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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


悲鳴のレコード

 奇妙な客がやってきた、とアンティークショップ・レンの主は思った。奇妙な人間が集まるこの店の主が言うのだから、それは相当な変人と思っていい。
「で、これかい。そのレコードは」
「はい」
 その客――一見普通のサラリーマンだが、その目にはクマが出来ている。疲労が蓄積しきっている。
「悲鳴が聞こえるんだったね」
「はい。詳細は電話で話したとおりです」
 サラリーマン風の男は、かれた声で言った。
 このレコードはどこぞの骨董品店で購入したのだが、かけてみても悲鳴しか聞こえない。女の悲鳴がえんえんと響いているのだという。
「最初は、買ったものだし……不気味だけど、ちょっと聞いていようと思っていたんですが……」
 しかし、段々と変なことが起き始めたのだという。
 部屋でレコードを聴いていると、何かが空気中からぽとりと落ちる。見れば、ハエである。さらに後日その部屋を掃除すると、部屋の隅からゴキブリやらの死骸が出てきたのである。それ以後、その部屋でハエやゴキブリが出ることはなくなったという。
 それからまた聴いていると、飼っている犬が病気になった。
「妻は頭が痛いと言うし……娘は体調を崩して、今休んでいます。このレコードが原因じゃないかと思ってかけていないんですが……」
「状況はよくならないと。だからウチに売りに来たわけだね。わかった、引き取ろうじゃないか」
 蓮は薄く笑って言った。彼女の推測だが、もしかすると身体の小さなものから影響を受けていくのかもしれない。ハエなんかはすぐに死んで、身体の大きな犬は死ぬのに時間がかかるのかもしれない。
 かけると死ぬ、悲鳴のレコード。これを処理するのは骨が折れそうだな、と蓮は思ってしまった。

「え、ていうかむしろ便利でしょ? ダニ・ハエ・ゴキブリその他害虫害獣駆除でしょ? 下手にきかない殺虫剤使うよりよっぽど良いと思うんだけどなあ」
 アンティークショップ・レンにやってきたのは、十三〜十四くらいと思われる少年。派手な金髪と黒い服が特徴の少年――名を、瀬川 蓮という。
「アタシも最初はそう思ったんだがね。そりゃ、聞こえる範囲が家くらいならかまわないだろうがね。普通にかけておくと近所にも聞こえてしまう。もし聞こえてしまうだけで効果があるなら、人間より耳の良い犬や猫は大変だろう? 近所でばたばたペットが死んだら、そりゃ別の意味で怪死事件だ」
「あ、じゃあ農家さんとかは? 問題ないよねそれなら?」
「無差別なんだよ。レコードのほうが害虫だけ殺すわけじゃない。せっかく作った農作物までやられちまうと最悪だろう?」
 瀬川の受け答えに答えるのは、骨董店の店長、碧摩蓮。碧摩はいまいち、この子どもが苦手だった。突拍子もないことを言い出しそうで怖いのだ。
「ん――じゃ、捨てる?」
「捨てたら戻ってくるのが、このテの常識だろう?」
 うーん、と瀬川は考え込んでしまった。どうもこれからどうするかを考えているらしい。
 碧摩としては、できれば売り物にしてしまいたいのだ。そうすればタダで手に入れたこれを立派な収入源に出来る。
「そっか、じゃあできる限りやってみるよ。まあどこまででくるかわからないけど」

 ぶち壊したほうが早い、というのが瀬川の考えであった。
 とはいえ碧摩の意思を無視して強行に壊してしまうのもありえない。なんとかしてしまうしかないな、と思っていた。
 具体的にどうするか。
「ふーん……悪魔を呼び出してレコードに憑依させ、その上で殺人の対象を限定するわけだね。とはいえそんな器用なことができるのかい?」
「そうだね……じゃ、ゴキブリ限定にしようか。ゴキブリだけ殺すレコード。僕が呼び出せるのは下級悪魔だけど、下級ってのはつまり単純ってことなんだ。そういう単一の機能をもたせるのは難しくないし、悪魔を憑依させているから効果はもちろん半永久的。どう? 良い話だと思うんだけど」
 碧摩の反応も悪くないように見える。これならば大丈夫だろう。
 問題は――上手く悪魔を乗り移らせることができるかどうかだが。
「ん? 難しいのかい?」
「いや、憑依させること自体はすっごく簡単なんだけどね? ほら、一つの部屋に二人も入れないから。もしこのレコードに『先客』がいたなら、ちょっと難しいかもしれないね」
「追い出すのかい? その先客を?」
「ううん違うよ。だって先客がいたら、多分それがレコードの原因でしょ? だったら追い出しちゃマズい。上手く共存させなきゃ。そのために必要なのは力押しじゃなくて、うまい具合に妥協させてあげられる交渉術だよ」
 十歳弱の子どもに交渉もなにもないんじゃないか、と碧摩は思うのだが――瀬川には自信があるらしい。すでに指の先には悪魔を呼び出していた。
 その悪魔は、鳴き声もあげずにレコードにくっつく。表面をかりかりとひっかいたりしているが、音質に影響はないのだろうか。
「あーいるね。先客」
「ああ? 大丈夫なのかい?」
「ん……ちょっとまって。話してみるから」
 話、というのはもちろんその先客とである。悪魔を通せば、レコードの中にすでにいる悲鳴の原因とも会話ができるのだ。
「…………うん、あ、そうなの? あ、良かった。うんうん、あーでもそれは僕の一存じゃ決められないかな。ちょっと聞いてみるね」
 瀬川が頷きつつも、なにかを約束する。この時点で、碧摩蓮はちょっと嫌な予感がした。
「あ、あのね。ここの中にいる先客さんは、ずーっとずーっと昔からいる旧い人なんだって。だからさ、悪魔との共存くらいなら認めてやる。悲鳴の行き先を操るのも好きにすればいいってさ。ただ、もし売り物にするなら約束してほしいことがあるんだって」
 それは、わざわざ碧摩にふってくる辺り、碧摩と関係があることだろう。
「うん。中途半端な値段じゃ売れない。百万くらいなら納得してやろうだって」

 結局。
 アンティークショップ・レンには、効果だけは抜群のゴキブリ駆除レコードが並ぶことになる。しかし値段は百万なので、結局売れ残りになってしまう。
 碧摩とて嫌がったものの、その値段で売らなければゴキブリ駆除の効果もない。
 なお、瀬川蓮のほうは、あれからもちょくちょくやってきて、レコードの中にいる『先客』と会話をしているようだった。
「ん? だってこの人、僕と同じくらいなんだもん。見た目の年齢はね」
 そういって、瀬川は無邪気にくすくす笑うのだった。





<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)   ■
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【1790/瀬川・蓮/男性/13歳/ストリートキッド(デビルサモナー)】