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<東京怪談・PCゲームノベル>


お手伝い致しましょう〜木人百人組手〜

 月の夜。
 剣舞を舞えば、
 魔が現れる。

 ――そのことを。
 利用することで。
 ようやく、彼女も自分の力を恨まずに済むのだ。

 剣舞を、愛しているから。

 ■■■ ■■■

 葛織紫鶴の元に、一通の手紙が届いた。
 彼女も馴染みあるサーカス団からの手紙だった。

『剣舞のお願い。
 サーカス団の団員三名に、実践訓練をさせたい。
 つきましては葛織の剣舞士紫鶴嬢に剣舞を舞って頂きたく――』

「今回は三人もいらっしゃるのか!」
 紫鶴は手紙の内容を見て、驚きの声を上げた。
「今回も動物を連れていらっしゃる方々なのだろうか?」
「さあ……どうなんでしょうね」
 世話役の如月竜矢が、紫鶴から手紙を受け取り目を通して、首をかしげた。
 サーカス団と言うだけあって、今までここから送られてきた人々は動物を連れていることが多かった。
 動物と心を通わせている彼ら。十三歳の紫鶴は憧れたものだ。
「明日いらっしゃるようですね。支度をしておきましょう」
「うん!」
 紫鶴は大きくうなずいて、さっそくそわそわし始めた。


 次の日――
「初めまして」
 紫鶴の目の前に現れた娘は、小柄でやや童顔、しかしながら豊満な胸が目立っているチャイナ風美少女。
「私は桃蓮花。よろしくね」
 かわいらしい声で言いながら、桃蓮花は優雅に礼をする。
「あなたもサーカス団の方なのか……?」
 今までの娘たちと違い、サーカス団服ではなくチャイナ服で来た蓮花に、紫鶴は目をぱちぱちさせた。
 蓮花は愉快そうに笑った。
「戦う時に着替えるね。やっぱり、サーカスの時の服の方が自然ある」
「そ、そうなのか?」
 ここのサーカス団の女性用衣装はとても露出度が高い。戦いやすいのは間違いないだろうが、代わりに怪我をしやすいという欠点もある。
 それでも、彼女がそれを選ぶのなら、それでいいのだろう。
「うちの姫の剣舞と月の影響はご存知ですよね。今日は満月になるはずですから敵も強いでしょう。時刻はいつを指定なされますか」
 竜矢が口を挟んだ。
 今は夕方。出されていたお菓子をつまみながら、空を見上げた蓮花は、やがて紫鶴を見てにっこり笑った。
「今からでもいいあるね。お願いできるあるか? 紫鶴」
 紫鶴は真顔でうなずいた。

 ■■■ ■■■

 屋敷の一室を貸すと、蓮花は着替えて出てきた。
 相変わらずの露出度。この時期では寒そうだ。今日は少し風が強い。
「風邪を引かれないように気をつけて……」
 紫鶴は心配そうに言ってから、両手首に鈴をくくりつけ、精神力で剣を二振り生み出した。
「私も剣舞は舞えるあるよ。でも今回は紫鶴の剣舞を堪能するある」
 紫鶴はその言葉に反応して、「今度ぜひ蓮花殿の剣舞を見せてくれ」と言った。
「機会があれば、喜んで」
「よおし!」
 紫鶴に気合が入る。彼女は蓮花を伴って、前庭の真ん中へと向かった。
 二人、少し離れて――紫鶴は地面に片膝をつく。
 下向きに剣をクロスさせ、うつむく。赤と白の入り混じった髪がさらりと彼女の横顔を隠す。剣舞の始まり――

 立ち上がるなり、二振りの剣は空へと舞った。
 くるくると。剣が空中を回転している間に、紫鶴はその下で舞っていた――否。
 型、だ。
 何かの拳法を思わせる型。
 膝を曲げ、肘を曲げ、拳を突き出し、片足で立ち、ひとつひとつの動きがきびきびと、きまっている。
 紫鶴に拳法の経験はないが――
 剣舞を舞う時の彼女には何かが降りる。
 蓮花のような少女がやってきたことで、影響を受けたのだ。
 やがて剣が紫鶴の手に戻ってくると、紫鶴は手首を使ってくるくると剣を回した。そのまま大きく腕を振る。無限の記号をなぞるような動き。
 ふいに剣を握り、「はっ!」と型を取って止まる。すう、と息を吸い、ひゅっと剣を振るう。
 片足でその場を一回転し、上空でしゃん、と剣同士を打ち鳴らす。
 りんと手首の鈴が鳴った。
 そして――

