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<東京怪談・PCゲームノベル>


「響谷さんのお手伝い、させてください!」



「お手伝い?」
 たまたま見かけたチラシの言葉に、響谷玲人は瞬きをする。
(よくわからないけど、頼んでみようかな)



 約束の場所に玲人は現れる。さて、彼女は来ているだろうか? 目印は赤い服だそうだが。
(あれ? もしかして、アレかな)
 軽い変装をしている玲人は、サングラスを軽くあげて、相手の姿を確認する。金髪の少女が噴水前に立っていた。赤を基調とした衣服は彼女しかいない。
(小学生?)
 頭の上に疑問符を浮かべつつ近づき、声をかけてみた。
「えっと、ステラ、さん?」
 すると彼女はにっこりと微笑む。
「依頼をくださった響谷さんですね? 初めまして。ステラ=エルフと申しますぅ。サンタ便を営んでますぅ」
「…………小さいのに偉いね」
 思ったそのままの言葉だったのだが、ステラがムッと眉を吊り上げた。
「よく勘違いされるんですけど、わたしは16歳ですぅ!」
「16? 高校生?」
「こ、高校には通ってませんが、16ですぅ」
 言い難そうにもじもじする彼女に、玲人は微笑む。
「初めまして。ごめんねステラちゃん。見た目がそう見えちゃって。失礼なことを言ってごめん」
「う。あ、いえ、すみませんこっちこそ。あまりによく言われるので、敏感に反応しちゃって……狭い心でごめんなさい」
 ぺこっと頭をさげた彼女は、顔をあげてこちらに乗り出してくる。
「それで、お仕事とは具体的に何を?」
「俺はモデルをやってるんだけど、明日一日、撮影時の俺の身の回りのことをしてもらいたいんだ」
「ほへ?」
 どういう仕事か理解できていない彼女は、可愛らしく首を傾げてみせた。



 撮影は夏物の衣服を着て、おこなわれる。現在は2月なのだが、モデルの撮影は季節など関係ない。指示された通りの衣服を着て、ポーズをとってカメラマンの欲しい画を作るのだ。
 ファッション雑誌のモデルをしている玲人は、こういう季節を無視した撮影は当然のものとして認識している。雑誌の発売時期のこともあるが、先へ先へと撮影を進めなければ遅すぎるのだ。夏に夏の衣服を着て撮影をしていたら、雑誌の発売に写真が間に合わない。
「いつも身の回りのことをしてくれてる子が風邪ひいちゃって。今回ステラちゃんにはその子の代わりを頼んだんだけど」
「モデルさんですかぁ。ほ〜」
 メイクをしている玲人を、背後からステラが見ている。玲人は鏡越しに彼女を見ているような形になっていた。
 玲人は黙っていればクールでかっこいいと見られる外見だ。性格はこんなに気さくなのに。見た目と中身のギャップに驚く人も居る。
「響谷さんは背も高いですし、モデルと言われたら納得ですぅ。かっこいいですぅ」
「そ、そうかな」
 これはまずい。ただでさえ子供や動物好きな自分だ。ステラの外見はストレートに響く。
 玲人に指示された通り、彼女は外の撮影に備えて暖かい格好をしてきている。これがまた、玲人には可愛くて困るのだ。
 フード付きの上着はもこもこしているもので、見た感じ、雪国の子供だ。上着がもこもこしすぎて動きがぎこちないところが微笑ましい。
(何かに似てると思ったら……ペンギンなんだ)
 真っ赤なペンギン。笑いが洩れそうになるのを必死に我慢する。
 メイクが終わり、ヘアスタイルもばっちり。玲人がイスから立ち上がった。
「じゃあステラちゃん、今日一日よろしくね」
「よろしくお願いします〜」
 両腕を左右に広げたまま、深々とおじぎをする様子もペンギンぽい。…………。
 思わずフードを被った頭を撫でたくなり、手を伸ばしかける。慌てて引っ込めて、玲人は気合いを入れた。いけないいけない。これから撮影なのだ、しっかりしろ!

 夏用の撮影なので、半袖服やノースリーブが多い。
 寒さに耐える中、撮影は進む。
「響谷さ〜んっ」
 撮影後に、きちんとステラがジャンパーを持ってこちらに駆け寄ってくる。だが途中でずでんとコケてしまった。
「あっ」
 思わず玲人は硬直して目を見開き、それからすぐに彼女に駆け寄った。ノースリーブシャツ一枚のため、体は小刻みに震えてしまう。
「だ、大丈夫? ステラちゃん」
「あぅ……。き、響谷さん、じゃんぱー……」
 下敷きにしてしまっていることに気づいて、起き上がったステラが眉をさげた。あ、泣きそうと思ったらぼろっと彼女は涙を零す。
「す、すいません……汚してしまいましたぁ」
「いいんだよ、これくらいっ」
 手で汚れを払って、受け取って着る。やはり上着を羽織ると全然違う。
「飲み物を運んでる時じゃなくて良かった。ほら、いつまでも座ってると寒いよ?」
 差し出した手を掴んでステラは立ち上がる。ケガはないようだが、ズボンの膝のところが汚れていた。
「次こそはお役に立ちます!」
「無理はしなくていいからね?」
「いえ、頑張ります!」
 ステラはぐっと両拳に力を込めて言う。なんだかすごく心配になった。



