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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE ラボに住まうエージェント

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OPENING

イノセンス本部、白亜の館。
この館の地下には巨大なラボが在る。
魔物のデータや、エージェントの情報が保管されている そこには、
常に、とあるエージェントが滞在している。
エージェントの名は、赤坂・藤二。
海斗と梨乃にとって、兄のような存在である彼は、
情報収集と武器の改造能力に長ける。

今日も藤二はラボで一人。
読書をしながら、ゆったりと過ごしている。

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「あっ、宗真さん」
背後からかかる声に振り返る宗真。
イノセンス本部一階ホールにて、
何か美味しい仕事はないかとリクエストボードを確認していたところだ。
声をかけてきたのは、梨乃。
古書…だろうか、何やら分厚い本を数冊抱えている。
「こんにちは。手伝いましょうか?」
本を持とうか?と尋ねる宗真。
梨乃はニコリと微笑んで、返す。
「あ、大丈夫です」
「そうですか?ところで、どうしたんですか。この本」
「書庫から借りてきたんです」
「こんなにたくさん?いっぺんに?」
「はい。誰かに借りられたら、しばらくおあずけになっちゃいますから」
「ははっ。本当に、好きなんですね。立派な読書家だ」
クスクスと笑う宗真。
梨乃が読書家であることは、本部内で有名だ。
宗真の中でも、梨乃は、いつも本を読んでいる印象がある。
読んでいる本は、その時々によって様々だが、大半は古書。
嘘か本当かわからない、逸話的な内容の古書を、よく読んでいる。
神話や伝承といったものに興味があるようだ。
宗真も宗真で、実は結構な読書家。
自宅にいる際は、のんびりと書斎で過ごす時間も多い。
梨乃と好きなジャンルが少し被るというのもあり、
二人は良き、読書家仲間となっていた。
微笑む宗真に、梨乃はアッと何かを思い出す。
「あ。宗真さん。これなんですけど…」
懐から、何やら封筒のようなものを取り出し差し出す梨乃。
宗真は首を傾げて尋ねた。
「はい?何ですか、これ」
「今朝、海斗から預かったんです。宗真さんに、って」
「ラブレター…なわけないですよね」
「ふふ」
封を切り、中を確認する宗真。
中にはメモ切れが一枚。
メモには、こう書かれていた。

『地下ラボで、お前を待ってる奴がいる模様』

たった一文。
何だか指令のような…おかしなメモだった。
「何ですか、これは…」
メモを眺めつつ、苦笑を浮かべる宗真。
また海斗が何か、おかしなことを始めた…と懸念している。
そんな宗真に梨乃はクスリと笑って言う。
「宗真さんと御話がしたい、っていうエージェントがいるんですよ」
「僕と、ですか?」
「はい。地下にいる…赤坂・藤二さん、って方です」
(ん…?赤坂・藤二…?どこかで聞いたことがあるような…)
梨乃が口にした、藤二という名に反応する宗真。
けれど、どこで聞いたのかは思い出せない。
宗真は疑問を抱きつつもメモを封筒にしまう。
「行けってことですね、要するに」
「ふふ。そういうことですね」
「わかりました。暇ですし…行ってきましょう。えぇと、地下っていうのは?」
宗真がキョロキョロと辺りを見回していると、梨乃が 階段横へスッと視線を送った。
見やれば、階段横に灰色の扉がある。
こんな所に扉なんてあっただろうか…宗真は首を傾げつつも、コクリと頷いた。
「えと、じゃあ。私は部屋に戻ります」
「あぁ、はい。言伝ありがとう」
「いいえ。では、また」
ペコリと軽く会釈し、自室へと戻っていく梨乃。
時折フラッとしながら階段を登る様は、何だか危なっかしい…。
宗真は見上げて、梨乃が無事に階段を登れたことを確認すると、フゥと息を吐く。
(さて、と。藤二さん…ですね。どこかで聞いたような気がするんだけどなぁ)
宗真はテクテクと階段横の扉へと向かい、そっと扉に触れる。
ブゥン…と音が鳴り、靄のように曖昧になる扉。
半透明と化した扉を抜け、宗真は本部地下へと降りて行った。


