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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


傍迷惑なトラブルシーク



「あ」
 がしゃん。
 小さな音を立てて、それは壊れた。
 中に入っていたものがふわりと宙に浮かび、ついで光を放って拡散する。
「あぁ〜どうしよう。これ吉良さんのところから持ってきたのに」
 日向明は、もとは小瓶であった硝子の欠片を見遣り、深々と溜め息を吐く。
「『種』だったんだよねぇ、あれ。ってことはトラブルが起きるってことで…」
 自身の能力である『トラブルシーク』で見つけたトラブルの種。それを閉じ込めた小瓶を明は持ち出したのだった。……もちろん無断で。
「ここ、学校だし…そのままにしてたらどうなるかわからないなぁ。どうしよう。誰かに手伝ってもらって回収しようかなぁ」
 呟き、携帯を取り出した。使えるものは使う主義の明だった。
 迷うことなく一つの番号を呼び出し、コールする。無機質な電子音の後に、受話器が上がる音。
「…あ、草間さんですか? ボクです明ですー…って切らないで下さい! 用件も聞かずに切ろうとするなんて酷いですよぅ。……えーとですね、ちょっと困ったことになったので協力を仰ぎたいんですよ〜。今神聖都学園に居るんですけど、そこでうっかりトラブルの種が入った瓶割っちゃって……そう、その通りです手伝ってほしいんですー。……もちろん無料奉仕してくださいなんて言いませんよ? 相応の対価は払いますからぁ〜。………はい、わかってますよぅ。じゃあお願いしますねー。ボク校門のとこに居ますから」
 通話を切って、ふう、と溜息を吐く。そして『種』の位置を探りつつ、草間が派遣してくれる協力者を待つために校門へと足を向けたのだった。

◆ ◇ ◆

「神聖都学園…ってここ、だよな」
 極々普通の一般男子生徒にして渡辺家当主である渡辺綱は、神聖都学園の前で立ち止まり、そう呟いた。
 懇意にしている草間興信所からの、突然の連絡。内容を聞いてみれば、『トラブルの種』なるものを回収する手伝いをして欲しいとのこと。
 依頼内容もよく分からないが、依頼人についてもよく分からない。
 草間曰く『トラブルメーカーで傍迷惑な人間』らしいが。そもそもその『トラブルの種』もその依頼人――日向明によって散らばったらしい。というか『トラブルの種』ってなんだろう。
 とにもかくにも、頼まれたのだから自分に出来ることはやらなければ。
 そう考えながら待ち合わせ場所に近づく。
(……あれ?)
 何故か人影が2つ見える。依頼人は1人だと聞いていたのだが。
「あ、渡辺さんですか〜?」
 そのうちの1人、背の低い、可愛らしいともいえる顔立ちの少年が、綱に目を止めてにこにこと声をかけてきた。
「あ、うん。ええと、……日向明…さん?」
 直接ではないにしろ依頼人であるので、最低限の礼儀は示すべきだろうと拙いながらも敬称をつけたのだが。
「そうですよ〜ボクが日向明です。あ、敬称なくてもいいですよ? タメ口でオッケーです」
「えっと、じゃ、日向って呼ぶな。…知ってるだろうけど、オレは渡辺綱」
 草間から明も同学年だと聞いていたので、敬語と敬称を遣うのに違和感を覚えていたのだ。明本人からそう言ってもらえると助かる。
「協力よろしくお願いしますね〜。あ、こちら橘キィ太さん。さっきそこで会ったんですけど、『トラブルの種』探し手伝って下さるそうなんで」
「よろしくっ!」
 詳しく聞いてみれば、キィ太は学園の近くで屋台のクレープ屋をやっていたらしい。そこにふらりと現れた明が、近くにあった『種』を回収するついでにキィ太に声をかけたとか。
 まぁ人数が増えたところで、やることが変わるわけではない。
 とにもかくにも、3人は『トラブルの種』を求めて神聖都学園内へと踏み入ったのだった。

