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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


CHANGE MYSELF! 〜アウトローブラッシング〜


 選ばれし人間の異能力を覚醒させ、その存在と力を社会に知らしめるべく活動を続ける秘密組織『アカデミー』。何の因果か、霊能力や獣化能力を宿しながらもコントロールできない人々を救うべく立ち上がった『絆』と呼ばれるコミュニティーの面々が方向性の違いで教師と呼ばれる能力者と戦うことがあった。しかし両者は共通して「異能力に順応させること」を目的としている。よって表立って衝突することはない。いつかは障害となる時が来るのかもしれないが、それはまだ遠い先の未来のことだろう。今ではない。

 ところがここ最近、アカデミーの教頭であるレディ・ローズは珍しく頭を抱えていた。今もなお『ヨーロッパ最強の魔女』とも呼ばれる彼女が豪華な調度品に囲まれた自室で「うーーーん」とうなっているではないか。彼女の性格は上に立つ者の典型的なキャラだ。早い話が大雑把。ちょっと悩むようなことがあれば、立場もわきまえずに自分でさっさと片付けてしまう。部下の教師たちもそれが当たり前だと思い込んでいた。
 彼女の抱え込んでいる案件は、非常にデリケートなのだ。『アカデミー』と『絆』に割って入ろうとする新興勢力の台頭……その名も『アウトローブラッシング』である。該当の組織はもちろん異能力集団なのだが、アカデミーのように偉大な理想を持ち合わせているわけでもなく、絆のようにボランティア顔負けの草の根活動を目指すわけでもない。新組織はその名の通り、アウトローをひた走る異能力犯罪集団なのだ。
 それだけならローズがここまで悩むことはない。暇つぶしに組織を壊滅させに行くだけだ。ものの数分でケリがつく。しかし、それができない事情があった。彼女は目の前に置かれた報告資料を恨めしそうに見る。実はこの中に原因が記されているのだ。

 「こういう組織的にデリケートな事件って大嫌いなのよねー。とかいえ、今は日本支部で私が最高責任者だから適当に済ませるわけにもいかないし……」
  コンコン。カチャ……
 「失礼します。教頭、アウトローブラッシングなる組織の概要が明らかになりました。いかがいたしましょうか?」

 教頭室に入ってきたのは、怪我から復帰した教師のリィール・フレイソルトである。顔の半分を仮面で覆い、血のように長く赤い髪……その姿は戦乙女と呼ぶにふさわしい。風体だけなら粗暴な人間に見えるかもしれないが、彼女は公式の場でもそつのない立ち振る舞いを披露する器用さを併せ持つ。ローズは仏頂面のリィールと目が合うと、もう一度ため息をついて話し始めた。

 「はぁーーーっ。手元にある資料の内容より詳しいことを知ったところで私の責任問題は回避できないでしょ。構成員のほとんどがアカデミーで能力を開花させた連中だなんて前代未聞だわ。始末書とか嫌いなのよねー、書かせるのも書くのも。どっちも読むのが面倒だから」
 「お察しします。ところで新組織のリーダーなんですが、すでにお耳にされていますか?」
 「お耳にしてませんけど、お耳にしたらもっとため息の数が増えそうよ……」
 「日本人で倉敷 政志という若者です。獣化能力を保持しており、烈火の獅子に変化するとのことです。」

 本当に気持ちを察しているのかどうかもわからない部下の説明をいやいやながらに聞いていた教頭はふと首を傾げた。少なくともローズは『倉敷』なる生徒がいたなどと聞いたことがない。組織のリーダーになろうかという人材なら、教師がアカデミーから抜けられないように仕向けているはずだ。苦悶の表情は、徐々に疑問へと変わっていく。

 「それっておかしくない? うちの支部って獣化能力の世話は手が回ってないんじゃなかった?」
 「その倉敷は『絆』に所属していた経緯があり……」

 リィールの口から放たれた意外な答えを耳にしたローズは飛び上がらん勢いで喜んだ。まさかまさかの展開だ。責任はアカデミーだけでなく、絆にもあるというのだから。これを利用しない手はない。教頭は即座に強権を発動した。

