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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE 梨乃の手料理

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OPENING

フラリと立ち寄ったINNOCENCE本部。
とりあえず依頼板でも確認してみようかと、自室へ向かう。
その途中。
大きな紙袋を抱えて歩く梨乃を見かける。
紙袋には、野菜や肉、果実などあらゆる食材が入っているようだ。
梨乃の足取りは、フラフラしている。重いのだろう。
「っとと…」
バランスを崩す梨乃。
傾いた紙袋から、オレンジが一つ零れ落ちる。
コロコロと、足元へ転がってきたオレンジ。
それを拾い上げると、梨乃はパタパタと駆け寄って言った。
「すみません。ありがとうございます」
拾い上げたオレンジを渡すと、
梨乃はペコリと頭を下げ、ジッとこちらを見やった。
「…?」
何だろうと首を傾げると、
「お腹、空いてませんか?」
梨乃は、ニコリと微笑んで言った。

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「お腹…ですか。えぇと…そうですね…」
梨乃にお腹が空いていないかと訊かれ、自分のお腹に尋ねてみる宗真。
現在時刻は十七時。今日は昼食をかなり軽めに済ませた為、宗真のお腹は既にペコペコだ。
宗真はクスリと微笑み「はい」と応える。
すると梨乃は、晩御飯を御馳走させてくれないかと言い出した。
「食事…梨乃さんが作るんですか?」
「はい。今日は、私が当番なんです」
「当番?」
「毎週土曜は食堂がお休みなので、交代で当番が回ってくるんですよ」
「あ、そうなんですか。知りませんでした」
「ごめんなさい。言ってなかったですね…」
「あぁ、いえ。大丈夫ですよ。ということは、みなさんの分を作るんですか?」
「はい。でも先に食べちゃっても良いので」
「いいんですか?」
「はい。みんなで食べるのも楽しいですけど、ちょっと騒々しいですから…」
クスクスと笑う梨乃。
彼女の言うとおり、イノセンスでは食事当番というものが存在する。
普段は皆、食堂を利用しているが、毎週土曜日のみは食堂が休み。
調理担当のオバサンが休みを取っているからだ。
その為、毎週土曜日は各エージェントが夕食当番を担当する。
いつかは必ず、回ってくる当番。
誰かが多く、誰かが少なくということはない。
皆に平等に回ってくる、イノセンス内での…組織ルールである。
組織内で料理が得意なのは梨乃と千華。
この二人が当番のときは、皆、朝からワクワクしている。
逆に料理が苦手な海斗や藤二が当番のときは、皆、朝からテンションが低い。
海斗に至っては、毎回毎回レトルト食品(毎回カレー。しかも甘口)しか出さないそうだ。
当番制ではあるものの、梨乃は普段も料理をする。
読書の合間にスイーツを作って休憩がてらに食べたりしているのだそうだ。
宗真はしばらく考えた後、じゃあ先に御馳走になろうかな…と微笑んだ。

「ここで良いですか?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
食材が入っている紙袋を梨乃から預かり持っていた宗真。
テーブルの上に紙袋を置いて、キョロリと辺りを見回す。
本部にある食堂の隣には、いつでも使えるキッチンがある。
ほとんどのエージェントは自分が食事当番の時以外は出入りしない。
キッチンには大きな冷蔵庫がいくつも並んでいる。
中には、ありとあらゆる食材や、エージェント達の好物が保管されているのだそうだ。
冷蔵庫の扉には、中に入っているものと、その横に名前が書かれている。
宗真はメモを見つつ、梨乃に尋ねた。
「これは、どういう意味ですか?」
「あっ。それは…抓み食い防止メモです」
「抓み食い…」
「海斗が勝手に食べちゃうんですよ。ちゃんと書いておかないと」
「…どこまでも子供ですね。彼は」
「ふふ…あ、宗真さん」
エプロンをつけつつ梨乃が声を掛ける。
宗真はメモから目を離し、梨乃を見やって応じた。
「はい?」
「何か、食べたいもの…ありますか?」
「リクエストってことですか」
「えと、はい。頑張って作ります」
「うーん。そうですね…」
ふっと天井を見やって考える宗真。
宗真は、自宅で自炊している。
そして、そのほとんどは、家柄もあってか和食である。
そんな彼のお腹は、たまに洋食を欲するようで。
「たまには、洋食とか食べてみたいですね。内容は御任せします」
「やっぱり、いつもは和食なんですね」
「そうですね。大半が」
「もしかして、宗真さんが作ります?」
「えぇ」
「わー…何か、緊張してきちゃいますね」
「大丈夫ですよ、梨乃さんの料理…とても美味しかったですから」
先日の花見の際、宗真は梨乃が作った団子を口にしている。
彼好みの味だったそれは、見事な出来栄えだった。
一目見ただけで、料理に手慣れていることがわかるほどに。
梨乃は照れくさそうに微笑みつつ、宗真に座って待ってて下さいと告げる。