◆ ◇ ◆

「えっとー、まずはヤバそーなとこから行きましょう〜。なんか成長速度が異常なやつが一個あるみたいなんで」
 のんびりと紡がれた言葉の内容に、明の後を着いて行く2人の頬が引きつった。
 口調こそ明るいが不吉な予感しかしない。ヤバそーってどういうことだ。
「というわけで、ここです〜」
「ここ、って…」
 明が足を止めたのは、校舎の中、棟と棟を結ぶ場所。
「渡り廊下……?」
 綱が呟く。そう、そこは間違いなく渡り廊下だった。……ただし。
「そうです渡り廊下ですー。なんか異空間に繋がっちゃってるみたいなんですよね〜」
 廊下の周囲が、見るからに怪しげな空間に成り果てていた。
「ここ、入って大丈夫なのか?」
 少し不安げなキィ太に、明が笑う。
「あはは〜大丈夫ですよ。………多分」
 ぼそっと付け加えられた言葉に「多分って何?!」と慄く2人を尻目に、明は目を眇めて周囲を――闇のようなそうでないようなよくわからないものを見つめた。
「うーん、思いっきり育っちゃってるみたいですねぇ。種を見つけてハイ終わり、っていうのが一番楽なんですけどー」
 これじゃ無理そうですね〜などと朗らかに言う明。そんなのほほんとした状況じゃないだろう、と綱とキィ太は心底思った。
 それはともかく、状況を確認しようと綱は周囲を見渡す。
 床は普通の学校と何ら変わりない廊下だ。ただ左右の空間が明らかに異常なだけで。
「ええっと、種が発芽してるってことか? 育ってるってことは、回収は出来ないのか」
「あー、いえ、回収は一応出来ますよ〜。ただし、ちょっと手間がかかるだけで」
「手間?」
 怪訝そうにする綱に、明は大仰に肩をすくめた。
「今は空間全体にトラブルが広がっちゃってるんで、大本からざっくり切り離さないと回収できないんですよ〜」
 まぁまずは種がどこにあるかを探さないとなんですけどね〜、と緊張感の欠片もなく言う明。
「あ、そうそう」
 恐る恐るといった体で廊下の淵から下を――なんだかよく分からない異空間を覗き込んでいたキィ太に明が声をかける。
「多分廊下…っていうか床?から足踏み外したらどこ行くか分からないんで、気をつけてくださいね〜」
 その言葉に思わずといった風にキィ太は身体を退いた。うっかりバランスを崩したら洒落にならない。
「って、うわぁあ?!」
 響いたキィ太の叫び声に、綱ははっと振り返った。
 瞬間。
「っ…!?」
 目の前に飛来してきた何かをとっさに鞘に収めたままの御霊髭切で叩き落とす。
 そしてそれを見下ろしたのだが――。
「本…?」
 間違うことなき本だった。背表紙にラベルが貼ってあることからして図書室の蔵書だろう。
 しかし、何故ここに図書室の本が。というかそもそもどうして飛んで来るんだ。
 首を捻る綱だったが、視界に映った光景に慌てて思考を頭の隅に押しやった。
「ちょ、待、ていうかなんで俺ばっかりなんだ!?」
 悲痛な叫び声が響く。その主は飛来する大量の本を必死で避けているキィ太だった。
 明らかに集中的にキィ太へ本が飛んできている。比率としては綱:明:キィ太=1:2:9くらいだろうか。
 とりあえず飛来する本を叩き落としながらキィ太に駆け寄った綱だったが、御霊髭切で叩き落とすにも限界がある。
「どうやらここが図書室と繋がっちゃったみたいですねぇ。そういえば図書室でポルターガイストが起こってるって聞いたような〜」
 のほほんとした明の言葉にそんな悠長に言っている場合じゃないと口を開きかけて、またも連続して飛んできた本を弾く。
「っ、どうすればいいんだ!?」
 問えば、やはりのほほんとした口調で明は答えた。
「とりあえず『種』――育っちゃってるから厳密には違いますけど――を探してみます〜。その刀なら多分切れると思うんで、渡辺さんにも手伝ってもらいますね。橘さんは頑張って本避けてて下さい。こっちに本が来ると集中できないんで」
 やはり緊張が感じられない上にちょっと人でなしな台詞を言いながら、明はすっと目を細めた。
(……とにかく、日向が種を見つけないと対処のしようがないってことか。とりあえず廊下から落ちないように気をつけつつ待つしかなさそうだな)
 キィ太の加勢に行きたいところだが、下手に動いて不測の事態を引き起こしたらまずいだろう。
 己に向かって飛んでくる本を避けたり叩き落としたりしつつ、明の指示を待つことにする。
 しばらくして、唐突に明が口を開いた。
「えーと、渡辺さん。ボクが良いって言うまでそのまま真っ直ぐ歩いてください」
「あ、ああ……」
 よく分からないながらも言われたとおりに歩く。恐らく明は『種』の位置を把握したのだろう。ならば自分は彼の指示に従うまでだ。
「そこで止まってください。…あ、ちょっと右に一歩くらい動いてくれます?」
 またも言われたとおりに動き、明に確認する。
「これでいいか?」
「はいー。…じゃあその刀を――そうですね、こう、斜め45度くらいで右肩上がりに振ってもらえますか? そこが繋がってるんで」
「わかった」
 そうしている間にも飛んできている本を無造作に叩き落として、綱はすっと御霊髭切を構えた。
 そして、一閃。
 目には見えないものの『何か』を切った感触が伝わり、同時に空間が歪んだ。
「うわっ?!」
 思わず声を上げる。
 ぐにゃぐにゃと、得体の知れないものが蠢くように周囲が変化していく。
 そのせいなのかなんなのか、頭を思い切りシェイクされているような感覚が襲ってくる。
(き、きもちわるっ…)
 綱とキィ太は図らずして全く同じことを思った。
 歪んだ景色が徐々に元の渡り廊下へと戻っていくのを見ながら、必死に不快感に耐える。
 そして、完全にごく普通の渡り廊下に戻ったそこにふわりと浮かんだ『種』を、明がポケットから取り出した瓶に収める。
「無事回収完了、ですねぇ。……って、お2人とも、大丈夫ですかぁ?」
 やはりのんびりとした口調で尋ねられ、色々微妙な気分になりながら首を振る。
「っていうか、何で明さんは平気なんだ…?」
 俺たちはこんなになってるのに、と座り込んだままキィ太が問えば、明は軽く首を傾げて答えた。
「日頃の行い、ですかね?」
 絶対違う、と心の中で綱とキィ太はつっこんだが、口に出す元気はなかった。