 「新組織のリーダーが『絆』出身ねぇ。そりゃ、あっちにしても大問題だわね。リィール、直接でいいから渉ちゃんに連絡とってくれる?」
 「わ、渉ちゃ……ん?」
 「事情を洗いざらい伝えて、新組織の壊滅を打診して。でも末端はアカデミー出身者ばかりだから、こっちは金銭的バックアップをするわ。お金に糸目はつけないと伝えて。」
 「わかりました。これ以降は連絡役として『絆』に連絡を取ります。念のため、私も討伐に参加しましょうか?」
 「病み上がりなんだから適当にね。でも烈火の獅子と呼ばれる以上、面倒な敵であることには間違いないわ。他の連中に任せちゃった方が楽かもね〜」
 「……………ふっ、そうかもしれませんね。」

 教頭の明るい表情を見ながら、彼女は不敵な笑みを浮かべていた。彼女にとって「狩り」は久しぶりだ。肩慣らしにはちょうどいい……事務作業の後のお楽しみを胸に秘め、静かに教頭室を後にした。リィールが死霊の空蝉をまとうのは間近である。


 数十分後、アカデミーと絆の大失態をリィールから聞かされた渉は泣く泣く協力者探しを始める。とうの昔に倉敷なる人物はコミュニティーから追放したのだが、まさかまだ東京にいようなどと夢にも思わなかった。しかも犯罪集団のリーダーになっているとは……情けない気持ちでいっぱいになる渉。

 「アカデミーはいいなぁ、都合の悪いことはお金で解決できて。うちはそうもいかないからなぁ……とはいえ、倉敷に対抗するにはうちの面子じゃ難しいし。問題は取り巻きのほとんどがアカデミー出身だってことか。どんな能力者がいるのかわからないとこが怖いな。その辺はどうするか、だな」

 この二大勢力がなし崩し的に協力し合うのは、これが初めてではない。しかしここまで困ったもんだの状況をお互いに抱え込むのは例がない。集まった人間に非難されることを覚悟の上だ。渉は仕方なく開き直る。今はそうするしかない。
 まず、渉は天薙 撫子の自宅に連絡を入れる。これまで『絆』と懇意にしているおしとやかな女性だが、詳しい事情を話し始めると受話器の向こうから何度も溜め息が聞こえてきた。立ち振る舞いや心根までもが女神のような撫子をもってしても、この件のバカバカしさには若干の疲れが伴ったらしい。渉も交渉をする前から覚悟はしていたものの、普段はめったにすることのない仕草を見えないところでされると非常に気まずい。

 『各組織から輩出した能力者様が集まられて犯罪組織を……はぁ。』
 「す、すみません。そこを繰り返すのだけは勘弁してください。俺が言えた義理じゃないですけど……」
 『警察の手に負えない以上、わたくしたちが解決するしかありませんわね。わかりました、お引き受けします。』
 「ありがとうございます! 今後はこんなことのないようにしますから!」
 『お引き受けする以上、アウトローブラッシングのリーダーを名乗る倉敷 政志様のご説明をお願いしたいですわ。』

 渉は「もちろんです」と返事すると、『烈火の獅子』と呼ばれる倉敷について詳しく話し始めた。
 生まれもって獣化能力をコントロールできない人々のために作られた『絆』だが、過去に異能力者至上主義を掲げる『アカデミー』に主要メンバーを引き抜かれるという事件が起こっている。倉敷はその頃に所属していたメンバーで、事件発覚後には仲間を誘ってアカデミーの生徒たちを襲撃しようとした気性の荒い人間だった。渉は「引き抜き工作を企てたとされる教師を狙うのならまだしも、自分たちが救っている人々と変わらない一般人、つまりは生徒を襲うことは絶対にダメだ」と真っ向から対立。しかも大半の仲間がリーダーに賛同したため、倉敷はたった一度の言動で孤立してしまった。
 過激な襲撃案で仲間を扇動するだけあって、倉敷は自分の獣化能力に自信を持っていた。変化とともに現れる、燃え盛る炎の毛並み。そして血のような色に研ぎ澄まされた爪。彼は戦うべくして生まれてきた獣といっても過言ではない。その強大な力が『絆』の思想と合わなくなるのは時間の問題だった。
 あれだけ仲間からの反発がありながら、倉敷の襲撃は決行される。そう、たったひとり……彼はたったひとりで報復の牙をアカデミーに剥けた。後日、それを知った渉は倉敷をコミュニティーから追放することを決定。そして自ら制裁を下すべく捜索に乗り出した。しかしそれ以前に立場のまずさを悟っていた獣は、事件発覚後にはすでに東京を離れていた。これを期にアカデミーとの関係はさらに悪化し、つい最近まで望まぬ戦いを強いられてきたというわけである。

