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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


吸血できない吸血鬼

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OPENING

「あぁ…もう…あぁ…」
掠れた声で一人呟き、フラフラとあるく青年。
「もう…駄目…だ…」
青年はそう言って、バタリとその場に倒れこんでしまった。
この青年、よく見ると人間ではない。
鋭い牙が二本、おそらく吸血鬼に属する妖だろう。
しかし吸血鬼にしては随分と地味で冴えない。
体躯も貧弱で、頼りない。
どうやら気を失っているようだが…。

一体、何があったのだろうか。

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鼻歌しながら異界を歩くシュライン。
散歩中の彼女は、随分と御機嫌だ。
何か、良いことでもあったのだろうか?
お金を拾ったとか…いや、彼女は金で機嫌が上下するタイプではない。
というか、お金を拾ったら、すぐにどこかへ届けるか、落とし主を探すだろう。
好みの書物が手に入ったとか…うーん、それは有り得る。
最近、蓮とよくメールをしているのは、それについて話し合っているのかもしれない。
他に思い当たるところといったら…やはり、恋愛絡みか。
武彦との間に、何か…楽しい嬉しい変化があったのかもしれない。
まぁ、いくら考えてみたところで、所詮は妄想・予想。
本人に訊くのが、一番確実で手っ取り早い。
どうしてそんなに御機嫌なのか。
すぐにでも尋ねてみたいところだが…おや?
残念ながら、それどころではないようだ。

「………」
立ち止まって、呆けているシュライン。
彼女が何に気を取られているのかというと…。
行き倒れの青年だ。
道端で、まさに行き倒れてますといった格好。
無様にうつぶせている青年だが、見たところ…まだ若そうだ。
シュラインはテテテ…と青年の顔が見える位置に移動する。
そして、少し驚いた。
(うわぁ)
青年は青白い顔をしていた。
具合が悪くて、こんな顔色になっているというわけではなさそうだ。
何故なら、彼の口元には大きな牙が二つあるから。
おそらく…吸血鬼類の妖だろう。
どこから湧いたのかは不明だが…。
(うーん…と)
シュラインは、青年に声をかけるのを少し躊躇う。
まぁ、当然といえば当然だ。この青年は、間違いなく人間ではない。
行き倒れているのは、実は演技で…。
近寄って声をかけた途端、いきなり襲ってくるかもしれない。
シュラインは辺りをキョロキョロと見回し、
長い木の枝を見つけると、それを用いて青年と接触を試みる。
(………)
ツンツンと木の枝で青年を突くシュライン。青年は動かない。
もしや、既に息絶えているのか…と思ったシュラインは、
少し激しく、青年の頬を突いてみる。
頬に食い込む枝。…突くというよりは、刺している感じだ。
「い…痛い…」
青年がモゾモゾと動き出す。生きているようだ。
シュラインは少しホッとし、青年を突くのをやめて尋ねてみる。
「ね。どうしたの?こんな所でお昼寝?」
青年はうつ伏せたままボーッとシュラインを見やって返す。
「いえ…貧血です」
「貧血?」


