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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE ルヴォスの体液

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OPENING

ルヴォス。大蛇の魔物。
この魔物の猛毒に侵されると、およそ三分で絶命に至る。
密林に生息するルヴォスは危険視されており、
ルヴォスが生息する密林への立ち入りは、基本的に禁じられている。
だが、この魔物には一つ…大きな魅力がある。
ルヴォスの体液を調合して作られる特効薬は、
あらゆる難病を瞬時に癒すのだ。

世界各国に、この特効薬を欲する者がいる。そして今日…。
INNOCENCEに、ルヴォスの体液採取の依頼が舞い込んだ。
危険な任務の為、報酬は破格。さぁ、どうする…?

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(ルヴォス…聞いたことのない魔物ですね)
リクエストボードの前、うーん…と腕を組み思案する宗真。
ルヴォスは、近頃活動が頻繁になった魔物で、
まだ、さほどメジャーな魔物ではない。
けれど、体液が難病の特効薬の材料として使えるという点で、
今後、メジャーになりつつある魔物でもある。
猛毒を吐く危険な魔物であることから、破格の報酬。
危険を伴う分、見返りは無論大きい。
(うん、よし…)
宗真は組んでいた腕を解き、
リクエストボードに表示されている『J』マークにタッチ。
こうすることで「依頼を請け負いますよ」といった内容のメールが依頼主に届くのだ。
Jは、JOINの頭文字。
タッチ後は、名前や生年月日など、
エージェントとしての個人情報を入力する画面に切り替わる。
虚偽の情報を入力・送信することは違反。
例えば、自分以外のエージェント情報を入力したりすること。
だが、協力し数名で請け負う際は例外となる。
ただし、その際は『J』ではなく『JJ』の方をタッチせねばならない。
宗真がタッチしたのは『J』
これは、単独で任務を請け負い遂行することを意味する。
情報入力を手早く済ませ、宗真はフゥと息を吐く。
しばらくすると依頼人から、携帯へとメールが届く。
そこには大抵「よろしくお願いします」という文と、
待ち合わせ場所、あるいは現場の住所が記されている。
手続きを済ませた宗真の携帯に届く、依頼人からのメール。
そこには『御協力感謝します』という文と、
現場の住所、現在宗真がいるイノセンス本部からの最短ルート、
ご丁寧に、地図まで添付ファイルで付けられていた。
(D−33地区…か)
宗真はパチン、と携帯を閉じて懐にしまい、
いそいそと現場へと向かった。

D−33地区―
ここは無数の沼が点在する湿地帯。
さほど広くはないが、モヤがかっており、少し視界不良だ。
宗真はしゃがみ、早速準備を始める。
今回働いてもらうのは、三十体の雑兵人形。
特にこれといった特徴のない人形達。
とはいえ、多少の細工・武器は施してある。
宗真は指を踊らせ、湿地帯の各地へ雑兵人形達を配置。
ただ闇雲に配置するわけではない。
戦術…陣形を取り、各所から突撃可能な体勢を整えている。
ルヴォスは近づくと猛毒を吐き出してくる厄介な魔物だが、
近づきさえしなければ、攻撃してくることはない。
だが、それでは討伐し、体液を採取することは不可能。
肉弾戦のスキルに長ける者ならば少し手こずる相手かもしれない。
けれど、宗真は遠距離タイプ。
しかも、自分の手をわずらわせることなく敵を仕留める。
この仕事は、彼にピッタリである。
雑兵人形の配置を終え、宗真はしゃがんだままハァ…と溜息を漏らした。
「かくれんぼ、下手ですね。二人とも」
苦笑しつつ言う宗真。
その言葉に応じるかのように、茂みから海斗と梨乃が現れる。
「バレバレだったかー」
「気配を消すのは、苦手なんです…」
ケラッと笑う海斗と、はにかみ笑顔の梨乃。
宗真はヤレヤレを肩を竦めた。
二人に同行を頼んだ覚えはない。
「大変ですね。梨乃さんも」
苦笑する宗真。
どうせ、また、いつものパターンだろう。
海斗が「ついていく」と言って聞かず、
それを止めるために梨乃も仕方なく後を追った…。
大方、いや…十中八九それで間違いない。
そう思ったが故に宗真は梨乃に同情した。
だが事実は…意外なものだった。
「違うって。梨乃がしつこくてさー」
「…?梨乃さんが…?」
「か、海斗っ」
「そーそー。心配だからついていこうって」
「…え?」
「いえ、あの、その…えぇと…」
事実は逆だった。
海斗ではなく、梨乃がついていこうと言い出したらしい。
宗真を過小評価しているわけではない。
寧ろ、問題なく迅速に遂行してくるだろうと思っていた。
宗真の実力や能力は、高く評価しているし、
その力を持ってすれば、難なくこなせる仕事だとも思っていた。
けれど、もしも。もしも、万が一。
猛毒を浴びてしまったら…。
ゼロではない、その可能性が気がかりで。
執拗に不安がり、ついていこうと言った。
梨乃は気立てが良く、あれこれ細部まで気を回すことができるタイプだ。
用心深くもあり、慎重な性格でもある。
けれど任務において、他人が単独で遂行すると決定したものには、
首を突っ込んだことがない。それは、無礼だと思うから。それなのに…。
何だか、妙である。
悪戯な笑みを浮かべつつ「やたらと不安がってウルサかったんだよねー」と繰り返す海斗。
そんな海斗を梨乃は睨みつけるが、まるで怖くない。
照れているようにも見える…。
何だか様子のおかしい梨乃の反応を愉しみつつ、
宗真はクスクスと笑い「お気遣い感謝します」と言って一礼した。
「どういたしまして」と、どもりつつ言う梨乃。
彼女の目が泳いでいることに気付いているのは、隣でプププ…と笑う海斗だけ?


