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<東京怪談・PCゲームノベル>


お手伝い致しましょう〜剣舞七番勝負〜

 紫鶴の剣舞による魔寄せ。
 それを利用して訓練にやってきたサーカス団員――桃蓮花。
 彼女は満月の夕方から夜にかけて、100人の木人を相手に戦い、「100人組手」を見事終わらせた。
 その後しばらく失神した蓮花だったが、小一時間もすると目を覚まし――
「ふう、気持ちよかったね」
 心地よさそうに夜風に吹かれると、「そうだ」と思い出したように手を叩いた。
「私が作った点心、持ってきてあるよ。一緒に食べるね」
「点心? 中華の……」
「私点心作るの得意ね」
 蓮花はウインクした。

 そんなわけで、少しばかり寒い夜風の中、中庭のあずまやを急遽ティースペースへと変えて、蓮花が点心をふるまってくれた。
 あずきの入った豆沙包子。彼女の名前にぴったりの桃包。「今は中秋節ではないけど、月にぴったりと思って持ってきたね」と月餅。中国風のおこし薩奇馬などなど。
「太ってしまいそうだ」
 紫鶴は手を叩いて喜んだ。豆沙包子を頬張り、もきゅもきゅと食べて幸せそうに頬をピンク色に染める。
「気に入ったあるか?」
「もちろん!」
「それはよかったある。竜矢も食べるね」
「ありがたく頂きます」
 竜矢は一通り様式に倣って中国茶を淹れてから、席に座った。
「竜矢、このおこし美味しいぞ、食べろ!」
「焦らせないでください姫。今食べます」
 微笑ましい会話が続く――
 蓮花も椅子に座り、淹れたばかりの暖かいお茶を飲んで、ほうと息をついた。
 と。
 次の瞬間、三人の意識はさっと切り替わった。鋭く一方へと視線を向ける。
 しかし、そこにいた人物の姿を見て、蓮花が変な顔をする。
「……アレーヌ?」
「ほほほ、ごきげんよう蓮花」
 アレーヌ・ルシフェルはやはりサーカス団の寒そうな衣装でそこにいた。豪奢な金の巻き髪は夜風に吹かれて、後方へとあおられている。
 そしてアレーヌは同僚から紫鶴へと視線を移し、
「お久しぶりですわ」
「アレーヌ……殿か」
 紫鶴はほっとしたように言った。
 竜矢は少し困っていた。この邸敷地内に、こんなに簡単に人が入り込めるようじゃ、少し門を改造した方がいいかもしれない。
「サーカス団からいらっしゃる3名の内の1人でいらっしゃるのかな」
 と紫鶴。アレーヌは、そうですわ、と優雅に微笑む。
「蓮花の後というのが気に食わないですけれど。まあいいですわ――わたくしのために剣舞を舞って下さる?」
「う、うん!」
 蓮花が唇をひんまげて、
「もう。せっかくの点心三昧に水をさされたね」
「うるさくてよ。さあ」
 紫鶴は立ち上がった。両手に、早速精神力で作った二振りの剣が生まれていた。

 ■■■ ■■■

 アレーヌのために舞う紫鶴の舞は、蓮花の時のそれとはまるで違っていた。
 英国貴族が社交ダンスでも踊っているかのような舞。相手こそいないが、手をつなぐ相手に愛情を注いでいるような、それは優雅で可憐な舞だ。
 その一方で、フェンシングのように剣を振るう。
 それはやはりアレーヌの影響なのだろう。紫鶴の剣は細身の剣のため、フェンシングの舞はよく似合った。
 満月に照らされて――
 紫鶴の手首の鈴のかわいらしい音と、剣が打ち鳴らされる刺激的な音。
 それらの音に惹かれて、
 そして舞の魅力に惹かれて、
 ――魔は、やってくる。