青年の名前は、ピエール・ギュラー。やはり、吸血妖だった。
だが、このピエール…吸血鬼のくせに血が苦手らしい。
近頃の吸血鬼は美食家も多く、様々なものを摂取するが、
それでもやはり、一番の食事は”吸血”
他者の血を吸うことで、彼等は自身を保つ。
だがピエールは、この吸血行為が出来ない。
血を飲み喉に落とすことを考えただけで眩暈がするという。
(変なの)
話を聞いて、真っ先にシュラインが思ったのは、それ。
血が苦手な吸血鬼なんて…この先、どうやって生きていくつもりなのだろう。
「今までは、どうしてたの?」
「友人に魔女がいまして…血液に良く似た液体を貰っていました」
「その魔女さんは、どこ?」
「わからないんです。どこかへ引っ越してしまったようで…」
「あらら…」
ピエールは、その血液に似た液体を貰おうと、
魔女を探していた最中、貧血で倒れこんでしまったらしい。
常連客なのに引越し先を教えてもらえないなんて…可哀相というか何というか。
シュラインはピエールと一定の距離を保ったまま話す。
「その液体って、何色?」
「無色透明です」
「赤くないんだ…」
「はい」
「ふぅん…」
シュラインは、ここで一つ…とあることに気付く。
血液に良く似た液体で、無色透明。
おそらく、魔女が意図的に赤くしなかったのだろう。
ピエールは、血液の”色”が苦手な可能性が高い。
「赤い色が苦手なの?」
シュラインが尋ねると、ピエールはブルリと身震いしてコクコクと頷いた。
やはり、色が駄目らしい。うーん…と首を傾げるシュライン。
人間の血液は、赤いからなぁ…と呟くシュラインに、ピエールは少し慌てて言った。
「あっ、僕は人間から吸血はしません」
「え?」
「妖からしか吸血しないタイプの種なんです」
「あら。そうなの」
ピエールは”BGGA”という特殊な種の吸血鬼で、妖からのみ吸血する。
人間の血液が体内に入ると、嘔吐などの拒絶反応をおこしてしまうそうだ。
その事実を知ったシュラインは提案する。
「血液が赤くない妖を狙ってみるのは、どう?」
「…この辺りに、いますかねぇ」
「ちょっと待ってね」
シュラインは懐から携帯を取り出し、武彦に連絡を入れた。
調べても良いけれど、その間ピエールが不憫だ。
それなら、知っていそうな人物に尋ねたほうが良い。
「あ、武彦さん?今、どっち?」
『ん?興信所だよ。丁度、人探しの依頼が入ったとこだ』
「あー。そっか」
『どした。何かあったか?』
「あ、うん。えーっとね…」
武彦に事情を説明するシュライン。
武彦は今、現実…東京にいて、こちらにはいないという。
事情を聞いた武彦は、何やらガサゴソと書類を漁り、
シュライン(とピエール)が求めている情報を伝えた。
武彦の情報によると、すぐ近くに”ルワズ”という昆虫タイプの妖が生息しているという。
ルワズの体内を走る血液は、黒。
以前討伐した際に確認したから間違いないと武彦は言った。


「すぐ近くにいるみたいよ。良かったわね」
携帯をパチンと閉じて微笑むシュライン。
ピエールはホッとした様子で安堵の息を漏らした。
だがしかし、ピエールは依然、地に伏せたままだ。
体中に砂埃を纏ったまま、シュラインと会話をしていた。
ルワズの生息地は、ここから北へ百メートルほど。
歩いても、すぐに到達する距離だ。
だがピエールは動けない。
立ち上がろうとはするが、完全に脱力状態のようだ。
(やれやれ…)
シュラインはヘタっているピエールに苦笑すると、
タタタッと駆け出して、近くの森へと入っていった。
「…?」
何をしているんだろう、もしかして見捨てられたのだろうか…と不安がるピエール。
三分後、シュラインはトテトテと戻ってきた。
ちょっとやそっとじゃ折れそうにもない太い木の枝を持って…。

「よいしょ…よいしょ…」
木の枝でピエールを転がしながら、目的地へと向かうシュライン。
「あの…シュラインさん…」
ゴロゴロと転がり(転がされ)ながらピエールは呟く。
「んっ?何?よいしょ…よいしょ…」
「いえ…何でもないです…」
人間に吸血行為はしないと説明したのだから、
担ぐか何か…もっと別の方法で連れて行ってくれても…。
ピエールは心底そう思ったが、一生懸命自分を転がすシュラインを見て、
その不満を心に留め、大人しく転がされた。ゴロゴロゴロ…。

目的地であるルワズの生息地に到着すると、
シュラインはフー…と額に滲むイイ汗を拭って微笑んだ。
「私に出来るのは、ここまでね」
砂まみれのピエールは、小さく「どうも…」と感謝を述べる。
そこらじゅうをルワズが徘徊している。心配は、なさそうだ。
寧ろ飲みすぎて具合が悪くなってしまうかもしれない。
シュラインはクスクス笑いつつ、
「じゃあ、頑張ってね」
そう告げて、スタスタとその場を去っていく。
ピエールが最後に見たシュラインの表情は、達成感に満ちていた。
(………うぅ)
フラフラと必死に起き上がるピエールだが、
すぐに、ヘナヘナ〜っとその場にヘタりこんでしまう。
喉を潤すには、まだまだ時間がかかりそうだ。
「いっ、痛い!噛まないでぇ…」
…ルワズに見つかって噛まれてるし。
…まだまだ時間がかかりそうだ。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / ピエール・ギュラー / ♂ / ??歳 / 血が苦手なヘタレ吸血鬼

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所の所長



■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは!参加・発注ありがとうございます。
プレイングの冒頭部分を「旅行」という形にして少し遊んでみましたが、
いかがだったでしょうか。気に入って頂ければ幸いです^^

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2008.03.07 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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