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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE 梨乃の手料理

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OPENING

フラリと立ち寄ったINNOCENCE本部。
とりあえず依頼板でも確認してみようかと、自室へ向かう。
その途中。
大きな紙袋を抱えて歩く梨乃を見かける。
紙袋には、野菜や肉、果実などあらゆる食材が入っているようだ。
梨乃の足取りは、フラフラしている。重いのだろう。
「っとと…」
バランスを崩す梨乃。
傾いた紙袋から、オレンジが一つ零れ落ちる。
コロコロと、足元へ転がってきたオレンジ。
それを拾い上げると、梨乃はパタパタと駆け寄って言った。
「すみません。ありがとうございます」
拾い上げたオレンジを渡すと、
梨乃はペコリと頭を下げ、ジッとこちらを見やった。
「…?」
何だろうと首を傾げると、
「お腹、空いてませんか?」
梨乃は、ニコリと微笑んで言った。

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久しぶりにイノセンス本部へ足を運んだミリーシャ。
明日は、サーカス公演がお休み。
退屈凌ぎになるような仕事はないかと、本部を訪れていた。
で、本部一階にあるリクエストボードを確認していたところ、紙袋を抱える梨乃と接触。
お腹は空いていないかと訊かれて、ミリーシャは自分のお腹にそっと触れた。
昼食は、食べた。もちろん食べた。
サーカス団テントの近くにある定食屋で、たっぷりと。
人気メニューを中心に、軽く十人前は食べただろう。
けれど、お腹は既に鳴いている。
クルルル…と鳴るミリーシャのお腹。
彼女は外見からは想像できぬほどの大食い。
鉄の胃袋所有者である。
「うん…空いてる…かな…」
頷きつつ返すミリーシャ。
すると梨乃はニコリと微笑んで言った。
「ご馳走しますよ」
「ご飯…作るの…?」
「はい。今日は私が当番なので」
「当番…?」
「はい。あっ、言ってなかったですね。そういえば」
イノセンスには、食事当番というものが存在する。
普段は皆、食堂を利用するのだが、毎週土曜日は食堂が休み。
その為、毎週土曜はエージェントが交代で食事当番を担当する。
料理が得意なエージェントが当番だと、みんな朝から元気。
逆に料理が下手なエージェントが当番だと、みんな朝からゲンナリ。
全エージェントに平等に回ってくる、組織ルールである。
で、今日は土曜日。梨乃が当番らしい。
夕食はたいてい十九時頃から。現在時刻は十七時。
先に準備を済ませておくのだと梨乃は言う。
ミリーシャはコクリと頷き、梨乃と一緒にキッチンへと向かう。
その途中。
「あっ!いたー!梨乃ー!梨乃ー!」
階段を駆け下りながら大声で叫ぶのは、海斗。
海斗は梨乃とミリーシャに駆け寄るとニッと笑って言った。
「腹へったー」
「今から作るよ」
「よっしゃー。ん?ミリーシャもフライングか?」
「…フラ…イング?」
キョトンと首を傾げるミリーシャ。
わからなくて当然だ。
海斗はいつも、梨乃が食事当番の際、フライングをする。
皆が集まってくる前に、一人だけ先に夕食を頂くのだ。
それだけ梨乃の料理を気に入っているということになるのだが…。
梨乃から、そう説明されてミリーシャは、ふぅん…と頷いた。
海斗もまた、食いしん坊である。