「姫!」
 竜矢の結界針が飛ぶ。紫鶴を囲うため。
 紫鶴はアレーヌから少し離れた場所にできた結界の中に、ぎりぎりで飛び込んだ。
 まずやってきたのは――

 それらが持っている刀は、鈍い銀色にぎらりと光っていた。
 目玉が片方ない。肩近くまである髪はざらりとちりぢりに乱れ、手足が異常に細い。そして、どす黒い。
 がしゃり、と身につけている鎧が鳴る。
 落ち武者風味の――
「侍……の、ゾンビたち、かしら?」
 アレーヌはふふんと鼻を鳴らした。「ゾンビなら、炎で燃やせますわね」
 1振りのレイピアを取り出す。炎に包まれた、灼炎の。
 そして目の前を埋め尽くしたゾンビたちを一瞥した。数を把握する――二十体。
「いけますわ」
 侍ゾンビたちは躍りかかってきた。
 刀を上段構えに振り下ろす。アレーヌはひらりと横に避けた。レイピアを突き出す。カン、と鎧に弾かれる。
「あら……」
 隙間を狙ったつもりでしたのに、とつまらなそうにアレーヌはつぶやく。
 侍は横薙ぎに刀を振るってきた。金髪がひらりとなびき、華麗な身のこなしで少女は避ける。そして刀が通り過ぎざま、レイピアをもう一度突き出した。
 炎をまとった先端が、侍の首を突いた。
 ぼっと首から上が炎に包まれた。
「……いやだわ、少し残虐でしたわね」
 アレーヌは目をそらし、ぼそっと言った。
 どさりと、侍の胴体が倒れた音がする。そしてしゅうしゅうと煙となって消える音。あっさりと1体目終了――
 その間にも他の侍ゾンビたちが襲いかかってくる。刀が何本もアレーヌを襲う。アレーヌは身を低くして通り過ぎ、すべての刀をやりすごした。そして侍たちの背中を取ると、レイピアの先端から炎を生み出した。
 生まれた炎は蛇のようにのたくり、次々と侍たちを呑み込んでいく。
 炎の中で悶える侍たちを背中から次々とレイピアで刺し貫いた。
 しゅおう、と煙となって消える侍たち。
 炎に包まれていない数体がひるむ。
「及び腰になっていては負けが決定しましてよ!」
 アレーヌは声を上げ、レイピアをしゅっと突き出した。
 真正面から侍の体を突く。ちょうど肩辺りの、鎧に隙間がある辺り。
 貫かれ、侍は一気に炎上した。その炎が他の数体に燃え移る。
 アレーヌは舞うようにその場を移動し、次から次へと侍たちを貫いていった。
 ――侍ゾンビ、終了――

 刹那、またもや大量の気配が発生した。
 今度も鎧。しかし日本のものではない――西洋だ。西洋の鎧騎士。
「馬に乗っていなくていいんですの?」
 アレーヌは茶化した。
 騎士たちは槍を持っていた。リーチの長さ。やりにくい。
 数はやはり二十体――
 槍が次々とくりだされてくる。アレーヌは飛び上がって避けた。彼女は空中ブランコの花形スター。身軽さが身上。
 槍の上をとんと靴底で叩き、鎧騎士へ近づく。
 レイピアを突き出した。炎が生まれた。のたくる炎蛇は鎧騎士たちの首にからみつき、鎧の中へともぐりこむ。
 鎖帷子が焼けるように熱いことだろう。悶え始める鎧騎士たちが槍を手放したのをいいことに、アレーヌは敵に肉薄した。
 突き刺す場所はいつだって鎧の隙間。肉を突き刺す感触に顔をしかめながらも、「まあ慣れていますものね」とつぶやいて、容赦なく敵を貫いていく。
 残りの鎧騎士たちが槍を振り回してくる。近づく隙を与えないつもりだ。
「馬鹿ですわね」
 アレーヌは呆れたように言い、レイピアから炎を生み出した。
 槍にからみついた炎。そこから伝って、やがて槍の持ち主の手元まで。手元から体まで。
 焦げる匂いが鼻につく。この匂いはあまりいいものではない。
 レイピアでがんがんと槍を叩き落し、一歩踏み込み切っ先を突き出す。
 のど。
 一番、狙いやすかった。
 軸足を残しくるんと体を回転させて、次の鎧騎士の前へ。向き直ると同時、切っ先は飛ぶ。魔から血は流れない。アレーヌにとってはありがたかった。
 振り向き次の騎士へ。背後から来た槍をかがんで避け、右の鎧騎士へ。振り向いて背後の騎士へ。横から来た槍を叩き落し返り討ち。
 炎の熱さで額に汗をかく。夜風がそれを冷やし、体温を奪って寒かった。
「騎士よりも天候の方が敵ですわ。まったくもう」
 アレーヌはぶつぶつ言いながら、最後の一体の首を刺した。
 煙が立ち昇る。西洋鎧騎士終了――

