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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


異界 DE 喉自慢

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OPENING

「わぁ。凄い人ですよ、ほら、お兄様っ」
キャッキャと嬉しそうに はしゃぐレイレイ。
ディテクターは煙草をふかしつつ、浮かない表情だ。
二人は今、第一回:異界 DE 喉自慢 の会場にいる。
イベント名のとおり、歌声を競い合う大会だ。
今日は任務がなく、久しぶりの休日。
ディテクターは、のんびりゆったり過ごすつもりだったが、
レイレイに無理矢理、ここに連れて来られた。
休日を奪われたこともそうだが、
ディテクターは人前で歌うのに抵抗がある。
レイレイを応援するだけで、参加する気は全くない。
だが、参加手続きを済ませたレイレイの手には、
参加者が身につけるバッヂが二つ…。
「おい…」
眉を寄せて呟くディテクターに、
レイレイは満面の笑顔で言った。
「優勝しましょうね。おー!」

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先月から計画していた、武彦との一泊旅行。
シュラインは、心から楽しみにしていた。
ワクワクしながら、ここ数日、夜更かしして旅行先に悩んでいた程だ。
何だかんだで忙しく、休み!と胸を張って言える日が見つけられない中、
ようやくチャンスが巡ってきた。それが今日だ。
けれど、シュラインは今、異界にいる。
ディテクターとレイレイと三人で。
(はぅ…折角のチャンスが…)
しょぼんと落ち込むシュライン。
そんなシュラインを見て、ディテクターは困り笑顔を浮かべた。
三人が今いるのは、異界にあるイベント広場。
夏に異界祭りが催された場所でもあるそこで、
今日、喉自慢大会があるのだ。
何の宣伝告知もなくゲリラ的に行われるこのイベントだが、
レイレイは、どこからか一早く情報を聞きつけ、即効で参加を決意。
で、ディテクターとシュラインも同行する羽目になった…というわけだ。

確かにチャンスは逃してしまったけれど、
折角来たのだから、楽しまなくては損だと思い、
シュラインは気持ちを切り替えて、辺りを見回した。
会場には多くの人。参加者よりも観客の方が明らかに多い。
向こう(東京)で行われた、恋人コンテストに雰囲気が良く似ている。
(レイちゃんって、こういうの好きよねぇ)
辺りを伺いながら、そんなことを思うシュライン。
確かに、この手のイベントに、レイレイは食いつく。
人前で何かを披露する、というイベントが好きなのかもしれない。
「じゃあ、私、向こうで…」
二人の応援というか、観戦に徹しようと決め、
観客席を指差しながらディテクターに言うシュライン。
「おいおい。そりゃあ、無理だろ」
苦笑してディテクターが言った。
(無理?)
キョトンとして首を傾げるシュライン。
すると、そこに参加申し込みを済ませたレイレイが戻ってきた。
レイレイの手には、参加者がつけるバッヂが…三つある。
「はい、どうぞ」
ニッコリと微笑んで、バッヂを差し出すレイレイ。
シュラインは、あははと笑ってバッヂを受け取った。
(勝率UPとか…そっち狙いね。まぁ、そうか。そうよねぇ)
そう。ついて来た(連れて来られたのだが)からには、参加しなくては。
いや、参加するしかないのだ。



大会優勝者に与えられる賞金は五十万円。
事務所の改装やら、パソコンを買い換えたりやらで、
興信所の家計は相変わらずキツイところ。
五十万円だと、ほとんどが何らかの維持費に消えてしまうが、
それでも、ないよりずっとマシだ。
幸い、参加者のレベルは高くない。
時々、おっ?と思わせる者はいるが、大したことはない。
これは…結果に期待できそうだ。
少し造りの粗い舞台の裏で、出番を待つシュライン。
彼女は、うーん…と悩んでいる。何を歌うべきか…。
先程確認したところ、会場には、あらゆる年齢層の観客がいる。
歌の上手さは勿論採点に関係するだろうが、一種のお祭りなのだから、
この場の盛り上がり、というのも採点に含まれるだろう。
ということは、観客の心を掴めるような楽曲が望ましい。
とはいえ、年齢層が幅広い為、悩むところ。
最新ヒット曲を歌えば、若者は盛り上がるだろうけれど年配の人達は戸惑う。
逆に演歌とかを歌えば、年配の人達は喜ぶだろうけれど若者はシラけてしまう。
どうしたものかと悩んで数分。シュラインはポン、と手を叩く。
(そうだ。童謡にしよう)
なるほど。童謡。それならば、誰もが知っている。
選曲にもよるが、誰も知らないような童謡をシュラインが選曲するはずがない。
悩みが解消されたシュラインは、ウンウンと頷き、
もうすぐ出番のディテクターとレイレイの元へ。
「うりゃっ」
ディテクターの背中に頭をグリグリ押し付けるシュライン。
ディテクターは、やはりノリ気じゃない様子で、面倒臭そうな表情をしている。
レイレイはやる気満々で、しきりに観客席の反応をチェック。
シュラインはクスクス笑い、ディテクターの背中に頭を預けたまま、
「旅行はなくなっちゃったけど…また、探偵さんの歌が聞けて嬉しいなぁ」
そう言って目を伏せた。シュラインの言葉の裏に隠された作戦。
それは、ディテクターを、その気にさせてしまうこと。
折角出場するのだから、全力を出してもらいたい。
ディテクターの選曲は、確実に好き嫌いがハッキリと分かれるものだろうけれど、
彼は歌が上手い。それを知っているシュラインだからこそ、実行できる作戦だ。
シュラインの作戦を、すぐに悟るディテクター。
けれど彼は、丸見えな その作戦に、すんなりと引っかかってみせた。
「うし。勝つぞ」
そう言って、シュラインの頭をパフパフするディテクター。
シュラインは「おぅ!」と言って右腕を高く掲げた。

