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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


五つの封印石〜第一話〜

★オープニング

 すっかり空に闇の帳が降り、半分になった月が雲の合間から光を落とす。
 神聖都学園の広大な敷地の中の一角に、その場所はあった。
 肝試しのスポットともなるそこには、五つの古ぼけた石が置いてある。その石には妙な紋章が彫られていたが、その姿は苔に阻まれて見えなかった。
 そこに現れたのは二つの人影だった。
 肝試しに来たのだろうか、少年と少女の二人は品のない笑い声を夜空へと響かせながら歩いていた。
「こんなとこに来るぐらい、わけないっつーの!」
「幽霊なんているわけねぇじゃん」
 そういいながら、足元に佇むその五つの石を目に入れた。
「これってさぁ、倒すとどうなんだろう」
 そういったのはどっちだったのか、それはもうわからない。
 ただ、その言葉をどちらかが吐いた瞬間、二人はその五つの石を蹴飛ばしたのだ。
「あはははー」
「祟れるもんなら祟ってみろっつーの!」
 言いながら二人は背を向けてその場を去ろうとした。
 しかし。
 それは突如としてその場に現れたそいつらによって阻まれる。
 がっしりと男の肩がつかまれた。男が肩を見ると、それは嫌に爪の伸びた手だった。
「な」
 男が驚きに声を上げかけるが、それはもはや声にはならなかった。
「感謝するぞ」
 その姿を見た瞬間、肩で息をすることしか出来なくなった。
「われらを目覚めさせてくれて、な」
「そうだねー。えへへー、ありがとー」
「あーあ、久々の外よ。いいものねぇ」
「サンキュー」
 その場に現れた五人の異形が口々にそういう間に二人は気を失ってしまっていた。
 五人はくすくすと笑いながら、神聖都学園の中にそれぞれ散っていった。


***


 携帯電話のディスプレイに表示された名前を見て、和田京太郎は嫌な予感が頭の中を掠めるのを感じた。しかし、とらないわけにはいかないだろう。通話ボタンを押して耳に当てる。
『あ、もしも……』
「現在、この電話は使われておりません」
『ちょっと!』
「なんだよ」
 面倒くさそうに言う。電話の相手は鈴城亮吾だった。
『あのさ、頼みがあるんだけど』
「やだ」
『即答か! ちょっと、気になることがあって』
「ああ?」
 面倒くさそうなニオイがぷんぷんする。そう思いながらも、京太郎は結局亮吾の話を聞く羽目になるのだった。



 人気の少なくなった深夜、神聖都学園の周りには住宅が少ないせいか、店が少ないせいか、あまり人気はなかった。
 そんな神聖都学園の前に二つの人影があった。一人は亮吾で、もう一人は京太郎だった。亮吾は片手に鉄パイプを持っており、深夜でなかったら不信人物として通報されていたかもしれない。少し期待に目を輝かせている亮吾とは対照的に、京太郎はだるそうにあくびを一つして頭をかいた。
「ホントに行くのか?」
「了承したじゃん。ほら、行こう」
「俺この学校好きじゃないし」
「京太郎」
「別に魔物とかのさばってても一向に構わないし、興味もないし」
「ここまできたんだから、ほら行くぞ!」
 全くやる気のない京太郎を亮吾が引っ張るようにして学園内に進入する。
 夜の学校は新と静まり返り不気味だ。とりあえず、校庭へと向かおうと歩き出した。
「亮吾、なんで学園に魔物が封印されていたのか、調べたか?」
「一応。でも、詳しいことはよくわからなかったんだよな。とりあえず、封印されていた場所が昔は封印に適した場所だったんだけど、近頃そのパワーが弱まっていて少しの衝撃で封印がとけてしまった、ってことぐらいか」
「へー。適した場所だったからここに封印した、ねぇ。普段の騒がしさからは想像できないけどな」
 京太郎の言葉に、亮吾は苦笑を返した。あまり京太郎は神聖都学園に対していい印象を抱いていないようだ。二人は校庭に出た。静寂に包まれた校庭に出ると、風が周りの木と二人の髪を揺らして去っていく。月が雲に隠れ、当たりが暗闇に包まれた。
 亮吾が口を開きかけたその瞬間、二人はあたりの空気が変わったことを察知して、校舎のほうを向いた。