誰かが調理している姿をこうして見るのは久しぶりだ。
テーブルに頬杖をついて、調理する梨乃の後姿を見やる宗真。
キッチンには、二人の他にだれもいない。
静かで、それでいて、とても安らぐひととき。
ここに海斗がいたら…とても、そんな雰囲気ではないだろう。
調理している梨乃の手際の良さに感心しつつ…待つこと、およそ一時間。
「御待たせしました」
微笑みつつ、梨乃が白い皿を持ってくる。
コトリとテーブルに置かれたのは…ビーフストロガノフ。
ポートワインと赤ワインの香りが、ふんわりと漂う…かなり美味しそうだ。
「本格的ですね」
フォークを手に取り感心する宗真。
梨乃はバターライスを宗真の前に置いて嬉しそうに笑う。
「ふふ。得意なんです。ちょっと反則ですか?」
「ははっ。そんなことないですよ。いただいても…よろしいですか?」
「あ、はい、どうぞっ」
梨乃の得意料理の一つであるビーフストロガノフ。
本場、フランス風に生クリームを入れて煮込んだそれは、口に運ぶと舌の上で蕩けてしまう…。
パクパクと料理を口に運ぶ宗真をジーッと見やる梨乃。
その視線に気付き、宗真はクスクス笑って言った。
「美味しいです。とても」
「…よ、良かったです」

食事をしつつ、楽しく談笑する梨乃と宗真。
他愛ない話も、美味しい料理のお陰で盛り上がる。
梨乃は、自分が組織に加入したばかりの頃の話や、
マスターとチェス勝負をして勝ったことがないことなどを話し、
宗真は、自分の家柄や学生時代の話や、
組織に加入し、今まで経験したことなどの感想を話す。
誰もいない、キッチンで二人は仲良く談笑。
「あ、そうだ。個室の件ですけど」
「はい」
「僕は自宅がありますので、住まうというわけにはいきませんが…倉庫的に使っても良いんですよね?」
「はい、問題ないですよ。そういう使い方してるエージェント、多いですから」
「そうですか。プライベート書庫とかになりそうですけど」
「ふふ。お邪魔させて頂きたいです」
「そのときは歓迎しますよ。……ふぅ、ごちそうさまでした」
コトリとフォークをテーブルに置き、ペコリと頭を下げる宗真。
梨乃も「お粗末さまでした」と言って頭を下げる。
ふと顔を上げて、梨乃はアッ…と気付き、宗真の頬に触れた。
頬に、クリームがついていたらしい。
「あぁ、すみません」
少し照れくさそうに笑う宗真。
梨乃はクスッと笑い、言った。
「時々、子供っぽいですよね。宗真さんって」


食事と談笑を終えれば、時刻は十九時半。
お腹を空かせたエージェント達が続々とキッチンに集まってくる時間だ。
宗真は片付けを手伝いつつ、時計を見やる。
「そろそろ、賑やかになりますかね」
「そうですね。一番乗りは海斗ですよ」
「ははっ。自信あり、ですか?」
「いつものことなので」
手を拭きつつ微笑む梨乃。
梨乃はチラリとカレンダーを見やる。
カレンダーの毎週土曜日には、食事当番エージェントの名前が書き込まれている。
ペラリとカレンダーをめくる梨乃。
すると、宗真の名前が書かれた土曜日があった。
宗真が食事当番なのは、来月の第二土曜日…のようだ。
梨乃はふふふ、と嬉しそうに笑って言う。
「宗真さんの料理…楽しみです」
「和食になりますね。そんな大それたものは作れませんが」
「ふふ。楽しみです。期待しちゃいますね」
「おや…じゃあ、何か大物を作れるようにならないといけませんね」
「ふふふ」
そんな会話と片付けが終わると同時に、続々とキッチンにエージェントが集まってきた。
先頭にいるのは…やはり、海斗。
どこで遊んできたのか、泥だらけである。
さてさて…食事当番、宗真は何を作るのだろうか。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■

7416 / 柳・宗真 (やなぎ・そうま) / ♂ / 20歳 / 退魔師・ドールマスター・人形師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■

こんにちは! 毎度さまです。
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
ち、ちょっと暴走しかけました(笑)危ない危ない…。す、すみません。
宗真さんらしい、柔らかいプレイング、とっても素敵でした^^
うーむ。心の底から、梨乃が羨ましいです…(笑)
気に入って頂ければ幸いです!是非、また 御参加下さいませ!('∀'*)ノ

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2008.03.23 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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