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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ニセ武彦

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OPENING

「だー!くそ!もう我慢できねぇっ!」
バンッとデスクを叩き、勢い良く立ち上がって、
その勢いのまま興信所を出て行く武彦。
彼のノートパソコンは開いたまま。
開かれているページは、東京ネットという交流サイトだ。
いくつも掲示板が設置されており、
毎日かなりのアクセス数がある人気サイト。
そこに…草間武彦、という名前で書き込みがあった。
本文に目を通して、すぐに気付く。
下品で幼稚な言葉の羅列…。
明らかに武彦が投稿したものではない。
というより、武彦はこの手のものに参加するタイプではない。

掲示板には「本当に草間探偵ですか?」といった書き込みも多い。
このニセ武彦は、それら全てに「勿論です」と応じている。
武彦のことを知っていて、なおかつ理解している人物は、
偽者だとすぐに気付くだろうが、知らない人物は、
こんな奴なのか、と思ってしまうかもしれない。
そうなったら、商売あがったり。

自分の名を使って投稿している…いや、自分になりきっている人物を、
コテンパンにこらしめようと武彦は飛び出して行ったようだ。

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「わっ」
物凄い形相で興信所を出て行く武彦に驚くシュライン。
洗濯物を取り込み終えた彼女は、畳み終えて、
各々の部屋へ持って行こうとしていた洗濯物を抱えたままキョトンと首を傾げた。
(何かあったのかしら)
数日前と似たような光景だった。
あの日は大金を巨大犬に盗られて、それを武彦が追いかけていたが。
武彦の先程の表情から察するに、今回もただごとではなさそうだ。
シュラインは、洗濯物をとりあえず階段付近に置き、急いで彼の後を追う。

「ちょっと、武彦さんっ。どうしたの」
隣に並んで、様子を伺いながら尋ねるシュライン。
武彦は不愉快極まりない表情で返す。
「偽者だよ、偽者」
「偽者?」
「そう。俺様の」
「えぇ?」
東京ネット。そこは人気の交流サイトで、都内のあらゆる情報が行き交う場所。
素敵なカフェを見つけたとか、子犬を拾ったとか、
書き込まれている内容は他愛なく微笑ましいものばかりで、
とても雰囲気が良い場所なだけに、一日何万ものアクセスがある。
そこに、武彦の偽者が出現しているという。
草間武彦という名前で書き込まれている内容は、
誹謗・中傷の類ばかりで、あらゆるものを拒み否定する言葉の羅列。
中には下品で猥褻極まりない内容の書き込みもあるという。
数日前から、この事態に気付きつつも、
武彦は犯人の居場所を特定する作業に打ち込んでおり、
その間、犯人は野放し。やりたい放題。
日増しに乱暴に幼稚になっていく書き込みに、武彦はプッツン。
犯人の居場所が特定できたと同時に興信所を飛び出した。


都内、某アパート前。
武彦がイラつきながらも調査した結果、犯人はここにいるという。
「ね、武彦さん。ちょっと落ち着いて…」
シュラインの言葉に聞く耳持たず。
武彦はダンダンと物凄い音を鳴らして階段を駆け上がると、
二階奥の部屋の扉を容赦なく蹴り飛ばした。
ドカッ―
アパートは築何十年という古いもので、
武彦の蹴り一つで、扉はあっさりと壊れて開く。
(…あぁ)
久しぶりにブチ切れている武彦を目の当たりにして苦笑するシュライン。
武彦はズカズカと部屋へ入り、大声で叫んだ。
「いるんだろ!クズ!」
どこぞの借金取りかといわんばかりの剣幕。
その声にビクリと反応する物体が…。
その物体はパソコン前で毛布を被っていた。
部屋は暗く、パソコンの灯りだけが照らす。
そこらじゅうに散らばる、インスタント食品のケース。
捨てられていないゴミ袋が、山のように積まれている。
漂う悪臭に、うぅ…と顔をしかめるシュライン。
武彦は毛布にくるまりうずくまる犯人に掴みかかる。
「このクソ野郎が…」
毛布を剥がれて姿が露わになる犯人。
犯人は小太りで、眼鏡をかけていた。
「ひぃっ」
怯えて固く目を瞑る犯人。
その犯人の怯えようが、武彦の怒りを更に増幅させる。
バキッ―
怒りに任せて、犯人を殴り飛ばす武彦。
(うわ。まずいわ)
瞬時にそう判断したシュラインはタタッと犯人に駆け寄った。
殴られて、みるみる赤くなっていく頬を抑えつつヨロヨロとふらつく犯人。
シュラインは犯人を支え、優しく言う。
「大丈夫ですか?」
シュラインのその態度に、ムッと顔をしかめる武彦。
何故、そいつを庇うのか。武彦は、それを理解できずにいる。
「いきなり殴るなんて、酷いじゃない!」
キッと冷たい視線を武彦に向けるシュライン。
その眼差しに、武彦の怒りが一瞬、スッと引いた。
けれど、すぐにまた怒りがこみ上げる。
犯人に対する怒りもそうだが、
シュラインの意図というか気持ちが理解できないことで、別の怒りも湧いている。
いや、むしろ…そちらの怒りのほうが強い。
「何だよ、それっ…」
眉を寄せたまま食ってかかる武彦。だが、すぐに気付く。
支える犯人に優しい笑顔を向けるシュラインは、
背中越しにIC録音機を見せていたのだ。
(最初に言えよ…)
何にホッとしたのやら、苦笑を浮かべる武彦。と同時に、
自分が我を忘れて特攻したが故に、
作戦というか計画に不備が生じていたことに、
彼は、ここでようやく気が付いた。

