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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


魂へ渡るカギ


「…………ん?」
 カツン。不意に目の前に落ちてきた何かに驚き、蒼月はふと上を見上げる。
「異界の扉か。……しかし、珍しいのぅ。向こうから何かが流れてくるなど」
 蒼月が住処とする千寿の祠の周囲には様々な力がぶつかり合うが故に多くの時空の歪が出現しており、異界への扉が開く事自体は特に珍しい事ではない。けれども、その異界から何か【形あるもの】が流れてくる、と言うのは非常に稀な事だった。
「鍵、かの?なんじゃ、もっと面白いものかと思ぅたというに……?」
 歪が消えるのを確認しつつ、蒼月が足元に落ちたものを拾い上げる。銀に輝くそれは鍵の姿をしており、月の光を受けて淡い青に輝いた。
「うむ……この鍵、前に一度どこかで……。−あぁ」
 月光を受けて淡い青に輝く鍵。以前どこかで見たことのあるものと似ているが故に思い当たるものがあった蒼月は一瞬酷く驚いた顔をし、そしてニヤリと楽しげな笑みを浮かべる。
「同じ魂へ渡る鍵、じゃな。これはまた面白いものが手に入ったものじゃ」
 さて、さっそく誰かに使ってみるか。そんな事を考えながら、蒼月は鍵を片手に森の中へと消えていった。




 学校などで忙しい中、久しぶりに空いた時間。ふと鎮守の森の守人である蒼月の姿が脳裏に浮かび、みなもは鎮守の森を訪れていた。記憶を頼りに奥へと進めば、次第に見えてくる見覚えのある祠。木々に囲まれてひっそりと建つその祠は、古いながらも凛とした空気をまといそこにある。前蒼月さんに会ったのはここだったよね……?と自分の記憶を確認しながら、みなもはキョロキョロと辺りを見回し、すっと息を吸い込んだ。
「蒼月さん、みなもで」
『みなも?』
「きゃぁ!」
 言葉を言い終わるよりも早く”ガサリ”と言う音と共に目の前に現れた蒼月に驚き、みなもは思わず後退る。蒼月は以前と変わらぬ飄々とした笑みを浮かべ、けれどもどこか嬉しそうにみなもを手招いた。もっとこっちへおいで、と。
「この森にわざわざお主から来るとは……何かあったか?」
「いえ、特にそういうわけじゃないんですけど……迷惑でしたか?」
「そんなわけ無かろう!ここは滅多に人が来ぬ場所での、嬉しいに決まっておる」
 優しい蒼月の笑みを見、みなもも照れくさそうな笑みを浮かべる。
「また何かお手伝いできる事はありますか?」
「うむ?……いや、今は特にないのぅ。ここ最近は不気味なくらい穏やかな−……」
「?」
 不自然に黙り込んだ蒼月の顔をみなもが不思議そうに覗き込む。しばらくみなもを見つめたまま黙り込んだ蒼月は、突然にやりと笑いぎゅっとみなもに抱きついた。
「やはりお主は最高じゃ!のぅ、みなも。ちぃと遠くまで散歩に出てみる気はないかのぅ?」
「え?え?」
「これも何かの縁じゃろうて!お主のその素直な性格なら鍵も主と認めること間違いなしじゃ」
 きょとん、としながら蒼月に抱きしめられるままになっていたみなもは酷く嬉しそうな蒼月の声を聞き、そっと目線を上げて蒼月の顔を覗きこむ。覗き込んだ蒼月の顔は、とても満足そうな楽しそうな表情を浮かべていて。
 何故だろう、自分まで楽しい気分になるのは。
「蒼月さん、鍵って?」
「ん?おぉ、そうじゃったの。これの事じゃよ」
「キレイ……」
 蒼月が懐から銀色の鍵を取り出した。光の加減によって青にも見えるそれは、蒼月の手の内で淡く青銀に輝いている。
「これは”同じ魂へ渡る鍵”と呼ばれておる特殊な力を持った鍵での。自身の主人を同じ魂を持つ者の元まで導いてくれるのじゃ」
「同じ魂を持つ者?」
「平行世界は知っておるじゃろ?以前、我と共に悪霊を退治しに行ったこの世界以外の世界の事じゃ」
 渡された鍵を不思議そうに見つめたまま、みなもは蒼月の言葉にコクリと頷く。
「はい」
「全くの同人格、と言うわけではない。そもそも、人格などと言うものは育ってきた環境により大きく左右されるものじゃからの。ただ、全く同じ魂の質を持つものが平行世界には存在するのじゃ」
「魂の質、ですか?」
「うむ。大雑把に言えば、別の世界に住むもう一人の自分みたいなものじゃ。その者を形作る遺伝子などは全て同じ。育ってきた環境が違うから、性格には少々違いがあるがの」
「じゃぁ、以前蒼月さんに連れて行ってもらった世界にも、もう一人のあたしがいたって事ですか?」
「そうなるの」
 驚いたように自分を見上げてくるみなもにクスリと笑みを浮かべて見せ、蒼月がみなもの頭を撫でる。
「この鍵は、そのもう一人の自分と一日だけ精神を交換できるのじゃよ。つまりは、もう一人の自分の日常を体験する事が出来るのじゃ」
「ホントですか?」
「体験してみたいかのぅ?みなもが望んでくれるなら我は喜んで協力するぞ」
「してみたいです!」
 目を輝かせて返事をしたみなもに満足そうな笑みを一つ、蒼月は鍵を握り締めるみなもの手をそっと握り締めた。
「鍵は決して無くしてはならぬ。なくさぬ様しっかりと両手で握り締めておくのじゃぞ」
「はい。……あの、蒼月さんは……」
「我はここでお主の帰りを待っておるよ。さて、しっかりと鍵を握り締めたらその鍵に祈るのじゃ。もう一人の自分の元へ導いて欲しいと」
 握り締めた鍵を額に当てて、みなもがそっと目を閉じる。ふと柔らかな暖かさに全身を包まれたような感覚の後、みなもの意識は沈んでいった。




