＜東京怪談ウェブゲーム　アンティークショップ・レン＞ 毒舌オルゴール ------------------------------------------------------ ＯＰＥＮＩＮＧ ネジを回せば、いつでも聴ける美しいメロディ。 曲名も作曲者も理解らないけれど、 そのメロディには、誰もがウットリする。 そんな素敵なオルゴール。 だが、このオルゴールには一つ問題が…。 独自ルートでオルゴールを手に入れた店主は、 さっそくクルクルとネジを回してみる。 ネジから手を離した瞬間、辺りを漂う美しいメロディ。 だが、ウットリしていられるのは、ほんの十秒間。 十秒が経過すると…。 『手が荒れてるわね、貴女。歳なんだから、しっかりケアしなさいよ！』 オルゴールから突然声が。 （………） 店主はパタンとオルゴールの蓋を閉めた。 するとメロディと共に、謎の声も止まる。 再び蓋を開けると…。 『その香水何とかしてよ。臭くて敵わないわ。気付いてないの？』 メロディと共に、また声が。 （………） 店主はパタンとオルゴールの蓋を閉めて、フゥと溜息。 そう、このオルゴールは ”毒舌オルゴール” 美しいメロディにウットリできるのは十秒間だけ。 以降はメロディを掻き消して、毒舌が始まる。 危険ではない憑きものなのだろうが…非常に腹立たしい。 店主はピンッとオルゴールを指で弾いた。 ------------------------------------------------------ カランカランカラン ― 「おじゃましまーす！」 元気いっぱいに扉を開けて店内へと入ってくる出雲。 サーカス団の団長に命じられて、 何か掘り出し物はないかと確認しに来たようだ。 勿論、彼女の傍らには二匹の猿…佐介と才蔵も一緒である。 「あぁ、いらっしゃい…」 カウンターに頬杖をついたまま、ボソッと言う蓮。 素っ気無いのはいつものことだが、何か様子がおかしい気がする。 不機嫌…な感じ？むぅ、と首を傾げる出雲。 「ウキッキッ…（訳：機嫌悪いのぅ。アレか、オンナノコの日ってやつか？ん？）」 キャッキャッと手を叩きながら言う佐介。セクハラである。 「こらっ！！」 出雲は慌てて、ペシーンと佐介の頭を叩いて叱った。 「ウキィー！（訳：あいたぁぁー！）」 「ウキキ…（訳：みっともないでごザル…）」 やれやれ、と肩を竦めて溜息を漏らす才蔵。 出雲はテテテッとカウンターに歩み寄り、尋ねてみる。 「ね、何かあったの？」 「ん？…こいつが失礼極まりなくてねぇ…」 ツン、と蓮が突くのは、古ぼけたオルゴール。 例によって、また曰く付きの商品なのだが、今回は厄介というより不快。 ネジを回し蓋を開けると、美しいメロディが流れ出す。 何という曲なのかも、誰が作った曲なのかもわからない その曲は、見事なものだ。 ここまではいい。問題は、蓋を開けてから十秒後。 美しいメロディを掻き消すように、オルゴールからは『声』が飛んでくる。 少し甲高いその声は、五年程前にメディアを沸かせた『トラブルおばさん』の声。 トラブルおばさんは、隣人トラブルの常習犯。 日々あーだこーだと理不尽な文句をつけては人に煙たがられた女性だ。 だが、トラブルおばさんは不運にも火事で一年前に、この世を去っている。 もう、存在していないはずの人物の声が聞こえてくる…。 まさに曰くなこのオルゴールは、トラブルおばさんが生前大切にしていたもの。 古ぼけているように見えるのは、張り付いた煤の所為。 火事現場から発見されたこのオルゴールは、 不思議なことに焼け焦げることなく、形を保っていた。 異常なまでに大切にしていたからなのか…理由はわからない。 オルゴールから聞こえてくる声は、間違いなくトラブルおばさんの声。 蓮は「逝くことを拒み、憑いてる」と言ってオルゴールを再び突いた。 蓮の言うとおり、オルゴールにはトラブルおばさんが憑いている。確実に。 何故確信できるのか…それは、ネジを回して蓋を開ければ理解る。 「ちょっと開けてみてもいい？」 出雲が尋ねると、蓮は目を伏せて、どうぞと頷いた。 表情からは、やめておいたほうが良い…という思いが溢れている。 クルクルとネジを回し、蓋を開ける出雲。 