 次に現れた気配は異様だった。
 大きな黒い帽子をかぶり、眼帯をしている。一見派手な貴族のようで、また全然違うようにも見える。何よりおかしかったのは右手にレイピア、左手は義手で――碇型になっていた。
「……幽霊船長?」
 アレーヌがつぶやいた瞬間、船長の左手が伸びた。鎖だ――アレーヌの体を巻き取ろうとする。アレーヌは慌てて一歩退く。
 厄介ですわね、と思いながらアレーヌは炎蛇を生み出した。ごうっと広範囲の炎へと広がり、アレーヌと幽霊船長の間に炎の壁ができる。
 義手が金属製なら、炎は嫌だろう。熱を持つはずだ。右手のレイピアにしても同じ。
 船長の動きはすぐに止まってしまった。
「まったく、相手になりませんわよ!」
 アレーヌは炎の壁越しにレイピアを突き出した。
 はっと船長が退いた。む、とアレーヌは眉をしかめる。レイピアが届かない位置まで行ってしまった。
 しゅっとレイピアを振るい、炎の壁を消すと、一気に距離を詰める。
 突き出したレイピア――カン、と弾かれた。
 船長が、にいっと笑った。金歯がのぞいた。レイピアをレイピアで弾いて、碇爪がアレーヌを襲う。
「あっ」
 アレーヌの服が破れた。布地が風に吹かれて、はたはたと揺れた。
 アレーヌは肩を怒らせた。
「どうしてくれますの! 団長に怒られますわ!」
 そして怒りをこめてレイピアの連撃――
 最初の内は、船長もそれを受け止めていた。が、だんだんと船長の足が自然に後退していく。押されている。
 加えてアレーヌのレイピアには炎の気配。
 彼女は隙を見て、船長の左手に炎を送り込んだ。
 船長が、おお、とおののいた。鉄で出来た義手。それが今は邪魔となり、敵となり、そして致命的となる。
 幽霊船長の意識がそちらに向かっている間にアレーヌはレイピアを突き出した。
 はっと船長が右手のレイピアで弾き返そうとしたが、遅かった。
 レイピアは、彼の首を貫いた。炎上。煙。
 ――幽霊船長、終了――

 4体目はもっと奇妙だった。
「どこかで見たような姿ですわね……」
 とアレーヌに言わしめたその姿は、フェンシングのサーベルを手にした、インド系の顔立ちの魔人。
 魔人は――
 今までの敵とは比べ物にならないくらいの素早さでサーベルを繰り出してきた。
「―――!」
 アレーヌは防戦一方になりかけた。しかし途中で踏みとどまり、
「負けませんわよ!」
 灼炎のレイピアを手首を返して振るい、炎で魔人を包んだ。
 魔人はそれだけでは動きを失わなかった。熱さの中、それでもサーベルを繰り出してくる。
「不死身ですの……?」
 まさか。アレーヌは柳眉をひそめながらもしばらく様子を見ようと防戦する。サーベルの動きは速い。しかしこれくらいの速さ、師匠に散々見せ付けられた。
 師匠より、遅い。
 ならば勝てる。
 絶対の自信だった。
 確かにサーベルは避けにくい。けれどそんなことは問題ではないのだ。同じ――サーベル使いなら。
 アレーヌはサーベルも扱える。今はレイピアだが、要領はそれほど変わらない。
 炎をまとってサーベルを振るう魔人。
 アレーヌは冷静にその剣先を弾き返し続ける。
 燃える。燃える。燃える。
 炎上している魔人。
 不審に思っていると、やがて。
 魔人の動きが徐々におかしくなり始めた。
 サーベルの軌道が歪む。明らかにアレーヌを狙っていない。空中に幻影を見出しているかのように無茶苦茶に繰り出し、隙だらけになる。
「気が狂ったのかしら? まあいいですわ」
 まるで焼けた靴を履いたまま、焼けた鉄板の上で死ぬまで踊らされた白雪姫の母親のようだ――
 あまり苦しませるのも後味が悪い。
 アレーヌは目を細め、レイピアをまっすぐと突き出した。暴れている魔人の心臓めがけ。
 ――サーベルの魔人終了――

