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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE 火傷の痕に悲しき過去

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OPENING

イノセンス本部にある個室に一泊することになり、
昨晩は疲れていたのか…ベッドに寝転んで、そのまま眠りに落ちてしまった。
ふと目を覚まし、時計を見やれば時刻は深夜一時半。
妙な時間に目が覚めてしまったな…と思いつつ、おもむろに部屋の窓を開ける。
春の夜風は柔らかく心地良い。フゥ…と息を吐いて、
さて、寝直そうか…と窓を閉めようとしたときだった。
暗闇の中、ふと人影が。
(…?)
身を乗り出して見やると、その人影の正体が梨乃だということに気付く。
うっすらとしか明かりの灯っていない本部中庭で、
膝をかかえて蹲っている梨乃。
…何だか妙だ。気のせいではないはず…。
そう思い窓を閉めて、梨乃の元へと急いだ。

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魔灯がボンヤリと灯る、本部中庭。
何やら神秘的な雰囲気のそこで、梨乃は膝を抱えて座っていた。
大樹の下、一人、思い詰めた表情で…。
「梨乃ちゃん」
「!」
蓮は背後から声をかけ、梨乃の隣に腰を下ろす。
梨乃はスッと顔を背け、小さな声で呟いた。
「こんばんは…」
「ふふ。うん、こんばんは」
「………」
「月光浴には、まだ少し寒いかな。風邪、引くよ?」
ニコリと微笑み、自身のジャケットを梨乃に羽織らせる蓮。
わかっている。
梨乃は、月光浴をしているわけじゃない。
そんなことは、顔を、目を見れば、すぐにわかる。
「ありがとうございます」
梨乃は俯き、礼を述べた。
先程から、一度も目を合わせてくれない。
ジッと見つめても、見つめ返してはくれない。
いつもなら、すぐに何ですか?って首を傾げるのに。
蓮は目を伏せ、梨乃の頭にポンと手を乗せた。
「俺には、話せない?」
ポツリと呟く蓮。
梨乃の肩が僅かに揺れる。
抱え込んでいるもの、悩んでいること、キミの笑顔を奪うもの。
それを、俺が取り除くことは出来ないだろうか。
キミの、そんな顔…見たくないんだ。
話して欲しい、出来るなら。
どうすることもできないかもしれないけれど、
何か、してあげたいんだ。
できることなら。
俺に出来ることなら、何でもするよ。
蓮の、その想いに揺れ…梨乃は小さな声で話し始める。
俯いたまま、呟くように。

梨乃の左腕には、火傷の痕がある。
かなり酷い火傷を負ったようで、
普段は包帯で覆い隠しているそうだ。
シャツを脱ぎ、梨乃は自身の左腕を露わにした。
白い、華奢な梨乃の体に酷く不似合いな…不気味な痕。
それはまるで、生きている…獣のような形をしていた。
蓮は梨乃にシャツを着せつつ、いたたまれない表情を浮かべる。
一体誰が…梨乃を傷つけたのか。
蓮は不愉快そうに眉を寄せ、尋ねた。
誰に、いつ、やられたのか。
ゆっくりでいいから、話してくれ。
聞かせてくれ、と。
梨乃はしばらく黙り込んだ。
躊躇っているかのような、何ともいえぬ表情で。
執拗に訊くことはしない。
話せないのなら、話したくないのなら無理はしなくていい。
蓮は、黙って目を伏せることで、その意思を示す。
「十年前に………」
やがて、沈黙を破って梨乃が口を開く。
明らかになる、梨乃の過去。
この火傷は、私の弱さの証。
十年前、故郷で起きた事件。
屋敷を突如襲った魔物の群れ。
私を護る為に、パパもママも身を挺した。
逃げなさい、できるだけ遠くへ、遠くへ逃げなさい。
たじろぎ泣くことしか出来ずに立ち尽くしていた私に、パパとママが叫んだ言葉。
嫌だって言った。私は、逃げるなんて嫌だ、って。
パパとママの傍にいたいの、傍にいさせてよ、って。
けれど、パパとママは、そんな私を叱った。
いつも優しかった二人の顔が、
見たこともない、怖い顔になって。
その時、私は理解したの。
傍にいたいっていう私の気持ちは、ワガママなんだ、って。
私を逃がそうと必死に魔物を迎え討つパパとママ。
そんな二人に、私が出来る唯一のこと。
逃げること。出来るのは、たったそれだけ。
大好きなパパとママの為に、私ができるのは、
逃げること。たったそれだけ。
だから、私は逃げた。
泣きながら、ただひたすら逃げた。
黒い炎の中を、ただひたすら。
振り返ったのは、ただ一度だけ。
ダッと一歩踏み出して、すぐに振り返ったのが最初で最後。
見やった先、パパとママが焼き払われる光景を私の目は捉えた。
けれど、引き返すことはしなかった。
引き返してしまったら、無駄になってしまうから。
パパとママが護ってくれたのに。無駄になってしまうから。
その後の記憶は曖昧なの。途切れ途切れで…。
でもね、ハッキリと覚えていることが一つだけあるの。
それはね、黒炎。
丘の上から見た、屋敷を包む不気味な黒炎。
…私の記憶は、そこで一旦途切れてしまったの。
目が覚めたときには、イノセンス本部にいた。
どのくらい眠っていたのかも、ここがどこなのかもわからない。
ベッドに横たわったまま見回せば、
傍には不安そうな顔で私を見てるマスターと海斗。
二人に、ここはどこですかって訊こうとしたけれど。
声を発せないほどの激痛が左腕に走った。
ふと見やれば、そこには不気味な火傷の痕。
獣のような形をしたその火傷の痕を見て、私は叫んだ。
バーッと頭の中を巡る、確かな恐怖を払うかのように。

