コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


「相沢さんのお手伝い、させてください!」



 くるるん、と巻かれた金髪。赤色を基調とした衣服。
「さ、さぶい……」
 駅前でチラシを配っていたステラは、鼻をすすった。2月下旬。まだ寒い。
「はぷしょんっ」
 奇妙なくしゃみをしつつ、ステラは空を見上げた。曇った空は今にも泣き出しそうで、まるで自分のようだと思えた。

(おや、可愛らしい)
 駅から出てきた相沢要は、チラシを配っている小柄な娘に目をとめてそう思う。
 西洋人の少女は見た感じが小学生。時刻は20時をまわっている。こんな時間帯にあんな子供が何をやっているのだろうか?
「どうぞー。よろしくですぅ」
 にへらと笑う少女からチラシを受け取った。
 『サンタ便。どこにでも格安でお届けします』と記された下に、『お手伝いもします!』と小さく、本当にちっこく書かれている。
 要は視線を少女に向ける。彼女はきょとんとした瞳でこちらを見上げていた。
(……いじめがいがありそうな顔してますねぇ)
 いや……でもこんな子供をいじめるというのも、大人げないかな。
 そう思うが要はふと気づいた。この娘は人間ではない。
(……ふぅん。なんだかはっきりとは掴めませんけど)
「あのー……?」
 首を傾げてくる少女に、要はにっこりと微笑んだ。
「お手伝い」
「はひ?」
「このチラシのここ、書いてあるじゃないですか」
「あぁ、はい。配達業だけでは稼ぎが少なくて」
 照れ臭そうに言う彼女はずびっと鼻水をすすり上げる。せっかく可愛らしい外見をしているのに、周囲の目を一切気にしない性格のようだ。
「このお手伝いというのは、なんでもいいんですかね?」
「えっと、そうですね、わたしにできることならなんでもいいですよ」
 そう言い終えた後、彼女はハッとして顔を青ざめた。
「いや、あの、えっちなことはナシで……。常識範囲内でしたら、お手伝いは可能ですぅ」
 顔が引きつっていることから、そういうことを頼まれそうなこともあったのだろう。この幼児体型に興味のある者も、おそらくは居るのだ。
 要は笑顔で言う。
「私は小説家をしているのですが」
「はぁ」
 あまり本を読んでいる雰囲気はないので、名乗っても知らないだろうきっと。その証拠に追求してこない。
「今度遊園地を作中に出すことにしたんです。取材に行かないといけないのですが、男の身で一人で遊園地に行くのはちょっと……。一緒に行ってもらえませんか?」
「ゆーえんち……」
 明らかに少女の瞳の輝きが変わった。きらきらとしているそれを見て、内心吹き出しそうになってしまう。こんなに露骨に顔に出るのも珍しい。
「もちろん費用の一切はこちらで負担しますよ。お願いできませんか?」



 あの少女の名前はステラというらしい。年齢は16だというが、そうは見えない。どう見ても小学生くらいだ。
 小説のキャラクターのモデルにするために選んだわけだが、愉快なものが見れそうで要も少々わくわくしていた。
 遊園地の前で待つ要は、腕時計に目を走らせる。待ち合わせの時間まであと5分だ。
「お待たせしました〜」
 そんなのんびりした声を響かせて彼女はこちらにぱたぱたと走ってくる。
「すっ、すみません。遅くなりましたでしょうか?」
「ええ、5分遅刻です」
 笑顔で言うと彼女はガーンとショックを受けてしまい、「しゅみません……」と落ち込んだ。
「嘘ですよ。まだ5分前です」
「あ? え?」
 ステラは顔をあげ、きょろきょろと見回した。設置されてある園内の大きな時計に目が行き、納得してから頬を膨らませた。
「ひどいですぅ!」
「一生懸命走ってこられたので可愛くて」
 じろり、と上目遣いで見られてしまう。女の子の褒め方は彼女には通じないようだ。
「では行きましょう。お昼も奢りますから」
「ほんとですかぁ?」
 怒っていたのが嘘のように彼女は笑顔になって要についてくる。まるで犬だ。
(扱いやすい子ですねぇ)
 二人分のチケットを購入し、園内に入る。園内は日曜日ということもあり、人で溢れていた。
 若いカップルもいれば、家族連れもいる。一番多いのは学生の集まりだ。友達同士のほうが気楽でいいということからだろう。
 視線を園内の地図に遣り、要はさてどれにしようかと心の中でほくそ笑んだ。
 絶叫マシーンはどうだろう? この少女は悲鳴をあげて泣き出してしまうかもしれない。ふふふ。
「まずはこれ、行きましょうか」
 要が現物を指差すと、ステラは「ほえー」と気の抜けた声を出しつつ見上げていた。
 二人で並んでジェットコースターに乗り込む。だがステラは顔色一つ変えない。予想が外れたかと思い、ステラに話しかけた。ジェットコースターが発進を始める。
「ステラさんはこういうものは得意ですか?」
「得意っていうか……別になんとも思いませんねぇ。ほら、わたしはサンタクロースですんで、ほとんど空飛ぶソリで移動してるんですよ。こんなノロっちい乗り物なんて別に」
 がたがたと揺れて前に進むジェットコースターに興味がないらしく、ステラは周囲の景色に目を走らせていた。
「ステラさんのソリはそんなに速いんですか?」
「かなり速いですねぇ。今はこうして東京に居るんですけど、世界中をあっという間に回らなければならないことだってありますし」
 がたん、という音と共にジェットコースターが滑走路を下降していく。重力と速度が肉体にかかり、乗っている人間たちはキャー、とかワーとか声をあげていた。
 横に乗るステラは「ほー」と感心したような声を洩らしていただけだ。これは面白くない。



