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<東京怪談・PCゲームノベル>


返魂の姿見

●招来
「ここは、たしか空き地だったはず。いつの間にこんな店ができたんだ?」
  陣内・京司(じんない・きょうじ)は、煙草を銜えながら物珍しそうに突然建った店舗を見ていた。
 薄汚れたショーウィンドウには、壷、美術刀、掛け軸と言った値打ちがあるかどうか解らない骨董品が展示されていたが、その中で京司の視線を釘付けにしたのは、古びた姿見だった。
「この鏡……」
 興味深そうに見ているところ、彼の背後に忍び寄る人影が。
 元暗殺者である京司は、咄嗟に身構え、その人物がいつ自分に襲い掛かっても良いような体勢をとったが

「当店に御用ですか?」

 怪しいと思った長身、長髪、中性的な紫の瞳の人物は、見ただけで心が癒されるような微笑みを浮かべながらそう言った。
「当店って……これ、あんたの店か?」
「はい。お見受けしたところ、ショーウィンドウに飾ってある姿見に興味を示されたようですね。立ち話も何ですから、店内でその姿見についてご説明致します。ああ、申し遅れました。私はこの店、『幽玄堂』店主の香月・那智と申します。お時間の方は大丈夫でしょうか?」
「あ、ああ……」
 断る理由が無かったので、京司は那智に招かれるように店内に。

●姿見
『幽玄堂』店内は、古びた骨董品店のようだったが、窓際には、店に似つかわしくない木製のテーブルと椅子が置いてあった。
「どうぞ、おかけください。今、お茶をお持ちしますので。それと、店内は禁煙ですので、申し訳ございませんが煙草はご遠慮願います」
 ちっ、と舌打ちした後、京司はジャケットに入れ持ち歩いている携帯灰皿を取り出し、吸殻をそこに捨てた。
 数分後、那智が淹れたてのハーブティーを銀色のトレイに乗せ戻ってきた。
「淹れたてのローズイヒップティーです。これで、ビタミンCを補給してください。喫煙者は、ビタミンCの消費量が多いですから」
「あ、ありがとよ……」
 折角だからと一口飲むものの、俺の口には合わねぇと心の中で京司はぼやく。
「あのよ、鏡のこと説明してくれないか? 俺は、そのためにここに来たんだぜ」
 失礼しました、と頭を下げながら謝罪した後、那智は展示してある姿見を運び出し、京司の横に置いてから説明を始めた。

「これは『返魂の姿見』といいまして、付属品である線香を焚いている間のみですが、お亡くなりになった方、可愛がっていたペット等と会話ができる商品でございます」
「はんごん?」
「魂が返る、と書きまして「返魂」と申します。簡単にご説明すると「甦り」です。一時的ですが、魂がこの世に帰ってくるのです」
 本当かよ……と、返魂の姿見を凝視する京司。
「信じられない、といった表情をされていますが、本当なのです。この姿見を通じ、無くなった大切な方と会話されたお客様もいるのですよ」
 那智の話が本当だったら、この姿見を手に入れたい!
 そう願う京司の心境を察したのか、那智は「試しにお使いになりますか?」と尋ねた。
「中には「胡散臭いから試させろ」と仰るお客様もいますので、信用していただくために無料でお貸ししています。どうなさいますか?」
「本当に……それで死んだ人間と話が出来るんだな?」
「はい。姿見越しになりますが」

 ――それでも良い。それでも、俺はあいつに……。

「わかった。その鏡、貸してくれ」
「かしこまりました。ご自宅のほうにお運び致しましょうか?」
「頼む。できれば、今すぐに!」
 こうして、京司の自宅に姿見が運び込まれることに。

●再会
 京司を自宅に送ると同時に、那智は車から慎重に『返魂の姿見』を下ろした。
「見てらんねぇ。俺も手伝う」
 京司が手伝ってくれたおかげで、スムーズに姿見は運び込まれた。

 置いた場所はリビングの中央。
「では、これをお渡しします。付属品の線香と線香立てです。この姿見ですが、午前0時に使用できます。線香を焚いてから、室内を暗くしてください。そうしませんと、お会いしたい方が姿見に映りませんので。お邪魔をしては失礼ですので、私はこれで」
 那智は京司に深々頭を下げると、早々に帰った。