流れるメロディは、実に美しい。 どこかで聞いたことがあるような…懐かしい気持ちにさせる曲だ。 だが、どこで聞いたのかなぁと思いに耽ることをオルゴールは許さない。 十秒を境に、ブツッブツッと音が歪み、そして…。 『何だい何だい、騒がしい！うるさいったらありゃしないよ！』 オルゴールから大声。うん、確かに…何度かテレビで聞いたトラブルおばさんの声だ。 出雲はウン、と頷き、暫く様子をみる。 止むことなく続く、小汚い言葉。 声は、ウルサイウルサイと文句を言うが…あんたのほうが、もっとウルサイ。 「ウキ〜（訳：言いたい放題やのぉ）」 延々と罵声を上げるオルゴールに苦笑し呆れる佐介。 すると、そんな佐介をギンッと睨みつけるような口調で声は言った。 『キーキーキーキーうるさいね！ちょっとお黙りよ！猿の分際で生意気な！』 声が発した言葉に、佐介はプッツン。キレるのが早いのは関西クオリティ。 「ウキーッ！（訳：おんどれ、もっぺんゆうてみぃや コラァ！！）」 ピョンピョンと飛び跳ね、怒りを露わにする佐介。 そんな佐介に、黙れといわんばかりにビュンと飛んでくるオルゴールの蓋。 ガスッ― 蓋は、佐介の額に直撃。 佐介は赤く腫れた額を押さえつつ、ワナワナワナワナ…そして間もなく、 「ウキキキキーッ！！（訳：叩っ斬ったるわァァァァー！！）」 完全にキレた。 オルゴールを叩き割ろうとする佐介。 出雲と才蔵は慌てて、それを阻止。 怒り冷めやらぬ佐介は、二人に押さえられつつ、ゼェーハァーと呼吸を乱す。 「ウキ…（訳：死してなお、迷惑…でごザルな）」 佐介を押さえつつ悟るように言った才蔵。 そんな才蔵にも、罵声が飛んでくる。 『あんたもキィキィうるさいっ！これだから低脳な猿どもはっ！』 声が発した言葉にピクリと体を揺らす才蔵。だが才蔵は我慢の出来る子。 「ウキキ…（訳：聞き捨てならぬでごザル…）」 かなりムカついはいるのだろうが、必死に怒りを堪えている。 「まぁまぁ、ちょっと落ち着きなよ」 佐介と才蔵をクールダウンさせようと微笑んで言う出雲。 無論…出雲にも、罵声は飛んでくる。 『何だい、子供は とっとと帰ってねな！しゃしゃりでてくるんじゃないよ！』 声が発した言葉に、出雲はムカッ。 二匹をクールダウンさせようとしたのに、自分がヒートアップしてしまう。 「ムカつくー！あれ、ムカつくー！！」 ジタバタしながら怒りを露わにする出雲。 蓮はヒートアップする三人を、ぎゅーっと抱きしめて「どぅどぅ…」と落ち着かせる。 以降も、ネジが回りきり、メロディが止むまで…声と罵声は続いた。 声と音の止んだオルゴールを前に、プンスカと怒る出雲たち。 人伝に聞いた、このオルゴールの曰くを解いて商品として並べようと考えていた蓮だが、 もはや滅茶苦茶。それは叶わぬ願いなんだな…と悟る。 使い物にならないと判断を下したオルゴールは、もはや ただの厄介物。 このまま店に置いておくのは気分が悪い。 かといって、どこかに捨てるというのも、気分が悪い。 どうしたものか…と溜息を落とす蓮。 そんな蓮を見て不憫に思った出雲は、オルゴールを買い取る、と言い出した。 「ウキッ（訳：よっしゃあ！思う存分 痛めつけたんでぇ！）」 「ウキキ…？（訳：正気でごザルか…？）」 引き取ったところで、何の訳にも立ちそうにない。 佐介のストレス解消玩具にはなるかもしれないが…。 納得できない才蔵は出雲に疑惑の眼差しを向けた。 だが出雲は、もしかしたら何かに使えるかもしれない、 団長に相談してみようと言って、半ば強引に、オルゴールを買い取った。 気になるお値段は…百円。 さすがに今回は ただの厄介物ということで、蓮は金をせしめることをしなかった。 買い取ったオルゴールは、そのまま真っ直ぐ…サーカス団長の部屋へと運ばれた。 相談しようと思ったのだが、団長はどこかに出掛けていて留守。 出雲は、仕方ない…また後で詳しく話そう、とオルゴールを団長の机の上に置いた。 時刻は夕方。昼食をとっていなかった出雲たちは、 とりあえず 空腹を満たそう！と食事へと出掛けていった。 シン…と静まり返る団長の部屋。 と、そこへノソノソと狼が入ってくる。 