 お化け屋敷にステラをわざと置いてきても、彼女はケロリとしていた。一緒に入っても怖がらなかったのでそうではないかなと予想をしていたのだが……。
(これはこれは。予想を裏切るタイプですね)
 一緒に園内をこうして歩くと、年の離れた兄妹のように見えているかもしれない。
「ステラさんてオバケとか平気なんですねぇ」
「職業柄平気なんですぅ」
 照れ臭そうなステラの腹部から空腹を訴える音が聞こえていた。彼女は俯く。
「す、すみません……」
「いいんですよ。おなか空きましたね。何を食べましょうか」
 パンフレットの地図を見ていた要に倣い、ステラもそれを広げる。見入っている彼女はそのまま歩いていた。要が足を止めたのも気づかずに。
(あらら)
 そのまますたすたと歩いていってしまう彼女をこっそり観察し、要は気づくのを待つ。
 歩くこと5分。柱に頭をぶつけてステラが引っ繰り返った。そこでやっと要の姿がないことに気づいたようだ。
「あ、あれぇ? 相沢さん?」
 周囲を見回すステラは迷子の子供のようにあっちへふらふら、こっちへふらふら。その様子がかなり可笑しい。
(そろそろいいですかね)
 要は目的地へと赴き、用件を伝える。園内に大きく放送がかかった。それは迷子になったステラを呼び出す、迷子アナウンスである。

 泣きべそと羞恥から、ステラは案内所にいた要にぺこぺこと頭をさげていた。
「すいませんっ、で、でも迷子ってわけじゃ……」
「どこにいるかわからなくてつい……。恥ずかしい思いをさせてしまったようで申し訳ないです」
 誠意を込めて謝罪をする要を見上げ、彼女は困惑した表情を浮かべる。
「わ、悪いのはわたしですぅ。考えることに夢中になっちゃって」
「さて、じゃあ食べにいきますか。お詫びもかねて、デザートもつけましょう」
「え、ええっ!? あ、あぅ、いいんですか? で、でも」
 遠慮したいのとデザートを食べたい気持ちで揺れるステラを促し、要は食事に向かった。



 メリーゴーランドの馬に乗るステラをデジカメで撮る要に、彼女は手を振る。物凄く恥ずかしそうだ。なにせこれに乗っているのは幼い子供が2人。ステラを入れて3人だ。違和感がないほど外見が幼いが、子供と同列に思われるのは彼女にとって屈辱らしい。
「ありがとうございます。いい資料写真が撮れました」
「そ、そうですか。良かったですぅ」
 疲弊した顔の彼女は、メリーゴーランドに乗ること5回。毎回乗る物を変えたせいもあるが、相当恥ずかしかったようだ。
 子供が乗るようなものに彼女を乗せると、ステラは非常に……数倍疲れた顔をしていた。これはかなり愉快だ。
「大丈夫ですか? やっぱりこういうのは嫌ですかね?」
 すまなそうにすると、ステラはすぐさま首を横に振った。
「そういうお手伝いですからいいんですよ! がんばりますぅ!」
 気合いを入れ直す彼女は、それはもういじりがいのある素材であった。
 園のマスコットキャラクターと一緒に写真をとお願いする際も、妙なポーズを要求したが泣きそうな顔でやってくれた。
 挫けそうになるステラに時々アイスや飲み物を与えて上機嫌にし、再び困った要求をする。その繰り返しをしていたら、あっという間に夕方になってしまった。
 要は内心かなりほくほくしている。まるで起き上がりこぶしだ。やってもやっても彼女は前の困難をすぐに忘れる傾向がある。
(頭の鈍い子だとは思ってましたけど、ここまでとは……!)
 ある意味国宝級だ。

 遊園地のゲートから外に出て、要は本日の経過を振り返ってその余韻に浸る。たった一日で、しかもこれほどまで何度も何度も愉快な気分にさせてくれたステラがおおいに気に入った。
「今日はありがとうございました、ステラさん」
 人のいい笑みの要を疑いもせずに、ステラはぼろっとした様子にも関わらず笑顔で応じる。
「これで小説は書けそうですか?」
「ばっちりです」
「それは良かったですぅ!」
 心底喜んでくれているステラを見ると、どうも嗜虐心が煽られてしまうが、我慢だ。
「よければまた手伝ってくれますか?」
「喜んで! こんなわたしでもお役に立てるならどうぞ連絡してください」
 健気な娘である。それがまた要に快感を呼ぶ。なんて面白い子だろう。
 要は心からの笑顔で言う。
「もちろん。またぜひ」
 悪意が微塵も感じられない笑顔の裏では、次にどうやってこの娘をいじろうかという悪巧みがすでに始まっていたのだが……ステラは知るよしもないのだった――。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC
【7409/相沢・要(あいざわ・かなめ)/男/120/小説家】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ご参加ありがとうございます、相沢様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 ステラをいじりまくっていただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。