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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


一日店主

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OPENING

「さて…どうしようかねぇ」
アドレス帳をパラパラとめくる蓮。
彼女が探しているのは、信頼できる人物。
何でも、急用で一日留守にするようで、
その間、店を預かってくれる人物を欲しているそうだ。
一日くらい、店を閉めてもいいのではないか。
そう思う者もいるだろう。
実際、そのとおり。
こう言っては何だが、蓮の店には、物好きしか来ない。
その物好きも、毎日来るわけではない。
故に、忙しい日なんて、滅多にない。
それなのに、どうして蓮は店を閉めずに、
誰かに任せようとしているのか。
答えは簡単。

面白そうだから。

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「別に構わないけど…いつ戻ってくるの?」
アンティークショップを訪れたシュラインは、
また、やぶからぼうに蓮に頼みごとをされた。
今回御願いされたのは、店番。
急用で出掛けねばならないらしく、
その間、店を預かって欲しいのだそうだ。
「夜には戻るよ」
出掛ける準備をしながら微笑んで言う蓮。
シュラインはショップの常連だ。
店の状況というか、繁盛具合は知っている。
およそ半日…別に、店を閉めておいても問題はないだろうに。
そうは思ったが、シュラインは、それを口にしない。
蓮の企みを、理解しているからだ。
妖しく微笑んでいるのが、何よりの証拠。
まったく…悪戯好きにも困ったものだ。
理解しつつも付き合ってやるシュラインも、お人よしだが。
「いいわよ。店にいればいいんでしょ?」
「あぁ。頼んだよ。商品の在庫ファイルとかは、そこらへんにあるから」
「うん(…そこらへんって)」
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい〜」
手を振り蓮を見送るシュライン。
バタン、と扉が閉まると同時に、シュラインはフゥと息を吐いた。
(さて…と)

いわくつきの商品ばかりを扱う店。
もの珍しさにフラリと立ち寄る客は、まぁ、そこそこ。
けれど、その中から常連と化す者は、ほんの僅か。
よほどの物好きか、耐性のある者でなければ、再び来ようとは思わない。
来ようと思わせない雰囲気を、店はいつだって放っているから。
(蓮さんも大変よねぇ)
パラパラと在庫ファイルをめくりながら思い耽るシュライン。
怪奇現象系の仕事の大変さは、身をもって知っているが、
蓮の店には、そのような現象をひきおこすものばかりが並ぶ。
これでは、自ら面倒事や厄介ごとを抱え込んでいるようなものだ。
まぁ、蓮は好きでやっていることだから、
それに不満を覚えたり、大変だと思ったりすることはないのかもしれないが。
静かな店内で、シュラインは在庫チェックを始める。
商品ごとに並べられている棚を一つ一つチェック。
ファイルデータに記載されている名前と数を照らし合わせていく。
(へぇ。こんなのあったんだ…)
シュラインは常連客だが、店に並ぶ商品は多く、
蓮が次々と新しいものを仕入れては並べていく為、
日々、見知らぬ商品に出会うことが出来る。
シュラインの目に留まったのは、小さな指輪。
紫色のシンプルな指輪だが、とても綺麗だ。
(まぁ、店にある以上…いわくつきなのは確かなんだけどね)
微笑みつつパタパタと棚の埃を払っていくシュライン。
うーむ…何というか…似合っている。
店の雰囲気に、とても馴染んでいる。
初めて店を訪ねてきた者の目には、何の違和感もなく映るだろう。
頻繁に店に足を運ぶのは、蓮と仲が良いからというのもあるが、
それより何より、シュラインは、この店の雰囲気が好き。
扱っている商品も、彼女にとっては、ほとんどが魅力的なのだ。
それゆえに、気だるくなったりすることはない。
シュラインは、心から。店番を楽しむことができる。

