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幼馴染 (2人目)
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OPENING
興信所に届いた、一通の手紙。
桃色の封筒の中、真っ白な便箋に綺麗な文字で綴られる言葉。
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武彦へ
久しぶりね。元気にしてる?
私は相変わらず。とっても元気よ。
っていうか、あんた携帯変えたでしょう?
いくら電話しても繋がらないんだもの。
ちょっとイラッとしたわ(はぁと)
まぁ、その辺の話と御説教は後日。
零ちゃんに会えるのが、凄く楽しみだわ。
色々話したいこともあるし…待ち遠しくて仕方ない。
ようやく日本でゆっくりできるの。
武彦も、嬉しいでしょ?
私が帰って来るんだもの。
それじゃあ、楽しみにしてる。再会の日を。
PS:
三月上旬に日本へ戻ります。
千華( Chika Aosawa )
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「…まずPSを先に持ってくるべきだろ」
幼馴染、千華からの手紙に苦笑する武彦。
シュラインは、彼の隣で手紙をジッと見やっている。
とても綺麗な文字だ。こんな文字を書くのだから、きっと、綺麗な人に違いない。
シュラインは職業柄、書物や文字に触れることが多い。
今までの経験上、綺麗な文字を書く人は、
内外関わらず、皆とても綺麗な人ばかりたった。
まぁ、何事にも例外はあるので、必ずしもそうだとは言い切れないが。
フッとカレンダーを見やるシュライン。
今日は、三月一日。
「上旬かぁ…いつ頃なのかしらね」
呟くようにシュラインがポツリと言うと、
武彦はクッと笑い、煙草に火をつけて言った。
「多分、今日だな」
「え!?」
「あいつにとって三月上旬は、三月に入った瞬間だから」
「そ、そうなの?」
「昔っからそうなんだ。時間に関してもそうだしな」
「…せっかちさん?」
「はは。そうかもしんねぇな」
幼馴染として、青春時代を共にした武彦が言うのだ、
おそらく、本当に今日…ここへ来るのだろう。
シュラインは、ボーッとしていられない!と、
迅速に、お客様…千華を迎える準備を急ぐ。
「いいって、そんな気ぃ使わなくても」
「そういうわけにもいかないでしょー」
午後三時。
興信所に、呼び鈴が鳴り響く。
「はーい!」
零は嬉しそうに玄関へと向かって行った。
来訪者が誰か、わかりきっている様子だ。
数回だが、零は千華に会ったことがある。
とても優しくて、素敵なお姉さん。
それが、零の千華に対する印象だ。
その印象は、長い月日が経過しても、変わらない。
「な、何か緊張するなぁ」
ソファで姿勢を正して困り笑顔を浮かべるシュライン。
「何でだよ。藤二ん時は普通だったのに」
「うん。そうよね。何でだろ…」
おそらく、異性だから。
自分の知らない武彦を知っている女性だから。
自然と身構えてしまっているのだろう。
まぁ、本人は気付いていないようだが。
緊張の面持ちで待つシュラインと、
いつもどおり煙草を咥えて、そんなシュラインに笑う武彦。
そこへ、いよいよ…千華が登場。
「やっほ!久しぶりね、武彦っ」
満面の笑顔で、千華は言った。
「おー。相変わらず、スタイルいいなー」
ケラケラと笑って言う武彦。
「心がこもってない」
千華はクスクスと笑う。
武彦と千華の、ごく自然な遣り取り。
シュラインは、無意識に千華を見つめた。
スラリと細い腕と足。バランスの取れた体。
可愛らしくも上品な化粧、ふわりと漂う良い香り。
欠点を見つけるのが困難な、まさに美人さん。
(わー…綺麗な人)
シュラインは、うっかり千華に見惚れてしまう。
そんなシュラインに気付いて、千華はキョトン。
「ん?武彦、この子どちらさま?…もしかして、彼女?」
「ふ。野暮なこと聞くんじゃねぇよ」
千華の問いに肩を竦めて返す武彦。
「きゃー!うっそー!ホントに?凄いじゃないのー!」
パンと手を叩いて、大喜びする千華。
千華はパタパタとシュラインに歩み寄ると、
ジッとシュラインを見つめて微笑んだ。
「可愛い人ねー。どう?大変でしょ、こいつの世話」
「へ。いえ、そんなことないですよ」
「うわー。健気。あんたには勿体ないわ」
「うっさい」
千華をもてなす準備は完璧。
