コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


巨大犬を追え!

------------------------------------------------------

OPENING

「ちょっと下ろしすぎたかもな…」
ボソリと呟く、草間探偵所の所長、武彦。
彼の手には、分厚い封筒。
封筒の厚みは、紙幣によるものだ。
興信所のパソコンが壊れたらしく、
これから、買いに行こうとしている。
武彦はローンを組むという行為を嫌う。
長期間、金絡みで首輪を繋がれるというのが嫌らしい。
(さて…どこで買うかな)
物思いに耽りつつ、車のキーを上着から取り出す武彦。
その時。
ボトッ―
手が滑って、封筒を落としてしまった。
身を屈めて封筒を拾おうとする武彦。
その時。
ガブッ―
どこからともなく現れた巨大犬が、封筒を咥え… ―
「わふっ」
じゃあな!と言わんばかりの鳴声を上げて、駆け出してしまった。
唖然呆然とする武彦。
ハッと我に返り、武彦は猛ダッシュで巨大犬を追う。
「待て、このやろォォォォォォォ!!」

------------------------------------------------------

目の前を、ギュンッと物凄いスピードで走っていく、真っ白な巨大犬。
「びっ…くりしたぁ…」
大好きな作家の新刊を買いに繁華街の書店へ来ていたシュラインは、
突然目の前を駆けていった巨大犬を目で追った。
(危ないわよね…あれ)
首輪はしているものの、猛スピードで走っているあたりから、
飼い主の手を離れてしまった可能性がある。
人通りの多い繁華街を、あのスピードで走り続けられたら、
いつか怪我人が出てしまうかもしれない。
もしも小さな子供と衝突したら…大変なことになってしまう。
危険だと判断したシュラインは、巨大犬を追いかけて捕まえようと決意。
踏み込んで、駆け出そうとした、その時だった。
「待てっつぅの、こらァァァ!!」
またも、ギュンッと物凄いスピードで目の前を通り過ぎるものが。
それは、見慣れた姿だった。
「たっ、武彦さん?」

武彦を追い、事情を聞いたシュラインは、溜息混じりに告げた。
「鞄にしまわないで封筒のまま持ってた武彦さんも悪いのよ?」
けれどシュラインの言葉は届かない。
武彦は、大金の入った封筒を咥えて逃げていった巨大犬を追うことに必死だ。
(まぁ…仕方ないか)
苦笑し、武彦と並んで巨大犬を追いかけるシュライン。
ハッキリとは確認できなかったけれど、
さきほど目の前を通り過ぎたとき、巨大犬は、確かに何かを咥えていた。
けれど、いつまでも咥えたままでいるとは限らない。
どこかでポィッと捨てられてしまったら…もう打つ手がない。
巨大犬の疾走は、止まらずに続く。
繁華街で、あらゆる人物に衝突しながらも、走り続けている。
そんな巨大犬の動きに、ふと何かを感じ取るシュライン。
「くっそー…何だってんだ、ちきしょぅ〜!!」
ゼェハァと息を切らしながらも、
真っ直ぐに先を走る巨大犬を見据えている武彦に、シュラインは提案した。
「ワンコの足音探るから、挟みうちしてみましょ」
「あぁ、その手があったな。忘れてた…頼むわ」
シュラインは一度立ち止まってフッと目を閉じ、気を静める。
雑踏や話し声を除去し、欲しい音だけを求め…。
(やっぱり…何か変だわ)
捕らえた巨大犬の足音を、頭の中で纏めるシュライン。
彼女が感じている妙な感じ。
それは、巨大犬の”迷いのない足取り”にあった。



シュラインと武彦は二手に分かれ、巨大犬に挟みうちをしかける。
導き出したベストポジションで巨大犬を待ち伏せするシュライン。
数秒後、巨大犬は思惑というか予想通りに、姿を現す。
前方で待ち構えているシュラインに気付いた巨大犬は、
少し躊躇って、疾走から小走りへと落ち着く。
今だ、とばかりに超音波を発して巨大犬を惑わせるシュライン。
人の耳には届かない、犬が嫌う超音波だ。
巨大犬は、これはたまらん!と道を引き返す。
だが、後ろには武彦がスタンバイ済み。
巨大犬はたじろぎ、残された道へと逃げ込んだ。
その先は袋小路。巨大犬は、見事に罠にかかった。

袋小路に追い込まれ、成す術なしの巨大犬。
口には、封筒を咥えたままだ。
武彦は膝に手をあてた状態で身を屈め、ゼェ〜ハァ〜…と肩で息をしている。
クタクタな武彦に苦笑しつつ、シュラインは言った。
「私が取ってこようか?」
「いや……いい……俺が行く……」
肩を揺らしながら返す武彦。
どうやら、自分の手で取り戻さないと気が済まないようだ。
シュラインはポンと武彦の背中を叩き、「頑張って」と告げた。
「まったく…どういう躾されてんだ、お前さんはよ」
巨大犬に歩み寄り、ボヤきながらそう言って、
巨大犬が口に咥えている封筒をバッと取り上げる武彦。
無事に大金が手に戻り、武彦はフゥーと安堵の息を漏らした。
これで一件落着…といいたいところだが、そうもいかない。
シュラインは、先程から妙な足音を耳に捉えている。
巨大犬を追いかけ始めた時から気にはなっていたが、
挟みうちを仕掛けたとき、その足音は大きな変化を見せた。
戸惑っているような、焦っているような、そんな足取りに変わったのだ。
巨大犬を「めっ」と叱っている武彦。
武彦は気付いていない。
シュラインは目を伏せ、落ち着いた声で呟いた。
「いつまで隠れてるつもりかしら?」
その言葉を発した途端、足音が怯む。
シュラインの耳には、足音の主である人物の鼓動も届いている。
今にも爆発しそうな、激しい鼓動だ。
シュラインの言葉に観念し、スッと姿を見せる人物。
それは、どこにでもいそうな中年男性だった。
男性が姿を見せた途端、巨大犬は「わふっ」と鳴くと、
ドッドッと足音を立てて、男性に駆け寄った。
男性の足に尻尾を絡めて、嬉しそうにしている巨大犬。
それを見た武彦は、どういうことなのかを理解し、溜息を落とした。



近頃、都内各所で頻発している盗難事件。
その犯人が、この中年男性だったのだ。
男性は飼い犬を使って、巧みな犯行を繰り返してきた。
まさか、自分が捕まえることになるとは…と武彦は苦笑しつつ、
すぐに現場にやってきた警察へ、拘束していた男性を引き渡す。
主人がどこかへ連れて行かれる、と不安そうな巨大犬。
男性は申し訳なさそうな顔で、巨大犬に「ごめんな」と告げた。
色々な意味の込められたその言葉を、巨大犬がすぐに理解するはずもなく、
パトカーに乗せられて去って行く主人を、巨大犬は慌てて追いかけた。
どこまでも、どこまでも。

「…可哀相に」
ポツリと呟くシュライン。
武彦は頭を掻きつつ、懐から煙草を取り出して肩を竦ると、
「あいつにとっては主人だからな。どうしても」
そう言って煙草に火を点け、テクテクと歩き出す。
主人を追う巨大犬の姿が見えなくなるまで、見つめていたシュライン。
ハッと我に返り、シュラインは武彦を追いかけた。
「パソコン買うのよね。付き合うわ」
「おぅ。ヨダレ尽きの紙幣でな」

------------------------------------------------------


■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵



■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは!いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

-----------------------------------------------------
2008.03.01 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------