 夕刻の、ようやく月がかすかに見え始めたこの時間帯。
「姫!」
 竜矢の制止の声がした。それは、さっそく魔がやってきた証拠――
 紫鶴が剣を回転させながら蓮花から離れた。紫鶴の周りに、飛んできた竜矢の針によって結界が張られる。
 蓮花の目の前に現れたのは。
 一人の青年。
 否。顔がない。木目が見えている。――木人だ。木でできたからくり人形。
 蓮花は青年の独特の構えを見て悟った。
「蟷螂拳あるか? 珍しいね、映画スターでもやっていたあるか」
 にこっと笑い、彼女も素早く構えた。中国拳法。
「はーあっ!」
 左足で踏み込み、右拳を突き出す。蟷螂拳の木人は手首を下から突き上げて蓮花の拳を払った。蓮花はもう一歩踏み込み、木人の視界の外から回す左拳を放つ。
 木人がそれを腕で払う、その瞬間に蓮花は優雅に足を蹴り上げた。
 木人のあごにヒットする。続けて内受蹴り。中段蹴りに当たるその蹴りが木人の胸をまともに打ち、木人はぐらりと揺れた。
 しかし倒れない。木人は踏み込んでくる蓮花に手首の関節を使った打撃を放つ。
 蓮花は半身を傾けて避けると同時に踏み込み、木人の脇を突く。さらりとした動作。
 よろけた木人に止めとばかりに思い切り蹴りを入れた。
 木人がどさりと、地面に倒れた。そのまましゅおう……と煙となって消えて行く。
 と――同時に、左から拳の気配!
 蓮花は反射的に顔を引いて避けた。そして片足を軸に左側へと向き直る。
 再び木人だ。先ほどのやつよりも少しがっしりしている。構えは――空手!
 突きが飛んできた。蓮花は避けた。しかし続いて蹴りが蓮花の胸を襲う。蓮花はひたすら後退する。
(神の手!)
 蓮花の胸の内にふとそんな言葉が浮かんだ。この木人の突きは、相当早く、鋭い。
 リーチは敵の方が長い。
 足の長さもだ。踏み込まれるとこちらの攻撃が届かなくなる。
 となれば――
 身軽に後退していた蓮花は、相手の何度目かの突きでするりと拳を避けると横に回った。
 空手家はそれに合わせて体の向きを変えようとする。しかし蓮花の素早さはそれを許さず。
 蹴りが飛んだ。
 膝が、まともに木人の胸に入った。
 続けて拳。どっといい音がして木人の胸板を突く。
 よろけた木人は負けじと正拳突きを繰り出してくる。それを体を低くしてかわすと同時、伸ばした足で木人の下腹を打った。
 それが止め。木人は前のめりに倒れ、煙と化す。
 次の瞬間背後に感じた気配は巨大なもの――
 がっと背後から太い腕で首をしめられ、蓮花はあえいだ。思わず敵の腕をつかむが、びくともしない。
 この腕の太さ。そして感じる気配。
 巨大な――プロレスラーか?
 蓮花は後ろ蹴りを放つ。木人の脇腹にヒット。首をしめていた腕から力が抜けた。すぐさま抜け出し、くるんと向きを変える。
 目の前にいたのは小柄な蓮花より頭三つ分ほど大きい巨躯の木人だった。
 木人が拳同士をがつんと打ち鳴らす。
 蓮花はにこりと笑う。
「拳法の極意は『柔』あるね」
 大小は関係ない。むしろ巨人は敵が小さくてやりにくいに違いなかった。
 木人がエルボーを繰り出してくる。蓮花は跳ね上がり、その腕に乗って華麗に足を蹴り上げた。
 巨人のあごにまともに入る。続けて横蹴り。こめかみにヒット。
 木人の腕が蓮花を振り落とし、回し蹴りを放ってくる。
 蓮花はかがんで避けた。そして拳をプロレスラーの胸へ放った。