「はいどうぞ!」
 休憩に入るとステラがすぐさま駆けてきた。手には紙コップ。湯気がたちのぼっているそれを、決して零さないようにと彼女は両手で持って、玲人に差し出してくる。
「ありがと」
 受け取った玲人は口をつけた。はちみつとレモンの味だ。ほっと、温まる。
(おいしい……)
 ちら、とステラを見ると、彼女はこちらを物凄い真剣にうかがっていた。心の声が聞こえてきそうだ。
(……「どうですか」って顔してる……)
「お、おいしい……よ?」
 そう感想を言うと、彼女はぱっと顔を輝かせた。わかりやすい。
「てへへぇ。良かったですぅ〜」
 照れ臭そうに体をくねらせた。
(……ステラちゃんて面白い子だなぁ……)
「じゃあ野次馬の整理を手伝ってきますね。これも身の回りのお世話の一つですぅ」
「あっ! それは……!」
 しなくていい、危ないからと言う前に彼女はぱたぱたと走って行き、野次馬の群れに弾き飛ばされてしまった。なんて無残な。
「ああ〜……! ほらやっぱり」
 あまりのことに玲人が思わずそちらに助けに走ろうとしたが、カメラマンに止められた。
 まだ撮影の途中なのだ。仕事中なのだ。

 助けに行きたかったのに行けず、ステラは薄汚れた衣服になっていた。それを見て玲人は胸を痛める。
 先ほどの撮影も、欲しい表情ではないとカメラマンに散々怒られてしまった。
「響谷さん?」
「こういう時は慰めて、元気を出させるのもお世話係の仕事なんだよ……?」
 力なく言うと、ステラはぱちぱちと瞬きをし、がっ、と強く手を握ってきた。
 顔を近づけ、目を覗き込んでくる。身を引こうとした玲人を逃がさないように凝視してきた彼女はぶんぶんと握っている手を激しく上下に振った。
「元気出してくださいっ!」
 直球ど真ん中ストレート、な激励の言葉だった。唖然としている玲人に、彼女は真っ直ぐな眼差しを向けてくる。なんだか……なんだか、こっちが恥ずかしくなる。
「あんなカメラマンの言うことなんか、気にしちゃダメですよ!」
「……そう?」
「はい!」
 力強く言うステラはにっこり笑う。
「元気出ました?」
「……少し」
「ファイト、オーッ! です!」
「ぷぷっ」
 思わず吹き出す玲人に、ステラは首を傾げた。



 無事に撮影も終わったので黒のニット帽を目元まで被り、軽い変装をした玲人はステラにお礼をするために並んで歩いていた。
「送ってくれるって言ってたのに、断っていいんですかぁ?」
「いいんだ。ステラちゃんの好きな物を食べさせてあげるっていう約束だったから、それを果たすだけだよ」
「そんなに急がなくてもいいんですよ?」
「いいのいいの。遠慮しないで。甘いもの好き? 美味しいお菓子を売ってるお店を知ってるんだけど」
「お菓子……」
 涎を垂らすステラに、玲人は苦笑する。本当に態度に出る子だ。
「それとも甘いものを食べる?」
「……は、はいっ」
「よし! じゃあ行こう!」

 入り組んだ道を抜け、目的のカフェは目の前。洒落た店だ。
 ドアを開けて中に入り、店員の案内で席につく二人。メニュー表を置かれると、ステラが早速睨めっこを開始した。
「今日一日ありがとう。雑用係みたいで申し訳なかったんだけど」
「え? あぁ、いえいえ。それがわたしのお仕事ですから気にしないでください」
「でも転んだりしちゃったし」
「それはわたしのせいですから」
 笑顔の彼女はメニュー表と玲人を交互に見る。メニュー表に集中したいのがこちらに伝わったので、玲人は軽く笑った。
「なんでも頼んでいいから。寒い中で頑張ってくれたし」
「わたしなんかより、響谷さんのほうがすごいですぅ。モデルさんて、けっこうキツいお仕事なんですねぇ」
「人がいない時間を狙って、早朝から撮影、なんてこともよくあるしね」
「うはー……わたしだったら起きられません〜」
 立ったまま寝ていそうだなと想像し、玲人は笑いを堪えるのに必死だった。
 ステラは迷いながらイチゴパフェを頼んだ。ちょうどイチゴフェア中だったのである。
 玲人はコーヒーを頼んだ。二人の注文したものがテーブルに運ばれてくる。ステラは美味しそうにパフェを食べていた。
「それにしても……ステラちゃん十分可愛いから、モデルでも通用するんじゃないかな? ……子役モデルになっちゃうだろうけど」
「子役はヤですけど……モデルさんは難しくてわたしには無理ですぅ。今日響谷さんと一緒にいて、すっごくそう思いましたから」
 でも、と彼女は続ける。
「お世辞でも可愛いって言ってもらえて嬉しいですぅ」
「お世辞じゃないけど」
「いやいや、いいんですよぉ」
 明るく笑うステラは、玲人の言葉をまったく信じていないようだった。
「モデルのお仕事、大変ですけど頑張ってください! わたし、応援してますから〜」
「ありがとう、ステラちゃん。またお願いすることがあったら、手伝ってくれる?」
「こ、こんなドジでよければ使ってやってください〜」
 ちょっとだけ困った顔なのは、今日一日の失敗を思い返したからだろう。でもあんな失敗を帳消しにするくらい、彼女は一生懸命だった。それにあの励ましの言葉……。
(あれが一番効いたんだよね、実は)
「俺が困ってたら?」
「もちろん、すぐに助けに来ますぅ」
「途中で転ばないように気をつけてね」
「むっ。好きで転んでるんじゃないですよぉ!」
 ぷうっと頬を膨らませるステラに、玲人は楽しそうに笑いかけたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7361/響谷・玲人(きょうたに・れいじ)/男/23/モデル&ボーカル】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、響谷様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 微妙な役立ちでしたが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。