店の隅々を掃除し始めるシュライン。
別に、そこまでする必要はないのだが…。
鼻歌しながら楽しそうに拭き掃除をしていることだし、まぁ…いいか。
とても和やかな雰囲気だが、
このまま何のトラブルもハプニングもなく終わるわけがない。
蓮が、ただの店番を任せるわけがない。
カタン―
物音にクルリと振り返るシュライン。
棚から、古書が一冊落ちている。
(あらら)
シュラインはトテトテと歩み寄り、古書を拾い上げて棚へ戻す。しかし…。
バサッ―
今度は別の古書が床に落ちる。
(あらあら)
シュラインはトテトテと歩み寄り、古書を拾い上げて棚へ戻す。でも…。
バサッ バサッ―
次々と古書が床に落ちていく。地震なんておきていない。
落ちるわけがないのに、次々と古書は床へと落ちていく。
それだけではない。落ちた古書は、勝手に動き出し、ダンスを踊りだす。
(あららら…)
クルクルと回って踊る古書にクスクスと笑うシュライン。
古書のダンスが合図となったかのように、店内では、次々と異変が起こる。
『ギャハハハハハハー!!』
突然笑い出す鏡。シュラインは思わずビクッと肩を揺らすが、
鏡に近づいて、キュッキュッと磨きながら声をかけた。
「なぁに。何が、そんなに楽しいの?」
『ギャハハハハハハー!!』
ただ笑うだけの鏡。言葉は通じないようだ。
けれどシュラインはクスクスと笑い、声をかけ続ける。
何を尋ねても、同意を求めても鏡は笑うばかり。
成り立たない会話が可笑しくって、シュラインはつられて笑ってしまう。
とそこへ、すすり泣く声が聞こえてきた。
ふきんを持ったまま見やると、そこには大粒の涙を落とす人形が。
シュラインはタタタと人形へ駆け寄り、頭を撫でてやる。
「どうしたの。可愛い顔が台無しよ?」
クスンクスンと泣き続ける人形。
シュラインは人形を抱き上げて、笑う鏡の前へと運んだ。
映る自分の姿に照れくさそうに頬を染める人形。
鏡は依然、ゲラゲラと笑っている。
いつしか人形の涙は止まり、共に笑うようになった。
突然『ゴルァー!』と怒りだすブレスレットや、
延々とネチネチ毒を吐き続けるオルゴール。
他にも色々…次々と商品が動きだして、店内は賑やかになっていった。
シュラインはそれらと一緒に笑ったり、踊ったり、悲しんだり。
決して邪険に扱うことなく、甲斐甲斐しく商品の相手をし続けた。


不思議なことに、時計が二十二時を示すと、
商品達は皆、ピタリと静まり返り、何事もなかったかのように、
それぞれの居場所へと自分で戻って行った。
それまでの騒々しさがウソのように、静寂へと変わる。
「ふぅ…」
変化と終焉に若干の寂しさを感じつつも、
シュラインは息を吐いて、ソファに べしゃーっと身を投げた。
と同時に、店の扉が開き…蓮が御帰宅。
「おかえりなさい〜」
ソファに寝そべったままヒラヒラと手を振るシュライン。
蓮はクックッと笑い「どうだった?」と尋ねた。
「楽しかったわ。あっという間だった」
「ふふ。ご苦労さん…コーヒーでも淹れようか。良い豆を貰ってきたんだ」
「やったぁ」
「たくさん貰ったから、持って行くといい。土産というか褒美にね」
「うわぁ。ありがとう。武彦さん喜ぶわ」

蓮の店には、あらゆる商品が並ぶ。
次から次へと新しい商品が棚に並べられていく。
彼等はいわくつき。悲しみをかかえていたり、怒りに震えていたり。
言葉を話すことは出来ないけれど、彼等もまた生きている。
蓮と彼等の約束事は、二つ。
一つは、二十二時になったら、大人しくすること。
もう一つは、客がいるときは、大人しくしていること。
その約束を守るなら、何をしても構わない。
蓮は彼等を棚へ並べる際、一つ一つに、そう言って聞かせる。
アンティークショップは、静かで大人びた、それでいて妖しい店と思われているが、
実際は…騒々しくて、かなわない店さ。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

■■■■■ WRITING ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

2008.03.10 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)