◆ ◇ ◆

 しばらく安静にしたおかげで、なんとか回復した2人に、明が明るい声で言う。
「じゃあ、残りの種の回収に行きましょうか〜。残りはまだ育つまで行ってないっぽいのでもっと簡単ですよー」
 明の言葉にそうなのか、と胸をなでおろした協力者2人だったが――。
「うおおおおお!!?」
「うっわ!」
「わ〜、お2人ともナイスキャッチ!ですぅ」
「何呑気なこと――ってちゃっかり避難するなーッ!」
「だって上手くキャッチしなかったらそれ割れちゃいますしー。大丈夫です〜今種を探してますからぁ」
「いや言ってる間に探してくれ頼むから!!」
 家庭科室内を乱舞する食器や調理器具。家庭科室のドアを開いた途端に自分達に向かって飛んできたそれを、ただ避けるだけでは壁やら床やらに激突して割れてしまうので必死にキャッチする羽目になったり。
「う、うるさいっていうか、何だこの音…っ」
「何ていうか、いっそ芸術的な下手さですよね〜」
「いいから、早くこの音止めよう…! 耐えられないってマジで!!」
 よくぞここまで下手に弾けるものだとむしろ感心してしまうほどの旋律を奏でるピアノがある音楽室に行き、音楽的センスを根こそぎ破壊してしまいそうなその音色を至近距離で聞く羽目になったり。
「なんだ、ただの鏡みたいだな…って、うおおおおおお?!!」
「うわ、ちょっ、何だこれ!」
「『異次元に引きずり込む姿見』ですねぇ」
「いや呑気に言ってる場合じゃなくて! 橘さん、もうちょっと踏ん張ってください、ってか俺も引きずり込まれてる!? 日向早く『種』見つけろって!」
 『種』によって変容した鏡にうっかり引きずり込まれそうになったキィ太がそれを助けようとした綱をも巻き込んで危うく異次元旅行(強制)に旅立ちかけたり。
 回収先でことごとくトラブルに巻き込まれ、全ての種の回収が終わった頃には綱もキィ太も心と体の疲労からぐったりとしていたのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1761/渡辺・綱(わたなべ・つな)/男性/16歳/神明高校二年生(渡辺家当主)】

【7414/橘・キィ太(たちばな・きぃた)/男性/19歳/クレープ屋】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、渡辺様。ライターの遊月と申します。
 「傍迷惑なトラブルシーク」にご参加くださりありがとうございました。
 お届けが大変遅れまして申し訳ありません…。

 せっかく霊刀を持っていらっしゃるのだし!と種回収に使用させていただいたのですが…なんだか地味ですみません。
 回収時は基本的に、橘さん強運によりトラブル(異変)に巻き込まれる→それを助けようとした渡辺さんもトラブルの渦中に→ギリギリで明が種を回収、という感じだったと思われます。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。