 小鳥の歌声が新たな1日の始まりを告げる。心地よい声に誘われて目を覚ましたみなもは、視界に入った天井が自分の部屋のそれと違う事に気づき驚きに固まってしまった。
「…………?」
 まだ起ききっていない頭で必死に考え、思い出した蒼月とのやりとり。何故自分がこの場所に居るのか思い出したみなもは鍵が見当たらない事に焦り、けれども胸元に感じた僅かな重さですぐに鍵を見つけて安堵のため息を漏らす。
「……良かった……」
 何故この鍵を手放してはいけないのか、何となくは分かるものの、はっきりとした理由は知らされていない。それでも”蒼月さんの言葉を守らなきゃ”とみなもが思うのは蒼月に対する信頼故なのだろうか。
 ただ、何故かこの鍵を持つと蒼月の存在を近くに感じる事が出来る気がした。
「みなもさん、朝ですよ。そろそろお起きになってくださいな」
「あ、はい!」
 鍵を握り締めたままぼんやりとしていたみなもの耳に入ってきた、己を呼ぶ声。”ハッ”と我に帰って返事を返したみなもは、慌てて着替えて声のした方へと部屋を飛び出した。下へと続く階段を下りてリビングに入ると、朝食の良い匂いと元気な子供達の声がみなもを迎えてくれる。既に食卓について朝食を食べ始めている男の子と女の子がみなもを見るなり満面の笑みを浮かべてみせた。
「あ、みなもお姉ちゃんだー!おはよう!」
「おねーちゃんおはよう!」
「おはようございます。寝坊しちゃってすいません!」
「ふふ……おはよう、みなもさん。ごめんなさいね、昨夜末の子を寝かせるのに苦労したんでしょう?」
 子供達の母、と言うには少し年をとっているように思える女性が申し訳なさそうに苦笑する。
「いえ……」
「奥様は今日もお帰りになられないの。大変でしょうけど、今日も私の補佐をお願いしますね」
「大丈夫だよ!みなもお姉ちゃんは今日俺とお散歩に行くんだもん!」
「あたしもいくのー!」
 どうやら子供達の乳母らしいその女性は、背中に赤子を背負ったままテキパキとした動きで器用に料理を並べていく。子供達と女性の言葉から”どうやらこの世界の自分はこの女性の補佐として働いているらしい”という事を悟ったみなもは、女性に促されるまま食卓についた。
「ねぇ、みなもお姉ちゃん!俺、今日はいつもと違う公園に行きたい!」
「お兄ちゃんばっかりずるい!みなもおねーちゃんはあたしとおままごとするの!」
「こら、みなもさんを困らせてはダメでしょう?」
「「困ってないよね、おねーちゃん!」」
 にぎやかな食卓。口いっぱいにご飯を頬張りながら遊び相手をせがんでくる子供達が酷く可愛くて、緊張のためか力の入っていたみなもの表情に穏やかな笑みが浮かんだ。
「ご飯を食べながら喋っちゃだめでしょう?公園もおままごともご飯が終わってからにしましょうね?」
「「はーい」」
 みなもの言葉に手を上げながら返事を返し、子供達が食事を再開する。クスクスと笑いながら子供の頭をなで、みなもも促されるまま食事を始めた。まるで本当の家族のような、暖かで穏やかな雰囲気。