案の定、ディテクターはステージでロックに弾けた。
若者はかなり盛り上がり、まるで、どこぞのライブハウスかという盛り上がりを見せたが、
年配の人達は、ほとんどがキョトーンでポカーン。
歌が上手くても、知らない曲では盛り上がれない。
レイレイは、というと、こちらも相変わらず。
だが、時と場所を考慮して、彼女は見事な選曲をした。
レイレイが歌ったのは、アイドル・リュシルのデビューシングル。
リュシルは、今、異界で大人気のアイドルだ。
知らない者は、そうそういない。
けれど、これも年配の人達には、あまりウケなかった。
ディテクターよりは盛り上がったのだが…。
そんなこんなで、いよいよシュラインの出番。
イイ汗をかいて、すっかり御機嫌になったディテクターは、
ゴクゴクとドリンクを飲みながら、ステージへ向かうシュラインに言った。
「頼むぞ〜」

大勢の観客を前に、ペコリと御辞儀をするシュライン。
しばしの沈黙の後、彼女はスゥと息を吸い込み、アカペラで歌いだした。
選曲は、童謡 ”あしたのまほう”
誰もが幼い頃一度は読んだであろう、同名童話の曲だ。
シュラインの透き通った美しい声と懐かしさに、
観客達は、自然と目を伏せて歌に聞き入った。
だが、これだけで終わらないのがシュラインの”歌”というもの。
シュラインは目を伏せて、ゆったりと聞き入る観客達の度肝を抜く行動をとる。
突如、童謡をアレンジしだしたのだ。
それだけではない。あらゆる楽器の音も交えていく。
ヒップホップ調にしてみたり、レゲエっぽくしてみたり、
思いっきりポップな感じにしてみたり、ゆったりと…ヒーリング系にしてみたり。
次々と変わる声色と歌声。
観客達は、拍手喝采をあげた。



『優勝は!ナンバー79!シュライン・エマさんです!!』
司会がコールする優勝者の名前。万丈一致だったようで、
誰も首を傾げたり、不満そうな顔をしている者はいない。
コールに応じてステージに登り、賞金を受け取るシュライン。
ゲリラ開催に不安を抱いていた関係者達も、とても嬉しそうだ。
「きゃー!!やったぁー!!凄いですー!」
賞金を手に戻ってきたシュラインの腕に飛びついて大喜びするレイレイ。
煙草をふかしつつ、ディテクターは「ごくろう!」と偉そうに言った。
「ねぇ、折角だから、今日は…ちょっと御馳走を食べに行かない?」
レイレイの頭を撫でつつ提案するシュライン。
二人は「勿論、そのつもりだよ」と声を揃え笑って言った。

異界にある有名レストランで食事する三人。
運ばれてくる料理を次々と平らげていくディテクターとレイレイを見つつ、
シュラインはクスクスと微笑んだ。
(まぁ…いっか)
武彦との甘い旅行は、御馳走へと変わってしまったが、
おやつを頬張る子供のような二人の姿を見ていると、
何だか、残念な気持ちが消えて安らいでしまうから。
「シュラインさんっ、これ美味しいですよー」
「こっちも美味いぞ。あっ!ビール追加ー!」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / ディテクター(草間・武彦) / ♂ / 30歳 / IO2:エージェント(草間興信所の所長)

NPC / レイレイ(草間・零) / ♀ / ??歳 / IO2:エージェント (草間興信所の探偵見習い・武彦の妹)


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは!参加・発注ありがとうございます。
プレイングの冒頭部分を「旅行」という形にして少し遊んでみましたが、
いかがだったでしょうか。気に入って頂ければ幸いです^^

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2008.03.01 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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