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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


美味ネタ@墓地

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OPENING

美味しいネタを探して、あらゆる心霊スポットへ赴く。
”いただきます ぷろじぇくと” と名付けたそれは、
計画・実行者である雫だけで大盛り上がりをみせていた。
「墓地かぁ。これまた定番だねっ」
掲示板の書き込みを参考に、
どこへ行こうかと考えていた雫は、
神社近くにある小さな墓地に関する書き込みに目を留め、
ここへ行こうと、すぐさま決意した。
「さて、と。誰を呼ぼうかなぁ〜」
ピッピッと携帯を弄り、
アドレス帳をスクロールしていく雫。
同行者として抜擢されるのは、一体誰か…。

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携帯を弄り続け、同行者を誰にしようか悩んでいる雫。
「うーん。この人…火曜日は、忙しいって言ってたなぁ。この人も確か…」
ブツブツと独り言。雫のアドレス帳には百を超える人物が登録されている。
同行者の一人や二人、すぐ見つかりそうなものだが…。
どうやら今日は、皆都合が悪い日らしい。雫はムムム…と悩む。
(日を改めて決行したほうが良いかもしれないなぁ…)
何も都合のつく人物が少ない日に決行することもない。
明日でも明後日でも、いつだっていいのだ。実際。
一人で行けば、もっと融通がきくが…その気はないようだ。
雫は悩みつつ、携帯を弄り続ける。そんな雫を見やる人物が一人。
(…何してるんだろう)
宗真だ。
今日は毎週欠かさず買っている本の発売日で、
宗真は偶然…その帰り道、インターネットカフェ付近を歩いていた。
カフェ入口前で眉を寄せて携帯を弄っている雫の姿は、
遠くから見ても”何か変だな”と思わせるものだった。
宗真はテクテクと雫に歩み寄る。
「どうかしましたか?」
「ん?…あっっ!!!」
声をかけられ顔を上げ、雫は叫ぶ。
「な、何ですか」
若干驚きつつ尋ねる宗真。すると雫はニパッと笑い、
宗真の手をギュッと握って…どこかへと歩き出す。
「ちょっと…どうしたんですか」
手を引かれつつ何が何だかわからない宗真は苦笑。
だが、雫の首にデジカメがぶら下がっているのを見て、ハッとする。
「雫さん。もしかして…」
そーっと探るように宗真が言うと、雫は満面の笑みで返した。
「今回は墓地だよっ!」
(…やっぱり)

美味しい心霊ネタをゲットするために、あらゆる心霊スポットへ赴く。
雫の ”いただきますぷろじぇくと” 前回も宗真は、この企画に参加している。
いや…無理矢理付き合わされたというのが正しいが。
前回散々な目に遭って少しは懲りているかと思いきや、
まったく気にしていない様子で、雫は前回同様元気いっぱいだ。
(やれやれ…)
宗真は呆れつつも、やむなく雫に同行し、神社近くにある墓地へとやって来た。
あたりは既に暗く、いかにも…といった雰囲気だ。
前回よりも、明らかに感じが悪い。宗真は辺りの警戒を怠らずに、
パシャリパシャリとシャッターを切りつつ墓地を駆け回る雫の後をついて行く。
「雫さん。あんまりはしゃぐと転びますよ」
「だいじょぶだいじょぶ!ね、イイ感じだよね、ここっ」
「…いえ。僕は、そうは思いません」
「えー。何でー?ゾクゾクしない?」
「しますけど。楽しくはないですよ…」
苦笑する宗真に、雫はノリが悪いなぁと言ってケラケラと笑う。
どうやら前回経験した恐怖は、忘れているようだ。
(いや…そんなこともないか)
宗真は、ふと、そう思う。
相変わらずキャッキャと楽しそうにしている雫だが、
前回のように一人で勝手に進んで行く気配はない。
宗真から離れぬよう、控えめに移動している。
相変わらずに見えるが、そうじゃない。
宗真は雫のささやかな変化にクスクスと笑った。


