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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE 梨乃の手料理

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OPENING

フラリと立ち寄ったINNOCENCE本部。
とりあえず依頼板でも確認してみようかと、自室へ向かう。
その途中。
大きな紙袋を抱えて歩く梨乃を見かける。
紙袋には、野菜や肉、果実などあらゆる食材が入っているようだ。
梨乃の足取りは、フラフラしている。重いのだろう。
「っとと…」
バランスを崩す梨乃。
傾いた紙袋から、オレンジが一つ零れ落ちる。
コロコロと、足元へ転がってきたオレンジ。
それを拾い上げると、梨乃はパタパタと駆け寄って言った。
「すみません。ありがとうございます」
拾い上げたオレンジを渡すと、
梨乃はペコリと頭を下げ、ジッとこちらを見やった。
「…?」
何だろうと首を傾げると、
「お腹、空いてませんか?」
梨乃は、ニコリと微笑んで言った。

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「何、梨乃ちゃん…もしかして作ってくれるの?」
ニコリと微笑み返して言う蓮。
梨乃は紙袋に少し顔を埋めて言った。
「えと、大したものは作れないですけど」
「ふふ。謙虚だね」
「え?」
「海斗くんから聞いてるよ。料理、得意なんでしょ」
「そんな…大したことないです」
「ふふ。うん、まぁ…キミの誘いを断るなんて真似、できるわけないしね。ご馳走してよ、是非」
紙袋をヒョイと取り上げて持ち、微笑む蓮。
梨乃は「頑張ります」とクスクスと笑った。
二人は、並んで歩き、キッチンへ向かう。

本部一階、食堂横には自由に使えるキッチンがある。
調理場だけでなく、テーブルや椅子もあり、
夜中に小腹が空いたエージェントは、ここで軽食を口にするのだ。
キッチンは綺麗に片付いており、どこからか…花の香りがする。
梨乃がテーブルの中心に置いたポプリが放つ香りだ。
このキッチンを本部内で一番利用しているのは梨乃。
料理が好きで得意な彼女は、
手が空いたとき、もしくは読書の合間、休憩にここで料理を楽しむ。
その腕前はかなりのもので、本部内に知らぬものはいない。
海斗に至っては、頻繁に「何か作ってー」と強請っているほどだ。
キッチンには冷蔵庫がたくさん並んでおり、
扉には様々なレシピメモが貼られている。
文字を見る限り、梨乃が書いたもののようだ。
蓮は、本当に料理が好きなんだなぁ…とクスクス笑う。
「蓮さん、座って待ってて下さい」
エプロンを着けつつ言う梨乃。
蓮はウン、と頷き腕を組んで、ジッと梨乃を観察した。
「…何、ですか?」
「いや。いいね、やっぱり。エプロン姿って。そそるよ、うん」
「な、何言ってるんですか。ほらっ、座って下さいっ」
「おっとと…わかったわかった、わかったよ」
クックッと肩を揺らして笑う蓮。
蓮の軽口にも、だいぶ慣れてきた。
梨乃は、まったくもう…といった表情で蓮を見やる。
「蓮さん、何か食べたいものありますか?」
「うん?食べたいもの?リクエスト?」
「はい。あれば、どうぞ」
「何でもいいの?」
「えと、はい。あまりにもマニアックなものでなければ」
「はは。うーん…そうだなぁ…」
左腕でテーブルに頬杖をつき、
右手人差し指でテーブルをコツコツしながら考える蓮。
しばらく考え、蓮はニコッと微笑み言った。
「梨乃ちゃんが、恋人に食べさせたいって思うものを作ってよ」
「え?」
「ふふ。何を食べさせてくれるかな。楽しみだなぁ」
目を伏せて言う蓮に、若干頬を染めつつも、梨乃はクスクス笑う。
「わかりました。頑張ります」

時刻は十四時半。
もうすぐ、おやつの時間。
あまり重たいものを作ると夕食がキツくなってしまうと思い、
梨乃はサクッと抓めるような、スイーツを調理することにした。
手際よくパートブリゼを作り、林檎を剥く…。
テーブルにはグラニュー糖とバター。
どうやら、フランス版のアップルパイを作っているようだ。
過不足ない動きは、後ろから見ていても容易に手慣れていることを感じさせる。
梨乃が林檎を剥き、切り終えた頃合を見て、蓮は言った。
「ふふ。こうしてると、何だか新婚さんみたいだね?」
「な、何言ってるんですか。もう…」
照れつつも、調理を続ける梨乃。
刃物を使っていないときに甘い言葉を放るのは、彼なりの優しさと配慮。
バターを引いた鍋にグラニュー糖を敷き、
その上に林檎を放射状に躍らせる。
準備していたパートプリゼを浴びせたら…。
次に、鍋を火にかけて、ゆっくりと炊いていく。
紅い波に揉まれて林檎が踊り疲れてきたら…舞台をオーブンへと移して。
後は、待つだけ。鍋から少しずつ零れる紅い波が消えるまで。
ふんわりと甘い香りが漂うキッチン。
出来上がりを待つ梨乃と蓮。
二人は向かい合って座っている。
とはいえ、ここ数分、会話はない。
何だか…妙な雰囲気だ。
露わにはしないものの、そわそわと落ち着きない梨乃。
オーブンをチラチラと見やっては、まだかな?と首を傾げている。
そんな梨乃の姿を、頬杖をついて微笑み観察する蓮。
「ほんと、見てて飽きないよね。梨乃ちゃんって」
「それ、褒めてます?」
「うん。可愛いな〜って思うよ」
「…お上手ですね。相変わらず」
「あらら。誰にでも言ってるんでしょーって顔だね、それは」
「正解です」
「言ってないよ。ここまで心から言ったことはない」
「………」
「………」
自然と見つめあってしまう二人。
甘い香りもさることながら…何だ、一体。
この甘ったるい雰囲気は…。
見つめ合って数秒。
ピーッとキッチンから音が響く。
それは公演終了の合図。
ハッと我に返り、梨乃はパタパタとキッチンへ向かった。
(っくく…ほんと、可愛いなぁ)