イノセンス本部地下には、巨大なラボがある。
地上の美しき白亜の空間からは想像できないほどに、機械で溢れている地下ラボ。
そこらじゅうを飛び交う電波音と蒸気音。
まるで別世界である。
(これは、凄い…)
地下ラボを歩きつつ感心する宗真。
ラボにあるモニターには、ありとあらゆる情報が表示されている。
エージェントの個人情報だったり、各エージェントが現在何をしているかを表示していたり…。
何と書いてあるのか読めない、古代文字がズラリと表示されているものもある。
宗真からしてみれば、ここは見事なデータバンク。
情報などをリスト化して纏めることが好きな宗真にとっては、興味深い空間である。
しばらくラボを歩くと、妙な空間が見えてきた。
機械に取り囲まれるようにして空いている丸い空間。
そこにはソファやベッド、テーブルなどが確認できる。
誰かがそこで生活している、部屋、といった感じである。
部屋らしき空間に一歩踏み入ったときだった。
『おっ。来たね』
巨大なモニターから声が飛んできた。
ピタリと足を止める宗真。
するとモニター裏からリモコンのようなものを持った人物がヒョコッと現れた。
「あなたが…藤二さん、ですか?」
『うん、正解。いらっしゃい、宗真くん』
モニターから聞こえてくる声。
先程とは違う、幼い少女のような声。
どうやら、藤二が持っているリモコンで自分の声を操作しているようだ。
銀縁眼鏡をかけた、細身で長身の男。
耳には、いくつものピアスをしている。
独特の雰囲気を放つ藤二、という人物。
宗真は、藤二の顔をしばらくジッと見て、ようやく思い出す。
「”機なる人生”の著者…赤坂・藤二さん、ですね」
「おっ。よく知ってるね。嬉しいけど、ちょっと照れるな」
コトリとリモコンをテーブルに置いて苦笑する藤二。
宗真が気になっていたこと。
どこかで聞いたことがあるような気がしていた赤坂・藤二という名前。
彼は『機なる人生』という本の著者でもあった。
本の内容は、機械工学に関してなのだが、独特な文体で読み手を飽きさせないもの。
時折、機械とは全く関係のない、恋愛内容になっていたりして…ちょっと異質。
けれど機械工学に関しては、読者を圧巻させる内容だった。
よく、こんなアイディアを思いつくものだ、と感心させられる。
宗真は、明らかに和の類である家柄でありつつも、メカに詳しい。
詳しいだけでなく、技術も持ち合わせていたりする人物である。
その才能が遺憾なく発揮されているのが、彼の武器『戦闘人形・舞姫』だ。
とても可愛らしい人形でありつつも、あちこちに刃などが仕込まれている。
そればかりか、支給された組織武器である魔銃さえも組み込んでしまっている。
趣味と言うか趣向というか、そういうものが重なり合う宗真と藤二。
二人は、すぐに意気投合して会話が弾む。

「へぇ。こりゃ、すごいな。お見事だ」
戦闘人形・舞姫を膝に乗せ、組み込まれている魔銃をマジマジと見やって言う藤二。
宗真は出された新茶をすすりつつ、少し照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
『機なる人生』を数年前に読破している宗真。
読んだ内容は少なからず、彼の技術向上に貢献しているのだ。
その著書である人物に認めてもらえて、嬉しくないわけがない。
宗真は湯呑みを持ちつつ、藤二に尋ねた。
「藤二さんは、いつもここにいるんですか?」
「ん?そうだね、大抵は」
「任務にでることは、あまりない…と?」
「そうだなぁ、よっぽど必要とされない限りはね」
「情報処理専門的な感じなんですね」
「そんな感じかな。あ、でもオンナのコからの誘いなら、いつでも引き受けるよ」
「…それは、任務においてですか」
「いや。デートのお誘いも含みます」
「………」
「そんな冷たい目で見るなよ〜。悲しいってば」
クスクスと笑う藤二。
何というか、ありのまま。
本でチラホラと垣間見えた本質というか性格は、偽りなきもののようだ。
女好きで、ちょっとナンパな男。
けれど、頭脳明晰で、素晴らしい知識の持主。
手放しで敬うことは出来ない、一癖ある人物。
イノセンスには、こういう癖のある人物が実に多い。
宗真は肩を揺らしてクスクスと微笑んだ。
「で、宗真くんは、どうなの?」
ニコリと微笑み、頬杖をついて尋ねてくる藤二。
「どうって…何がですか」
「恋愛系」
「あまり縁がないですね」
「またまた〜。結構モテんじゃないの?」
「モテませんよ」
「好きなコは?好きなコはいるでしょ?」
「いません」
「またまた〜。隠さないでさ。ほら、オジサンに言ってごらん」
「…いないですって」
「またまた〜〜〜」
「……(しつこいなぁ)」
恋愛系の話になると、藤二は躊躇なく、どんどん突っ込んでくる。
それも、土足でズカズカと。
彼の性格からして、当然の成り行きともいえるが…。
いつしか機械の話はパッタリと止んでしまった。
根掘り葉掘り、あれこれと尋ねてくる藤二。
宗真は新茶をすすりつつ、彼の話に付き合った。
とはいえ、ほとんど相槌を打っていただけだけれど。

赤坂・藤二。
癖のある、その人物との出会いは、宗真に成長をもたらすものになるだろうか。
ナンパを教えたり…そういうことだけは、してほしくないものだ。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■

7416 / 柳・宗真 (やなぎ・そうま) / ♂ / 20歳 / 退魔師・ドールマスター・人形師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度さまです('-'*)ノ
イノセンスへの御参加、ありがとうございます。
藤二が宗真さんに振舞っているのがコーヒーではなく新茶なのは、ちょっとした拘りです。和っ。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ!

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2008.03.23 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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