 『そんな事情がおありだったのですね……』
 「この事件は仲間の意思統一ができなかった俺の言い訳です。聞き流してくださって結構ですよ。ただ、あいつが東京に戻ってきてるとは思ってなかったです。『絆』としてもリィールさんからの連絡でやっとわかったくらいですから。皮肉なものですね。塩、送られちゃいました。」
 『お鉢の間違いではございませんか? それはともかくとして、今回はリィール様もいらっしゃるのですか?』
 「お話によると復帰戦らしいですね。あの方の性分を考えると、どんな無茶するか気が気じゃないですよ。しかも相手は『烈火の獅子』。まぁねー、あの人も筋が通ってないとかなり怒るそうじゃないですか。ねぇ?」

 撫子はここで初めて、くすっと笑った。わざとらしい渉の振りに答えた格好だ。そうかもしれない。撫子もまた、リィールと同じ性分……そう言われると、つい笑みをこぼしてしまう。どんな意味かは定かではないが。その後、明後日の夜に討伐隊を結成して事態の収拾を図ることが確認したところで電話は終わった。


 「まったく。一般人にまぎれて平和に暮らしてる異能者もいるってのに、いちいち掻き乱してほしくないよなぁ……」

 実はこの電話は傍受されていた。いや、勝手に耳に入ってきたと言った方が正確かもしれない。学生服を着た小学生……いや、身長の低い中学生は部屋でそう嘆いていた。彼の言い分はもっともだ。アカデミーとも絆とも関係のない能力者にとって、この騒ぎは迷惑以外の何物でもない。しかし聞いてしまった以上、放っておくのも気が引ける。彼は『ある事情』から手伝うことを決心した。彼の興味は倉敷よりも渉に向けられている。この金狼、もしかして金色だけに電気を放つのではないか。そしたらなんとなく面白い。さっそく携帯電話を使って、渉に直接連絡を取り始めた。彼の名は鈴城 亮吾。少年もまた、当日の作戦に名を連ねる者のひとりである。

 なんとこの会話をもうひとり聞いている者がいた。幾度となくアカデミーや絆などの戦いに導かれ、その雄々しき姿と強大な力を現す獣の戦士。組織の構成員から内容を聞いた大男は明後日の夜に予定を入れた。

 「金狼に死霊使い、戦乙女に烈火の獅子……茶番ではなさそうだな。いいだろう。」

 表情をほとんど変えず、淡々と話す赤い髪の男はその場を去った。すでに集合場所も頭の中に入っている。後はその日が来るのを待つばかりだ。今回もグリフレット・ドラゴッティに隙はない。


 偶然にも作戦決行の夜空には満月が浮かんでいた。オフィス街の路地にスタンバイしている渉……の滑稽さに、撫子とリィールは思わず目を疑った。彼の背中には子どもがいる。一度見たら忘れない愛嬌のあるキツネの帽子に愛くるしいほどの笑顔。おぶられているのはもちろん鈴城 亮吾ではない。なんと彼瀬 えるもがそこにいたのだ。いくらなんでも子どもに説教をするわけにはいかないので、とりあえず今回の音頭を取った渉に当たる面々。

 「どういうことでございますの、これは……はぁ。」
 「え、えるもちゃんのね。お、お母さんがですね……お話をお聞きになっ」

 必死の弁明もむなしく、リィールから横槍が入った。文字通りではなく、言葉で。

 「おまえはどれだけの連中に通信傍受されれば気が済むんだ。亮吾もドラゴッティも自発的に連絡してきたそうだな。」
 「まーまー、仕方ないんじゃない? 渉さんって、そういうとこは普通の人なんだろーから。」
 「まったく……おまえはえるもと一緒にいろ。『絆』への報酬は特殊通信セットに決まりだな。呆れてものが言えん。」
 「民間の施設にそんな物々しいセットは困ります! 今度からは配慮しますから……ぶつぶつ。」

 珍しく渉がすねてしまったところを見て、撫子は思わず微笑みを浮かべた。しかし、今回は相手が悪かった。亮吾は自宅という条件のいい場所にいたため、ドラゴッティはいつものこと、えるもの母はバーゲンの情報を聞き漏らさぬよう無線を傍受する趣味がある。こんな面子にどんな対応をすればいいのか。近い未来、リィールが「失言だった」と渉に謝るのだが……
 思わぬ形で集中砲火を浴びた渉の頭をかえでのような小さな手で、おぶられているえるもがなでなでしている。どうやらなんとなく、彼がいじめられていることがわかったようだ。いつもの穏やかな口調でゆったりと話す。