さて、いよいよ任務開始。
ルヴォスは大蛇の魔物。
日中は沼に身を潜めており、日が沈みだすと姿を見せる。
一向は茂みに隠れ、沼をジッと見つめている。
「ほんとに、手伝わなくていいのかー?」
宗真の服の裾をクイクイ引っ張りつつ言う海斗。
宗真は沼を見据えたまま、淡々と返す。
「必要ないです」
「うわ。自信満々だし」
「そういうわけでも」
「そーゆーわけだっつーの」
手伝いは不要だとサラリと言ってのける宗真。
確かに危険といえば危険だが、ここまで距離をとっているのだ。
おそらく大事には至らないはず。
けれど海斗は来たからには参加したいらしい。
見物しているだけ…という状況が退屈で仕方ない。
雑兵人形を各所に配置し、既に完成している戦略。
ここで海斗に無鉄砲な動きをされては、
せっかくの戦略も、水の泡となりかねない。
それを危惧し、宗真は手伝いは不要だと言っている。
いや、寧ろ…手伝ってくれるな、といった感じかも。
息を潜めてルヴォスの出現を待ち、およそ二十分後。
サバッと水飛沫が飛び、ようやくルヴォスが姿を現した。
なるほど、確かに大蛇である。
そして気味の悪い色合い。
あらゆる色を全身に纏っている。
派手に彩ればイイと思っているのか…色彩センス皆無な魔物。
好き好んで、ああいう色合いになったわけではないのだろうが、
見ていて目に痛い…同情すら覚える風貌である。
宗真は、ルヴォスを確認すると同時に指を躍らせた。
すると雑兵人形達が、一斉に動き出す。
まさに『突撃』
有無を言わさぬ突撃で、一斉にルヴォスへ向かっていく。
剣を持つ者は接近戦で、弓や槍を持つ者は遠距離で。
次々と繰り出される攻撃に、ルヴォスは怯み、されるがままだ。
雑兵人形達とルヴォスの戦いは、
当人からしてみれば生と死を分かつ、壮絶なものなのだが…。
端から見ていると、とても和やかに見える。
まるで小人が巨人と戦っているかのような。
絵本のような光景である。
とはいえ雑兵人形達は容赦なくルヴォスを痛めつけ、
もはや一方的、袋叩きともいえる状態ゆえに、
絵本というには…少し残虐な光景だとは思うが。
「あっはは!すげー」
「………」
目の前で繰り広げられている戦争にケラケラと笑う海斗。
梨乃は無言で苦笑し、息を飲んでいる。
心配するまでもなかった…そう思わせるに十分な光景である。

散々、袋叩きに遭い、やがてルヴォスは息絶える。
だがルヴォスも魔物としてのプライドがある。
途中、毒を吐き撒いて応戦したのだ。
その毒にやられた人形数体は、ドロドロに溶けてしまっている。
ルヴォスへと歩み寄り、手早く体液を採取する宗真。
手際よく作業する宗真を見つつ、
海斗はドロドロになった人形の前にしゃがむ。
「うわー…可哀相だなぁ、これ…」
確かに、かなり酷い有様である。
原型を留めていないのだから。
人形とは言え、先程まで必死に戦っていたのだ。
それを見ていた分、この有様は堪える。
海斗と梨乃は溶けた人形を前に、
自然と両手を合わせて目を伏せた。
魔糸を使えば、すぐに元通りになるのだが…。
今は、言うべきではないだろう。
朽ちた人形を心から弔う二人の背中を見て、宗真は淡く微笑んだ。
(優しいですね。二人とも)

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■■■■■ THE CAST ■■■■■

7416 / 柳・宗真 (やなぎ・そうま) / ♂ / 20歳 / 退魔師・ドールマスター・人形師
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■

こんにちは! 毎度さまです。
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです!
INNOCENCEは、関連シナリオが幾つもありますので、
是非。また、ご参加下さいませ!^^

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2008.03.28 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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