とある団員のパートナーでもある…ミグだ。 キョロリと室内を見回し、机の上のオルゴールを発見するミグ。 ミグは机に両前足を置き、しばらくオルゴールを眺めた後、 器用に口でネジを回し、前足でオルゴールの蓋を開けた。 流れ出す、美しいメロディと…罵なる声。 『臭いっ！あんた、臭うよ！さっさと出て行きなっ！』 ミグに獣臭い、出て行けと言い放つ声。 誤解を招かないよう説明するが、ミグは臭くない。 ちゃんと毎日お風呂に入っているし、ブラッシングもしてもらっている。 もう一度言う。ミグは臭くない。臭くないから。 「グル…（訳：やはりな）」 オルゴールに冷たい眼差しを向けて言うミグ。 『何だい！偉そうに！』 「グル…（訳：高慢で嫉妬深い女が憑いた、不幸のオルゴール）」 『なっ…何だいっ』 「グル…（訳：ＩＯ２とＩＮＮＯＣＥＮＣＥから、お前の処分命令を受けている）」 『な、何言ってるのか、わかんないんだよっ！』 落ち着いたミグの声に、言ってることがわからずとも、 危険を察知して どもってしまう声。 「グル…（訳：動けん奴が相手だと楽でいいな）」 ミグはそう言い、ビニールテープでオルゴールをグルグル巻きにすると、それを口に咥えて外へ。 ビニールテープに阻まれて、何を言っているのか よく聞きとれないが、 声はギャーギャーと文句をまくしたてている。 「グル…（訳：黙れ）」 一言。ミグは そう言って、近くの川にオルゴールを放り捨てた。 ポチャン― 川に沈み、やがて流れていくオルゴール。 ミグは何事もなかったかのようにスタスタと歩く。 「あっ、ミグ！」 団長の部屋の前で遭遇する出雲一行とミグ。 団長が帰ってきたので、相談しようとオルゴールを取りに来たのだが、 確かに机の上に置いたはずのオルゴールが何処にも見当たらず、 出雲たちは あちこちを探し回っていた。 「団長の部屋にあったオルゴール知らない？このくらいの大きさでね…」 消えたオルゴールの説明をしつつ、 どこかで見かけなかったかと尋ねる出雲。 ミグはフィッと顔を逸らし、スタスタと歩きつつ返す。 「グル…（訳：さぁ？知らんな…）」 ミグの揺れる尻尾を後ろから見やりつつ、佐介は呟いた。 「ウキキ〜（訳：相変わらず愛想の無いやっちゃのぉ）」 数日後…。 ゆったりと朝の紅茶タイムを終えた蓮は、 そろそろ開店するか…とカウンターを立ち扉を開けて店外へ。 店の扉にかかっているプレートをひっくり返して『ＯＰＥＮ』に変え、開店は完了。 読んでいた古書の続きが気になる、と 少しいそいそと店内へ戻ろうとする蓮。 その時、蓮の目に目を疑うような光景が飛び込んでくる。 店の入口扉の横に、ポツンと…あのオルゴールがあるではないか。 あのあと処分した、とミグから聞いていた蓮はギョッと目を丸くし、 「あんた、どうやって戻ってきたんだい…」 そう言ってクックッ…と苦笑した。 ------------------------------------------------------ ■■■■■ ＣＡＳＴ ■■■■■■■■■■■■■■■ ７１８５ / 猿渡・出雲　（さわたり・いずも） / ♀ / １７歳 / 軽業師＆くノ一・猿忍群頭領 ７１８６ / ー・佐介　（ー・さすけ） / ♂ / １０歳 / 自称『極道忍び猿』 ７１８７ / ー・才蔵　（ー・さいぞう） / ♂ / １１歳 / 自称『忍び猿』 ７２７４ / ー・ミグ　（ー・みぐ） / ♂ / ５歳 / 元・動物型霊鬼兵 ＮＰＣ / 碧摩・蓮　（へきま・れん） / ♀ / ２６歳 / アンティークショップ・レンの店主 ■■■■■ ＴＨＡＮＫＳ ■■■■■■■■■■■ こんにちは！ 発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ、幸いです。是非また、宜しく御願い致します('-'*)ﾉ --------------------------------------------------- ２００８．０３．１８　／　櫻井 くろ（Kuro Sakurai） ---------------------------------------------------