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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 囚われの姫君

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OPENING

巨大蜘蛛の魔物『フラスター』
その討伐と捕獲に赴いた梨乃と千華。
二人が本部を出たのは、午前十時頃。
そして、現在時刻は…午後八時。
フラスターは、さほど強敵という魔物ではない。
梨乃と千華が二人でかかれば、おそらく瞬殺だろう。
けれど、二人は一向に戻ってこない。
携帯の電源も落ちているようで、連絡がつかない。

何かあったのだろうか。
少し不安になりつつ、再び時計を見やったときだった。
「だいじょーぶだとは思うけどなー」
「遅すぎるよね」
海斗と藤二が寄ってくる。
二人も梨乃と千華が心配らしい。
…様子を見に行った方が、良さそうだ。

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「麻吉良ちゃん。様子見に行くなら、こいつも連れてって」
ポン、と海斗の背中を叩いて言うのは藤二。
海斗はファァ…と欠伸をしつつ言う。
「だいじょぶだとは思うんだけどさー。一応ねー」
麻吉良はコクリと頷く。うん、様子を見に行ったほうが良い。
良いに決まってる。何か、トラブルがあったのかもしれないし。
連絡がつかないんだもの…さすがに、心配。
蜘蛛の魔物、フラスターが潜んでいるのは、とある廃墟。
ここから、さほど遠くない場所にある。
何もなければ、ないに越したことはない。
もしも、何かトラブルに見舞われているならば…助けてあげなくては。
麻吉良は、海斗と共に現場へと向かう。
藤二は、マスターと『大事な会議』があるらしく、
同行することはできないのだそうだ。
何だか引っかかる言い回しだったような。
大事な会議って…何の会議だろう。
そんなことを考えつつ、ストンと海斗の後ろに座る麻吉良。
現場までは、海斗が運転する原付で向かうことになった。
原付の二人乗りは危険だし…禁じられていることだが、
そんなことを言っている場合ではない。
一刻も早く、梨乃と千華の元へ急がなくては。
「んじゃ、いくけどさ。しっかり、捕まっててね」
カポン、と麻吉良にヘルメットを被せてやりつつ言う海斗。
「う、うん」
言われたとおり、ギュッと海斗にしがみつく麻吉良。
どもったのには理由がある。
嫌な予感。嫌な予感がしたから。
決して払えない…嫌〜な予感。
「っしゃ!GOっっっ!!」
ブォンッ―
「…!!」
やはりというか何というか。
海斗は、クレイジードライバーだった。
一気に全速力、そのままフルスピードで。
崖からピョーンと飛んだり、岩の上をガッタンガッタンと疾走したり、
茂みの中へ躊躇なくガササササーッと入っていったり。
木や建物に何度もぶつかりそうになるも、
それらをギリギリで避けて、海斗は暴走。
「ち、ちょっと…海斗っ…お、落ち着い…きゃあああー!」
麻吉良の制止なんて、聞きやしない。
「近道、近道ーーっ!」
海斗は、そう叫びながら、ありえない運転を続けた。

ズサササッ―
原付じゃないだろ、これ…というほどにドリフトをキメて停車。
すっかり気持ち良くなっているのか、海斗は満面の笑顔だ。
「ふー…。風になったぜ」
お馬鹿さんである。本人はカッコ良くキメたつもりらしいが。
麻吉良はフラフラと後部から降り、ズサッと、その場にヘタりこんだ。
「…う。よ、酔った」
「あっはは!だいじょぶか、姉ちゃん?」
スポンッと麻吉良のヘルメットを外してやりつつ尋ねる海斗。
目の前の海斗の笑顔の眩しさといったらもう…。
(…楽しそうで何よりだわ。…うぷ)