 「ええとね、渉ちゃん。ないちゃだめなの〜。」
 「な、泣きそう……俺の味方はえるもちゃんだけだと思うと、いろんな意味で。」
 「えるも、おてつだいするから、いっしょに政志ちゃんに悪いことしちゃダメっていいのいくの。」
 「えるも〜、おとなしく渉さんとファミレスで待ってなって。ケーキおごってくれるってさ。」

 いつもは望まれぬ形でいじくられキャラになっている亮吾だが、今回は格好の餌食がいるのですっかり状況を楽しんでいる。ぐうの音も出ない渉は力なく頷くばかり。ついにはさすがのドラゴッティまでもが、「秘めたる力は強大だが、幼子を頼りにするな」と念を押す始末。今から始まる戦闘で汚名返上するような真似はやめろという意味だ。リィールがそれに呼応してもっともらしく頷くと、今度は撫子からあることで念を押される。

 「リィール様、やりすぎはいけませんよ?」
 「隠しても無駄だろうから言っておくが、今のわたしは本調子ではない。仮面を外して戦うこともできない。」
 「それでも十分なお仕置きができますわ。わたくしの予見では。」

 仮面の戦士は『付き合いも長くなると困り者だな』とばかりに目を逸らす。その様子を見てドラゴッティは呆れるように言った。

 「そこまで見透かされているのでは、いったい何を隠したかったのか理解できんな。俺の指示や判断ではないが、すでに今夜『アウトローブラッシング』が活動するように仕向けてある。目と鼻の先にある銀行を襲わせるようにな。」
 「スケールのでかい話。俺の方は問題なし。同じく準備は済ませてあるよ。」
 「わたくしはいつでもよろしいですわ。」
 「えるもも〜。」

 それを聞いたリィールと渉が顔を見合わせて小さく頷くと、全員で銀行のあたりまで移動を開始する。視界に入る頃になると亮吾と渉、えるもがその場に留まり、ドラゴッティと撫子、そしてリィールが独自に動き始めた。いよいよ作戦開始である。その間、ずっと亮吾は携帯電話に耳を傾けていた……


 ドラゴッティが流した情報がどんなものだったかは、『アウトローブラッシング』が用意した2台のトラックが物語っている。荷台にはどこかでこじんまりと営業していそうな引っ越し屋の名前が書かれていた。どうやら烏合の衆ではないらしい。亮吾はそれを見て、敵さんの手の込みように苦笑した。

 「ビックリするほど、やり口ベタベタ。刑事ドラマの見過ぎなんじゃない?」

 少年は傍にいる渉の同意を得ようと話しかけたが、彼、いや彼らはいつの間にやら姿を消していた。ひとりぼっちの亮吾。思わず「ちぇっ」と舌打ちすると、独り言になってしまったセリフを続ける。

 「依頼主がケーキ食べさせに子どもをファミレスに連れてくなんて聞いたことないって……」

 茶化すために言ったことを実行に移されたと思った彼だが、いかにもな顔の連中が降りてくるのを確認するとさっそく行動開始。ポケットに忍ばせていた十円玉を利き手の親指で弾こうと準備する。そして大きな麻袋を担いだ男の手をめがけて撃った。そんなもの普通なら届くはずもないのだが、飛距離はぐんぐん伸びて目標に向けて一直線。さらに外れそうになると、勝手に軌道修正して命中するではないか! しかも十円玉からは目に見えるほど派手に黄色い光が放たれる!

  バリバリバリバリバリっ!
 「うげぇっ! あがががが、あひぃーーーーーっ! 手が……手がいうこと利かねぇよぉっ! ど、どうなってんだぁ!!」
 「ま、待ち伏せか! そ、そんなバカな?!」
 「あっちから飛んでき」
  バリバリバリバリバリっ!!

 今度は指差した手に命中する十円玉。この亮吾の電磁弾は敵をかく乱するには十分すぎた。一台のトラックに潜んでいた敵を一気に混乱させることができたのだから。さらに見えざる敵を追って飛び出した雑魚を撫子とリィールが空から迎撃する!