 午前0時。
 京司は、那智の指示通りにライターで線香に火をつけて焚き、カーテンを閉めた後、室内を暗くした。
 すると……姿見に一人の女性の姿が映し出された。
「会いたかったぜ……」
 憂いを帯びた瞳で京司が見つめている女性は、事故であったとはいえ、自分が殺めた恋人だった。
 黒髪碧眼で、明るい系の大和撫子といった感じの女性に、京司は暗殺者時代に仕事で来日した際に知り合った。その後、二人の距離は徐々に縮まり、最初は友人からの付き合いだったが、いつしか恋仲に。

 ――そんな彼女を、俺は……。

 懺悔、あるいは悔恨。彼女を死なせてしまったという思いが、京司の心を深く抉った。

●約束
「罪滅ぼしというか……何というか……。あんたは、自分を殺した俺に死んで欲しいと思ってるのか? 死んで欲しいと願うなら、俺は死んでも構わない。それで、あんたを殺した罪が償えるなら……」
 口にした言葉は、本心だった。
 それで許してもらえるなら、いくらでも自分の命を投げ出してやる!
 姿見に映った女性は、今にも泣きそうな表情でゆっくりと首を横に振った。

『あなたには……私の分まで生きて欲しい。それが、私の願い……』

 鈴が転がるような小さな声が、部屋中に響き渡るように聞こえた。
「あんた、本当にそれでいいのかよ!? 俺は、あんたを殺したんだぜ! そんな俺に対して、何でそんなこと言えるんだよ!!」
 口惜しさのあまり、京司は姿見を両手を握り締め、拳を作ってから叩き付けた。
 鏡の破片が拳に突き刺さり血が流れ出ていたが、その痛みより、心の痛みのほうが辛い。
 泣き出した京司の頬を撫でたのは、姿見から出現した白い肌の美しい手だった。

『泣かないで、あなたにそんな顔は似合わない。約束して、私の分まで生きるって』
 
 それが彼女の望みなら、と、京司は無言で頷くと同時に線香は燃え尽き、姿見に映っていた女性の姿はすぅーっと消えた。
「ありがとよ……約束は必ず守ってみせるぜ」
 辛気臭ぇツラは俺には合わん、と京司は洗面所に向かうと顔を洗い、両手で顔を叩いて気合を入れた。

 その後の煙草の味は、美味いようで不味い。そんな感じだった。

●返却
 京司は、彼女との思いを吹っ切るため『幽玄堂』に姿見を返した。
「これだが、不要になっちまったんで返すぜ。その……なんちゅうか……ありがとよ」
 照れながら礼を言う京司に、那智は「大切な方とお話できたようですね。それは何よりです」と会った時同様の微笑を浮かべて喜んだ。
「んじゃ、俺はこれで。仕事があるんでな」
 後ろを振り向かず、京司は右腕を振って別れの挨拶をした。

 ――これで良かったんだよな……。

 雲ひとつ無い青空に向かい、京司は愛していた女性の名を呟いた。
 彼女の名は、天に届いたのだろうか……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7429 / 陣内・京司 / 男性 / 25歳 / よろず屋・元暗殺者】

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■         ライター通信          ■
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>陣内・京司様

はじめまして、氷邑 凍矢と申します。
このたびは「返魂の姿見」にご参加くださり、まことにありがとうございます。
お届けするのが遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。

京司様のバストアップを拝見すると、クールだけど、実は人情家ではないかという
感じが致しましたので、彼女とお会いしている際は涙脆くしてみました。
京司様のイメージに似つかわしくない描写でしたら、申し訳ございません。
お会いしたい方ですが、外見はプレイングに沿って描写しましたが、口調に関しては
大和撫子というイメージを崩さないよう気をつけました。
彼女との約束を守り通せるよう、お祈り致します。

リテイクがございましたら、遠慮なくお申し出ください。

またお会いできることを楽しみにしております。

氷邑 凍矢 拝