コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE 白亜の館

------------------------------------------------------

OPENING

何とも満足そうな笑みを浮かべる海斗。
無表情ではあるものの、梨乃も、内心は非常に満足しているようだ。
二人は、見つけた”逸材”を、本部へと連れて行く。

------------------------------------------------------

少年と少女に連れられ、組織本部へと向かう京司。
薄暗い森の中を迷いなくザッザッと進む少年と少女に、
京司は、どことなぁく頼もしさを感じて淡く微笑んだ。
「まだなのか?本部、ってのは」
煙草に火をつけ尋ねる京司。
少年は木の枝を拾って、それを振り回しつつ言う。
「もーちょいだよ。ほら、もう見えてる」
少年が示す方向。そこには確かに…白い館が見える。
「へぇ、綺麗な館じゃねぇか」
「だろー?中もすげーんだぜ。あ、そうだ」
「ん?」
「おにーさん、名前は?あ、俺は海斗ね」
「京司だ。陣内・京司」
「京司な。おけー」
チラッと少女を見やる京司。
「お嬢ちゃんの名前は?」
「あっ、はい。梨乃です」
「へぇ。可愛い名前だこと」
「名前だけだけどな、可愛いのは。ぷ」
「………」
ムッと眉を寄せて少年を見やる少女。
少年は、その冷たい視線に「怖い怖い〜」とふざけてみせる。
二人は幼馴染の間柄らしい。
どうりで、随分と気心知れてる感じだと思った。
少年の名前は海斗、少女の名前は梨乃。
二人は組織、イノセンスのエージェント。
京司は二人の漫才のような遣り取りにクックッと笑った。
「仲いいなぁ、お前ら」
「よくねーよ!」
「よくないですっ」
うーん。息ピッタリ。

しばらく歩き、館へと到着。
薄暗い森の中にある、美しき白亜の館。
何というか、不気味なんだけど神々しくもあるような…妙な雰囲気である。
京司は煙草を踏み消し、二人に連れられて館の中へ。
異界の辺境、森の中にあるイノセンス本部。
外観だけでなく、中も真っ白だ。
白亜の空間にポーンと放り込まれて、戸惑わない者はそうそういない。
一歩踏み入った瞬間、不安と孤独に襲われてしまう者は、かなりいる。
そういう者は、残念ながら組織に加入することはできない。
ある意味、この空間は選考も兼ねているのだ。
さて、京司は…というと。
「ほぉ。こりゃまた、妙な感じだな。足元が柔らかいっつうか」
物怖じすることなく、ケラケラと笑っている。
本部内は…そう、例えて言うならば、
ふわふわのマシュマロの上を歩いている感覚。
油断してしまうと、白に埋もれ、飲み込まれてしまいかねない。
だが気張っていなくてはならないのは初日と翌朝くらい。
それ以降は皆、慣れて普通に歩く。
まぁ、強い精神力を備えている者でないと不可能だが。
「とりあえずさ、マスターに会わせなきゃなんないんだよね」
「おぅ。お前んとこのボスだな」
「そーそー」
「面接ってことか?」
「うーん。まぁ、そんなとこかなー」
「苦手なんだよなぁ。俺、ああいうの」
ガシガシと頭を掻いて笑う京司。
「ありのままでいれば大丈夫ですよ」
そんな京司に、梨乃はクスクス笑う。

