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ペリィが食べたい
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OPENING
季節の変わり目だからか…武彦が風邪でダウン。
外はポカポカ…良い天気なのに、自室で療養中。
昨晩、窓を開けっぱなしで眠ってしまったらしい。
冷たい夜風に目覚めることなく朝まで眠っていたことから、
よほど疲れていたのだろう…と判断できる。
武彦はゴホンゴホンと咳き込み、
窓の外、綺麗な青空をボンヤリと眺めつつポツリと呟く。
「ペリィ…食いてぇな…」
ペリィとは何ぞ?多くの者が、そう思うだろう。
ペリィというのは、近頃評判のフルーツで、
某テレビ番組で紹介されてから人気沸騰しているもの。
ほのかな酸味がクセになる、林檎に良く似たフルーツ。
それを武彦は食べたいと呟いた。
具合が悪くて意識が朦朧としているのだろう。
武彦は、焦点の定まらない目で、口元にはうっすらと笑みを浮かべている。
…ぶっちゃけ、ちょっと気持ち悪い。
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寝汗を拭き取ってあげつつ苦笑するシュライン。
(何故にペリィ…)
ペリィが食べたいと言い残して、深い眠りに落ちていった武彦。
顔色も、だいぶ良くなった。朝方トイレで遭遇したときの武彦は、
思わずヒッ…と言ってしまったくらい、ゲッソリしていたから、
それから比べれば、だいぶ…回復したのではないだろうか。
とはいえまだ思うように体は動かせない。時折、唸るし。
冷たい風が夜通し入ってきてたのにもかかわらず、
朝まで全く目を覚まさなかった武彦に、
変なものに憑かれてるんじゃ…などと不安に思っていたシュライン。
だが回復が目に見えているから、ただの風邪だろう。
(さて、と)
スッと立ち上がり窓の外を見やってポケッとするシュライン。
ペリィが食べたいのか…うーん。ちょっと困ったな。
ペリィは今、大人気のフルーツだ。
連日メディアが報じるせいで、どこも品薄な状態。
じゃあ買ってくるねと言って容易く買って帰ってこれるような代物ではないのだ。
けれどクタクタの武彦が食べたいと言ってるのだから、
その望みを叶えてあげないわけにはいかないでしょう。
シュラインはウム、と頷き財布を持って、いざ…ペリィ入手へ。
やる気満々!といった表情で靴を履いているシュライン。
そんな彼女に、洗濯ものを運びつつ、零は不思議そうな顔で尋ねた。
「どこ行くんですか?」
「んっ?ふっふっ…。戦」
「いくさ???」
「ふふ。何でもないわ。買い物に行ってくるだけ」
「???」
「武彦さんの看病、よろしく。何かあったら、すぐ連絡してね」
「えっ。あ、はい」
「では、行ってきます」
「行ってらっしゃーい…?」
キッと前を見据えて興信所を出て行ったシュライン。
零は、シュラインの背中を見つつキョトンと首を傾げた。
とりあえずやって来ました、一番近場のスーパー。
(望み薄よねぇ)
まったくといっていいほどに期待せず、店内へ入るシュライン。
目指すは真っ直ぐ、果実コーナー。
脇目も振らずに目指したものの…やはりペリィは品切れ。
ラック二つが丸々ペリィ専用なのだが、一つもない。
(む。やっぱ品切れかぁ)
期待はしていなかったというものの、それでも悔しい。
次に近いスーパーはどこだったかな…と考えるシュライン。
と、そこへ主婦達の会話が聞こえてくる。
「んもぉ〜。ほんと、すぐなくなっちゃうわねぇ」」
「仕方ないわ。隣町行ってみましょうか?」
「あ、待って。まず高橋フルーツに行ってみましょ?」
「あぁ、そうね!あそこなら、もしかしたら…急ぎましょ」
バタバタと駆けて店を出て行く主婦達。
会話を聞いて、シュラインも同じことを思う。
(確かに、あそこなら、もしかしたら…)
会話に出ていた高橋フルーツは、
アンティークショップの近くにある、とても小さな果実専門店。
地味すぎて、その存在を知るものは異常なまでに少ない。
主婦達の会話から察するに、近辺の店は全滅と考えて間違いなさそう。
(急がなきゃ)
シュラインは、主婦達の後を追うようにダッシュ。
高橋フルーツ前。電柱から、そっと店を伺うシュライン。
幸運なことに、ペリィはあった。最前列に…一個だけ。
シュラインだけでなく、他にも様子を伺っている者が数名いる。
…先程の主婦達である。
ギラギラと目を光らせて周囲を伺う主婦、四名。
ラスボス×四匹…まともに戦りあっては、勝ち目がない。
ボス達はタイミングを計っている。いつペリィに飛びついてもおかしくない状況。
シュラインは、むむ…と考え、とあることを思いつく。
諦めることなくペリィを求めているということは、
ボス達は皆、流行に敏感なミーハー人種なはず。
(よぅし…頭脳戦…)
シュラインはスッと目を閉じ『音』を放つ。
四匹のボス、それぞれから死角の位置で放つ、その『音』は交通事故を模写したもの。
キイィィィィィ―
ドンッ―
ガシャァンッ―
とても偽とは思えないリアルな音。
ボス達は一斉に音に反応し、キョロキョロと辺りを伺いだした。
(もういっちょー…)
シュラインは、トドメとばかりに救急車のサイレン音を追加。
ボス達は、すぐ近くで事故があったのだと思い、
一目散に音のした方向へとダッシュしていった。
(よしっ)
一斉に消えたラスボス。シュラインは今だ!と駆け出し、
ラスト・ペリィを見事にゲット。
料金を支払い、そそくさと退散しようとしたシュライン。
と、そこへ先程の音が偽だったことに疑問を抱きつつ、ラスボス達が戻ってきた。
戻ってくるのが、予想していたのより、ずっと早い。
ラスボス達のペリィに対する想いは、相当なものである。
ラスト・ペリィを持っているシュラインを見て、
ラスボス達はピタリと一瞬硬直した後、ギャーギャーと文句を並べ立てた。
「ちょっと、あんた!それ、私が買うはずだったのよ!」
「年長者に譲るべきよ、そうするべきよ!」
「もう、どこにもないのよ!」
「横取りなんて生意気だわぁ!」
口々に文句を言うラスボス達。
そんな彼女達にシュラインがとった行動。それは…。
「ゴメナサ。ニホンゴ、ヨクワラカナイデス」
出た。『私、日本語わかりません』戦法。
シャープな顔立ちのシュラインは、
そう言われてみると、日本人離れしている。
ラスボス達は、戸惑い口篭ってしまう。
シュラインは「ゴメナサ」と繰り返しつつ、そそくさと…逃亡。
「はい、武彦さん。あーんして」
ラスボスを打ちのめしてゲットしたペリィを切り、
武彦の口元へと運んでやるシュライン。
武彦は、目を伏せたまま ゆっくりと口を開けた。
モグモグと美味を噛みしめて「うめぇ〜…」と幸せそうな武彦。
シュラインはペリィを一切れパクリと食し、微笑む。
「んっ。ほんと。美味しい〜」
「あっ、私も食べたいですっ」
一つのペリィに群がる…草間ファミリーの図。
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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い
■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■■■■■■■
こんにちは。いつも発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^
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2008.03.18 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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