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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Alice in Wonderland 〜Caprice in the world〜



 石神アリスは、気付けば見知らぬ場所に居た。
 どうして自分がここにいるのか、ここに来る前に何をしていたかも思い出せない。
 ただ、己の意思でここに来たわけではないことだけは分かっていた。
 ――けれどそれは、アリスにとってさして重要なことではなかった。
『おやおや、どうやら“アリス”は“アリス”でも、随分と物騒な“アリス”が呼ばれたみたいですねェ』
 唐突に、どこからか声が響く。それはどこか楽しそうで――けれど困っている風でもあった。
『まァ一応説明しますけど、ここは“不思議の国のアリス”に酷似した世界です。で、アンタは“アリス”、俺は“チェシャ猫”の役割を“世界”から振られているワケですが……アンタが“アリス”として何らかのアクションを起こせば、“世界”も満足して元の世界に返してくれるはずです。ま、好きにやってください』
 俺は厄介事に率先して近づきたくはないんで失礼しますよ、と声の主は告げて、そして静寂が訪れた。
(“アリス”……)
 この『世界』とやらについてはよく分からないが、何の因果か自身の名と同じ『役割』を与えられたらしい。
 あの『声』が言っていた内容からすると、アリスが何か行動を起こすことによって元の世界に帰ることが出来るようになるかもしれないらしいが…。
 『不思議の国のアリス』の内容を軽く思い返したアリスは、ふと思った。
(『女王』に会ってみたいですね。きっと――とても美しいでしょう)
 一体どういう人物かは、実際に会ったことがないので分からない。しかしアリスには、『女王』が自身の『コレクション』に加える価値のある人物なのではないかという期待があった。
「では、向かうべきは『城』…ですね」
 呟き、周囲を把握しようと視線を上げたアリスの目の前に、明らかに先ほどまでなかったはずの扉があった。
 豪奢なそれは、アリスが開けるのが当然といった風に存在しており、怪しいと言えば怪しかったが――アリスは躊躇うことなくそれを開いた。
 扉の先へ足を踏み入れる。そこはとても広く、そして豪華な装飾に彩られていた。
 そこに兵士らしき格好――服にトランプのマークと数字が入っていることからすると『トランプ兵』だろう――人物がいた。
 その『トランプ兵』はアリスに気がつくと、駆け寄ってきた。
「『アリス』ですね?」
 半ば確認のような問い。アリスが頷けば、『トランプ兵』は「女王様がお待ちです」と告げた。

