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<東京怪談・PCゲームノベル>


【妖撃社・日本支部 ―桜― 面接】



 場所は、間違いないだろう。だが……。
(ここ、か?)
 目の前にある四階建てのコンクリートビル。足を踏み入れるが、一階は無人だ。何も入っていない。
 では二階?
 陣内京司は二階に続く階段をあがる。わざわざエレベーターであがることもない。
 二階に到着すると、今度は人の気配がした。事務所のようなドアもある。
(あそこか?)
 足音が廊下に大きく響く。
 ドアに手をかけて手前に引いた。――と。
「あら。いらっしゃいませ。ご依頼でいらっしゃいますか?」
 唐突に、目の前に少女が現れた。金髪の、西洋人の娘だ。だが……格好が……。
(メイド……?)
 喫茶店、じゃ……ないよな?
 ちょっと自問自答してしまうが、京司はこほんと軽く咳をした。
「バイトを募集してるって聞いた者なんだが」
「まぁ。バイトの面接でいらっしゃったのですか。履歴書はお持ちですか?」
「えっと」
 持っていたカバンから履歴書を出そうとするが、メイドに止められた。
「わかりました。では支部長が面接をしますので、こちらでお待ちください」
 そう言って彼女は歩く。衝立で隠されている、来客用のソファに座るように促された。
 京司はそこに腰掛け、目の前にあるテーブルを見遣る。ソファもテーブルも、それほど高価なものではない。
 周囲に視線を向ける。衝立で室内が見えないようにしてある。いや……逆だ。衝立でこちらの状況を他に見せないようにしているのだろう。一応依頼人などの秘密や相談を厳守するようにしているのだ。
「お待たせしました」
 衝立のない一角から姿を現したのは、制服姿の娘だった。先ほどのメイドとそれほど年齢は変わらないだろう。
「私が妖撃社、日本支部の支部長、葦原双羽です」
「俺は陣内京司。嬢ちゃんが面接官?」
 京司の言葉に彼女はぴくりと微かに反応する。
「……そうですが」
「んじゃ、よろしくな」
 軽く挨拶をして手を差し出した京司を一瞥し、彼女は向かい側のソファに腰掛けた。行き場のない手を見下ろし、京司は引っ込める。
(「嬢ちゃん」っての……ちょっとマズかったかな)
 支部長と名乗っていたことを考えると、目の前の彼女がここのトップということだろう。
(……こんな学生が?)
 嘘だぁ。
 見た感じ、なんの変哲もない一般人だが……。いやだが、人は見かけによらないというし。
「陣内さんはどこでうちがバイトを募集していること知ったんでしょうか?」
「ん〜、俺の知り合いに草間っつう自称ハードボイルドの貧乏探偵がいるんだが、そいつが教えてくれたんだ」
「草間……。あぁ、草間興信所」
 なるほどと彼女は頷く。
「存じてますよ。では志望動機は?」
「…………」
 その質問に京司はニヤリと笑った。
「嬢ちゃんとお近づきになりたかったってのは……」
 ぎろ、と睨まれる。思わず京司は動きを止めた。
「……って嘘嘘! そんな怒んなよ。悪かったって」
「面接に来ているということは、雇われたいという意志があってのことですよね」
「ん……まぁ、な」
「私はあなたの冗談を聞くために時間を割いているわけではありません。真剣に話している時に冗談を言うのは、相手に失礼だとは思わないんですか? あなた、少なくとも私より年上でしょう?」
 わきまえろ、と暗に言ってきている。
 面接に来ている以上、そして雇われる相手を前にしている以上……軽口を叩くなと示しているのだ。
「えーとだな、真面目な話、さっきの草間ってヤツがいつもは仕事を回してくれるんだけどな、性格的にどーも金運なくてなぁ。なんつーか、恋人は疫病神か貧乏神っつう感じなわけ。で、そいつに文句言ったらここを教えてもらったんだよ。言っとくが俺は仕事は真面目にやるぜ?」
 彼女は半眼をこちらに向けてきた。かなり気まずい。
「なんだよその目は。ほんとだぜ?」
「…………さっきの今で信用すると思います?」
 それは当然だろう。こんなことなら言わなきゃよかった。
(冗談の通じねー嬢ちゃんだなぁ……)
 いや、こういう場で冗談を言った自分に非があるのだ。大人げないことをしてしまった。
「まぁいいでしょう。では履歴書を拝見させてもらっても?」
「あぁ、えっと……」
 ごそごそとカバンの中を探り、取り出す。そのまま双羽に渡した。
 受け取った彼女は二つ折りにされた履歴書を開き、ざっと目を通す。履歴書には京司の高校卒業以降が記され、イタリアの会社に就職していることも書かれている。その数年後に退職していることも、だ。
「……イタリアに就職されていたんですね。なぜお辞めになったんですか?」
「色々あって」
「ふぅん。ではこれはお預かりしておきます。不採用になった場合はお返ししますので。
 それでは最後に、あなたの能力について聞きたいのですが」
「俺の能力……か」
「何もないならそれでも構いませんが」
「いや、ある。何もないところから銃を取り出すこと、だな」
 うん、と頷く。
 支部長さんは沈黙してしまった。そして、片眉をあげる。
「何もないところから、銃を取り出す?」
「そ。この掌の召喚陣で。使う銃は祝福儀礼済みだから霊とかにも効くからな」
「…………陣内さんて、人間なんですか?」
「人間だけど」
「………………ふぅん」
 うかがうように見てくる彼女はちょっと考え、それから立ち上がった。
「面接は以上です。お疲れ様でした」
「お疲れ。じゃあ、よろしくな」
「……まだ採用するとは決めていません」
 ぴりっとした空気が彼女から伝わる。
(……そうだった。つい忘れちまうんだよな……この嬢ちゃんが一番偉いってこと)
 あまり怒らせるとマズイ。
 立ち上がった京司に声がかけられる。
「お帰りはこちらです」
 ぎくっとして見ると、衝立のない一角にメイドの娘が立っていた。こちらへどうぞ、と手で示す。
 ここに入ってきたルートを辿って入り口のドアのところに来ると、メイドはにっこりと笑顔を向けてきた。
「お疲れ様でした」
 ドアを開いてくれたので、京司はそのまま外に出る。背後でぱたんとドアを閉まった。
 後頭部を軽く掻き、京司はそのまま階段を使って一階に下り、そのままビルを後にした。
(気軽にしすぎたかな……。あの年頃のオンナノコってやつは、けっこう色々あんのかもしれねーし)