「お待たせしました。どうぞ」
梨乃が蓮の前にコトリと置いたスイーツ。
それは、ちょっと変わった…逆さまのアップルパイ。
フランスの、お茶目なスイーツなのだと梨乃は言う。
「へぇ、面白いねー」
「タルト・タタンっていうんですよ」
「はは。可愛い名前だね。いただきます」
フォークを受け取り、早速口へと運ぶ蓮。
逆さまにして焼くことで、
表面が少し焦げているアップルパイ『タルト・タタン』
だが、少し焦げた表面はカラメルと化し、風味豊かで優しい味を引き立たせている。
「うわ。美味しい。マジで美味しい」
予想以上の美味しさに驚きを隠せない蓮。
次々と口に運んでいく蓮に、梨乃はクスクス笑う。
「気に入ってもらえたみたいで、良かったです」
「ん〜〜!ほんと、美味しいよ。あれ?梨乃ちゃんは食べないの?」
キョトンと見やる蓮。
梨乃は蓮が食べている様を見ているだけ。
自分の分…というか、
海斗や他エージェント達の分として冷蔵庫に保管しているものはあるが、
今、自分が口にする分は手元にないようだ。
梨乃にとって料理は趣味。
自分が食さなくとも、作ったものを誰かが食べてくれるだけで満足なのだろう。
蓮は、これじゃあ何だか申し訳ないと言って、
「はい」
フォークに絡めたタルト・タタンを差し出した。
梨乃は、いらないですよと遠慮したが、蓮は手を引っ込めない。
じゃあ…とフォークを受け取ろうとすると。
「あーん」
蓮は、梨乃にフォークを取らせようとせず、自ら口元に持っていった。
「あ、あの…」
「あーん、は?」
「………」
「ほら、早くっ」
「…うぅ」
頬を染めつつ、応じて口を開く梨乃。
蓮は満足そうに微笑んで、梨乃の口へタルト・タタンを運んだ。
モグモグしつつ、俯いてしまう梨乃。
もう、恥ずかしくてたまらない。
二人の他にキッチンには誰もいないけれど…それが余計に恥ずかしい。
うぅ…と俯く梨乃だが、残念ながら蓮は、ここで終わる男ではなかった。
「はい」
何も絡まっていないフォークを差し出す蓮。
梨乃はキョトン…と首を傾げる。
チラッとタルト・タタンを見やって、目を伏せ口を開ける蓮。
…自分にも、同じことをやってくれ、ということらしい。
梨乃は耳まで真っ赤に染め、その要求に応じる。
ススス…と蓮の口元へ運ぶ、が…。
「あーん、は?」
蓮は、そう言って、ンッと口を閉じてしまった。
言え…ということらしい。いや、そういうことだ。確実に。
梨乃は、うぅ…と極限に照れつつ、小さな声で言う。
「あ…あーん…」
甘い。甘すぎる。甘すぎるシチュエーションである。
タルト・タタンの甘さなんて比にならない。
目を覆い隠したくなるほどの甘い、ひととき…。

「はふ…」
「ははっ。疲れた?」
「ち、ちょっと…」
片付けを終えて息を漏らした梨乃を気遣う蓮。
クタクタにさせたのは蓮だというのに。
蓮は梨乃の頭にぱふっ、と手を乗せて言った。
「俺も考えておくよ。恋人に食べさせたい料理」
とどめの一撃。
慣れてきたとはいえ、ここまでバシバシ連続で攻撃されては身がもたない。
どんなに防御しても、突き破ってダメージを与えてくる、
蓮の一挙一動。…この男、最強である。
梨乃は、クタリと頭を垂れてクスクスと笑った。
いつか、梨乃が蓮に振り回され翻弄されなくなる日はくるのだろうか。
…こなさそうな気がする。うん、激しく、そう思う。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■

7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■

こんにちは! 毎度さまです。
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
い、いかがでしょう。こんな感じになりました。
…ち、ちょっと糖度が高めですね。が!楽しかったです!(笑)
気に入って頂ければ幸いです!是非、また 御参加下さいませ!('∀'*)ノ

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2008.03.25 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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