 と、次に現れた存在に、アレーヌはぎょっとした。
 6本の腕がある、阿修羅のような魔物。それぞれに得物を手にしている。剣やら槍やら斧やら。
「ああいうのは却って攻撃しにくいとは思うのですけれどね……」
 しかし――
 ボウガンを持っている手が厄介だった。次から次へと矢を放ってくる。
 アレーヌはそれをくぐりぬけ、阿修羅もどきに肉薄した。
 槍が突き出されてくる。それを弾き返し、レイピアを突き出す。しかし剣がそれを許さない。跳ね返され、思わぬ力でアレーヌは吹き飛ばされる。
「あう……っ!」
 しりもちをついたところで矢が飛んできた。アレーヌは地面を転がって避けた。カカカカッと矢が地面に突き刺さっていく。
 何回か回転したところで片腕の力だけで跳ね起き、アレーヌはレイピアを捨てた。レイピアは効き目がない。
 こんなこともあろうかと持っていたロングソードを手に、もう一度突進する。
 ボウガンの矢を避け、振り下ろされた剣を弾き返し、カウンターで斜め斬り。ごぱっと阿修羅もどきの胴体に傷口が開いた。阿修羅もどきの動きが乱れる――血こそ流れないが、効果はある……!
 一撃では、消滅しなかった。命も複数あるのだろうか。阿修羅に命が複数あるなんていう伝承はあったかしら……とアレーヌは考えてしまった。
 ずん。2撃目は突き刺して。
 重い衝撃。
 阿修羅もどきがうめく。
 苦しげな咆哮と共に、苦し紛れのボウガン。間近で放たれ、危うく腕を刺されるところだった。アレーヌは一瞬ひやっとした。
 通り過ぎていった矢の起こした風が、アレーヌの髪をたなびかせる。
「止め……ですわ!」
 アレーヌは思い切り剣を振り下ろした。
 今度こそ、断末魔の叫び声が庭の冷たい空気を震わせ支配する。
 そして残ったのは、黒々とした煙のみ。
 ――阿修羅もどき終了――

 次に現れた気配は――
 2体。
 アレーヌは怪訝な顔をする。今度は人間型なのだろうと思うが……仮面をしている。双子だろうか。対照的な、赤い仮面と白い仮面。猿顔で仙人のような長い赤い髭、白い髭。
 2人共剣士だ。
 曲芸的な幅広の剣を手にした仮面剣士は、揃って躍りかかってきた。
「―――!」
 アレーヌは飛びのいた。2人の動き、信じられないほどシンクロしている。片方が上から来ると思ったら片方は下から。片方がアレーヌを正面から攻撃すれば片方はアレーヌの死角から。
 苦戦した。相手の動きが速く、しかも予測不可能。ふいに痛みを感じて、見やるといつの間にか肩を斬られ、血が流れていた。
「く……っ!」
 アレーヌはロングソードを突き出す。2体の仮面剣士はひらりとそれを避ける。そしてカウンターで剣を振り下ろしてくる。アレーヌは必死で避けた。
 炎を生み出せば、その炎をかいくぐって2体はアレーヌに迫ってきた。
 赤い仮面が右から剣を薙ぐ。かがんで避けようとすると、白い仮面が下から斬りあげてきた。
 アレーヌの前髪が一房殺がれた。
「ああ、もう! わたくしの髪が……!」
 騒いでいると――

 ばん!