 履歴書に書いていた連絡先は、自分の携帯番号だ。
 その携帯が、19時過ぎに着信音を響かせる。手にとって表示された番号を見るが、見覚えがない。
「もしもし?」
 出てみると、声が返ってきた。
<陣内京司さんのお電話で間違っていないでしょうか?>
「そうだけど」
<妖撃社、日本支部長の葦原です>
 あ、昨日面接に行ったあそこだ!
 ピンときて京司は耳をすます。
<バイトの件なのですが>
(不採用、かな)
 後で思えばちょっとさすがにあれはないような気がしていたのだ。一般の学生だってもっとマシな面接をしているだろうし。
<バイトとして採用させていただくことになりました>
「えっ」
<手続きをしますので、都合のよろしい時にいらっしゃってください>
「あ、あぁ」
<それでは失礼します>
 通話が切れる。
 京司は呆然と携帯電話を見た。
「……マジで?」

 数日後、再び妖撃社に京司は訪れた。手続きってなんだろうかと悩みつつ。
「おっす!」
 元気よくドアを開けて入る。入ってすぐに衝立があるので、室内を一望はできない。
 フードを深く被った青年が、奥からこちらを覗いてきた。京司は片手を挙げて挨拶しようとするが、彼はすぐに引っ込んでしまう。
「フタバ様、バイトの方がお見えになっていますわ」
「ん。通してちょうだい」
 そんな会話が部屋の一番奥からする。足音をさせてメイドがやって来た。
「ジンナイキョージ、でしたか。フタバ様が奥の部屋でお待ちです」
 こちらへ、と案内され、部屋の一番奥にあるドアを開かれる。事務所のそのドアの向こうには、双羽の座る大きな机が見えた。事務所より狭いが、ここが支部長の部屋なのだろう。
 彼女は机の上に広げられたファイルから顔をあげ、京司を一瞥する。
「来たわね」
「よぉ。採用してくれてありがとな、嬢ちゃん」
「その呼び方はよして。今日から私はあなたの上司よ。面接の時は黙っていたけど、あんまりナメてるとすぐにクビにするから」
「…………」
「よくそんなので会社に就職できたものね。個人的には採用を見送りたかったんだけど、能力的には社の基準をクリアしていたからバイトとして雇用したにすぎないわ」
(……き、きっつー……)
 そりゃまぁ、自分の態度などは確かに褒められたものではないが。
 双羽は眼鏡を軽く押し上げる。
「社の上下関係を理解しない、納得できないなら辞めてもらって結構。うちで働く以上、うちの一員という自覚を持ってもらうわ。仕事だけ真面目にすれば済む、なんていうのは大間違いよ。うちはそういう会社じゃないから」
「……違うのか?」
「仕事斡旋所じゃないから、うちは。そういうのを求めてるならうちはあなたには向かないでしょうね」
 捲っていたファイルを閉じ、双羽は顔をあげて京司を見る。
「銃を扱うってことだけど、撃った銃弾は必ず回収すること。できないなら、撃った銃弾数や場所を正確に報告書に書いてね。
 極力発砲音を一般人に聞かれないように配慮すること。いい?」
「そ、それってかなり難しいことなんだが……」
「事前に銃の使用をこちらに申請するか、もしくは仕事が終わった後、報告書でこちらにあげれば後始末はするわ。後始末が多ければ、減俸対象になるから気をつけてね」
「…………」
 なんか、思っていたのと違う、ような。
 京司の様子に双羽は不思議そうにする。
「今までどうだったか知らないけど、うちは後始末もきっちりする方針なの。……まさかと思うけど、撃った後のことを考えてないなんて、無責任なこと言わないわよね?」
「…………」
「撃った後の建物や道路の破損の修復金はこちらで請け負うけど、あまりに金額が大きすぎると、給料から差し引くから」
 こ、これは手厳しい。
 双羽はしごく真面目な顔をしているので、冗談ではないのだろう。嫌味で言っている様子もない。
(なるほど……これが「会社」ってわけか)
 久々に社会の厳しさを思い知った京司であった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7429/陣内・京司(じんない・きょうじ)/男/25/よろず屋・元暗殺者】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、陣内様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 妖撃社へようこそ。なんとか面接には合格したようです。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。