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<東京怪談ノベル(シングル)>


月夜の帰り道

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友人の骨董店店主に無理矢理連れて行かれた合コンパーティー。
その会場で、武彦と会い、二人でパーティを抜け出してきたシュライン。
手を繋ぎ、二人並んで興信所へ戻る。その途中での物語。


そういえば…荷物は全部、店にあるのよね。
強引にっていうか、無理矢理 着替えさせられちゃったから。
いい感じのところで引き上げて、帰ろうとは思ってたけど、
鍵は鞄の中だから…どっちみち、家には入れなかったのよね。
うーん、それにしても…。

ふっと武彦を見やり、ジッと彼の横顔を見つめるシュライン。
武彦はシュラインの視線に気付かず、浮かぶ月を見ながら物思いに耽っている。

はぁ、疲れた…。あいつの この手の誘いには、もう二度と応じねぇ。
嫌な予感しかしなかったんだよなぁ。案の定、女のレベルはイマイチだったし。
まぁ、イイ女を求めてたわけじゃねぇけど。いや、ほんとに。
酒と食事が美味かったのが救いだな。もう少し食ってくりゃ良かったか。
ふぅ、それにしても…。

ふっとシュラインを見やる武彦。バチリと交わる視線。
二人は思わずパッと顔を逸らし、お互いに何だ今の行動は、と自分に笑った。


「ねぇ、武彦さん」
「ん?」
「メール届いた?」
「あぁ、うん。会場に着いて二十分くらいした頃にな」
「心配してくれた?」
「いや。来るだろうと思ってたから」
「会場に?」
「そ」
「どうしてわかったの?」
「主催者が、あの店主の知り合いだって聞いたから」
「あ、なるほど」
骨董店店主に服を剥がされていた中、必死に打ったメール。
打っている途中で携帯を没収されてしまった為、
メールは、中途半端な状態で武彦に届いていた。
事前に、骨董品店に顔を出してくるとシュラインから報告を受けていた武彦は、
届いた中途半端なメールを読んで、すぐに理解した。
シュラインが、何に対して”助け”を求めているかを。
ゆえに、既に会場にいた武彦は、シュラインの到着を待った。
姿を確認できたら駆け寄って、すぐさま二人で抜け出そうと考えていたようだ。
そういうことで、武彦は先の計画がバッチリだったが、
パーティに連れて来られたシュラインは、不安を拭えぬまま参加した。
まさか、会場に武彦がいるとは思っていなかったから。
まぁ、武彦も幼馴染に連行された身で、シュラインと大して変わらないのだが。
「断りきれなかったのね。武彦さんも」
自分と同じように断りきれず、やむなく参加したんだなと笑うシュライン。
武彦は一瞬躊躇ったが、すぐに微笑み返して「そうなんだよ。参るよなぁ」と返した。
微妙な”間”に不信感を覚えるシュライン。
「…そんなこと言って、綺麗な人、探してたんでしょ。ちゃっかりと」
「(ギクリ…)んなわけねぇだろ」
「本当〜?」
「(視線が痛ぇ…)おぅ。マジで」
武彦は元々隠し事が下手だ。
それに加えて、二人の付き合いは長い。
平然を装っている武彦だが、ギクッとしていることはバレバレだ。
シュラインはプゥと頬を膨らませて、うりゃーっと武彦の腕に頭突きをした。


二人で歩く、静かな夜。
こうして手を繋いで、ゆっくり歩けるのは久々だ。
だが、暦は二月。ピュウと風が吹く度、寒さに目を閉じてしまう。
パーティドレスで薄着なシュラインは、一際寒そうだ。
武彦は上着を脱いで、それをシュラインに羽織らせる。
「あ。ありがとう」
ニコリと微笑むシュライン。
武彦はジッとシュラインを見やる。
「ん?何?」
首を傾げるシュライン。
すると武彦はスッと視線を前に戻し、呟くように言った。
「似合うな。そういうの」
普段とは違う、御洒落なシュラインの姿。
会場で言い損ねた台詞を、武彦はようやく口にした。
いつも動きやすい格好でいることが多い為、
こんな服を着ることは滅多にない。
化粧も普段は至ってシンプルなものだが、今日は念入りにキメている。
自分で施したわけではないけれど…。
視線を落として自分の姿を改めて確認したシュラインは、
何だか切ない気持ちに囚われる。
褒めてもらえたのは嬉しいけれど、
武彦の為にした、武彦の為の御洒落ではないから。
「…何だ。言い方悪かったか?」
ショボンとしているシュラインを見て、
もっと喜ぶ言い方があるのかなと思案する武彦。
空を見上げて言葉を捜す武彦を見て、
シュラインはクスクス笑い、
「ううん。嬉しいよ」
そう言って、キュッと繋いだ手に力を込めた。


二人の家、興信所に到着し、フゥと揃って息をつくシュラインと武彦。
二人は顔を見合わせて笑うと、いつもの格好に戻ろうと自室へと向かった。
自室へ戻る途中、シュラインは、あっ…と気付き、言った。
「武彦さん。十四日は…一緒にいれる?」
「十四?明後日か。仕事が入らなければな」
「そう、よね。うん」
納得するも残念そうな表情のシュライン。
武彦はハハッと笑い、シュラインの頭をくしゃっとして、
「冗談だよ。十四は臨時休業。素晴らしいイベントがあるからな」
そう言って、テクテクと自室へと向かっていった。
(意地悪なことばっかするんだから…もぅ)
くしゃりとされて乱れた髪を直しつつ、シュラインは頬を膨らませる。


明後日は、バレンタインデー。


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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵



■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。シチュエーションノベル発注ありがとうございます。
シュラインさんのバレンタインノベル、書きたかったので、
プレイングと私信を拝見した時は、とても嬉しかったです。
気に入って頂ければ幸いです^^ 是非、また。

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2008.03.02 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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