「ああもうっ見てらんないっ」
 卓を両手で叩いて立ち上がった蓮花が、颯爽とアレーヌの横へと走りこんだ。
「ちょっと、邪魔しないでくださる!」
 怒るアレーヌに、蓮花は腰から刀を取り出し、
「これの方がとても軽いね」
 とアレーヌに投げてよこした。
 青龍刀――
 思わずロングソードを捨て受け取ったアレーヌは、その軽さに驚いた。しかしそうしている間にも攻撃を受けて慌てて避ける。
「白は任せるね!」
 蓮花は2振りの宝剣を手にしていた。
「アレーヌは赤を倒すね!」
「さ、指図は受けませ――っ!」
 文句を言おうとしたアレーヌだったが、やはり仮面剣士の攻撃が彼女を襲う。避けきれない――!
 そこを、蓮花の宝剣が防いだ。
「何してるあるか!」
「うるさいですわ!」
 アレーヌは怒鳴った。しかし大人しく、赤い仮面に向き直った。青龍刀を握り直し、すっと振るう。
 思いがけないほど手に馴染んで、それは軽く放たれる。カンカンカンカンと赤い仮面剣士と同等に渡り合う、否、仮面剣士が押されていく――
 蓮花は2振りの剣で白い仮面剣士を猛攻していた。
 宝剣は素晴らしい手首の動きで仮面剣士を翻弄していた。1時間とちょっと前に、100人組手を終わらせたばかりとは思えない勢いだ。
 アレーヌは軽い刀を薙ぐ。赤い髭が殺がれてばさっと落ちた。
「次は首ですわよ……!」
 髪を切られて怒っているアレーヌは、ぎらぎらとその澄んだ青い瞳を燃えたぎらせ攻撃の手を休めない。
 そんなアレーヌの気配にくすっと笑いながら、蓮花は宝剣を振るった。
「あちらと同じにしてあげるね」
 ぱさっと白い髭が落ちた。髭なしの猿顔仮面。
「まるで京劇ね」
 くすくすと笑っていると、白い仮面剣士の剣が振り下ろされた。
 宝剣1本でそれを受け止め、もう1本を突き出す。
 ぐぶ、と剣士が仮面の奥でうめいた。血の代わりに体液が流れ出す。
 止め、と蓮花が宝剣で白い仮面剣士の胸を突くのと、
 アレーヌが赤い仮面剣士の首を跳ね飛ばすのは、同時だった。
 ――双子の仮面剣士終了――

 次に現れたのは。
「………っ!?」
 アレーヌと蓮花ははっと周囲を見渡す。
 いつの間にか囲まれていた。
 気配は――6体。うち、1体だけ違う種類。
 その1体だけ、大きい。黒い仮面に、白いマント。手には物質ではなく光が刀身となっているライトソードを持っている。
「あの1体……」
 黒い仮面を見て、アレーヌの背筋に汗が流れた。
「強力、ですわ……」
「他の5体は任せるね」
 蓮花が囁いた。残りの5体は顔を赤く塗っている。両手には黒仮面と同じようなライトソードを持った二刀流。
「二刀流が5体。だからって負けないね!」
 蓮花は舞うように躍りかかった。
 アレーヌは彼女に背中を任せ、黒仮面と向き合った。

 蓮花を狙って何本ものライトソードが振り下ろされてくる。
 蓮花はひらりと飛んだ。1体の頭に手をついてくるんと回り背後を取ると、振り向きざまに宝剣を振るう。
 ざうっと背中を裂いた。しかし簡単には消えない。赤顔たちはすぐにまた蓮花を囲む。
 ライトソードの何本かをやりすごし、足で蹴り飛ばし、宝剣で受け流し、そしてカウンターで宝剣がうなる。
 ガン、ガン、ガン!
 ライトソードとまともにぶつかり合い、火花が散った。
 背後から来たライトソードをひらりと避け、再び宝剣を振り下ろす。受け止められ、ばちいっと火花が散る。
 衝撃の火花が、散る。散る。散る。いっそ美しいほどに散る。
 蓮花の動きはどこまでも優美だった。
「戦いにも美しさは必要ね」
 とんっと地面を踏み鳴らし、それから恐ろしいほどの速さで宝剣を薙ぐ――
 激闘となった。