シュラインは藤二に連絡を取り、千華の好みや好物を聞いて、あれこれ準備した。
武彦に尋ねても、よくわからないとしか返ってこなかったのだ。
そういう点から、藤二は気配りというか何というか、
そういうところに気が回る性格なのだなぁ、と実感してみたり。
どこにも一切不備がない、極上のもてなしに大満足の千華。
「何か、ごめんね。気使わせちゃって。あ、これ、お土産」
申し訳なさそうな表情で、トンとテーブルにワインを置く千華。
フランスの、最高級ワインだ。
極上のワインを飲みつつ、会話は華ぐ。
「千華さん、一つ聞いてもいいですか?」
微笑みつつ問うシュライン。千華は頷いて返す。
「ん?なになに?」
「武彦さん、本当にモテてました?学生時代」
「何だよ、まだ疑ってんのかよ」
シュラインの質問に苦笑する武彦。
”学生時代はモテモテだった”彼の自慢の一つだ。
武彦が誇らしげに言うのを見て、
シュラインはいつも、本当なの〜?と疑い続けてきた。
藤二から聞いた学生時代の話と併せて、
真実かどうかを楽しみながら見極めようとしているようだ。
「そうねぇ…モテてたわよ。一応」
「お前ね、一応とか言うなや」
「だって、あんたいつもフッてたじゃない。どんなに可愛い子でも」
「ふふん。まぁな」
「そんなんだから、調子こいてるとか言われんのよ」
「はっ?何それ」
「女の子達に恨まれてたわよ〜。気付いてないでしょうけど。ぷぷ」
「…マジか」
笑顔の引きつる武彦を見て、シュラインはアハハッと笑い出す。
どうやら、モテていた、というのは事実らしい。
けれど、甘い展開になったことは、一度もないようだ。
当時は、突っぱねることを格好イイと思っていたのだろう。
千華が尋ねてきてから、興信所は華やかに賑やかになった。
その場を明るく染める、花のような人だな…などと思いつつ、
シュラインは、零と一緒に細々と気を配る。
グラスの取替えや、野菜スティックなどのおつまみの補充、
千華がゆっくりと過ごせるように、
それと、久しぶりに幼馴染と再会した武彦が楽しめるように。
二人を思いつつ、シュラインは自ら進んで世話を焼く。
そんなシュラインを見て、千華は武彦に何度も言った。
「あんたには、勿体無い」と。
その度に、武彦は「だからこそ大切にしてる」とノロけてみせた。
そんなこんなで夜は更け…。
そろそろ自宅のベッドでグッスリ眠りたいと、
千華は、お暇の身支度を整えだした。
「また、いつでも尋ねて来て下さいね」
ニコリと微笑んでシュラインが言うと、
千華はコートのボタンを留めるのを一旦止め、
ギュッとシュラインを抱きしめて言った。
「うん。喜んで〜」
シュラインを可愛がり抱擁する千華に、武彦がボソリと問う。
「今回は、いつまで居るんだ?こっちに」
「暫くいるわよ。ちょっと、こっちでデザイナーの仕事したいし」
「何だ…そうなのか」
「あっ。何だとは何よ。酷いわ。ねぇ?シューちゃん?」
自分に向けられる視線にシュラインは首を傾げる。
(シ、シューちゃん?)
「お前…ネーミングセンスは、相変わらずクソだな」
クックッと笑う武彦。
どうやら、千華は気に入った人物に愛称をつけるらしい。
シュラインには、シューちゃんという愛称をつけたようだ。
「じゃ、また来るわ。仲良くね、お二人さん☆」
ヒラリと手を振って興信所を去っていく千華。
しんと静まり返った興信所リビング。
何だか、とても切ない…。
千華の存在感をヒシヒシと感じつつ、シュラインは後片付け。
「あ〜。疲れた。あいつ、うるせぇな〜相変わらず」
伸びをしながら文句を言う武彦。
けれど、口元には笑み。
久しぶりに会えて、嬉しいのだろう。
シュラインはクスクス笑いつつ、零と一緒に洗い物を始めた。
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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / モデル・武彦の幼馴染
■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。
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2008.02.26 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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