＜東京怪談ウェブゲーム　アンティークショップ・レン＞ 一日店主 ------------------------------------------------------ ＯＰＥＮＩＮＧ 「さて…どうしようかねぇ」 アドレス帳をパラパラとめくる蓮。 彼女が探しているのは、信頼できる人物。 何でも、急用で一日留守にするようで、 その間、店を預かってくれる人物を欲しているそうだ。 一日くらい、店を閉めてもいいのではないか。 そう思う者もいるだろう。 実際、そのとおり。 こう言っては何だが、蓮の店には、物好きしか来ない。 その物好きも、毎日来るわけではない。 故に、忙しい日なんて、滅多にない。 それなのに、どうして蓮は店を閉めずに、 誰かに任せようとしているのか。 答えは簡単。 面白そうだから。 ------------------------------------------------------ ガチャリと扉を開けてアンティークショップへ入る魅夜。 特にこれといった用はない。暇つぶしに、遊びに来てみた。 （何か新しい品はあるかな）ワクワクしつつ店に入った途端。 バチッ― 蓮と目が遭う。同時に、魅夜は感じ取る。 （何か頼まれるな） 魅夜のその予感は的中。というか、蓮と目が遭うと大抵何かを頼まれる。 故に店では、そ知らぬふりをするのが好ましい。だが今回は無理だった。 店に入った途端に目が遭ってしまったのだから…。 おそらく、人気を感じてジーッと扉を蓮は見やっていたのだろう。…罠をしかけるかのように。 「丁度良かった」 そう言って蓮はニコリと微笑んだ。とても爽やかな笑顔だ。 あからさまに妖しい…そう思いつつ、魅夜はポツリと呟く。 「何がだ？」 「店番、頼まれてくれないかい」 「店番…？」 「あぁ。ただ店にいてくれるだけでいいんだ。ちょっと出掛けなくちゃならなくてね」 何でも急用ができたそうで、すぐに出発しなくてはならないそうだ。 夜には戻ってくるらしいので、実際店番をするのは、およそ半日になる。 魅夜は少し考えた後「しかたないな。いいよ」と言って蓮のお願いを聞き入れた。 面倒くさそうに、かったるそうに、仕方なく…といった感じだが、 実際、魅夜はワクワクしている。元々妖しい品物が好きなのだ。 店に並ぶそれらを、半日も眺めたり調べたりできるのなら、喜んで請け負う。 蓮はふふふ…と妖しい笑みを浮かべると、 いそいそと支度を済ませて「頼んだよ」と言い残し、店を出て行ってしまう。 相変わらずというか何というか。 自分勝手というか自由奔放というか。 店にポツンと取り残された魅夜はヤレヤレと肩を竦めた。 店番開始から五分後。 魅夜は店に並ぶ商品を、一つ一つ手に取り眺めている。 「おぉ…これはシルタスの鍵だな。美しい…」 「おぉ！これはサクランティス作のガーゴイル像。うーむ、見事な出来だ…」 「おぉ〜…マフルの魔書もあるのか。これは素晴らしい」 手に取る商品一つ一つに歓喜する魅夜。 一般人からしてみれば、ほとんどの商品は不気味なものにしか見えないだろうが、 妖しい品物や道具が大好きな魅夜にとっては、お宝の山だ。 よっ、と背伸びをして棚から魔書を取る魅夜。 マフルの魔書と呼ばれるそれは、 どうやら以前から読んでみたいと思っていた品のようで、 ページをめくる魅夜の表情は好奇心と喜びに満ちている。 （どれどれ…） 禁書ともいわれる魔書に目を通し始める魅夜。 だが、その直後。 『ププププ…』 どこからか、笑い声が聞こえてくる。 魅夜は首を傾げ、店内を見回した。 人の気配は、もちろんない。店には、魅夜しかいない。 気のせいか…と思い再び魔書に目を落とす魅夜。だが、やはり…。 『ププププ…』 笑い声が聞こえてくる。しかも、何だかカチンとくる笑い方だ。 不愉快な魅夜は、眉を寄せて再び店内を見回す。 すると、とある棚にある鏡が、ぼんやりと蒼く光っていた。 魅夜は魔書をカウンターに置き、鏡へと歩み寄る。 （…？） 魅夜が鏡を覗き込んだときだった。 