで……よ、よかった……。」
「其れは良かった。私としても、な。」
 
 遠くから聞こえる声を拾えるシュラインは吹き出しそうになるが、紀嗣は、いても立ってもいられない所を、紅麗が羽交い締めしていた。
「うおー!!」
「お・ち・つ・け・お・ま・え。」
「抑えて、抑えて。」
 シュラインは、尾行する間に、色々物色しては、一寸許可を受けて、写真に納めていた。
「ねえ、紀嗣君。」
 シュラインは紀嗣を呼ぶ。
「な、何?」
 紀嗣は美香が心配で、心配で、焦っているような顔だ。
「此なんて、彼女に似合わない?」
 写真を見せる。
 綺麗なアクセサリーの数々。また、その携帯サイトだ。
「……。似合いそう。」
「ん? なんだよ?」
『そろそろ気づきなさいよ、バカ。』
 と、トランシーバーでアレーヌの声。
「……えっと、なに?」
「あ、誰かにあった。」
 紅麗は、知り合いを発見したようだ。
「!? また後に!」
 紀嗣はそっちを見る。
「空気読まないのがいるなぁ。」
 紅麗が呟いた。

「よう、義明、美香。」
 御影蓮也が現れた。
「よう、傘。」
 フランクに渾名で呼ぶ。
「おい、いい加減その言い方止めろ。」
 とうぜん、蓮也は項垂れる。
「こんにちは。」
「こんにちは。本当、珍しい組み合わせだな。」
「……は……い……。」
「で、何で、2人きりなんだ?」
 蓮也は訊ねる。普通に疑問に思うことだ。
「あのそれはその! あたし……から、むり、無理矢理、誘ったので! その……あの……。」
 美香が影斬の前にでて、必至に話す。
「えっと、その……。実は、……」
 美香はあたりを見渡して、誰かがいないかを気にしていた(それに気づいて全員物陰に隠れている)。
 蓮也は答えるまで待っていた。影斬に訊けばすぐ分かるところを、あえて訊ねない。美香がこういう風に積極的になることが重要なのだ。
「内緒にしてください。そして、後で忘れてください。出来れば。」
「うん。二つ目はどうしようもないけど。」
「弟の……プレゼント……の為です。」
 顔をとても真っ赤にして、小さく答えた。


 遠くで草間と智恵美はと、楽しげに覗いている。刀夜はもうあきれかえって何も言わない。
「青春ですねえ。」
「青春だな。」
「せいしゅんってなんですの?」
『アレーヌの間抜け声がトランシーバーから筒抜けだ。』
 紅麗。
「うるさいわね!」
「だまれよ、おい。」
 このトランシーバーの性能が謎である。まるで常時会話中で話が筒抜けの携帯電話だ。
「シュラインさんの推理を前に聞いたから分かるけど、そのものっぽいですわねぇ。」
 アレーヌはシュラインから今の現状をメールで、教えて貰っている。
 もっとも、途中参加のアレーヌを覗いて、『紀嗣』以外は、教えて無くても分かっているのだ。いやまったく、紀嗣の暴走加減は時に面白い方向にいく。
『小麦色のからかいにされるのに、1元』
「値上がり!? 円はないのか!?」
 紅麗の声に、突っ込まずにいられない草間であった。

「よ・し・あ・き……さ。」
「はいはい、どうどう。」
 いまシュラインと、紀嗣、紅麗の場所は、カジュアル服売り場での出来事をみている。
 シュラインは、美香が手に取った服を見て、
「ねね、紀嗣君。」
「は、はう?」
「あなたに、あの服は似合うわね〜。どうしてかしら?」
「……。」
 紀嗣は、真っ赤になった。
「明後日の方向で真っ赤になるな。」
 紅麗の横やり。
 瞬間、紅麗の視界が闇に変わった。


 影斬が、蓮也に尋ねた。
「蓮也はどうしてここに?」
「彼女のお返しとかそんなところ。」
「そうか。」
「あ、そうだったのですか。」
 美香は、気づく。
「お似合いです。クリスマスの時の彼女さん?」
 前に出会った、あの少女のことらしい。
「それは、ありがとう。美香、何か参考意見はあるか?」
 と、訊ねるが、
「ご、ごめんなさい。アクセサリーなどには……興味があってもその人に、似合うかどうかまでは……でも、指輪などはロマンティックで良いかもしれませんよ。」
「そうか。」
「ブランドのステディ・シルバーリングからランクアップとか……。つきあって何年かによって貴金属のタイプは高価になっていきますが。」
「参考になったよ。ありがとう。」
「いえ、あたしも色々考えていたところです。」
 2人は笑顔で話していた。
「じゃ、俺は此で。」
 蓮也は行く道を通る。
「ああ。」
「それと、撫子さんに埋め合わせしとけよ〜。」
「ぬかりない。」
 影斬が笑う。
「ほんとかよ。」
 思わずそう言いたくなるが、彼が嘘を言えないのは知っているので、そうなのだろうと思うことにした。
「ああ、あ、あたしの所為で、怒らせたら……。」
 美香は焦るが、
「大丈夫だ。私と彼女の間にそう簡単にこじれはしない。」
 影斬は美香の頭をなでた。
「あ、はい。」
 美香は落ち着く。


