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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


トーキョー・ラバー 2008 春

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OPENING

『さぁ〜…やってまいりました!トーキョー・ラバー!』
『今回で三回目ですね。本大会も』
『いやはや…今回は、どんなカップルが出場するのか!』
『楽しみですね』
『いやはや!まったくです!』
ステージ上でマイクを手に話す、二人の男性。
彼等は、トーキョー・ラバーの司会進行役。
トーキョー・ラバーとは、今回で実に三回目となるイベントで、
カップルがペアで出場して、愛し合っている様や、二人の絆を披露し、
それを競い合うという、何とも桃色な大会イベントだ。
『今回の優勝賞金知ってますか?』
『いや、知りませんね。おいくらですか?』
『何と!ドーンと一千万ですよ!』
『それは凄い!主催者は太っ腹ですねー』
『かなり無理してるみたいですけどね!はははは!』
『副賞もあるんですよね?』
『もちろん!副賞も凄いんですよ、アミスラスタですよ。アミスラスタ!』
『何と!世界に三台しかないという、あの幻の車ですかっ』
『いやはや…まったくもって凄い!』
『今回の出場者数が異常なのも納得ですねぇ』
司会進行役の前座は、これから十五分ほど続く。
それが終了したら…いよいよ、大会開始。
ステージ裏では何百ものカップルが待機している。
観客もワクワクしながらステージを見つめて待機中。
回を重ねる毎に大きくなっていくイベント、トーキョー・ラバー。
果たして、今回の優勝カップルは…?

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コツ コツ ―
「シュラインさん、ちょっといいですか?」
扉をノックして零が言った。
眼鏡をかけ、読書に耽っていたシュラインはハッとして「どうぞ」と言葉を返す。
「どうしたの?」
シュラインが尋ねると、零はモジモジ…。
普段は着ない、よそ行きの可愛いパーカーを着ている…。
「おでかけするの?」
尋ねると、零はコクリと頷き「シュラインさんも」と言って彼女の手をとった。
どこに行くの?と聞いても、零は応えてくれない。
何か、変だな…とは思うものの、零は手を離そうとしない。
そういえば、最近二人でお出かけなんてしてなかった。
寂しい思いをさせていたのかもしれない。
そう思って、シュラインは読んでいた本をパタンと閉じ、
ニコリと微笑んで「いいよ」と頷いた。

零とのお出かけルートは、ある程度決まっている。
駅前でブラブラとウィンドウショッピングをして、
適当なカフェに入って一休み。そこからまたプラプラして…。
興信所を出て、駅への道を行こうとするシュライン。
ところが零は逆方向へ。
「零ちゃん?駅はこっちよ…?」
零が向かう方向には、何もない。
不思議そうな顔をしているシュラインに、
零は「こっちでいいんです」と言って、スタスタと進んでいってしまう。
「あ、ちょっと待って。ね、零ちゃんってば」
慌てて零の後を追うシュライン。
零の目的地は、興信所からさほど離れていないところにある空き地。
ピタリと立ち止まり、空き地を指差す零。
「?」
シュラインは首を傾げつつ、ようやく零に並んで空き地を見やった。
(…え?)
そこには、大勢の人。どこかで見たことのあるステージ。
ステージには『トーキョー・ラバー』の文字が記されている。
「零ちゃん…?」
何故、どうしてこんな所に連れて来られたのかサッパリ理解できないシュライン。
すると零は、ニコリと可愛く微笑んで観客席へと消えていってしまった。
「れ、零ちゃん…ちょっ…」
意味がわからず戸惑うシュライン。
そんなシュラインの背中をトントンと叩く人物が。
クルリと振り返るシュライン。目に飛び込むのは、武彦。
(…うわぁ)
その瞬間に全てを理解するシュライン。
そう、零は…シュラインと武彦を仲直りさせようとしていたのだ。
ナンパ事件からずっと、シュラインと武彦は、ぎこちないまま。
必要最低限の会話しかしないし、二人が笑っているのも…もう久しく見ていない。
いつまでも、こんな状態じゃ嫌。
そう思った零は、トーキョー・ラバーの開催を知って、
すぐに二人の名前を参加用紙に記入して投函。
会場に着く前から、既にシュラインと武彦は正式な ”参加者” なのだ。
とはいえ、武彦も知らなかったというわけではない。
事前に零から、出場を促されていた。
あいつは参加したがらないだろう、と拒んでいたのだが、
そんなんじゃ、いつまでも喧嘩したままだよ、と零に言われ反省。
確かに、このままじゃ、いつになったら仲直りできるか、わかったもんじゃない。
互いにキッカケを探っていたのは事実。
それを思えば、このコンテストは絶好のキッカケとなりえる。
武彦は若干の不安を抱きつつも、参加を決意。
一緒に興信所を出ては怪しまれるし、出掛けようとさえしてくれないかもしれないと思い、
一人、先に会場に来ていたのだ。
しばしの沈黙の後、武彦はシュラインの手を引き、ステージへと向かう。
「ちょ…」
慌て、戸惑い、手を振り払おうとするシュラインだが、
強く握られた手は、解けない。