マスタールームは本部一階の最奥にある。
触れるとブンッ…と音を伴い消える銀の扉。
この中に、マスターがいる。
京司はフゥと息を吐き、ツカツカとマスタールームの中へ。
海斗と梨乃は、京司の後ろをついて行く。
マスタールームも、また、白亜の空間。
少し歪な球体…。まるで、金魚鉢の中のような感覚。
空間のあちこちには、紋章のようなものがフワフワと浮いていた。
(へぇ、こいつぁファンタジーだな)
浮かんでいる紋章に京司がツン、と触れる。
波打つようにユラリと大きく揺れる紋章。
そこへ、声がかかる。
「こりゃ、弄っちゃいかんぞ」
「あ?あぁ、悪ぃ」
パッと紋章から手を離して見やる京司。
空間の中心に銀色の椅子。
そこに、老人が座っていた。
声をかけたのは、この老人である。
老人はグレーのローブを纏い、フードを深く被っている為、
表情がいまいちわからないが、どうやら男性のようだ。
京司は腕を組み、尋ねた。
「で…?あんたがボスかい?」
「いかにも」
コクリと頷き、ジッと京司を見やる老人。
とても深く、優しい眼差し。
敵意は微塵も感じないのに、その眼差しは鋭くもあった。
腕を組みつつも少し気を張る京司。
(すげぇジィさんもいたもんだ)
見つめられているだけで十分に汲み取れる相手の実力。
相当の魔力を身に宿しているのだろう。
老人からは、キレのよいオーラが溢れ出ている。
「ほぅ…これはまた…」
老人は京司を見つめつつ、フッと妖しい笑みを浮かべた。
何だ…?と首を傾げる京司。
だが次の瞬間、藤二は眉を寄せる。
「死を宿す腕とは…過酷な運命じゃのぅ」
「………へぇ、一目で気付くたぁ…やるね、ジィさん」
苦笑する京司。そこへ海斗と梨乃が食いついた。
「死を宿すって何?」
「もしかして、さっきのも…それが原因ですか?」
本部へ向かうと決めたとき。
引いて行こうとして、海斗は京司の右腕を掴んだ。
だが即座に京司は、それを払う。少々、乱暴に。
払ったものの、不愉快そうな顔はしていなかった。
海斗と梨乃は、京司のその行為に何か…理由があるのだとは気付いていた。
けれど知り合ったばかりの人間に軽々しく言えるようなものでもないだろう。
そう思った二人は、敢えて詮索しなかった。
マスターが呟くように言った『死を宿す腕』
海斗と梨乃は、それが原因であり、理由なのだと、すぐに悟る。
マスターの言うとおり。
京司は右腕に死を宿している。
右腕が死んでいるというわけではない。
まぁ、ある意味…その表現もデタラメではないが。
何かの拍子に宿った能力というわけではなく、
この能力は生まれたときから、京司に宿っていた。
呪われた右腕。
マスターが過酷な運命だなと言ったとおり、
京司は、この右腕の所為で、とても辛い思いをしてきた。
愛しい人を…最愛の恋人を…狂った自分の右腕が貫いた日のことは、
今も思い出そうとすれば、いとも容易く鮮明に…。
「勘弁してくれ、これ以上は」
いたたまれない表情で笑む京司。
見るに耐えない精一杯の笑顔に、
マスターも海斗も梨乃も、それ以上を追及することはしなかった。

イノセンスに所属することが正式に決まった京司。
海斗と梨乃に案内され、本部をグルリと一通り回る。
本部は広く、設備も充実していて生活に何ら支障はない。
むしろ、快適に過ごせるだろう。
いや、快適に過ごせるよう、最善を尽くしてくれる。
至れり尽くせりの、好条件ばかり。
組織所属エージェントには一人一室、個室が与えられる。
不要であれば断っても構わないが、折角与えられるものだ。有効利用したほうが良い。
現に倉庫代わりとして使っているエージェントも多数いることだし。
一通りの説明を聞き終えた京司は、
与えられた自室のソファにドカッと腰を下ろす。
「京司、あと…これ。支給品な」
スッと黒い箱を差し出す海斗。
箱にはイノセンスの刻印がある。
箱を受け取り確認すると、中には銃が入っていた。
海斗や梨乃が持っている銃と同じものだ。
この銃は『魔銃』と呼ばれる代物で、
イノセンスに所属するエージェント全員に支給される武器。
これを所有していることは、すなわち組織の一員であることを意味する。
証、のようなものだ。
魔銃に興味を持ち、できることなら自分のものにしたいと思っていた京司は、
自分の魔銃を手に入れてご満悦。
だが、喜びを露わにしたのも束の間。
京司は部屋でワーワーと騒ぐ海斗に言った。
「今日はもう…一人にしてくれねぇか」
目を伏せ、淡く笑んで言う京司。
まだ色々話したいことがあるんだ、と海斗はそれを拒んだが、
梨乃が海斗を無理くり引っ張って連れて行く。
ペコリと頭を下げ、海斗を連れて部屋を出て行く梨乃。
言わずとも、悟ってくれ。
京司のその想いを、梨乃はすぐに汲み取った。

色々なことがいっぺんに起きてバタついた一日。
月の綺麗な夜。薄暗い部屋を照らす月灯り。
京司はソファに凭れ、スッと目を伏せた。
(眠れそうに…ないな。今夜は…)
京司は描く。瞼の裏で。
己が殺めた、最愛の恋人を。
無邪気という名の組織で、久方ぶりに…耽る夜。

------------------------------------------------------


■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

7429 / 陣内・京司 (じんない・きょうじ) / ♂ / 25歳 / よろず屋・元暗殺者
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)  

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■■■■■■■■

こんにちは! 
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。

アイテム:魔銃を贈呈しました。宜しければ、お使い下さい。

-----------------------------------------------------
2008.03.25 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------