 黒仮面と相対したアレーヌは先ほど捨てたレイピアを左手に拾い、右手に青龍刀で挑んだ。踏み込み、斬りかかる。
 マントが裂けた。だが、次の瞬間アレーヌの体は吹っ飛んだ。
「なん……ですの!」
 正体不明の、目に見えない「塊」がアレーヌの腹を打った。波動? いや、エネルギーの塊?
 アレーヌはふらりと立ち上がる。
 負けていられない。
 黒仮面のライトソードは長い。だが威力なら青龍刀も負けてはいない。
 黒仮面が無造作にライトソードを振り下ろしてくる。その光の刃を、刀で受け止める。
 ぎりぎりと力同士のぶつかり合い。
 ――明らかに不利。
 アレーヌは左手のレイピアを使って光剣を受け流し、横へ逃げた。
 と、脇腹をまたもや見えない何かで打たれ、よろける。
 呼吸が乱れる。しまった、動きが隙だらけだ――
 ライトソードが残像を残しながら振り下ろされた。
 アレーヌのサーカス団衣装が、裂かれた。血が、ぴしっぴしっと飛ぶ。すんでのところで彼女は後方に逃げていた。まともに受けていたら肩に食い込んで出血死だ。
 だんだんと露出度が高くなっていくことなど気している余裕なく、アレーヌは体勢を整える。
 恐れなどない。恐れたらそこで負けが決まる。
 だが、見えない塊は一体どこから放たれてくるのか――
 ふと黒仮面の剣を持っていない左手が動いた。
 アレーヌは反射的に避けた。
 すぐ横を、何かが通り抜けた気がした。今の力か?
 左手から繰り出しているというのなら、まだ分かりやすい。
 いけますわ、とアレーヌは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
 そして――地面を蹴った。

 黒仮面のライトソードが空を斬る。
 アレーヌはかがんで避けた。そして下から斬り上げた。
 黒仮面が後退する。しめた。逃げるということは鎧の類を着けていないのだ――
 踏み込む勢いを高めた。次々と攻撃を繰り出す。敵も負けてはいない。光る剣はアレーヌを襲う。
 アレーヌの白い肌に少しずつ傷がつく。しかし負けられない。アレーヌは肉薄した。恐れなどない、ないから――
「――終わらせますわ!」
 思い切り。
 渾身の力で、青龍刀を振り下ろした。
 それは、黒仮面をまともに斬り裂いて――
 左手のレイピアが、黒仮面の胸を刺し貫いた。

 瞬間、蓮花が激闘を繰り広げていた赤顔たち5体も消え去った。

 ――黒仮面、赤顔終了――

 ■■■ ■■■

「合計7勝負……7番勝負と言ったところでしょうか」
 魔の気配を感じなくなったところで、竜矢が辺りを確かめながら2人の少女の元へと行く。
「風邪を引きます」
 上着を脱ぎ、特に露出が多くなってしまったアレーヌにかける。アレーヌは素直に受け取った。
「まったく。面倒な相手が多いね」
 宝剣をしまった蓮花が腰に手を当てた。
「大丈夫かお二方とも……!」
 紫鶴が走ってくる。
 心配そうな紫鶴に、蓮花はにっこり笑ってみせて、
「点心を食べたら、復活するね」
「あなたの点心なんかで復活できるわけないでしょう」
「復活できないほど消耗したか?」
「そんなわけないでしょう!?」
 アレーヌは顔を真っ赤にして怒鳴った。ころころと蓮花が笑う。そんな様子に紫鶴がほっと表情を和らげる。その時、
 竜矢がふと門の方へと顔を向けた。
「………?」
 目を細める。この頃夜目が利くようになっていた彼には見えていた。
 紫鶴邸、門扉の前に、トラックが停まった――


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6813/アレーヌ・ルシフェル/女/17歳/サーカスの団員/退魔剣士【?】】
【7317/桃・蓮花/女/17歳/サーカスの団員/元最新型霊鬼兵】

【NPC/葛織・紫鶴/女/13歳/剣舞士】
【NPC/如月・竜矢/男/25歳/鎖縛師】

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■         ライター通信          ■
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アレーヌ・ルシフェル様
こんにちは、笠城夢斗です。
ゲームノベルへご参加ありがとうございます。
サーカス団2人目様ということで、剣が武器という基本的な戦い、じっくり書かせて頂きました。いかがでしたでしょうか。
次回3作目、楽しみにしております。