今回のトーキョー・ラバーの審査は『愛』
ストレートでわかりやすいが、逆に表現しにくいものだ。
ステージ袖で、武彦に手を握られたまま、そっぽを向いているシュライン。
大丈夫だろうか…もうすぐ、出番だが…。
『いやぁ〜〜甘いですね。今大会も、実に甘い!!』
『まったくですね。胸焼けしてきましたよ。はははは』
『いやいや、まだまだ。ここからですよ、会場が桃色になるのは…』
『はははは、参っちゃいますねぇ〜』
『さぁ!では…次なるカップルに登場して頂きましょうか!どうぞ〜!!』
司会者から送られてくる目配せ。
武彦は「行くぞ」と呟き、シュラインの手を引いてステージへ登る。
前回も、前々回も、たくさんの観客の前に二人で姿を晒した。
今回だって、同じ。何も変わらないはず。
でも、シュラインは恥ずかしくて堪らない。だって、今回は、
武彦と気まずい雰囲気なのを、大勢の前で公開してしまうのだから…。
『おやおや、がっちり手を繋いで。熱いですねぇ』
うりうり〜っと武彦を肘で小突く司会者A。
普段なら、はぁ、そうっすねなどと言って適当に流すのに。
武彦はクスクスと笑って「羨ましいですか?」そう言った。
(えぇっ)
目を丸くして驚くシュライン。それじゃあ、まるで藤二のような反応ではないか。
武彦は、その後も司会者達の恥ずかしいツッこみに臆することなく言葉を返していく。
一見ヤケクソにも見える武彦のその行為は、精一杯の意思表示である。
”仲直りしよう” その、意思表示。
けれど、いくら意思表示されてもシュラインは戸惑いを隠せない。
大勢の観客の前だから、というのもある。
『では早速、やっていただきましょうか。愛の絆チェックをば…』
ニヤニヤと笑いつつパチンと指を弾く司会者A。
すると、司会者Bはシュラインに、こちらへどうぞと促した。
促されて入ったのは、即席試着室のような箱の中。
中はそこそこ広く、コーヒー豆の香りで充満していた。
見やれば、コーヒーカップやケトルなども用意されている。
司会者Bは「コーヒーを淹れてください」と言った。
事前に進行役に武彦が伝えていた『愛を披露する手段』
それは、無数のコーヒーから、シュラインの淹れたコーヒーを言い当てるというもの。
事情というか進行を聞いてシュラインは躊躇ったものの、
ここでやらなければ、イベント倒れをおこしてしまうかもしれないと思い、
言われるがまま、いつもどおり…興信所で淹れるように、コーヒーを淹れた。

シュラインが淹れたコーヒーを、
他の人物が淹れたコーヒーの中に並べ、武彦の前へと持っていく司会者B。
司会者Bはニマリと笑って『さぁ、どうぞ』と言ってテイスティングを促した。
一つ一つ、コーヒーを揺らしてみたり匂いを嗅いでみたりしつつ、一口ずつ飲んでいく武彦。
その途中、武彦はピタリと停止。
その時持っていた、とあるコーヒーをゴクゴクと…飲み干した。
『おや?』
キョトンとする司会者AB。
武彦はフゥと息を吐き、目を伏せて言った。
「これだ。間違いない」
まだ口をつけていないコーヒーはたくさんある。
それなのに、武彦はコレだ、間違いないと自信たっぷりに言った。
果たして、そのコーヒーは本当にシュラインが淹れたものなのか。
『と、申しておりますが……?』
揃ってシュラインを見やる司会者AB。
シュラインはチラッと武彦を見やった。
武彦は目を伏せたまま…動揺している様子はない。
正解。武彦は、見事に言い当てた。
飲み干したコーヒーは、間違いなく。シュラインの淹れたコーヒーだ。
じわり…とシュラインの目に涙が浮かぶ。
シュラインは「あたり…っ」と声を震わせて言った。
一斉に沸く会場と司会者。
武彦はクスクス笑い、シュラインの頭を照れくさそうに撫でて、
耳元で一言 「泣き虫」 そう、囁いた。


トーキョー・ラバー。
武彦とシュラインは特別賞をもらい、賞金三十万円をゲット。
賞金と、副賞のフルーツを持ち、興信所へ戻る一行。
「美味しそうね。これ…」
「おぅ」
「賞金は…どうしよっか。やっぱり、食費とかに消えちゃうかな」
「いや…」
「ん?」
「旅行でも。いいんじゃねぇか。たまになら、さ」
「え…」
「出来れば二人っきりがいいです。俺は」
「………」
「嫌なら…」
「嫌なわけ、ないじゃない…」
仲良く腕を組み、息ピッタリで歩く二人。
そんな二人を後ろから見つつ…零はクスクス笑った。
何はともあれ、仲直り。良かったね。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い

■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
仲直りイベントのような仕上がりになってしまいました!(笑)
流れからして、丁度良い時期に当たったので、
それまでの経緯を反映させた感じになります。
残念ながら優勝はできなかったけれど、
それよりもっと素敵なものを二人は手に入れたかな、と思います^^
仲良く。これからも二人三脚で…歩んでいけますように。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

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2008.03.16 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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