 さすが、巨人の胸は硬い。しかし連打したらどうだ?
 蓮花は小さな拳を強く固めて、突きを繰り返す。どう手を握って、どこを当てたら相手にダメージになるかはよく知っている。
 胸ではなく、肝臓や下腹を攻めた。
 下腹はむしろ筋肉で硬い。では、肋骨のすぐ下の隙間――
 連打にも負けず、木人は腕を蓮花の首に回そうとする。蓮花は腕でそれを防いだ。
 同時に蹴り。木人の下腹に入り、うっと木人がうめいた。
「止めあるね!」
 どっ――
 胃に、硬い拳を。
 巨躯が跳ね、後ろへと倒れていく。
 どばん! と派手な音を立てて地面に倒れた巨人が、煙となって消える。
 次は――?
 思った瞬間、目の前に蓮花と同じくらいの身長の木人が現れた。
 着ている服。柔道着。それを確認したその時にはもう、相手は蓮花の足を狙って踏み込んできていた。
 足を引っかけられる。危うく転ばされそうになる。蓮花はもう一方の足で踏みとどまった。
「柔道? 日本の誇る格闘技ね。興味深いある」
 木人は布地の少ない蓮花のサーカス団服をつかもうと腕を伸ばしてくる。それを腕で防いで、外から回す拳で木人に突きを入れようとした。
 しかし、今度の敵は小さい分すばしっこい。ひょいと避けられると、再び服をつかもうと腕を伸ばされると同時、足を引っかけるための足が飛んできて、蓮花は飛び上がって避けた。
 着地した瞬間が、隙だった。木人は綺麗に内股をきめてきた。
 蓮花の体が背中から地面に押し倒される。これが本当に柔道なら一本負けだ。
 だが、あいにくこれは柔道ではない。
 そのまま寝技をかけられそうになったところを、下から拳を放って木人の下腹に突き込んだ。
 うめく木人。蓮花は「はっ」と身軽にひょいと跳び上がるように立ち上がる。
 体を折っていた木人ははっとしたように、下から蓮花の服を取ろうとする。
「取らせないあるね!」
 腕でその手を払い、と同時に蹴りを放つ。
 相手の胸元にまともに入った。
 小柄な柔道家は簡単に吹っ飛んだ。
 どさっと背中から倒れる。これだけで、どうやら止めになったらしい、煙となって消える。
「――次は?」
 どすん、と地面を踏む音。
 振り向くと、しこを踏む相撲取り。
 拳の効き目が薄そうな、脂肪に包まれた体。
「相撲。日本の国技あるか。面白いある」
 どこを狙おう? 考えていたら太っちょな木人は一気につっぱりをかましてきた。
 さっと横に避ける。拳法としては少し反則だが、ここは横から足を狙わせてもらおう。
 蹴り。相撲取りの膝に入る。相撲取りはこちらを向いてやはり張り手を使おうとする。まわし代わりになる布地がないからだ。
 しかし木人の大きな手はすべて空振りに終わった。
 すいすいと避けて、蓮花は何度も膝に蹴りを入れる。相撲取りは足腰が鍛えられているから中々倒れないが、何度も受けている内に――変わってくるはずだ。
 何度目かで、ふと考え直し、蓮花は相撲取りと真正面から向き合った。
 張り手を腕で防ぎ、上へ流してから低い体勢からの蹴り。膝頭を靴底で蹴る。
「これでどうね!」
 これは効いた。がくっと木人が体勢を崩した。
 蓮花は追い討ちをかける。膝へ蹴り。ひたすら蹴り。
 両膝にそれを繰り返している間、たまらず相撲取りは張り手を行えなくなった。
 連撃に、脂肪の塊たる木人の膝から、びしっと音がした。折れた――
 木人はそのまま前向きに倒れた。煙が立ち昇る。
 次は――