 「アカデミーで教えなかったか? 敵は頭上からも来る……と!」
 「リ、リィール・フレイソル……うがっ!!」
 「事情はどうあれ、その胸に師への尊敬がないというのはよろしいことではございませんわ。はあっ!」
 「め、めっ、女神! がはっ!!」

 撫子は戦闘態の『戦女神』、リィールは『死霊の空蝉』を身にまとって雑魚を軽くあしらっている。それでも加速能力を得た敵が攻撃の合間をすり抜け、まさに文字通り『死に物狂い』で亮吾の元へとたどり着いた。ところが、そこにはもう誰もいない!

 「な、なぜだ! 弾道はこっちからだったは……があああぁぁっ!!」
 「アカデミーで聞いてないの? 瞬間移動する敵もいるってさ。ドラマは見てても、マンガは読んでないみたいだなー。」

 前準備のおかげで、亮吾は場所を変えつつ電磁弾で狙撃することが可能になっていた。狙撃手を探しても無駄、目の前の敵は強すぎる……こうなるともう収拾がつかない。敵の大半は自らの影で武器を具現化する能力者だったが、神霊力と威霊の力の前では天地の差だ。あっという間に片付けられていくアカデミーの元・生徒たち。ところが彼女たちは銀行を荒らす倉敷たちには目もくれず戦っていた。亮吾の狙った連中のトラックには、本命が乗っていなかったということになる。思わず「まーた、ビンボーくじだ」と言いながらも、せっせと手を動かす少年。頭の中では何発の電磁弾を打ったか、しっかりカウントしていた。中学生にとって十円玉の乱発はかなり厳しい。どうやら彼にとって雑魚をつかまされたことは、いろんな意味でビンボーくじだったようだ。


 一方の本命は幹部とともに銀行へ突入。奥に鎮座する札束を守る金庫を溶かそうと、中央に立っていた男が今まさに『烈火の獅子』へと変貌を遂げた!

 『この中か。お前ら……盗れるだけ盗ったら、車を使わず逃げるぞ。外の連中は上からやられたが、俺たちは下から悠々と逃げてやる。はっはっは!』
 「俺は勝っても笑うことはないが、笑うのは勝ってからだそうだな。え、『烈火の獅子』とやら?」
 「獅子だ! 獣化能力を持つ奴が潜んでやがった!」
 「奇遇だな。おまえも獅子の力を持っているのか。心配するな、狙いはお前だ。」

 自信に満ち溢れた声で後ろから迫るのは、あえて倉敷と同じ獅子に変化したドラゴッティだった! 幹部たちはリーダーと同じ獣人が現れたことで大いに驚く。その戸惑いにも似た感情を拭い去ることができないまま、彼らは冷たいアスファルトに次々と寝そべった。無駄のない動きから繰り出される攻撃から逃れられる能力者は、どうやら倉敷こと『烈火の獅子』以外にいないらしい。あっという間に1対1の構図ができあがった。
 間髪いれずドラゴッティは両腕のウルティマブレスレットにゆっくりと手を伸ばす。それに呼応する形で倉敷も戦いの構えを見せた。その姿は人というよりも、むしろ獣に近い構えである。

 「獣、だな。」
 『申し訳ないが、生まれつきでね。戦う時は常にこんな感じだ。』
 「生まれつき、か。」

 倉敷の言葉に思うところがあってか、ドラゴッティの声のトーンが心なしか下がった。しかし心は前を向いている。だからこそ、相手も構えを解かない。そこそこできる相手に自らの武器を披露しようと、右のブレスレットをジャベリンへと変化させた!

 「うりゃああぁぁっ!!」
 『振りかぶりすぎだ! 隙だらけだぞ、子飼いの獅子!』
  ゴガアァァァーーーーーッ!

 回転しながら突っ込んできた烈火の獅子は背中を槍が通過したタイミングで、口から轟音とともに炎が放った!
 その刹那、ドラゴッティは「ふっ」と反応した。何もかもが予想通りだ。素早く左のブレスレットを盾に変えて攻撃を凌ぐと、今度はジャベリンを魔力でブーメランに変えて反撃する。倉敷も相手がその場から一歩も動かないのを見るや、その盾に炎が通じないことを察知。爪を伸ばして本体にダメージを与えようと身を伸ばした。皮肉にもこの判断はブーメランの的が大きくなり、致命的なダメージを食らうことになってしまう……