「何か、食べたいものありますか?」
食材が並ぶテーブルを挟んで尋ねる梨乃。
海斗は満面の笑みで「何でもイイ」と答えた。
梨乃は海斗に尋ねたのではなく、ミリーシャに尋ねたのに…。
食べたいものはないかと訊かれて、ミリーシャは少し考えた後、
「ボルシチ…」
ポツリとそう呟くと、懐からメモを取り出して梨乃に渡した。
メモにはボルシチのレシピが記されている。
かなり細かい、本格的なレシピだ。
梨乃は「わぁ、すごい」と驚きつつレシピに目を通す。
どれどれ…とレシピを覗き込む海斗。見てもわからないくせに。
「ん?この、ビーツって何だ?」
レシピに記されている材料『ビーツ』を示して言う海斗。
ビーツは、カブによく似た、サトウダイコンの変種。色は紫。
ロシア料理、ボルシチには欠かせない食材である。
「ビーツは…買ってないですね。冷蔵庫にも、ないと思います」
むぅ、と頬を膨らませて言う梨乃。
するとミリーシャは「缶詰で…いい?」と尋ねた。
「えっ。あるんですか?」
「うん…ちょっと待ってて…取ってくるから…」
「え。取ってくるって、あっ…」
梨乃の声を聞かずして、ミリーシャはスタスタと歩き自宅へと向かった。
ビーツなしのボルシチは、食べたくないらしい。
「食に貪欲なんだな、可愛い顔してんのに」
ケラケラと笑いつつ、椅子に座って頬杖をつく海斗。
梨乃はクスクス笑い、準備を始めた。
と、その時。
「持って…きたよ…」
ヌッとミリーシャが姿を現す。
「きゃ!?」
「うぉぉぉ!?」
突如現れたミリーシャに驚き食材を落としてしまう梨乃と、
ガタガタッと椅子を揺らして驚く海斗。
…ミリーシャは、秘密のルートを通ることで、
自宅とイノセンス本部を軽々往復できてしまうのだ。

さて、いよいよ調理。
レシピを参考に、本格ボルシチを作る梨乃。
手際良く調理を進めていく様は、見ていて安心を覚えるものだ。
コトコトと材料を煮れば、キッチンには美味しそうな香りがフンワリ。
テーブルに頬杖をついて出来上がるのを待っている海斗は、ジュルリとヨダレを垂らしている。
材料を煮ている間、もうすぐ完成だというとき。
ミリーシャは、中にサワークリームを入れる。
生クリームにレモンの汁を入れた、お手軽材料だが、
これもまた、ロシア料理に欠かせないものである。
「ボルシチはね…元々、ウクライナの料理なの…」
クルクルと鍋をかき混ぜてサワークリームを馴染ませつつ言うミリーシャ。
「へぇ、そうなんですか」
「うん…美味しくて、すぐに広まったんだけど…各地で入れるものが違うの…」
「トマトとかですね」
「うん…そう…」
ミリーシャから豆知識を貰いつつ、調理していく梨乃。
外国、ロシア生まれのミリーシャから得る情報は、とてもためになる。
料理が完成する頃には、すっかり梨乃はロシア料理に詳しくなっていた。

完成したボルシチ。
本部にいるエージェント分と、海斗とミリーシャの分で分ける。
海斗とミリーシャの分の方が、かなり多いのは…まぁ、仕方のないこと。
何人分あるんだ…と目を丸くしてしまうほどの量だが、
ミリーシャと海斗は、あっという間に完食。
一滴残らず、皿を舐めるようにして平らげてしまった。
「ごちそ−さーん!」
「ごちそうさま…」
海斗とミリーシャは本格ボルシチの出来に大満足の御様子。
「お粗末様でした」
二人の旺盛な食欲にクスクス笑ってペコッと頭を下げる梨乃。
「お料理…上手なんだね…」
口元をナプキンで拭いつつ言うミリーシャ。
梨乃の料理の腕前は、かなりのものだ。
ミリーシャが渡したレシピに見事なアレンジを加えていた。
梨乃は照れくさそうに笑い、ミリーシャに告げる。
「ふふ。ミリーシャさんのお料理、楽しみです」
そう、いつか、ミリーシャにも食事当番が回ってくる。
それは拒むことの出来ない組織ルール。
ミリーシャはコクコクと水を飲み干し、フゥと息を吐いて言った。
「また…ロシア料理でいい…?」
イノセンス本部にて、混じり気のない本場ロシアの料理が振舞われる日は、もうすぐ…。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■

6814 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / ♀ / 17歳 / サーカスの団員・元特殊工作員
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■

こんにちは! 毎度さまです。
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです!
INNOCENCEは、関連シナリオが幾つもありますので、
是非。また、ご参加下さいませ!('-'*)ノ

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2008.03.25 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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