「で、わかったかしら?」
 シュラインが紀嗣に訊ねた。
「……俺の、勘違いだったのですね。また……。」
 紀嗣はやっとの事で気が付いたようだ。
 デートではなく、自分のプレゼントの事なのだ。
「はい、そう言うこと。良くできました。美香さんも勇気もってあなたのためになのよ。」
「そう言うことだ。げほげほ。」
「復活早っ! もう少し寝てろよ!」
「紀嗣。貴様ぁ……。」
『そっちも馬鹿なことしてないように。』
 智恵美の声。
「はい。」
 黙る2人。
 しかし、落ち着きを取り戻したとたん。
「姉ちゃんが、俺にプレゼント……。」
 周りに星形を浮かべて、トリップしている。
「その前にお前も何かしないと行けないだろ。」
 紅麗が軽めの脳天チョップを与える。
「……そ、そうだ! こうしてはいられない!」
「そう言う事よ。」
 頷く、シュライン。
『では、女性陣だけで、紀嗣君を囲んで、女性が喜ぶプレゼントをアドバイスをしたいとおもうのですわ〜』
 トランシーバーからアレーヌの声。
「その案もいいわね。」
「え? え? お、俺、ひ、1人で決めます! き、気持ちだけでいいっす!」
 と、紀嗣は遁走していった。
「あらま。」
「いっちゃった。さて、どうしよ? 草間さん。」
 紅麗が草間に連絡すると、
『一度集合。もうばれていても問題なかろう。というか、ばれているはずだ。』
「了解。」
 ゆっくり、買い物もしたい人もいるだろう。

 直接会うこともなく、尾行ではなく、今回の主目的、『紀嗣に気づかせる事』だ。なので、この任務は成功したことになる。


 2月14日。
 鳳凰院家のリビングに、双子が座っていた。
「紀嗣、誕生日とバレンタインのプレゼントだ。」
 と、素っ気なく渡す。
 手作りチョコと、セーターであった。デパートで買った物だと分かる。
「ありがとう姉ちゃん! 姉ちゃんはお菓子作りだけ俺を越えるからな。」
 素っ気なくても愛情いっぱいがあれば、これ以上のものはない。
「その一言は多いぞ。」
「ごめんなさい。」
「まあいい。」
 微笑む美香。
「そうだ、俺からも。」
「あたしに?」
「はい、このアクセサリー。」
 首飾りだった。一寸変わった紋様だが、十字とかではない。
「ありがとう、紀嗣。何か昔に戻ったみたいだ。」
 昔、問題もなかったときの事だった。仲が良かった時を思い出す。
「俺もだよ。」
 絆が再び戻った……そう言う気分になった。
 双子なので、同じ日が誕生日なのだ。
「でもさ、姉ちゃん。」
「どうした?」
「お互い困った時期に、誕生日だね。」
「それは、お前のほうがそうなるな。女の場合は、『褒美チョコ』というものが流行っているからな。」
 誇って、微笑む姉。
「ああ、あれはひどいよねぇ。」
 苦笑する弟。
「なので、きょうはその高価なチョコを分け合おう。」
「やった!」
 何とも和やかな姉弟の風景だった。


「なるほど、やはりそう言うことでしたか。」
 興信所では、撫子とシュライン、智恵美がお茶を飲んでいた。
「心配した?」
「いいえ。大丈夫と信じていましたから。」
 微笑む撫子。
「ただいま。」
 草間と影斬が戻ってきた。
 別件の仕事で向かっていたらしい。
「終わりましたか?」
「ああ、あらかたね。」
「おかえりなさい。武彦さん。」
「ああ、ただいま。」
 撫子は影斬に、シュラインは草間に、チョコとプレゼントを渡した。
「はい、14日だからね。いつもご苦労様。特にこの数日。」
「さんきゅ。」
 草間は軽く受け取って礼を言う。
「あの、義明さんのお口に合えばいいのですが。」
「ありがとう。」
 影斬は逆に、恭しく受け取っていた。
「若いって良いわねぇ。」
 お茶を飲んでいる、智恵美さんは優しい瞳で眺めていた。

 それから数日後、
 智恵美は刀夜の紹介で、紀嗣と話しかけることが出来た。あの尾行(?)では、そう話が出来なかったから。
「神格保持者である、私も、何か力になると思いまして。」
「はあ。近頃スカウトが多いなぁ。」
 あまりやる気がなさそうな紀嗣を見て刀夜は、
「こら。シスターの前で!」
 当然怒る。
「あ、ごめんなさい。あまりにも選択肢が多いと、困るんです。もう少し考えさせてください。」
「そうですか。残念です。しかし、影斬さんもおっしゃっていますが、時間はありませんよ。」
「……は……い。」

 そう、2人は狙われているのだ。
『悪』に。

END

■登場人物紹介■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者「文字」】
【2390 隠岐・智恵美 46 女 教会のシスター】
【6465 静修院・刀夜 25 元退魔師。現在何でも屋】
【6813 アレーヌ・ルシフェル 17 女 サーカスの団員】


 NPC
【草間・武彦  30 男 探偵】
【影斬(織田・義明)? 男 剣士/学生/装填抑止】
【鳳凰院・紀嗣 16 男 神聖都学園高等部】
【鳳凰院・美香 16 女 神聖都学園高等部】


■ライター通信
 どうも、こんにちは。
 滝照直樹です。
 このたびは、『神の剣 宿命の双子 姉の思いやりと弟の勘違い』に参加して頂きまして、ありがとうございます。
 漫才など色々あって、ノリノリに書かせて頂きました。
 とにかく気づいた、紀嗣君。良かった、良かった。
 今回色々活躍し、また『散る』のは紅麗君でしたが。定着し始めましたね。

 では、次回はまたシリアスですよ。そのときにまたお会いしましょう。

滝照直樹
20080218