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凹と凸
探偵、草間 武彦は義妹、草間 零の怒りを買い、東京崩壊宣言を受ける。武彦は自らの情報ルーツを頼りに地元のサーカス団へと流れ込む。
○
サーカステントの前を竹箒で掃いている熊猫(パンダ)が一頭。かわいらしい外見も、その体格から大の大人でも近寄りがたい。本人はそんな思惑を一切気にせず、のんびりと青空を仰いであくびを一つ。
サーカス曲芸パンダ、飛東は音のする方向へ耳をぴくりと動かした。数百メートル先から男が毒づきながら自転車をこいでいる。
ゆるりと首を三度鳴らす頃、自転車に乗った男、草間 武彦は飛東の前にやってきた。
「おい! 零と同じ力をもった奴がいるって聞いたが本当か!」
飛東はゆっくりと首を傾げる。
「ああ、俺がヤキ回ってたな。パンダに言っても分かるはずなかったな」
武彦が帽子を深く被りなおそうとすると、飛東が竹箒の先でひょいと奪い取った。
「あ! てめ!」
武彦が奪い返そうとするも、飛東は器用に避けて武彦で遊ぶ。自転車で全速力でこいでいた為か、すぐに武彦は息を切らした。
「てめぇやるじゃねえか! ナイスパンダだ」
武彦も自分で何を言っているか分からないが、身のこなしと言い、器用さと言い、言い得ている気がする。
そう、ナイスパンダだ。
「兄さん?」
武彦はか細くも殺気だった少女の声に身をすくませる。
「れ、零! まだ一時間は経っていない。もう少し待つんだ」
「車がエンストしたからと、人様の自転車を盗む兄さんの姿を見て気が変わりました」
「そんな正義感があるなら、東京崩壊なんか思い直せ!」
兄弟のやりとりをぼんやり見つめている飛東。どこか楽しそうだ。
「とりあえず、私のお人形……返してもらいますね」
零が手を伸ばして一歩一歩近づいてくるも―。
飛東の竹箒が零の行方を遮った。零は飛東をぎろりと睨みこむ。
「邪魔をするならパンダと言えども容赦はしません」
飛東は零の脅しをさらりとかわして、武彦をみつめると、一つのテントを顎でさした。お前がさっき言っていた人物はそこにいると言っているのだろう。
「お、おう。あとで笹たんまり買ってやるからな!」
武彦が彼女のいるテントへ走り出すのを見届けると、袖から三節棍を取り出した。かかってこいと言っているのだろう、ンメェーと可愛い声で鳴くと、可愛らしい手つきで、おいでおいでと零を誘っている。
「排除します」
淡々と零が呟くと、瞬時に飛東は距離をつめた。
零はその場で怨霊を発生させ、飛東へ襲い掛かる。
飛東は器用にかわし、時には三節棍ではじいて次々と距離をつめていく。
「ンメェー!」
捉えたと叫んだのだろう。雄たけびが響いた瞬間、三節棍が零の眉間を―。
○
「頼む!」
武彦はシニョンキャップを二つつけたチャイナドレスの少女に頭を下げていた。童顔で可愛らしさの残る容貌に、大人の魅力も纏っている。
「つまり、零鬼兵の妹さんを怒らせてしまたから助けてくれ言うてるか?」
扇子で口を隠しながら、サーカス団員、桃 蓮花は話をまとめた。
「そ、そうだ。な! 頼む、お前しかいないんだ。この通り!」
再度頭を下げる武彦を蓮花はじっと見つめると、扇子をぱたんと畳んだ。
「分かた。やるヨ」
「助かる!」
蓮花は武彦の前で指を立てる。
「金か?」
「違ウ。今度サーカス見に来るといい。妹さんとお友達と。きと、楽しい」
「分かった。席を埋め尽くす位の大所帯でいく」
蓮花は笑顔で頷くと、拳に力を込めてテントのカーテンを開けた。
○
蓮花は目の前の光景を努めて冷静に受け止めていた。
飛東が零の前で横たわっている。外傷が無いことから、一瞬で勝負は決していたのだろう。飛東は決して弱くはない。
「小娘! お前のストレス、この蓮花が発散させる! よろしか!」
零はみじろぎ一つせず、蓮花に視線を向けた。零の周りには怨霊がはびこっている。見たとおり、力が溢れかえって仕方ないのだろう。
蓮花は心の中で腹を括って、怨霊の力を基に宙に浮いた。
「蓮花もか……」
腕が立つとは聞いていたが、霊鬼兵だったとは。武彦は二人が飛び立つと飛東を起こし、近くのバンに飛び乗るとアクセルを踏み込んだ。
○
飛び続けて二分くらい経っただろうか、後続の零から殺気を感じる。
―さっさとしろ
そう言いたいのだろう。東京湾上空で、蓮花は停止した。
「さ! 来るといい!」
蓮花のあっぴろげな開戦宣言に、零は怨霊と言う怨霊を辺りに撒き散らし始めた。じわりじわりと蓮花を追い詰めるのだろう。
「ストレス溜まってるかと思えば、回りくどいスタイル。お前、悲劇のヒロイン気取りか? 女なら当たって砕けろ! これ万国共通!」
零から溢れんばかりの苛立ちがひしひしと伝わる、感情を抑える気を無くしたのだろう。怨霊が零の右手に篭っていく。あれを地面に叩きつければ太平洋プレートが断裂する。東京崩壊どころではない。