「こ……今回の魔は一体何なんだ?」
 紫鶴は結界の中で、次々と出てくる木人に呆然としていた。
「『百人組手』ですね」
「何だそれは?」
「100人の相手と連続して戦うのです」
「100……」
 紫鶴が呆気にとられる。竜矢は色々な格闘家が出てくるのをじっと見ていた。
「今度はキックボクサーですか――」


 キックボクサー木人の動きは読みやすかった。ただし、妙にやせ細っていて当てる場所が少ない。
「そんなことは関係ないあるけどね!」
 蹴りを腕で防いでカウンターで拳を放つ。どっと敵の下腹に入った。
 筋肉で固められているその場所は、蓮花に鈍い反応を返してくる。
(あんまり効いてないあるね――でもこの手の格闘技者は連打されている内に弱るある)
 蓮花は懲りずにひたすら一箇所を狙った。木人の方が背が高いので、蹴りが頭に届かず、仕方なく下腹にした。
 木人の方も、下腹を狙われていると分かっているだけに、そこに力をこめれば防御力が高くなることを利用してくる。
 が、木人が攻撃してきた、そのカウンターで狙えば、確実に弱っている時を攻めることができた。
「拳法の拳を、なめないでほしいあるね!」
 どふっ。
 何度目かの拳で、キックボクサーは体をくの字に折った。
 止めに蹴りを一撃入れると、そのまま木人は倒れていった。
 煙がしゅうしゅうと上がる。
 そして次の気配が現れる――……


 その時には、すでに真夜中になっていた。
 夜空では満月がこうこうと光を放っている。いい夜空だ。
 もっとも、今の蓮花に、月を観賞している余裕はない。
「99……あるね。次で最後ね」
 と、立ち昇る煙を見つめながら思ったその時――
 どすん
 どすん
 どすん
 強烈な圧迫感と、地面に穴を開けそうなほどの足音が聞こえた。
「今度は何あるか!」
 月光に照らされて、それは姿を現した。

 結界の中では紫鶴が声にならない大声を上げる。
 竜矢も息を呑んだ。

 それは、巨大な巨大な木人。

 だらりと両腕を、体の横にたらしている。無防備な姿だった。
 しかし蓮花は、たら……と汗が流れるのを感じた。この木人――
「負けないあるね……!」
 突き。突き。突き。突き。突き。突き。
 蹴り。蹴り。蹴り。蹴り。蹴り。蹴り。
 手首をひねりながら拳を打ち込む。
 思い切り回し蹴りを叩き込む。

 何をしても――木人は動じない。
 効いて、いない。

 直後、
 ふいに木人の右手が動いて、横殴りに蓮花を殴った。
 まともにくらって、蓮花は吹っ飛ばされた。地面をごろごろと転がる。
「蓮花殿!」
 紫鶴の焦った声が聞こえる。
 ――99人を相手にした後の、巨人の一撃は重すぎた。
 蓮花はぐぐっと腕に力をこめ、起き上がろうとする。
 どすん どすん
 巨人が間近に迫っている。
「……ここまできて」
 蓮花の中で、何かが弾けた。
「負けるわけには、いかないね!」
 彼女は一気に立ち上がった。ふらふらの状態で、しかし構えを取る。
 いつの間にか彼女の周りに、怨霊の気がたちこめていた。
「怨霊たち……」
 蓮花は両手を腰溜めに構える。
 そこに、怨霊の気を溜める。溜める。溜める溜める溜める溜める溜めて――

「破ァァァッ!!」

 両手を突き出す。
 溜め込まれた気が炸裂した。
 巨大木人は真正面からそれをくらい、破壊を通り越して塵も残らず消滅した。


「100……人……」
 つぶやいて、ほっと蓮花は吐息をひとつ。
 そして、力尽き、ばたりと倒れた。
「蓮花殿――!」
 結界を解いて、中から紫鶴が倒れた蓮花に向かって走り寄ってくる……
 百人組手。
 桃蓮花。見事達成――……


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7317/桃・蓮花/女/17歳/サーカスの団員/元最新型霊鬼兵】

【NPC/葛織・紫鶴/女/13歳/剣舞士】
【NPC/如月・竜矢/男/25歳/鎖縛師】

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■         ライター通信          ■
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桃蓮花様
初めまして、笠城夢斗です。
今回はアクションノベルにご参加いただきありがとうございました。
たくさんの格闘技家ということで、苦戦いたしました(笑)なお、蓮花さんの拳法は少林寺拳法を元にさせていただきました。
三部作ということで、後の二作も頑張らせていただきます。