  ガリガリガリガリ!!
 『ぐげげげげげ! あが、がが……貴様ぁ!』
 「獣は狩りにおいて素直に行動する生き物かもしれないが、あいにく俺は人間だ。お前はどこまで獣になった?」

 無様な姿で宙に浮いた獅子に強烈な膝蹴りをお見舞いするドラゴッティ。その威力はすさまじく、天井も地面にも叩きつけられた。自分と敵の勢いで金庫の前にまで無様に転がる倉敷。そこで思わぬ水入りがあった。なんとえるもをおぶった渉がいきなり姿を現したである。しかもふたりともが炎をまとった姿で……もちろんドラゴッティは気配を察知していたが、まさか敵と同じような炎を使っていようとは夢にも思わなかった。

 「政志ちゃん、わるいことしちゃダメってみんなもいってるの。いまならおしおきだけですむから、ごめんなさいってしたほうがいいの。そうじゃないともっと怖いの……」
 「も、もうかなり怖いことになってるけどね。え、えるもちゃん。倉敷、東京に戻ってくるタイミングが悪かったな。」
 『すべては貴様が仕組んだことか、霧崎!』
 「あやまらないの〜? 渉ちゃん、政志ちゃんがわるいこととかいじめとかしないようにめってしないとダメなの……」
 「心配するな、俺がしておく。他に何かあるか?」

 思わずえるもが喋る余裕を与えてしまったドラゴッティは、この際だから満足が行くまで話させようという心遣いを見せた。すると、彼の口からとんでもない提案が飛び出す。

 「お金にこまってるなら、おか〜さんがしゅっしっていうのしてくれるっていってたの〜。」
 『ご家族揃って殊勝な心がけには感謝するぜ。だが残念ながら、子どもが数えられる金額じゃないぜ。この奥にある札束でも足りないくらいだからな!』
 「確かにおまえには足りないだろうな……その額では。」

 ドラゴッティとの出会ったのはついさっきのことだが、冗談を言う性格でないことは誰にでも容易に見抜ける。だからこそ倉敷はハッとなり、思わず振り返ったのだ。目の前に立ち塞がる大きな扉……徐々に身体を震わせていく。それは恐怖ではなかった。憎しみだった。烈火の獅子は目の前にいる連中に向かって、最後の抵抗にも似た叫びを食らわせる。その声は外にまで轟き、なんと亮吾にまで聞こえたのだ。

 『てめぇぇぇぇっ! この中にあるのは、偽札かぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
 「だから言っているだろう。おまえは獣で、俺は人間だと。あまりにも狩りが素直すぎる。」
 「お話中、失礼いたします。わたくしも先ほどドラゴッティ様から事情を伺った折、そんなことではないかと思っていましたが……」
 「アカデミーの恥はすべて払拭した。残るは絆の恥だけだ。最後に誰に倒されるか選ばせてやる。誰がいい?」

 撫子とリィールも登場し、いよいよ壊滅の時を迎えた『アウトローブラッシング』。教師の挑発でやけくそになった倉敷は瞬時に全身の炎を最大限にまで高め、えるもまでもを巻き込んで口から業火を放とうとしていた。おそらくこれが最後の意地なのだろう。この攻撃で必ず、誰かはダメージを受ける。その隙を突いて逃げようと思っていた。
 ところが肝心要、業火を放つ瞬間に口元がほんの少し歪んだ。倉敷は思わず躊躇した。何が起こったのかを知る前に、渾身の攻撃を放つのが先だ。だから無理やり吐き出そうともがく。なんと大人たちの背中に紛れて、亮吾までもがここにいたのである! 撫子とリィールの強さを目の当たりにした彼は、ふたりの後ろにいれば怪我はしないだろうと思ってついてきていた。そしてリィールの言葉が放たれた直後に大きな口をめがけて電磁弾を撃っていたのである。本人は『やかましいから黙らせよう』としただけなのだが、結果的に不意を突いた格好となった。
 その一瞬がすべてだった。ドラゴッティは準備していた鉛玉をためらう口に投げ込み、撫子とリィールはそれを高速で追いかける。鉛玉が口に挟まった瞬間、それぞれの獲物で『烈火の獅子』の頭とあごを叩いて業火を暴発させた! しかし、彼にとってはここからが地獄だった……!