際限なく高まっていく力に、腰だめに構えた青龍刀にじわりと汗がにじむ。
蓮花は充填した零の右拳を確認すると、大きく息を吸い込み―。
消えた。
いや、肉眼では捉えきれない速度で動いていた。
蓮花から発せられる風圧が零の髪を後ろへと強く引っ張るも、零はじっと前方を凝視したまま拳を突き出した。
拳から半径数百メートルはある怨霊が吐き出る。
蓮花は怨霊を真正面から向かい、青龍刀で切り裂きながら、零に近づく。
「あのパンダも似た様な事をしていたかしら」
零のくぐもった声蓮花の耳に届く。
「でもね、ダメだったの」
蓮花は後方を視線を動かして確認すると、切り裂いたはずの怨霊が蓮花の背後めがけて襲い掛かってきていた。
「意思有る力ですから、馬鹿正直に突っ込んでは駄目ですよ? チャイナ娘さん?」
零のひきつった笑いに一瞬苛立ちを覚える蓮花。しかし、笑い返してみせる。
「お前自分だけが霊鬼兵思ているか?」
零の表情が笑みが消える。
「怨霊の特性なんか百も承知―」
蓮花から研ぎ澄まされた力を感じる。青龍刀の先端から放たれた気が零めがけて突き進んだ。
「っく!」
零は寸での所で回避するも、気の衝撃に負けてバランスを失い、海面に叩きつけられた。
「ペチャパイ! はよ上がってくるがよろし!」
蓮花の挑発が木霊すると、突如大地が震え、津波が起きた。
蓮花は踏み込んではいけないラインを越えてしまったと感覚で理解した。
零がゆっくりと高度を上げてくる。目は虚ろだが、にじみ出る殺意はしっかりと蓮花を捉えている。両手を高々とあげて両手首の合わせると、そのまま蓮花へと両手を突き出した。
対する蓮花も、青龍刀を海に捨てると両手首を合わせて腰溜めに構える。
蓮花・零、二人の両手の先から明るい球形の物体が渦を巻き始める。その球は、大きくなっては凝縮され、凝縮されては渦を巻き、力を着々と充填していく。
「おいペチャパイ。私のダイナマイトボディが羨ましいか?」
「跡形もなく、消し去ってあげます」
「お前が凹で、私は凸。日本語でデコボコ言うね!」
途端に零の瞳の色が赤く染まる。
「いちいちやかましぃんだよ! てめぇはよ!」
「やと、発散出来るネ!」
蓮花の狙いは言っていた通り、零のストレスを発散させる事にあった。怒りと言う怒りをぶちまけたならすっきりするだろうと思っていたが。
「少しやりすぎたか?」
蓮花は冷や汗を垂らして自嘲気味に笑った。
「ビッグバンフラッシュ!」
零らしかぬ技名が東京湾に響くと、零の手元にあった球は膨張、とぐろを巻きながら蓮花の体をえぐりに向かう。
「っ波!」
蓮花も後手ながら、ビッグバンフラッシュに自分の全てを叩き付けた。
拮抗する二人の力。周囲は衝撃波と熱で大気が歪み、淀んだ曇り空を吹き飛ばした。
「っっぎぎぎっぐぃ」
「ッペッチャッパッイッィィイィィ」
威力は同等、二人は更に更にと内からの霊気を絞り出すと、熱せられた大気が膨張、衝撃が一瞬にして二人を吹き飛ばした。
音速に達する勢いで蓮花が落下するも。
「メェェ!」
叩きつけらるに前に飛東がスライディングキャッチ。
一方零は、武彦が自分の体をクッションにして助けられていた。
○
「もう、こんな真似しないネ!」
武彦と零が正座をして、蓮花の説教にうな垂れている。
正気に返ってひどく気を落としている零を見つめると、
飛東の体を支えられて、蓮花はポケットから黄色の反物を差し出した。
「これで金運呼ぶがよろし」
零の頭に乗せて力なく笑った。
「蓮花さん……」
「いいヨ。これも人助け」
蓮花は手をひらひらさせて、恥ずかしそうに笑うも。
「出来れば、今月のテナント代の方が助かるのですが」
蓮花の表情がつりあがる。
「何処まで助けてもらえば気が済むか!」
対照的に笑っている零。
「ペチャパイのお返しです」
零は続けて頭を深く下げた。
「本当に助かりました。ありがとうございました」
蓮花は飛東を一度見つめると、照れくさそうに鼻を鳴らして。
「また、遊びに来るがよろし」
続いて、飛東も相槌をうつ様に鳴き声をあげた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【七三一七 / 桃・蓮花 (とう・れんふぁ) / 女 / 十七 / サーカスの団員/元最新型霊鬼兵】
【七三一八 / ー・飛東 (ー・ふぇいとん) / 男 / 五 / 曲芸パンダ】
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■ ライター通信 ■
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始めまして!
字数の関係で書き込めないのですが、東京怪談他にも書いています!
良ければ、ストーリー参加よろしくお願いします!
ではでは!
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