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キスについて
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OPENING
「お前ってオクテだよね…意外と」
口元を押さえてプププと笑う藤二。
武彦はムッと眉を寄せ、煙草に火を点けて言う。
「関係ないだろ」
「まぁ、そうだけどさ。親友としては、心配なワケよ」
「何がだよ」
「いざって時に幻滅されても知らないよ〜?」
「しねぇだろ…そんなことで」
「あっ。わかってないね。わかってないわ」
「あーもう、ウルサイ」
藤二と武彦が話しているのは”キス”について。
何でまたこんな話になっているのかは理解らないが、
話題に出してきたのは、間違いなく藤二だろう。
藤二は武彦に、様々なシチュエーションでのキスを手解くが、
武彦はウンザリな様子で、適当に聞き流している。
”失神させちゃうキス”
話によると、それを藤二は得意としているらしい。
へぇ。そう。凄い凄い〜と無表情のまま拍手を送る武彦だが、
実際のところ、どんなキスだそりゃ…と気になっている御様子。
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拗ねて不貞腐れて…何だかバタバタした今週。
蓮とマッチングパーティに行って気晴らしをしていたところ連れ戻されて、強制帰還。
とはいえ、以降、シュラインは普段どおりに生活している。
ただ一人…武彦に対しては、未だにトゲトゲしい態度だが。
丁度今、ちょっと厄介な依頼が片付いたところ。
悪霊に憑かれた子供達を救うという内容だったのだが、
シュラインは見事な機転とサポートで武彦をサポートした。
仕事は普段どおり…真面目にこなしているのだ。
「ふぅ」
依頼人が感謝を述べて去った後、玄関先に塩を置いて一応のお清めを行うシュライン。
そっと両手を合わせて…これにて、今回のお仕事は完結。
(さて、どうしようかな)チラリとリビングを見やるシュライン。
依頼人と入れ替わるようにして藤二が遊びに来た為、リビングには武彦と藤二。
二人は笑いながら、他愛ない話をしている。
とりあえず零の手伝いでもしようか、とキッチンへ向かうシュライン。
そこへ藤二が声をかける。
「シュラインちゃん、ちょっと参加してよ」
「ん?私…?」
会話に混ざれと促す藤二。グラスを拭こうとしていて、布巾を持ったまま考え込むシュライン。
零は「大丈夫ですよ」とニコリと微笑む。
シュラインは「じゃあ、お言葉に甘えて」と言って零に布巾を渡し、リビングへ。
ストンと二人の間にある大きなフワフワクッションの上に腰を下ろすシュライン。
いつもなら、当たり前かのように武彦の隣に座るのに…。
まだ喧嘩というか、気まずい感じなんだな…と悟った藤二は苦笑した。
自分が元凶な分、心が痛む…。
藤二と武彦が話していたのは『キス』について。
例によって、藤二が振った話題である。
藤二は、女性を失神させてしまうキスを得意としているらしい。
大して自分に興味を持っていない女性でも、これさえあればイチコロさ…だそうだ。
シュラインは、乾いた笑みを浮かべつつ藤二の話を聞いている。
女性に対して甘いというか、生粋の女好きである藤二は、
シュラインにとって別世界の人種であり、距離を置きたい人種。
嫌いというわけではないけれど、ある程度の位置にラインがあって、
それを超えるような親しい仲には、絶対に成り得ない存在。
「シュラインちゃんは、どう?」
「へ?何が?」
「キス。可愛いから、相当あるんじゃない?経験」
「…赤坂さんよりは少ないわ、とだけ」
苦笑しつつコーヒーを飲むシュライン。
何気なく会話している中で、藤二はサラリと口説き文句のようなものを織り交ぜてくる。
とても自然な為に気付かないことも多々あるけれど、
彼と話すことが増えれば増えるほど、口説くタイミングというかクセも見えてくる。
掴みたくないけれど…嫌でも、そのタイミングを掴めてしまう自分にシュラインは肩を竦めた。
会話の中、藤二は武彦が『オクテ』だと何度も言った。
昔からスカしてるくせに、恋愛に関しては要領が悪いらしい。
端から見ていて、勿体無い…と思うことが何度もあったそうだ。
チラリと武彦を見やるシュライン。
目を伏せて淡く笑いながら、藤二をあしらっている武彦。
(…そう、だったかな)
シュラインは疑問に思う。武彦が『オクテ』だということに、ピンとこない。
自分に対しての言動…キスに関しても、オクテな印象はない。
むしろ、手が早かったような気さえする…。
(…ぅ)
サァッと脳裏を駆け巡る記憶に思わず、ぱふっとクッションに顔を埋めるシュライン。
じわじわと耳が熱くなっている感覚。くすぐったいその感覚に戸惑いつつ、
シュラインは(気付かれてないよね…)と何度も藤二と武彦を見やっては確認した。
かなり甘ったるい恋愛トークを存分に楽しんで、
「満足満足」と言って興信所を去っていく藤二。
いつものことだが、彼は暇潰しに興信所に足を運びすぎな気がする。
作家としての仕事もあるだろうに…集中力散漫なのかもしれない。
また来るよ、と言って藤二が去って行った後、
シュラインは、パパパッと玄関に塩を撒いた。
それを見ていた零はクスクスと笑う。
「ちょっとひどいです、シュラインさん」
「お清めよ。お清め」
女の生霊なんかを置いていかれちゃあ堪らない。
シュラインは藤二が帰った後も、お清めを欠かさないのだ。
その徹底振りには、藤二への距離感が伺える。
藤二が去り、静けさを取り戻した興信所。
リビングへ戻り、シュラインはふと…武彦を見やる。
何だか…様子がおかしいような気がするのだ。
藤二と話している間も、パッと見は普段どおりなんだけど、
どことなぁく…何か考え込んでいて、心ここに在らず…みたいな。
いつもなら隣に座って、何か変だよ?と尋ねるのだが…それが出来ない。
わかってはいるのだ。自分が意地を張ってるだけだということは。
いつもどおり、仲良く。話をしたいとも思ってる。
でも、何だか…プライドのようなものが、それを阻む。
何もなかったかのように振舞うのは…ちょっと嫌。
それだけ、ショックだったし悲しかったから。
キッカケ待ちでもあるのだが、そのキッカケもいつ来るのやら…。
ぎこちない雰囲気にフゥと息を吐きつつ、
明日の朝食の仕込みをしておこうとキッチンへ向かうシュライン。
明日は久しぶりにパンにしようか?などと零と話しつつ微笑むシュライン。
作業中、ずっと、リビングからは眼差しが向けられていた。
じーっとシュラインを見やっている武彦。
何を言うわけでもないけれど、何かを訴えているかのような眼差し。
チクチクと刺さるような その眼差しを全身に感じながら、
シュラインは気付かないフリをして零と作業を続ける。
(…何よ。くすぐったいなぁ、もぅ…)
少しずつ少しずつ、元に戻り始めている二人の距離。
仲直りも近い…かな?
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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / 作家兼旅人・武彦の幼馴染
NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い
■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
こんにちは。いつも発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
すっかり藤二がオマケ的な存在に(笑) 仲直りは…きっと、もうすぐですよね^^
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^
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2008.03.14 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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