  ガ、ギン……………ッ!
 『ウゲ、ガガガガガッガガアアアアァァァァーーーーーーーッ!』
 「ギリシア神話を知っているか? 獅子頭の魔獣キマイラは炎を吐く口から投げ入れられた鉛玉を自らの炎で溶かし、体内で焼いて倒されたそうだ。まさに、今のお前と同じだ。ふたりの攻撃よりもずっと効くだろう?」
 『アアアアァァァァーーーーーーーッ! ガガアアァァァァーーーーーーーッ!』

 すでに投げ込まれた鉛玉は原型を留めていない……すでに溶けて体内を暴れまわっているのだろう。烈火の獅子のままでもがき苦しむ様を見る一同はそれぞれに感想を漏らす。

 「うげー、そんな罠だったのか……じゃあ、やかましいのも仕方ないか。我慢しよーっと。」
 「たとえ喉元を過ぎても、倉敷様の罪と罰は消えないのですね。今は意識があるようですが、本当に大丈夫なのでしょうか?」
 「炎を身にまとっていることから、烈火の獅子は自然と魔力を発揮しているはずだ。金狼と同じく、な。」
 「政志ちゃんもめっされちゃった。ごめんなさいすればよかったのにね、渉ちゃん?」
 「ホントだね。しかし同じ獣人だからわかるけど、これは相当キツい罰になったんじゃないかな。人間に戻るのを待って、警察に突き出しましょう。」

 勝負を決定付ける攻撃を繰り出したドラゴッティは今も苦しむ烈火の獅子を軽々と持ち上げる。獅子の変身を解除し、悠然と外に出て彼らが乗ってきたトラックの中に倉敷を投げ込む。それは亮吾が思わず口にした「やかましい」に同意する行動だった。倉敷らは裏社会の住人なので罪を裁ききれるかわからないが、とりあえず今の『アウトローブラッシング』はただの銀行強盗。亮吾は警察に連絡してひとり残らず逮捕してもらい、自分たちはさっさと逃げてしまおうと提案する。お仕置きをした自分たちが荒らされた銀行の中にいたら犯人扱いされても仕方がない。こうして彼らは、戦いの場から立ち去ったのである。

 渉はせっかく集まったのだからそのまま帰るのもどうか提案した。リィールもお互いの組織が迷惑をかけたため、希望者を屋敷に招いて報酬の話や今後の検討をしたいと答えた。実はこの流れ、戦いの前に亮吾が渉に「ケーキがどうこう」と軽口を叩いたのがきっかけだったらしい。ドラゴッティは先に帰ると言い残して立ち去ったが、他の面々は同行することを承諾した。その後、亮吾が要求した報酬が『戦いで使った十円玉の補充』であることをバラされ、純真無垢なえるもから何度も何度もしつこく質問されるハメになったのはご愛嬌である。
 いつも通りのいじられキャラに戻った亮吾と不思議そうな顔をするえるもを交互に見ている撫子は笑みを絶やす暇がなかった。リィールの屋敷で働くメイドさんからたくさんのスイーツを出され、また手厚くもてなされてえるもも亮吾もご満悦のご様子だった。リィールも仕事の話はあえて持ち出さず、慰労会の雰囲気を楽しむ。しかし抜け目のないリィールは影の功労者である亮吾をこっそりリストアップしていた。


 新興勢力『アウトローブラッシング』は事実上壊滅した。今回の事件発生を素直に反省し『アカデミー』は教育の徹底を掲げ、『絆』は個々の認識を改める試みを始めた。
 しかし、腑に落ちない点は多い。いったい誰が雑魚どもの能力を開花させたのか。特に「影を武器にする能力」は教鞭をとる者が存在しない。本当に『アカデミー』の出身者なのかどうかの調査も平行して進められた。その調査の先に、もしかしたら新たなる謎が現れるのかもしれない……


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

0328/天薙・撫子         /女性/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者
7266/鈴城・亮吾         /男性/14歳/半分人間半分精霊の中学生
3425/グリフレット・ドラゴッティ /男性/28歳/グラストンベリの騎士 遺伝子改造人間
4379/彼瀬・えるも        /男性/ 1歳/飼い双尾の子狐

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

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■         ライター通信          ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。今回は「CHANGE MYSELF!」の第14回です!
今までありそうでなかったお話を形にしてみました。実はこの作品、後の展開に影響を与えます。
今後もますます盛り上がる「CHANGE MYSELF!」にご期待くださいませ!

今回は本当にありがとうございました。また『CHANGE MYSELF!』でお会いしましょう!