「ねぇ、見て。これ何だろう?」
そう言って雫が示すのは、大きな丸い石。
墓地の片隅にあるそれには、何だかよく判らない御札のようなものが貼られていた。
それも一枚や二枚ではない。ビッシリと石を覆い隠すように。
興味深そうに石を眺め、写真を撮る雫。
宗真は、それを微笑ましく見ているが、同時に警戒を強めている。
何だか、妙だ。この辺りだけ、空気が重苦しい気がする。
「あれ。これ、剥がれそう」
石に貼られている御札の内、一枚が今にも剥がれそうになっていることに気付く雫。
「…!雫さん!」
咄嗟に声を張り上げて、雫の名前を呼ぶ宗真。
「えっ。何?」
急に宗真が大声を出したことに雫はキョトンとした。
気付いていない。雫は気付いていない。
だが、宗真の目には、しっかりと映っている。
石から煙のようなものが噴出しているのだ。
宗真はグイッと雫の腕を引き、自身の背中に隠す。
「なになに?え?どうしたの?」
宗真の神妙な面持ちが理解できずに呆ける雫。
石から噴出した煙は、やがて人の形へと変化していった。
鎧武者の亡霊…。
宗真はスッと魔糸を紡ぎ、構える。
臨戦態勢の宗真に、雫の困惑は増すばかりだ。
ボンヤリと不気味に浮かぶ鎧武者の亡霊。
石に…封じられていと考えて間違いないだろう。
鎧武者の亡霊が、刀をグンッと振りかざす。
(…まずい)
刀を振りかざした際に発生した風圧から亡霊の強さを把握した宗真は、
瞬時に魔糸で盾を編み、自身と雫を覆う。
バスッッ―
いともたやすく破壊されてしまう魔糸の盾。
慌てて編んだ為、十分な出来に仕上がっていなかったようだ。
鎧武者が振るった刀は、宗真の肩を斬り裂いた。
咄嗟に身を捩り、ダメージは半減させたが…それでも激痛が走る。
「…っ」
「えぇっ!?な、何!?どうしたの!?」
痛みに顔を歪める宗真と、その宗真の肩にジワリと滲む血に、
鎧武者の姿が見えていない雫は、当然の如く驚いた。
「少し…離れててもらえますか」
肩を押さえつつ、微笑んで言う宗真。
何が起きているのか、ハッキリとはわからないけれど、自分が傍にいると邪魔なんだ。
そう理解した雫は、言われるがまま。タタッと駆け出し、宗真から離れる。

石から出現した鎧武者の亡霊は、遠い昔に封印された悪霊。
無数の御札によって、石に封じ込められていた。
誰彼構わずに、特に何の理由もなく人を殺め続けた鎧武者。
斬り殺すことに快感を覚える頭のイカれたこの武者は、
かつて”狂武”と呼ばれ、人々に恐怖を与えた存在だ。
おそらく長い時間をかけて、自身を捕らえる封印を内部から解こうと試みていたのだろう。
雫が見つけた ”今にも剥がれそうな御札” が何よりの証拠だ。
執念深く、厄介な亡霊。まさか、今日…まさに今、姿を現すとは。
宗真はグッと肩を押さえて苦笑する。運が良いのか悪いのか…と。
鎧武者の亡霊は口元に不気味な笑みを浮かべて、
膝をついている宗真にジリジリと近付く。
武者が宗真に向ける舐め回すような視線は、狂い者以外の何者でもない。
宗真は体を這うような気色の悪い視線に眉を寄せると、
スッと目を閉じて…懐から取り出した符に軽く口付けた。
すると符から、彼の意のままに踊り舞う人形が一体、出現。
宗真を護るようにして出現した人形に、鎧武者の亡霊はギヒッと笑う。
そんなもので、俺を倒せるわけがない!と言わんばかりの武者の態度に、
宗真はフッと笑むと「どうかな」一言ポツリと呟いて、指を躍らせる。
宗真の指揮に従って、人形は華麗に踊り舞う。
今回宗真が出現させたのは ”疾刃”という人形。
あらゆる部位に刃を仕込ませた戦闘人形だ。
疾刃は、その名のとおり、疾風のごとく舞い、鎧武者を四方八方から斬りきざむ。
雫には、鎧武者の姿は見えない。
ただ…刃の歌だけが聞こえていた。


「…どうです。懲りましたか?」
癒し糸で負傷した肩を癒しつつ微笑んで言う宗真。
鎧武者の亡霊は、疾刃に容赦なく斬りきざまれ、あるべき場所へと強制送還された。
雫は申し訳なさそうな表情を浮かべ、小さな声で言う。
「ごめんね。何か、いっつも…」
自分の所為で、宗真が傷を負った。
癒し糸の効果で、すっかり治ってはいるものの、
それは雫に大きなショックを与えている。
治療を終えた宗真は魔糸をフッと消すと、雫の頭を撫でて尋ねる。
「ところで、良い写真は撮れましたか?」
「…え。う、うん…多分」
「じゃあ、早く戻って…作業しなくちゃ駄目ですね」
優しく微笑む宗真。
別に、叱っているわけじゃない。
ただ、もう少し…場所を選んで欲しいと思っているだけ。
求めるものが、こういう場所にしかないという理屈はわかるけれど、
いつまでもこの調子では、いつかきっと酷い目に遭う。
その時、自分が傍にいれば護ってあげることが出来るけど、そうでない時は…。
宗真はただ、純粋に雫の身を案じているのだ。
「うん…そだね。更新しなきゃ」
雫はニコリと微笑み言う。きっと、宗真の想いは伝わっているはず。
しばらくは、大人しくしていることだろう。…きっと。

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【 CAST 】

7416 / 柳・宗真 (やなぎ・そうま) / ♂ / 20歳 / 退魔師・ドールマスター・人形師
NPC / 瀬名・雫 (せな・しずく) / ♀ / 14歳 / 女子中学生兼ホームページ管理人

【 WRITING 】

2008.03.10 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)