目の前で両親を失うという悲しき過去を背負う梨乃。
彼女にとって、この過去は忘れたくとも忘れられない深い傷。
三日に一度、この恐怖を鮮明に夢で見る彼女は、
こうして真夜中に中庭で一人…眠れぬ夜を過ごしているそうだ。
梨乃の、この過去を知りえているのはマスターと海斗のみ。
けれど、梨乃は彼等にすら縋りつこうとはしなかった。
どんなに辛くても眠れなくても、絶対に弱音を吐かなかった。
迷惑をかけたくない、そういう思いもあったのかもしれない。
けれど、それ以上に…口にすることで、弾けてしまいそうだったから。
我を忘れて、泣き崩れてしまいそうだったから。
強く生きようとしているのに。矛盾してしまうから。
けれど今、梨乃は蓮に話してしまった。
自分の過去も、感じている恐怖も、矛盾も、怒りも、何もかも。
それは、彼女のストッパーを吹き飛ばしてしまう行為。
「っ…うっ…っく…」
思いのたけを吐ききった梨乃は、声を殺して泣き出した。
蓮は淡く微笑み、梨乃の肩を引き寄せて抱いて、耳元で囁く。
「我慢なんて、しなくていいんだよ」
優しい蓮の声が、梨乃の涙腺を壊す。
「っ…うぅぅぅぅ…っく…ぅぁぁぁぁ…」
胸にしがみ付き、泣きじゃくる梨乃の頭を撫でて、蓮は何度も呟いた。
「大丈夫。傍にいるよ。俺は…ずっと、キミの傍に」
それは自然と、無意識に、何度も零れた言葉。
梨乃が泣きつかれてクタッと肩に凭れたとき、
蓮は、ようやく気付いて自問自答した。
(何、言ってるんだか…俺ってば…)


翌朝。
少し遅く目覚めて、蓮は窓の傍で「ん〜」っと伸びをする。
窓の外、昨夜二人で話していた場所を見やり、蓮は思う。
梨乃ちゃん…あのあと、きちんと眠れただろうか。
一晩中、傍についていてあげたかったけれど…。
昨日は、そうすべきじゃなかったからな。
(様子、見に行ってみようかな)
ふぁ…と欠伸をして、蓮は梨乃の部屋を訪ねようとした。
だが、そこに扉を叩く音。
遠慮がちな音に、もしや…と思いつつ扉を開けると、
そこには、やはり、梨乃がいた。
「おはよ、ございます…」
ニコリと微笑む梨乃。
いつもどおり、淡い笑み。
けれど、目の下にはクマがある。
やはり、昨晩はよく眠れなかったのだろう。
「うん。おはよう。どうしたの?」
蓮は微笑み、朝の挨拶に乗せて質問を返した。
すると梨乃は目を泳がせ、困った表情を浮かべて頬をカリカリと掻く。
「あの…えと、蓮さん…」
「ん?」
「昨晩のことは…内緒にしてください」
「誰にも言うな、って?」
「は、はい…」
蓮は口元に手を宛がいふふっ、と笑う。
そして梨乃にスッと歩み寄ると、彼女の顎をクイッと指で上げ、
ごく自然に…頬に口付けを落とした。
「ぅ…!?」
目を丸くして驚く梨乃。
そんな梨乃を見つつ蓮はクスクス笑い、
「この間の勝負のキス。まだだったからね」
そう言って、スタスタと歩き部屋を出て行く。
「れ、蓮さんっ」
頬を赤く染めつつ、蓮の背中に声を飛ばす梨乃。
蓮は振り返らずに手をヒラリと振り、小さく呟いた。
「言わないよ。絶対に…」

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度様です、いらっしゃいませ('-'*)
ゲームノベル ”INNOCENCE” への参加・発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ。

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2008.03.25 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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