『ぎゃははははー！！！！』 鏡が大声で笑い出す。ビクゥッと肩を揺らす魅夜だが、恐怖を感じることはない。 元気だなぁ、などと思いつつ、腕を組んで鏡を見やる。 鏡は何が可笑しいのか、狂ったように笑い続けた。 『ぶははははははは！』 『ひぇっひぇっひぇっひぇーっ！』 『うふふふふっ！うふふふふっ！』 笑い方を変えていく鏡を、しばらくジーッと眺めていた魅夜。 疲れないのかなぁ…などと始めは冷静に構えていたのだが、 いつしか、つられて鏡と一緒に「ふははははは！」と笑い出してしまう。 笑い方のバリエーションが多い鏡は次々と違う笑い方をした。 魅夜もそれに張り合うように、笑い続ける。 『げっへへへへ！』 「フォーッフォッフォッ！」←魅夜 『ぐはははははは！』 「ウシシシシシシ！」←魅夜 『だははははは！』 店内にはあらゆる笑い声が響き渡る。 …何というか。楽しそうで何よりだ。 笑う鏡だけじゃなく、他の商品も続々と動き出す。 店内はもはや無法地帯。何でもアリだ。 魅夜は、その状況をケラケラ笑いつつ心から楽しむ。 彼氏が欲しいと叫ぶ指輪に、別の棚から指輪を取ってきて隣に置いてあげたり、 みんな消えてしまえばいい…と絶望的な言葉ばかりを吐くオルゴールをペシッと叩いて叱ったり…。 フラリと店に立ち寄った者が目の当たりにしたら、 間違いなく、そそくさと逃げ帰ってしまうであろう光景だ。 クルクルと回って踊る古書をカウンターに乗せ、 まるでお立ち台かのように、懐中電灯で照らしてやる魅夜。 古書は調子に乗って、バサバサとページを揺らしながら踊り狂う。 だが調子に乗りすぎた古書は、勢い余って魅夜に激突。 「うわぁ」 ドタッ― その場に尻餅をついてしまう魅夜。 その拍子に、深々と被っていたフードがハラリと落ちる。 露わになる魅夜の顔。それはとても可愛らしく可憐なものだが、 魅夜は、何故かそこに僅かなコンプレックスを抱いているようで。 「み〜た〜なぁ〜！！」 自分の顔をバッチリ見たであろう商品達を、威嚇し追いかける。 「まてぇ〜」 一斉に逃げ出す商品達。鬼ごっこ開始だ。 キャッキャとはしゃぎ回る魅夜。店内はもう、滅茶苦茶。 時間を忘れて、商品達と戯れる。そして、二十二時。 ガチャリと扉が開いて蓮が御帰宅。 蓮は滅茶苦茶になった店内にギョッと目を丸くした。 「…はっ」 我を忘れて楽しんでいた魅夜が蓮の帰宅に気付く。 魅夜はコホンと咳払いをして、少し照れくさそうに言った。 「いや、まったく…困った奴等だっ。うむ」 「やれやれ…まさか、ここまで荒らされるとは思わなかったよ…」 店内掃除をしながら溜息を交えて苦笑する蓮。 魅夜は掃除を手伝いつつ、フィッと顔を背けた。 蓮は、暴れる商品にテンテコマイになってもらおうと魅夜に店番を任せた。 どの商品もクセがあり、一筋縄ではいかないものばかりだ。 きっと、散々な目に遭い、戻った頃にはくたびれているだろう…そう思っていた。 だが戻ってきてみれば店内は滅茶苦茶。 ケラケラと笑いながら商品達の中心で魅夜は楽しそうに笑っていた。 本人は認めようとしないが、明らかに楽しんでいた。我を忘れて。 蓮の仕向けた悪戯は、残念ながら失敗に終わったということで…。 ------------------------------------------------------ ■■■■■ ＣＡＳＴ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 【 整理番号　/　ＰＣ名　/　性別　/　年齢　/　職業 】 ６６９３ / 黒塚・魅夜　（くろつか・みや） / ♀ / １６歳 / 高校生魔女・メデューサ ＮＰＣ / 碧摩・蓮　（へきま・れん） / ♀ / ２６歳 / アンティークショップ・レンの店主 ■■■■■ ＷＲＩＴＩＮＧ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ２００８．０３．１０　/　櫻井 くろ （Kuro Sakurai）