*

廃墟内部へと侵入した二人。
梨乃と千華は、すぐに見つけることができた。
廃墟の最上階、一番広い立派な部屋に二人はいた。
二人の傍では、フラスターが不気味に笑っている。
梨乃と千華は、糸で雁字搦めに拘束されてしまっていた。
あれでは、さすがに身動きが取れない。
フラスターは低級モンスターだ。
吐き出す糸は厄介ではあるものの、
それ以外に注意すべきことはない。
警戒を怠ったのだろうか。
二人が拘束されてしまうなんて、らしくない。
躊躇なく室内へと入る麻吉良と海斗。
蹴り壊された扉に、フラスターはムッとした表情を浮かべた。
巨大な蜘蛛の魔物。二メートルはあるだろうか。不気味だ。
室内には、糸が張り巡らされている。
糸は普通の糸ではなく、硬度がある上に、粘着性も兼ね備えたもの。
あれに捕らえられてしまっては、ちょっと厄介だ。
突然室内に入ってきた麻吉良と海斗を睨みつけ、
二人を排除しようと、大きく息を吸い込むフラスター。
麻吉良と海斗の表情を見るからに、
彼等は、自分のコレクション…梨乃と千華を奪いにきた敵。
そう判断したフラスターは、二人の武器に向けて糸を吐き出した。
「っとわー!」
「…!」
クルンと回って、糸を回避する海斗。魔銃は無事だ。
だが、麻吉良は少し反応が遅れた。
愛刀『譜露素刀』に、ぐるんと糸が巻き付いてしまう。
引き寄せ、武器を奪おうとするフラスター。
だが、そう易々と奪われてなるものか。
生憎、糸が絡んだのは鞘。
そこを絡めとっても無駄だ。
(ノーコン、ね)
麻吉良はクスッと笑い、刀を鞘から引き抜いた。
引き寄せ、手元にくるのは鞘のみ。重要なる中身は…麻吉良の手の中だ。
不気味な足で不要な鞘を蹴り飛ばし、ギィギィと鳴くフラスター。
自分のノーコンぶりに苛立っているかのようにも見える。
苛立ちから我を忘れたフラスターは、まさに隙だらけ。
「ほんと、低級だなー。こいつ」
出来た隙を見逃さず、海斗は梨乃と千華を保護。
二人を拘束している糸を炎で焼き払った。
あっさりと燃え消えてしまう炎。
だが解放された二人は、ぺたり…と、その場に座り込んでしまう。
糸には、魔力を吸収してしまうオプションが付加されていたようだ。
彼女達ほどのエージェントが、反撃できなかったのも頷ける。
コレクションを奪われて、更に苛立つフラスター。
完全に我失。フラスターは、そこらじゅうに糸を吐き出しまくる。
ノーコンなのに併せて、冷静さを欠いていては、
どんなに猛攻だったとしても、ヒットするわけがない。
麻吉良はタッと駆け出し、糸をズバズバと両断しつつ、フラスターへと接近していく。
我に返り、マズイ…と理解できても、既に時、遅し。
麻吉良はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、魔人なる力を解放した。
ザァッと身体を覆う銀の毛、狼のような尻尾と耳、鋭く尖った牙と爪。
魔獣『シルバーウルフ』に非常に酷似した風貌である。
パチン、と指を弾けば絶対零度。ピキンと辺りが凍りつく。
この氷の中では、身動きなんて取れやしない。
既に戦意を喪失しているのであろう。フラスターは無抵抗だ。
このまま、解けない氷の中で冷凍保存してしまうのも良いかな?
でも生憎…こんな不気味なものをコレクションする趣味はない。
麻吉良はフッ、と口元に笑みを浮かべ、躊躇うことなくフラスターを両断。
蒼い氷の中、獣が魔物を斬り裂いた。

*

粉々に砕け散ったフラスター。
辺りに散らばっているのは、氷というよりはガラスの破片のようである。
討伐、始末を終えて元の姿へと戻る麻吉良。
「少し…やりすぎたかしら…」
淡く微笑みつつ言って、麻吉良はドサッ、と倒れてしまった。
一気に魔力を消耗してしまったことと、
海斗の荒い運転による酔いが完全に覚めきっていないことで、
麻吉良は、すっかりクタクタだ。
「お疲れ、姉ちゃん」
海斗は麻吉良を抱きとめ、無邪気に微笑んで言った。
遠のく意識の中、朧になっていく無邪気な笑顔。
その笑顔に…何か…懐かしさのようなものを感じつつ、
麻吉良は、蒼い眠りへと落ちていった。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7390 / 黒崎・麻吉良 (くろさき・まきら) / ♀ / 26歳 / 死人
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度様です。任務、お疲れ様でした(ΦωΦ)
ゲームノベル ”INNOCENCE” への参加・発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ。

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2008.04.25 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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