  ◆

 どうして『アリス』が来ると知っていたのか、どうして『女王』が『アリス』を待っていたのか。
 分からないことはあれど、そうたいした問題でもない。なので、アリスは余計な口を挟まずに『トランプ兵』の先導に従った。
 着いたのは、謁見の間らしき場所。上座に赤いドレスを着た女性が立っていた。恐らく『女王』だろう。
 こんなに簡単でいいのかと疑問に思わないでもないが、アリス的には何の問題もない。
「貴方が、『アリス』ですか」
 感情の読めない瞳でアリスを視界に収めた『女王』が、至極小さな声で呟く。静寂に支配された謁見の間では、それでも声が届くには充分だったが。
「私はセキ。『女王』の役割を与えられたらしいのですが、『女王』らしい行いをするつもりはありません。……先ほど『チェシャ猫』の役割を持つと言う人物が来まして、アリスがもうすぐこの城を訪れると告げました。だから貴方を『トランプ兵』に案内してもらったのですが」
 そこまで言って、『女王』は一度口を噤んだ。
「『トランプ兵』は退がりなさい。――『アリス』の貴方は顔を上げてください。顔を見ずに言葉をかけるのは慣れていないのです」
 『トランプ兵』が退出する気配がした。それと同時に、アリスは『女王』の言葉に甘えて顔を上げる。
 そして『女王』の姿をじっくりと眺めた。
 目の覚めるような鮮やかな赤の髪、意志の強そうな金色の瞳。
 可愛いと言うよりは綺麗と形容する方がしっくりと来る整った顔立ち。
 どちらかといえば『可愛い』モノの方が好きなのだが、彼女も充分コレクションに加える価値がある。
 そこまで思考したところで、少し怪訝そうな顔をした『女王』が口を開いた。
「無礼な――などと言うつもりはないですが、そう不躾に見られると、どう反応すればいいのか困りますね」
「ああ、申し訳ありません」
 にっこりと、アリスは微笑む。
 そして『女王』を視界に捉えて、魔眼を発動させた。――『女王』を石化するために。
「な…っ!」
 驚愕の声を『女王』が漏らす。
 しかしその間にも彼女の足元から徐々に石と化していく。
「何のつもりですか」
 すぐさまアリスの所業だと気付いた『女王』が問えば、アリスは興奮から頬を染めて答えた。
「わたくしのコレクションに加えます。大丈夫ですよ、きちんと展示して差し上げますから」
 自分を鋭く睨む『女王』は美しい。
(ああ、なんて――)
 心の中で呟く。
 恐怖や絶望の顔もいいが、こうして石化の最中でさえ冷静に自分を見据えるその瞳が、とても美しいと思う。
「一つだけ、言わせてもらいますが――」
 腰から胸、そして首が石になっていく中、『女王』は淡々と言葉を紡ぐ。
 それは今まで石化した者達の中でも特異な反応だったので、アリスは彼女の言に耳を傾けた。
「貴方は、趣味が悪いのですね。……少なくとも、私とは到底趣味が合いそうもありません」
 その言葉がアリスの耳に届いたと同時に、『女王』が完全に石と化した。
 だから『女王』が何を指して『趣味が悪い』と言ったのか、アリスに確認する術はない。
 人を石像にしてコレクションすることについてか、それとも『女王』をコレクションに加えることについてか。
 面と向かって『趣味が悪い』などと言われるとは思わなかった。不快に思わなかったわけではないが、出来上がった石像の出来が思いのほか良かったので、気にしないことにした。
 一歩一歩、『女王』の石像へと近づく。
 そして石像のすぐ傍に立ち、ゆっくりと手を伸ばす。
 ひやりと指先に伝わる温度に、そして独特の質感に、愉悦の笑みを浮かべた。
 またひとつ、コレクションが増える――そのことに対しての歓喜。
 けれど、唐突に『それ』は訪れた。
 視界が歪む。
 ぐるりと世界が反転する。
『世界はこれで満足したんでしょうかねェ。……個人的には“アリス”より“女王”の方が向いてそうな気がしましたけど』
『この世界で首を刎ねられるのと石にされるのって、どっちがマシですかね〜? ボクはどっちもイヤですけどー』
 そんな会話がどこからか聞こえた気がするが、アリスはそれどころではなかった。
(『女王』の石像が――)
 あの『世界』のものを元の世界に持ち帰ることができないと、どこからか頭の中に流れ込んできた知識が伝えてくる。
 確かにじっくり眺めたし触れたが、『コレクション』は展示してこそのものだ。
 なのに持ち帰ることが出来ないなんて。
 意識が落ちるその瞬間、アリスは口惜しさに歯噛みした。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7348/石神・アリス(いしがみ・ありす)/女性/15歳/学生(裏社会の商人)】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、石神様。ライターの遊月と申します。
 今回は「Alice in Wonderland 〜Caprice in the world〜」にご参加いただき有難うございました。
 お届けが遅くなりまして申し訳ありませんでした…。

 石神様の話し方が分からず、殆ど想像になってしまったので、イメージから大きく外れていないかと戦々恐々としています…。
 実は最初『ですわ』口調で書いてしまっていました……『かわいらしい』口調を履き違えていたような気がします。
 残念ながら、この『世界』の出来事は元の世界に反映されないので(殆ど夢のようなものなので…)、コレクションが増えることにはなりませんでした。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 それでは、本当にありがとうございました。