優しく介抱しながら、シュラインは巧みに犯人の心を探る。
「あぁ…こんなに腫れて。可哀相に…」
ヒリヒリと痛む頬を優しく撫でられ、犯人は恥ずかしそうに俯く。
いつも部屋にこもってパソコンばかり弄っているのだろう。
女性に免疫はなさそうだ。
シュラインはクスリと口元に笑みを浮かべ、犯人に尋ねる。
「ねぇ、どうして…こんなことしたの?」
「………」
「話して。それで、楽になるなら…」
優しい声。全てを包み込むような優しい声。
シュラインの声に誘われるように、犯人はポツリポツリと心を明かしていった。
何のことはない、ただの逆恨み。
武彦と同年齢である犯人は、
事務所を構えて仕事をこなし、人気もあるという武彦に嫉妬していたのだという。
犯人は、無知で愚かな人間だ。何も理解っていない。
武彦が”苦労”していることに。
犯人の心を聞いたシュラインはフゥと溜息を落とすと、
カチリと録音機の停止ボタンを押して、録音機を武彦へと投げ渡す。
「…!?」
何をされていたか、すぐに把握した犯人は目を丸くし、
しどろもどろになって視線を泳がせた。
シュラインはスッと立ち上がると犯人を見下ろし、
冷たい笑みを浮かべて言い放つ。
「そんなに羨ましいのなら、体感させてあげる」


事前に連絡し、頼んでおいた協力な助っ人。
興信所で共に生活をしている、タシ・エク・電鬼の三匹だ。
シュラインは三匹に「キツメによろしく」と告げると、
武彦の背中を押して、二人部屋の外へ。
部屋に残された犯人は一人、妖三匹に”お仕置き”を見舞われる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ〜〜〜」
部屋から聞こえてくる悲鳴。
それを背に、シュラインは消毒スプレーを手にかけて、
念入りに手を消毒しつつ不愉快そうな顔をした。
「………」
武彦は絶句で苦笑するばかり。
演技の巧さは勿論だが、彼女を怒らせると酷い目に遭う。
そう再認した武彦はブルリと身震いした。

頃合を見計らって、部屋の中へ入るシュライン。
言われたとおり、三匹はキツメにお仕置きしたようで、
犯人は床に寝転がり、グッタリとしている。
シュラインは三匹を撫でて「ごくろうさま」と労った後、
犯人の前にしゃがみ、ニコリと満面の笑みを浮かべて言った。
「ね。何か…掲示板に書くことないです?」
「………ありますです、はい」
くったりしながら、犯人は小さな声で呟いた。
シュラインと武彦に見張られながら、
犯人は掲示板に謝罪文と真相を書き込み。
すぐに掲示板は賑わい、あらゆる言葉が行き交った。
閲覧していた多くの人は、何か変だなと違和感を感じていたようで、
事実が判明すると同時に、犯人に怒りをブチまける。
犯人が書き込んでいた言葉よりも、もっと汚い言葉を使う閲覧者達に、
シュラインと武彦は肩を竦めて苦笑した。


もう二度としない。そう誓いを述べた犯人。
武彦は怒りが治まらない様子だったが、シュラインに宥められて、
今回は見逃してやる…という優しい判断を下す。
あれだけ酷い目に遭ったのだ。再犯は…確実にないだろう。
タシ・エク・電鬼に囲まれて歩き、興信所へと戻るシュラインと武彦。
武彦は煙草に火をつけ、やれやれ…といった表情を浮かべる。
そんな彼の横顔を伺い、シュラインは、むぅ…と俯いた。
少し、やりすぎたかな…と反省しているのだ。
突然のことだったっていうのと、
武彦が怒りで我を忘れていたことが重なり、
事前に、どういう手段に出るかを報告できなかった上に、
武彦のパンチよりも、もっとキツイお仕置きをお見舞いしてしまった。
やりすぎだ…と叱られても返す言葉はない。
不安げな表情を浮かべて見やるシュラインの視線に気付き、
武彦は、ふっとシュラインを見やった。
(う…)
思わず微笑んだものの、引きつってしまう顔。
そんなシュラインを見て、武彦はクックッと笑うと、
シュラインの頬を、ぶにーっと伸ばして「ごくろう」と労いの言葉をかけた。
彼は、自分の事のように怒りを露わにしてくれたシュラインに感謝している。
殴り飛ばした犯人にタッと駆け寄り、介抱したシュラインの行動が、
演技だと理解っていても、いまだに不愉快なのは…内緒で。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 日窟・四郎 (ひくつ・しろう) / ♂ /30歳 / ニセ武彦・犯人


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは!いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2008.03.05 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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