|
例えば、君が、この声に
------------------------------------------------------
OPENING
例えば、の話ですよ。
空を自由に飛ぶことが出来たなら。
僕は迷わず、貴女の元へ向かいます。
例えば、の話ですよ。
眠りの中で幻想を見ることが出来たなら。
僕は迷わず、貴女の姿を描きます。
例えば、の話ですよ。
触れることが、出来るのならば。
僕は迷わず、貴女を強く抱きしめます。
例えば、の話ですよ。
言葉を交わすことが出来たなら。
僕は迷わず、想いを伝えます。
例えば、の話。例えば、の話ですよ。
貴女を愛することが許されるのならば。
僕は…迷わず、永遠の愛を…誓います。
例えば、の話。あくまでも、例えば、の話。
抱えた膝に顔を埋めて、青年は続ける。
頭の中で、願いや想いを、吐き散らす。
誰よりも美しく、誰よりも愛しい人。
愛した女は、IO2エージェント。
そして自分は…彼女の標的。
------------------------------------------------------
IO2からの要請で、協力することになったシュライン。
その内容は、妖豹の子を発見、捕獲または討伐する、というもの。
IO2は総出でこの任務にあたっているらしい。
ちょっと本部に顔を出したところ、
丁度遂行へと向かおうとしていたエージェントから説明を受けて、協力することに。
総出で遂行にあたる、その必要は…まぁ、確かに。
親である妖豹は、異界の各所で暴れて被害を生んだ凶暴な妖だった。
死者も多数出ている。その子、だからこそ全力を尽くすのだろう。
それは理解る。妖豹が獰猛だったのは事実だし。
けれど、シュラインは素直に協力できずにいた。
危険視して警戒するのは最もなことだし、大切なことだけれど、
今までに捕獲・討伐されてきた妖豹の子は、皆無抵抗だったという。
牙を剥くことも、威嚇することもしなかったのだ。
IO2は、妖豹の子は、どうあがいても妖豹の子だと言い、
いずれ脅威になるかもしれぬと始末しているのだが…。
(何かな…嫌だなぁ)
シュラインは、心のどこかで、それに反発していた。
捕獲、討伐とはいうものの…。
IO2が総出であたっているにも関わらず未だに解決されていないのだから、
かなり遂行が難しい任務だと言える。ともあれ先ず、見つけないことには…。
対象である妖豹の子は、最後、残りの一匹。
元々妖豹は人語を理解する賢い妖だ。
追われていることを知れば、当然身を隠す。
どこに隠れているのか…。
シュラインは異界各所を回りつつ、受け取った資料に目を通す。
妖豹は薄暗い場所を好み、洞窟などに巣を作り暮らす。
暗闇の中で育てられ、子はいつしか外へ出て親と共に人を襲う…。
ふとシュラインは思う。
人を襲うことを親に教わる前に、親を失ってしまったのなら…。
外へ出ても、子は何をしていいかわからないはず。
(この辺りに洞窟なんて、あったかしら…)
シュラインは辺りを見回し、妖豹が好みそうな暗い場所、を探す。
ふと目に入る、古い教会。放置されて長いのであろう。
教会は森と同化するように建ち、不気味な雰囲気だ。
(もしかすると…)
シュラインはタタッと教会に歩み寄り、中を伺った。
割れたステンドグラスの隙間から中を覗くと…。
ボロボロになった十字架の前に、少年が跪いていた。
少年のお尻には、尻尾がある。ユラユラと揺れる…黒斑点の尻尾。
それは、豹の尻尾に酷似していた。
見つからぬように、と息を潜めて様子を伺っていると、
少年はポロポロと涙を零しつつ『もしも…貴女に…』に呟きだした。
貴女に…の後に何を言っているのかは、聞き取れない。
シュラインはスッと目を閉じ”能力”で探る。
聞き取る、少年の想いと、高鳴る鼓動。
シュラインは微笑み、少年に声をかけた。
「好きな人、いるのね」
『!!』
ビクッと肩を揺らして辺りをキョロキョロと見回す少年。
やがて、窓からこちらを見やっているシュラインに気付く。
『えと…あの…』
俯き、戸惑う少年。気持ちが乱れたからであろう。
少年の姿は、人間から豹へ…本来の姿へと戻っていった。
叶わぬ恋。
妖豹の子は、それに悩んでいた。
愛してしまったのは、こともあろうにIO2エージェント。
自分を追う、美しきエージェント。
鋭い眼差しは、自分を狙い定める目。
己に向けられる冷たい眼差しが…愛しい。
叶わぬ恋、想う事すら許されない恋。
自分は妖豹の子。彼女と話すことが出来るとき、
それは…自分が死すとき。彼女の手で、殺められるとき。
「…一目惚れ、かぁ」
妖豹の子の想いを聞き、クスクスと微笑むシュライン。
馬鹿にされているのだと、妖豹の子は俯く。
『僕に…想われても…迷惑なだけですもんね…』
「えっ、どうして?そんなことないわ」
『えっ…?』
「あなたは、どうしたい?」
『どう…したい…?』
「うん。どう、生きたい?」
『………』
シュラインの問いは、自分の存在を肯定する優しい言葉。
対峙すれば武器を向けられ、逃げることしかできなかった日々。
親のしたことを理解すればするほど、自分の居場所がなくなっていく現状。
そんな中、知ってしまった、人を愛すること。
どうすればいいのか、わからない。
相談できる相手なんて、どこにもいない。
途方に暮れて、辿り着いたこの教会で。
妖豹の子は祈りを捧げた。誰に教わったわけでもないのに。
十字架の前で、自然と手を組み祈りを捧げた。
叶わぬ恋に、痛む心を。
緊張が解きほぐされ、泣き崩れる妖豹の子。
シュラインは携帯を取り出し、連絡を入れる。
IO2にではなく、INNOCENCEへ。
IO2に連絡をすれば、間違いなく…この任務の責任者である人物が駆けつける。
その人物は、妖豹の子が想いを寄せる女性だ。
一瞬だけ、喜びを感じられるかもしれないけど、
その後、すぐに恐怖と不安に苛まれてしまう。
妖豹の子が想いを寄せるエージェントの性格を知っているシュラインは、
とりあえず、妖豹の子を保護しようと考えた。
彼女は組織任務に忠実な女性だ。
対峙すれば、間違いなく…任務遂行の手順を踏む。
そこに、妖豹の子が自分の想いを挟む暇は、ないと考えて間違いないだろう。
とりあえずの保護。そこから、ゆっくりと。
躍起になっている今のIO2には、
妖豹の子が危険ではないと、どんなに説明しても無駄。
ゆっくりと、距離を縮めていくしかないかと思われる。
険しい道のりだと思う。向こうは自分を敵視しているのだから。
距離をあけて、話せるようになったとしても、
敵視の眼差しは、そう易々と払拭されるものではないから。
でも、それでも。想う気持ちに偽りがないのなら。
いくら時間をかけても構わない。
ううん。いくらでも、時間かけるべき。
シュラインは、そう思った。
「あ、もしもし。海斗くん?ちょっと御願いがあるんだけど…」
------------------------------------------------------
■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 妖豹の子 / ♂ / ??歳 / 討伐対象の妖(豹・獣タイプ)
■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
こんにちは! 毎度さまです! ('ー'*)
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです^^
-----------------------------------------------------
2008.03.15 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------
|
|
|