「「ごちそうさまー!」」
「きちんと食器は台所に持っていくんですよ」
「はーい!着替えてくるから、みなもお姉ちゃんも早くご飯食べてね!」
「たべてね!」
 パタパタと階段を上っていく足音に顔を見合わせ、みなもと乳母が柔らかな笑みを浮かべる。この暖かな”家族”の中に当たり前のように溶け込めている事が酷く嬉しく、またどこかくすぐったかった。
「ご馳走様でした。とってもおいしかったです」
「ふふ、ありがとう。これ、サンドイッチなんですけれど……良かったら持っていってお昼に食べてくださいね」
「本当ですか?ありがとうございます!」
 こんな所で働けるなんてこの世界の自分は幸せ者だな、なんて考えながら乳母の仕事を手伝うために立ち上がろうとしたみなもは、”くんっ”と後ろから服の裾をつかまれきょとんとした顔で振り返る。そこには、満面の笑みを浮かべた子供達が居て。
「「きがえたー!!」」
 さぁ行こう!とでも言わんばかりにみなもの両手をそれぞれが握り、期待に目を輝かせてじっとみなもを見つめていた。
「ふふ、片付けは私がやっておくから行ってらっしゃいな」
「え、でも……」
「「行こうよー!!」」
 ぐいぐいと子供達に手を引かれ、みなもは申し訳なさそうに乳母に笑いかけて立ち上がる。
「ねぇ、そのかごなぁに?」
「お昼ごはんに作ってもらったサンドイッチよ。ちゃんとお礼を言ってね?」
「「ありがとー!!」」
「片付けもせずにすみません。お昼過ぎには帰ってきますね」
「ふふ、その子達二人を見ていてくださるだけで大助かりだわ。気をつけて行ってらっしゃいね」
 手を引かれるままリビングを出て玄関を潜れば、まだ昇りきっていない太陽の光が3人の姿を明るく照らす。両手に暖かな温もりを感じながら、うんと大きく背伸びして。
「よし、今日はどこの公園に行きたいの?」
「えっとねー……」
 こんな穏やかな時も悪くない、何て考えてみなもは穏やかな笑みを浮かべた。


fin



  + 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)+
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252/海原・みなも (うなばら・みなも)/女性/13歳/中学生
NPC/蒼月(そうげつ)/女性/?/鎮守の森・守人



   +   ライター通信   +

いつもご依頼ありがとうございます。ライターの真神です。
完成までかなりお待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
満ち足りた平穏な一日、ということでのんびりと穏やかな雰囲気になるよう書いてみたのですがいかがでしたでしょうか?少しでも気に入っていただけたら嬉しいです。
納得がいかない部分や口調等にリテイクがありましたら遠慮なくお寄せくださいませ^^ それでは失礼致します。

またどこかでお会いできる事を願って―。


真神ルナ 拝