 そこには、黒い人影が立っていた。

 夜の暗さで姿は良く見えなかったが、背格好から言って男のようだった。その男は二人に向かって近付いてくる。二人は思わず身構えたが、その黒い人影に変化を見出して、眼を見開いた。
 男の形が変わっていく。
 ぐにゃぐにゃの粘土のように頭がつぶれ、腕がつぶれ、足がなくなり、気付いたときにはただの丸になっていた。
 雲が動いたのか、月の光が地面を照らす。
 二人は人の形をしていたものが、まるっきり別物に変化していたことを知った。
 それは、大きな目玉だった。
 人間の眼球を一つだけ取り出したようなその目玉は、不思議と宙に浮いていた。
「なんだ、あれ」
 静寂を打ち破るように呟いたのは亮吾だった。
「おまえが言ってた目的のヤツだろう」
 京太郎はすばやくサングラスをかけた。戦闘モードに入った京太郎を見て、亮吾は慌てて気分を引き締めるように球体を見つめた。しかし、その瞬間京太郎は目玉から視線をそらし、反応できなかった亮吾はもろにその目玉と視線を合わせてしまった。
 亮吾の体が、動かなくなる。
 目を見開いたまま、亮吾は脳みそをゆすられるような感覚に、めまいを覚えていた。
(なん、だ)
 亮吾は目玉が凄いスピードで自分のほうへ向かってくるのをまるで他人事のような感覚で眺めていた。あと少しで目玉に体当たりされる、というところで、目玉が横に吹っ飛んだ。それと共に金縛りがとけ、見ると、京太郎が拳銃を手に持っていた。
「ぼさっとしてんな!」
「あ、ありがとう!」
 亮吾は目玉を見ないようにして、京太郎の傍へ行った。
「あいつ、精神攻撃を仕掛けてくる」
「金縛りだな」
「ただ、目が合ったらダメなんて、どうすればいいか……」
「こうすればいいんじゃね?」
 京太郎は亮吾の頭を抑えると、目玉のほうへ向けた。何の名案だろうと亮吾が素直に目玉を直視すると、またあの感覚が襲ってきた。まるで脳みそをゆすられるような感覚。
(何の解決にもなってない!!)
 近付いてくる目玉を見ながら、亮吾は心の中で悲鳴をあげた。目玉が近付いてきたその時、電撃が目玉を直撃し、目玉は逃げるように遠くへ吹っ飛んだ。それと同時に亮吾の金縛りもとけ、亮吾は近くにいた京太郎に非難の声を浴びせる。
「おい! どういうこと!?」
「え? おまえが囮ってことだ」
「まじで?」
「まじ」
 大真面目に言う京太郎に亮吾はがっくりとうなだれた。それから、京太郎に反論するかのように鉄パイプを高く上げた。
「京太郎にだけいい格好させられるかー」
 鉄パイプに電気を流した。鉄パイプは青色の光をまとい、ばちばち、と危険な音を立てている。亮吾はそのまま鉄パイプを操作して手から離す。すると、鉄パイプは宙に浮き、そのまま目玉に向かって一直線に向かっていった。
 あと少しであたる、というときに鉄パイプは亮吾の意思とは別に曲がり、Uターンしてきた。
「うわ! 失敗!」
「だからおとなしく囮になっとけって」
 自分の放った鉄パイプから逃げるために駆け出した亮吾を京太郎は楽しげに見つめた。
「ぎゃー」
「馬鹿だ」
 京太郎はそういいながら、目玉のほうへ視線を向けた。目玉も京太郎を眺めた。
「俺に精神攻撃はきかない」
 呟いて攻撃を仕掛けようと、駆け出した。しかし、目玉に捉えられた瞬間、頭が割れるような衝撃が全身に広がり、嫌な感覚が京太郎を捕らえた。
『力、を』
 目玉が言う。
 京太郎の目が見開かれた。
『カイホウ、したい』
 全身が粟立つ。
 それは、心の声。
 京太郎の中の、奥深くに眠る声。
 京太郎は荒くなる息を感じた。だめだ、だめだ、と自分ではわかっている。だが。
 鬼、がうめく。
 ぶるり、と全身が震え、目をこれ以上ないぐらい見開いた、そのときだった。
 目玉に、長い棒が突き刺さった。。
 それが、亮吾の放ったあの鉄パイプだと京太郎が知ったのは、体がその場に崩れ落ちてからだった。
「大丈夫!?」
 亮吾が駆け寄ってきた。
 京太郎は頷くと、目玉のほうへ視線を向ける。亮吾も視線を向けた。目玉は亮吾の放った電気を帯びた鉄パイプに貫かれ、ぶるぶるとその身を揺らしていたが、電気がなくなるにつれ、その震動をやめた。そして、目玉は当たりに溶け込むように消え、鉄パイプがその場にからん、と転がった。
「終わった」
「ああ。ったく、面倒なことに巻き込みやがって」
 京太郎が息を吐きながらぼやくと、亮吾は乾いた笑いを漏らす。亮吾も、面倒だったと考えている部分が多かったからだ。
 京太郎は立ち上がり、伸びをした。
 二人して、視線は空に向いていた。
 キレイな満月があたりを照らしている。静かなその光の下、魔物はまだ多く潜んでいる。


エンド


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1837/ 和田京太郎 / 男性 / 15歳 / 高校生 】
【7266/ 鈴城亮吾 / 男性 / 14歳 / 中学生 】

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■         ライター通信          ■
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和田・京太郎様

すこし遊んでしまいました。
いかがでしたでしょうか。
気に入っていただけたらうれしく思います。